カーソン・マッカラーズ/村上 春樹の本

心は孤独な狩人

心は孤独な狩人 カーソン・マッカラーズ/村上 春樹

序盤は「何の話なんだろう?」と思いつつ様子見、特にドラマチックな展開など皆無のまま中盤に至る頃には「もういっそこのまま何も起こらないで欲しい」と願ってしまうくらい、たゆたゆしく物語は進んでいく。そして終盤。ラスト30ページ余りで一気に決壊するこの終わり方に、「何の話だったか?」と改めて問いたくなる。 それは、誰もがそれぞれの孤独な部屋に閉じ込められている、という話でもあるし、誰かがいてくれていると勝手に信じている私たちの話でもある。 どこにも、誰にも、何にも、繋がらない。七転八倒して夜をやり過ごしてみても、優しげな朝は続かず、昼は容赦なく辺りを白く隠してしまうほど。だから結局また、夜を待つしかない、ただただそれを繰り返すだけの日々なのに、マッカラーズはそんな世界をとことん美しく描いてくれる。何気ない風景、他愛ないやり取り、それらが活き活きと、このどん詰まりの物語に煌めきを与えてくれる。不思議な魅力を感じさせる作品。 訳者である村上氏は、「同時代性を持つ古典作品」とは言い難い本書の新訳にかなり悩まれたようで、確かに万人受けとは程遠い作品ではあるけれど、初版から80年余りを経た現代に生きる、とりわけ、夜が暗く長い誰か、の心には刺さるのではないかと思った。素敵な装丁に惹かれる方にも、もちろん。

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