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9784105071813

誰もが孤独の部屋の中から、報われない愛の行き先を探している。1930年代末、アメリカ南部の町のカフェに聾啞の男が現れた。大不況、経済格差、黒人差別……。店... 続き

コメント

序盤は「何の話なんだろう?」と思いつつ様子見、特にドラマチックな展開など皆無のまま中盤に至る頃には「もういっそこのまま何も起こらないで欲しい」と願ってしまうくらい、たゆたゆしく物語は進んでいく。そして終盤。ラスト30ページ余りで一気に決壊するこの終わり方に、「何の話だったか?」と改めて問いたくなる。

それは、誰もがそれぞれの孤独な部屋に閉じ込められている、という話でもあるし、誰かがいてくれていると勝手に信じている私たちの話でもある。

どこにも、誰にも、何にも、繋がらない。七転八倒して夜をやり過ごしてみても、優しげな朝は続かず、昼は容赦なく辺りを白く隠してしまうほど。だから結局また、夜を待つしかない、ただただそれを繰り返すだけの日々なのに、マッカラーズはそんな世界をとことん美しく描いてくれる。何気ない風景、他愛ないやり取り、それらが活き活きと、このどん詰まりの物語に煌めきを与えてくれる。不思議な魅力を感じさせる作品。

訳者である村上氏は、「同時代性を持つ古典作品」とは言い難い本書の新訳にかなり悩まれたようで、確かに万人受けとは程遠い作品ではあるけれど、初版から80年余りを経た現代に生きる、とりわけ、夜が暗く長い誰か、の心には刺さるのではないかと思った。素敵な装丁に惹かれる方にも、もちろん。

その他のコメント

驚きました。自分で訳したいと思っていた作品を順次出されてきた村上春樹さんが最後までとって置かれた作品というのが売り文句で…果たしてどうなのかという目線で手にとってみたのですがこれはもの凄い作品。アメリカ文学をちゃんと学んだことがなくこの作者と作品のことも恥ずかしながら知らなかったのだけどアメリカでは古典として大事に扱われている作品だとか。第二次大戦直前のアメリカ南部の小さな町を舞台にした物語。いちおう主人公らしき少女はいるのだけど...親が下宿屋を営んでいるけどけっして裕福ではないその白人の少女、街で深夜営業しているダイナーの主人、黒人の地位向上を願う黒人医師、流れ者の共産主義者の白人男性、聾啞の白人男性、の五人を中心に語られる物語。登場人物の殆どが言ってしまえば貧困層で明るく楽しい話は全く出てこない。黒人の地位向上を願い必死に学んで尊敬される医師となった男は子供達を立派に育てようとするが今で言う毒親、モラハラになって子供全員に出ていかれてしまって孤独に暮らしているが、それでもたまに顔を出してすれる娘相手に演説をぶってしまう…。共産主義者の男は熱心に主義を説くが誰にも相手されず町の変わり者扱いされる。ダイナーの主人は主人公の少女に邪な気持ちを抱きつつも(白人だけだけど)客を公平に扱おう、善き人であろうとする。そしていろいろな希望を持ちつつ現実と折り合いをつけざるを得ない少女、その四人がそれぞれ満たされない思いを一方的にに語りに来る相手としての聾啞の男性。彼には彼で思うところがあり、という具合で華やかな人物が全く出てこない陰鬱な物語がなぜこんなに魅力的なのか...読後感も全く悪くなく不可解なのだけどそのあたりが翻訳者をして「このような物語はこの作者にしか書けなかったし今後も書けないだろう」と言わせた所以なのか...。全く気持ちは盛り上がらないけれども何故か非常に心惹かれる物語。おすすめです。

読者

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