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渡辺洋介

神田村経由専門書版元

神田村経由専門書版元

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コメントした本

女たちのアンダーグラウンド

横浜は港町という特性から古くから様々なルーツを持つ人々を受け入れてきた。いや受け入れてはいないそこには差別を含む哀しい歴史もあった。その状況でも一歩一歩進んでいくこの町を本書は書いている。 黄金町ガード下に存在していた違法風俗「ちょんの間」は2000年代前半に行われた浄化作戦によって壊滅してその跡地をアートの街として再生を図っているが2019年現在、全く静かすぎる活気のない一体となってしまった。行政がおぜん立てしその意向に沿うものだけを認める官製アートの限界が如実に表れている。批評なき芸術は果たして芸術と言えるのか。もちろんプロパガンダ作品にも優れたものがあるとはいえそんなことを問いかけてくるハマの黄金町ガード下を今日もぶらりと通過。 補足すると地元の人もアートが最適解とは考えておらず 過渡期的状況とは捉えているよう。

5日前

新宿駅最後の小さなお店ベルク 個人店が生き残るには?

個人店が生き残るにはいかにすべきか、本書は激戦区新宿駅で資本の力を入れることなく孤軍奮闘するベルクがいかに生き残ってきたかを綴っている。読みながらワクワクするオペレーションの醍醐味と実践的な利益率表は参考になる。昨今の商業施設に数多く存在するのっぺりしたチェーン店は一定のクオリティーと安心感はあるけどそればかりじゃつまらない。「書店に恋して:リブロ池袋本店とわたし」菊池壮一著晶文社にもあったけど定期借家法は資本の論理としては正解かもしれないが利用者の目線から見ると全く持って相容れない只々消費するだけの存在となってしまう危険性をはらんでいる。

12日前

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冷血

遺されたものの哀しみが親友の「スーザン」及びボーイフレンドの「バビー」と殺されてしまったナンシーの愛馬「ベーブ」との触れ合いを通してひしひしと伝わってくる。 それは以下の場面だ。 競売にかけられる「ベーブ」に別れを告げるスーザン「「五十…六十五…七十…」セリの声がはかばかしくかからず、ベーブを本当に欲しがるものは誰もいないみたいだったが、やがてそれもメノ派教徒の一農夫の手に落ちた。彼はこの馬を耕作に使えるといって七十五ドル払った。彼が馬を柵囲いから引き出すとき、スー・キッドウェルは走り出た。彼女は手を振って別れを告げようとしたが、そうする代わりに、手で自分の口をおさえてしまった。」p.443 「ベーブ」の首筋に頬を擦り付ける「バビー」 「しかしバビーが貯蔵納屋の前を通り さらにその先の家畜囲いのわきを通ったとき、馬の尻尾がシューッとはねる音を聞いた。それはナンシーのベーブ ―亜麻色のたてがみと、すばらしいパンジーの花のような濃い紫色の目をした、従順な、年老いた、まだらの雌馬 ―だった。そのたてがみをつかむと、バビーは頬をベーブの首筋にすりつけた―これはナンシーのよくやっていた仕草だった。すると、ベーブはいなないた。」P.336

22日前

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移民国家アメリカの歴史

移民神話から始まるアメリカの歴史、近代国家は個人や私的な団体から合法的な「移動手段」を収奪することによって誕生した。これは神話時代との整合性と矛盾することになりその姿はアメリカの持つ理想主義を掲げる民主国家と強欲な略奪国家の二面性と相似する。 本書では日系移民についても多く割かれているが、今日に至るまでの苦難の歴史と権利を勝ち取っていくたくましさには 胸を打たれる。しかし母国である日本での受け止められ方は下記の通りであった。忘れず心に刻む。 「四四二部隊出身で、日系人として初めてアメリカ連邦議会下院議員となったダニエル・イノウエが1959年に来日し、当時の岸信介首相と面談した際のものである。 イノウエが『いつか日系人が米国大使となる日が来るかもしれません』と水を向けると、岸首相は次のように語った。『日本には、由緒ある武家の末裔、旧華族や皇族の関係者が多くいる。彼らが今、社会や経済のリーダーシップを担っている。あなたがた日系人は、貧しいことなどを理由に、日本を棄てた「出来損ない」ではないか。そんな人を駐日大使として受けいれるわけにはいかない』。イノウエにとって、思いがけない屈辱的な言葉であった」(ETV特集『日系アメリカ人の「日本」』 2008年9月28日放送)」p.199

