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fuku

設計事務所勤務ゴミリーマン/元クズ編集者

設計事務所勤務ゴミリーマン/元クズ編集者

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コメントした本

天界の眼: 切れ者キューゲルの冒険

歳を食って元気がない太陽が照らす遠い遠い未来の地球。科学が力を失って、魔術が復権した世界の中、とある町にある高名な魔法使いの屋敷に忍び込んだ切れ者キューゲルの運命やいかに。 切れ者とは名ばかり、完全なる自称なんだけど、名乗りというのは便利なもので、名乗りさえしたらばオイラも今日から芸術家ってなわけで、切れ者キューゲルは腹の中にいらざる相棒を抱えながらグダグダな冒険を繰り広げるのであった。意地汚くて小狡いまったく共感できない小物感満載の主人公でありながら、奇想だらけのあれこれに翻弄されるのがなかなかに痛々しくもあり、可愛げもないのにこれまた可愛らしくもある。最後のオチは言わぬが花かとは思うが、同情しつつも笑ってしまった。作者ヒドス。

11日前

イタリアの鼻 - ルネサンスを拓いた傭兵隊長フェデリーコ・ダ・モンテフェルトロ

ピエロ・デッラ・フランチェスコによる特徴的な鼻が際立つ横顔の肖像画で知られる傭兵隊長にして小都市ウルビーノの領主フェデリーコ・ダ・モンテフェルトロの生涯からルネサンスの世界を描く。ヤーコプ・ブルクハルトが賞賛した、文化・芸術を保護してウルビーノを一流の都市に育てあげた英明な君主像は果たしてどこまで実像に沿っていたのか。弟殺しや戦争に負けたことがないとされる戦績、あるいはライバルのマラテスタ家没落の真相など、ブルクハルトの評価に隠れていた真実を明るみに出しながらも、豪華絢爛な宮殿、また当代随一の蔵書など、フェデリーコの文化的センスや知識を紹介していく。非常に読み応えがあった。 そういえば、あの名高い鼻は、鼻梁が視野を邪魔して死角が生じて傭兵隊長としては不便なので手術したという風にどこかで読んだ記憶があったけどそうじゃなかったのね…。にしても、目を槍で貫かれても軽口を叩く胆力には驚嘆。

11日前

反共感論―社会はいかに判断を誤るか

私こんなに悲しいの!私こんなに大変なの!私こんなに辛いの!ねえねえ共感して! ってな同調圧力話が多い昨今ではあるが、そんなものは害悪であると喝破する本が出た。それが本書。全米でも大いに物議を醸したらしい。 しかし。書いてあることは一部疑問に思うところもあるが、ごくごくまとも(だと思うけどそう思わない人もいるだろう)。著者は共感なるものを論理的共感と情動的共感とに区別し、脳科学や哲学などの成果を活用しながら、情動的共感はしばしば近視眼的思考に陥り、本質を見誤ることを指摘する。例えば身近な人の苦しみには大いに影響されるものの、遠くの多数の他人の苦境に対しては、それがどれほど大変なものであってもほとんど共感を抱くことがない、あるいはなんらかの対策によって防がれた悲劇は、起こらなかったというメリットゆえにこそ却って共感を呼ばないとか。例えば日本でもある子宮頚がんワクチンの問題。もちろん副作用が出た患者や家族の苦しみや悲しみは察するに余りあるとしても、疫学的に有用であることがわかっているワクチンの中止を声高に叫ぶことは果たして正しいことなのか。アンタは子宮頚がんになんない男だから気楽なこと言ってんのよ!とか言われそうだけどさ。

約1か月前

疫病と世界史 上

かの有名なジャレド・ダイアモンドの『銃・病原菌・鉄』のネタ本の1つとされる名著。たしかに一読そう感じられる。 ピサロやコルテスがラテンアメリカをたやすく征服できたのは、優れたテクノロジーなどもそうだけれど、天然痘をはじめとする旧世界の疾病にやられたからであるとか、ペストやコレラなどの疾病が世界史に与えた影響をグローバルな視点から詳細に指摘している。信頼に足る文献や考古資料の欠落はいかんともしがたいとしても、技術の進展の度合いや文化的な差異からだけではスッキリと説明がつかない文明間の消長が腑に落ちる形で明らかになってくるのにはとても興奮させられる。 皇帝までが斃れ、瞬く間に人口を失ってしまえば、免疫を持たない天然痘によるものという知識のない中では、そうした惨禍が神から下された天罰であると思い込むことは無理もないし、さらに征服者たちはなぜか天罰から逃れているように見えるわけだから、どれだけ強大な帝国であっても、抵抗への気力は削がれるに違いない。

3か月前

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例外時代

第二次世界大戦以降、1970年代前半まで続き、オイルショックで収束した世界的な好景気のような高度成長経済は果たしてまた訪れることはあるのか。それとも、そうした好景気はたまたまのことで、もはや望むべくもないのか。 筆者は好景気の時代こそが例外であり、低成長が本来の姿であることを、おおよそ70年代後半からの経済停滞に世界各国がどう対処し、良きにつけ悪きにつけどのような成果を出したのか、さまざまな人と政策をつぶさに紹介しながら例証していく。 福祉を重視する大きな政府から自己責任が求められる小さな政府への移行(例えばアメリカ)、反対に民間企業を国有化する政策(これは同時期のフランス)、様々な国が様々な方法であの黄金時代を取り戻そうとするが、どの国もそれを果たせない。揺るがぬ信念を持つ政治家、確たる理論で武装した経済学者たちはどの国にもいつもいた。うん、いるにはいたんだ、いるには。けれど、そうした信念も理論も大した役には立たなかったってことだけは明らかだった。経済成長なんてこんなもんなんだなーという諦念のような認識から何を考えていかなきゃなんないのか。これまでの暮らし方とか、そういうことも含めて。

3か月前

動きの悪魔

鉄道にまつわる幻想短篇集。廃線を憑かれたように保守し続ける元駅員、衝突事故を請い願う車掌、停車することに抵抗する運転士、コンパートメントに乗り込むことで生を実感する男など、鉄道に取り憑かれた主人公たちの物語は、怖いというよりも、ポーランドの仄暗い鉛色の冬空のようなイメージの中、古めかしい客車のコンパートメントや打ち捨てられた廃線の線路、疾駆する真っ黒な蒸気機関車など、映画なんかでしか見たことがないのに、なぜかノスタルジーを感じるものたちと呼応して、モノトーンめいた暗さの中にあるのに、かそけき様子ではありながらもそれぞれが光を放っているような色彩のきらびやかさ、トーンこそ違えど、稲垣足穂にも通じるような色彩感覚が感じられた。

4か月前

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愛と狂瀾のメリークリスマス なぜ異教徒の祭典が日本化したのか

クリスマスといえば恋人はサンタクロースというような歌が巷で流れてるのを苦々しく聴いてた世代ではあるが、クリスマスが明治時代からすでにあんな狂瀾状態にあったなんてことは知らなかった。というかそもそもクリスマスなんてものは戦後のクサレ風習だと思っていたが、そんな先入観が鮮やかに覆される。 しかし、戦前のクリスマスの狂瀾は戦後には完全に忘れ去られてしまった。ネガティブな言論統制の裏にはポジティブな言論統制も見えないながらそこにあるのだという著者の指摘には深く頷かざるを得ない。 また、キリスト教と日本人は伝来の時点から外面だけの関係であったこと、つまり往時のキリスト教の征服欲をかつての日本の為政者たちは鋭く嗅ぎ当て、取り入れることを拒否したからではなかったかという考察、そしてそうした関係性が、軽佻浮薄な日本のクリスマスのありようのカギを握っているという考察なんかには鳥肌がたった。 もともとなんでもズンズン調べて書くサブカル風のライターだった著者だけに、軽い文体でさらりと書かれちゃいるが、指摘の鋭さはとんでもないもの。もっと重厚な研究書としても通じるんじゃないか。

4か月前

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世界地図が語る12の歴史物語

「世界地図を参照するとき、遠方の地はいつでも紛れもなく手の届くところに位置しているのである。」プトレマイオスの地理誌やTO図からグーグルマップに至る12の地図をもとに、世界地図と人間の世界認識との関係を丹念に辿り直す。本書にも引かれている、国の範囲を示すために作られた等縮尺の地図というボルヘスの寓話にもあるように、地図とは権力の範囲を示すものであった。また信仰のよすがとなるものでもあった。 そうした関係性がどのようなものであれ、ある時代の世界地図は、その時代の人々の世界観が反映されるという視点はとても興味深い。古代の地図だけでなく、科学技術により正確な地図が作成できるようになった現代の地図においても、ある意味で偏った世界観が地図に反映されていることは知っておいても良さそうだ。

4か月前

テルリア

頭に打ち込めば新たな世界認識が生まれるという金属テルル。要は麻薬みたいなものってことだが、ロシアを含むヨーロッパは崩壊して小国が乱立、イスラム教は世界を席巻、資源問題も深刻化しておりジャガイモを燃料にするバイオ燃料車が走る21世紀後半の世界。ほとんどの国ではテルルが非合法化されているなかで、テルルを打ってラリったりたまに打ち損じて死んだりしているどうしようもない人類が生きている、そんな世界を50の断片で切り取っている。著者曰く、断片化した世界を描くにはテキストも断片化するほかないということだが…。すでに発表されている『氷』三部作となんとなく世界観が似ていてセルフパロディのようだ。とはいえ原著はこちらのが先のようなのであっちが発展形なのかも。 断片化している分、舞台背景にある世界像がとても見えづらいが、近未来に関する想像力は相変わらずすごい。悪い方向にだけれども。