約2か月前

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路上

退屈な通勤電車でもこの本を読めばアメリカ全土にトリップすることができる。とは言ってもバッドトリップなのだが。久しぶりの再読は気力体力とも充実していたころとは違いとにかくグッタリとする読後感。若さのなせる業は確かにある。休日の朝9時頃、福富町の路地ですれ違う若いホストと女性客のから騒ぎ、本日2019年3月17日は路上でのしょうもない大乱闘だった。若き彼らに「サル」「ディーン」「メリールウ」の姿を重ねてみると2019年のハマの「路上」だと言えなくもない。 残念ながらその若さもいつまでも続かないというのを知ってしまった中年期に再読すると感慨深いものがある。読む時期によってこうまで受ける印象が違うのかと自分でも驚いた。今回しみじみ来たのは下記 「「日曜の午後には何をするの?」とぼくはたずねた。 彼女はヴェランダに腰をおろす。若者たちが自転車に乗って通りかかり、足をとめてお喋りをする。彼女は漫画新聞を読む。ハンモックの上に横になる。「暑い夏の晩には何をするの?」彼女はヴェランダに坐って、道を行く自動車を眺める。彼女と母親はポップコーンを作る。「お父さんは夏の晩には何をするの?」彼は働いている。ボイラー工場で徹夜の勤務なのだ。彼は一人の女とその女がひょいと外へ出したものを養って全生涯を過ごし。それでいてなんの面目もなければ、ほめられもしない。「君の兄さんは夏の晩には何をするの?」彼は自転車を乗り廻してソーダ・ファウンテンの店の前をうろつく。「兄さんは何がしたくてたまらないのだろうね?われわれ人間はみんな何をしたくてたまらないんだろうね?われわれは何を望んでるのだろうね?」彼女には分からなかった。彼女はあくびをした。眠そうだった。もうたくさんなのだ。誰にも分らないのだ。誰も永久に分らないのだろう。それですっかり終わった。彼女は十八で、とても美しかった。それなのに彼女は永久に失われていた。」P.348~347

2か月前

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記者、ラストベルトに住む —— トランプ王国、冷めぬ熱狂

前著「ルポトランプ王国を歩く」より2年、トランプ当選後のラストベルトを再び訪れる。 勤勉なアメリカ人をここまで追い詰めた希望の果てがトランプだったとは全く救いのない話だが対象に密着する取材方法で山師的なトランプになぜ惹かれるのかグローバル化に取り残された人々の心の隙間や不安に入り込むメカニズムが理解できる。トランプ支持者は無知蒙昧な白人ではなく 下記のようにまっとうに地べたで働く労働者たちである。 「私は毎朝2時半にぴったりに起きる。シャワーを浴びる。コーヒーを入れて、たばこを吸う。ネットでニュースを読む。朝5時に出勤する。店はもちろん無人。5時半ごろ、店の前のスタンドに地元紙が届く。小銭を入れて買う。スポーツ欄とおくやみ欄を読む。その後に調理用ソースを仕込む、ミートボールをこねる。この準備の時間が私のリラックスの時間でもある。一人きりの作業。静かな音楽をかけ、いろいろ考え事もする。朝9時になるとミシェルも出勤してくる。そうやって店が始まる。私がやっていることは40年、何も変わらない。 同じ儀式(same ritual)だ」P.144 「My Little New York Times」佐久間裕美子著と併せて読むと都市部と地方部の今のアメリカの状況を更に把握できる。 唯一、銃規制を求める高校生達の運動に希望を見た。

3か月前

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ある若き死刑囚の生涯

1968年、走行中の横須賀線で手製の時限爆弾が爆発し死者1名重軽傷者29名となった「横須賀線爆破事件」、事件の犯人である当時24歳であった青年死刑囚の刑執行までの内的心情を表した獄中記。彼が本当に事件を悔いているのかと言えばこの記から受け取ることはできなかった。どこか事件は他人事でひたすら短歌制作に励む日々に、昨年公開の「教誨師」で古舘氏演じる死刑囚と同じやるせなさを感じる。 もっとも死刑囚は刑を執行されることで罪を償うことになるのだから そのような心情になるのもやむ得ないのか。死刑制度の抱えるジレンマ。

3か月前

本屋な日々 青春篇

出版業界紙「新文化」元編集長による書店人ルポ。副題に青春篇とあるようにロッキング・オンのような懐かしい熱さを感じる。北書店の佐藤さんの熱いかと思いきや適当な感じが面白い。居酒屋トーク的なインタビューを何度も読み返す。

4か月前

草薙の剣

3世代にわたる日本人の営みを描く。繋がってはいるけど世代が変われば全く別の国か?と思わせる社会状況の違いの中でもしぶとく生き延び繋がっていくたくましさというかいい加減さ。夢生の父及び祖父の行き当たりばったりも「生きる」てことだ。只今登場人物年表作成中。

4か月前

ののはな通信

物語は山手の女子高に通う二人による昭和59年より平成23年までの手紙のやり取りのみにて進行する。10代の過剰なまでの情熱と40代に入ってからの諦念というべき静かな感情の穏やかさに過ぎた歳月を思う。 「高校生のころ、あなたが学校を休んで連絡がとれなかったとき、私は半狂乱で手紙を送りまくり、家へ電話をかけまくったでしょ?あのときは夢のなかでもあなたの姿を探して涙を流していた。  けれど、いまとなってはもう、風のように吹く時の速さに押し流されるまま、淡々と日常を営み、ある種の諦観とともに、あなたからの連絡をひたすら待っているだけ、私の精神は鈍磨したのだ。中途半端に」P.386 「どこかで自分に愛想を尽かし諦めて折り合っていかなければ中年になるまで生きのびることなんてできないわよね」P.414 日劇もとっくに無くなってしまった。

4か月前

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味の形 迫川尚子インタビュー

「味の形 迫川尚子インタビュー」食と人 vol.01 fermentbooks、ベルク副店長のインタビュー集。味覚が形となって表れる「共感覚」もしくは「構造感覚」の持ち主である迫川さんの感覚に迫る。内的なものを他者が理解するのは難しいが読み進めていくとこんな感じなのかなと想像できる。大麦と牛肉の野菜スープの写真がとにかくおいしそう! 滋養たっぷりそうで飲んだ後によいかも。

12日前

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William Eggleston's Guide

ニューカラーを代表する写真家による1976年MOMAで開催された個展の図録集。アメリカ南部の日常風景を捉えた写真は当時モノクロ写真が芸術であるとの概念を覆したきっかけともなった。本書は見開きで左に地名右に写真となっており地図と照らし合わせると更に楽しめる。だだっ広い大陸と比例するかのような裕福さしかしどこか違和感を感じる不穏な空気感をこれ以上ない構図と色彩で捉えている。

19日前

とめどなく囁く

父親より年上の資産家と再婚した塩崎早樹はかつて海釣りに出かけたまま失踪した夫がいた過去があった。 ある日元義母よりその夫を目撃したとの情報が入る。 死亡認定も出し、新たな人生を歩み始めた早樹であったが、区切りをつけたはずの過去が迫ってくる。そして新たな事実が次々と判明し失踪の謎に肉薄していく。 知っているようで実は全く知らない夫婦という赤の他人の恐ろしさ、地獄の淵から甦る「人間失格」的な独白に底なしの救いのなさと哀しみを感じた。 舞台となる逗子の母衣山はおそらく披露山をモデルにしたのであろう。

約1か月前

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アメリカ死にかけ物語

著者はアメリカ各地の場末バーや高速バスで現地に生きる地べたの人びとの声を丁寧に拾い上げていく。そしてそのまなざしは突き放しているようでやさしい。彼らの姿は著者のブログで見ることができる。地名をクリックlinhdinhphotos.blogspot.com 長距離バスの銀色に輝く車体はガンズアンドローゼスの1987年のヒット曲「welcome to the jungle」PV、冒頭でアクセルローズが下車する時に一瞬映ったイメージが強烈に焼き付いている。そういえばアクセルの30年後の成れの果てのようなゴツいターコイズブルーの指輪をはめた男も本文中にいた。

約2か月前

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ハツカネズミと人間

カリフォルニア州サリナスの美しい自然を背景に、小さいが切れ者のジョージと知恵は足りないが力持ちのレニーは農場から農場へと渡り歩く労働者だ。二人はいつか「土地のくれるいちばんいいものを食って暮らす」ことを夢見ながら、愉快な仲間のローレル&ハーディの珍道中の様に「あこがれの地へ」たどり着くことは遂になかった。悲劇的な結末に労働者の於かれた現実の厳しさを噛みしめる。 「レニーは木の後ろへ行って、枯葉や枯枝をひとかかえ持って来た。それを古い灰の上にドサッと投げ出すと、もっと取りに戻った。もうあたりはほとんどまっ暗だ。ハトがパタパタと水の上をゆく。ジョージはたきぎの山に歩み寄って、枯葉に火をつけた。ほのおが小枝の間でパチパチと音をたてて燃えはじめた。ジョージは包みを解いて、豆の缶詰を三個取り出す。それをほのおに触れない程度に近づけて、火のまわりに置く。」P.17

3か月前

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My Little New York Times

トランプ政権下アメリカを「キャリアのほとんどをアメリカで起きているカルチャーを日本に伝える仕事に費やしてきた」著者が365日にわたる日記によって伝える。島国にいるだけではわからない新しい視点を気づかせてくれる。 「アメリカに暮らしていて多様性の難しさを痛感することは日常的にある。多様だけれど、それがうまくいっていない例がいくらでもあるし、人種の軋轢はいまだ深刻な問題であるからだ。けれど同じであることを強要されることはない。「個」であることはむしろ奨励される。同じであることを強要しても良い人材を育てることにはつながらない。この広い社会には、いろんな背景、いろんな文化、いろんな感覚を持った人がいるということを知ったほうが、強い人材が育つ。そして組織になじめない人たちに居場所がある社会のほうが、強くなるのだ。」P.85~86 葛藤しながらも前を向く。

3か月前

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本の未来を探す旅 台北

現在進行形の台湾出版事情を理解する良書、「田園城市」ヴィンセント・チェンさんのインタビューは台湾出版界の流通形態がよくまとまっており、理想主義ではなく現実を見据え出版をまっとうな商売として成り立たせるべく積みあがるアイデアにこうゆうやり方もあるのかと膝を打つ。 「台湾の書店が取次を通して出版社から本を仕入れる場合、いちばん安くて本体価格の6.5掛け、普通は7掛けに、ほとんどの場合は5%の営業税がかかるのがスタンダードです。たとえば本体価格が1000円の本だとして、出版社の取り分は450円(45%)、取次は200~250円(20~25%)、書店は300~350円(30~35%)ですが、そこから割引をする分だけ書店の利益は減ります。 直取引の場合も、出版社は通常、書店に本体価格の65~70%で卸します。ただ誠品書店と博客來の2大販路は別格で、出版社は誠品には委託でおよそ55%、博客來には60%ほど(8割方が買取)で卸します。(それぞれ5%の営業税を含む)。」P.96 取次の取り分が20~25%とは! 先週話題となったアマゾンの買い切り問題も博客來の掛け率及び買取率が参考となるのか。

3か月前

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まっ直ぐに本を売る―ラディカルな出版「直取引」の方法

現状直取をメインにするつもりは全くないが、何が起きるかわからない出版業界において新たな流れ(トランスビュー方式)を把握できる良書。具体的な数字をあげロジカルに解いていく。受注から発送までのスムーズな流れは読んでいて心地が良い。 「①すべての書店に、三割(正確には多くが三十二パーセントの利益をとってもらう。  ②すべての書店に、要望通りの冊数を送る。  ③すべての書店に、受注した当日のうちに出荷する。」 P.65

4か月前

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ある男

亡くなった夫は全くの別人であった。夫はどこの誰なのか。物語はその謎に迫るべく進んでいく それがあくまでも軸となっているが夫婦とは何か?一緒に暮らしていても実は解らないことだらけであり、そもそもわかり合うことは不可能であるということを突き付けてくる。 また中年男性の都合の良い願望(あくまでプラトニックなのが肝)を通してエンターテイメントの枠内で反差別を唱えている。ストレートに語っても通じにくいこともあるが物語というフィルターを通すことで伝わりやすくする手腕にうまさが光る。 「そう、そういうのが強調されると、その人の持っている他の色んな面が無視されちゃうでしょう?人間は、本来多面的なのに、在日って出自がスティグマ化されると、もう何でもかんでもそれですよ。悪い意味だけじゃなくて、正直僕は、在日の同胞に、俺たち在日だしなって肩を組まれるのも好きじゃないんです。それは、俺たち石川県人だもんな、でも同じですよ。”加賀乞食”なんて自虐ネタをフラれても、そういうところがある気がしないでもないけど、何かにつけて言われるとね。 ………弁護士だろう、とか、日本人だろう、とか、何でもそうですよ。アイデンティティを一つの何かに括りつけられて、そこを他人に握りしめられるってのは、堪らないですよ。」P.146

4か月前

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愛と人生

渥美清、車寅次郎、さくら、満男、ホエールズ帽のテキ屋の息子、美保純と物語の視点は目まぐるしく変化する。虚の 中で虚を語る物語の中で美保純は常に見られている。そして美保純の存在とその尻だけがこの世の確固たる現実としてゆるぎなく存在する。 「私が二十七年前に見た美保純の尻のことを今でも忘れずに、むしろ積極的に思い出して思い出して、それがなにかであると思おうとしている。何か、というか、正直に言えば私はそれを愛情だと思いたがっている。でもそうして思い出すことが愛だとしても、はたしてそれが美保純に何をもたらすのか。そもそもその対象は、美保純なのか、美保純のお尻なのか。思い出すことと伝えること。愛の理論と実践。 だーかーらー、と言って美保純は、私にビールの缶を投げつけてきた。理論でも実践でもないの。空き缶は私の顔の横をすりぬけて背後の柱にぶつかって畳の上を転がった。話をすり替えない。ただもうお尻でいいのよ。理論も実践も捨てちゃって、お尻お尻。お尻だけ。」 p.87 「スクリーンで観たことが本当に見たことになるのなら、日本中が美保純の尻を見ていた。尻など、直接見なければ何も見たことにならない。複雑な機能を有せぬ無為の厚みと量感、そこに働く重力と張力、尻の絶えざる静かな運動と、尻を目の前にした自分の絶えざる動揺と冷静の満ち引き。」P.88~89

4か月前

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