5か月前

最後のソ連世代――ブレジネフからペレストロイカまで

非常にあっけなかったソ連の崩壊。国民は、祖国が確固たる基盤に立ち不変の存在だと信じていたのにもかかわらず、崩壊の過程においてはそれをあまりにもあり得ることだと感じていたのだという。本書はこうしたソ連崩壊がなぜこうまでなし崩しに起きたのかを自らの実体験とさまざまな聞き取りで明らかにしていく。ソ連の日常、特に本書で分析の対象となっているブレジネフ時代以降は党の指導に愚直に従う体制派と、そうした体制をかいくぐりながら自由を希求した反体制派(ここでは異論派)というような、二項対立があったとされるが、実はそうではなく、共産主義に対する真摯な信頼と信念を持ちつつも、それに反することもするといういわばねじれた関係が市民にとって普通の状態でありえたという。そうした言説の意味の捉え方の方法論の違い(ここではオースティンの概念を援用してコンスタティブ・事実確認的な発話/パフォーマティブ・行為遂行的な発話に分けられる)により、党のガチガチの権威的な言説がいわば形式的なものとなって脱構築されていき、誰もがイデオロギーに従っていながら、それを気に留めなくなったという不可思議な状態(本書ではヴニェと呼ばれる)となったことが、ソ連の崩壊を準備していったとする。オーラル・ヒストリーとしても抜群に面白い数多くの聞き取りをはじめ、読み出したら止まらない。

5か月前

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B.C.1177

いまから3000年前、ギリシャや中東など地中海沿岸では複雑に入り組んだ国際関係が出来上がっていたのが、海の民と呼ばれる侵入者によって突然の終焉を迎えるのがタイトルになっている紀元前1177年。しかし海の民とはなんだったのかは未だ明らかでなく、より複合的な原因があったことを論ずる著者による綿密な調査研究が圧巻。 エジプトにヒッタイト、ミタンニ、ミュケナイ、バビロニアなど多数の国が交易や戦争などを通じて現代に通じるような国際関係を築いていたことには素直に驚かされた。例えば青銅器に必須の原料である錫が現代の原油のような極めて戦略的な資源となっていて、その需給バランスの崩れが入り組んだ国同士の関係に大きなインパクトを与えていたことなど、まさに歴史は繰り返すんだなと。 また、考古学の研究にも流行り廃りがあるというのもなかなか面白い。

11日前

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動物になって生きてみた

動物、特に野生動物にとって世界はどんなものに映っているのかを描くのがいわゆるネイチャーライティングというそうだけども、本書はその極北にあるのかもしれない。人間中心主義や擬人化というよくあるネイチャーライティングの轍は踏まないという著者の決意というか宣言はたしかにかなりの程度実現している。アナグマのように寝そべってミミズを食ってみたり、タイトルどおりほんとに動物になりきって、なかなか狂った疾走感のある体験をしてらっしゃる。 そうした体験は、ふやけた動物愛護精神ではなく、まったくの異種の存在に対する畏敬があるからこそなのだろう。自分にできるかと言われたらムリムリとしか言えないが、本というものはそうしたムリムリを追体験できる貴重なツールであると改めて感じる。

11日前

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疫病と世界史 下

下巻。モンゴル人が拓いた交易ルートは東西文化の混交をもたらしたが同時に疫病の混交ももたらすことになった。特に名高いのはネズミに付くノミが媒介するペスト。モンゴルの草原からヨーロッパに惨劇をもたらしたペストがどうやって消えて行ったのかを跡付けながら、齧歯類へのペスト菌の伝播と人間社会での流行との相関を明らかにしたり、そうした疾病との関係がどれほど人間の歴史に影響してきたのかを犀利に明らかにしている。 文献などによる明確な証拠に欠けており、推測に頼らざるを得ない部分が多いきらいがあるにしても、同著者の『戦争の世界史』同様に説得力があってなるほどとうなずかされることが多い。

約2か月前

生き物を殺して食べる

自分たちが食べてる肉や魚はどんなところで育ち、どこでどんな風に処理されて口の前までやってきたのかは、最近ではトレーサビリティやらなんやらのおかげでなんとなくはわかるようになっては来たけれど、それはわかった気がするだけのことでしかないし、トレーに生産者の顔が描いてあっても、消費者としてなにか気持ちが大きく変わるってことでもない。だったらどうするか。また極端な、とも思えるけれど、著者は現場に足を運んで、自ら動物の命を絶ってみることを選んだ。 狩猟(著者はイギリスの人だから日本より多少はとっつきやすいという事情もあるはず)や釣り、車に轢かれて死んだ動物の採集(ロードキルっていうらしい。もちろん食える状態のものはありがたく…)、そして屠殺場の取材などを通じて魚食も含めた肉食の問題を考えていく。まあこの人もとからベジタリアンとかヴィーガン風味の人なんで、ちょっとバイアスかかってんじゃないかって部分も多々あるが、肉食には倫理が必要なのでは、という意見には賛成するしかないように思う。ただそれってある程度余裕のある人たちに限ったことで、食うや食わずの貧困層のほうがジャンクフードで肥満気味って話なんかを考えればなんだかなあってとこもあったりするとか、いろいろ留保はつけつつもとても貴重な本であることは確か。

3か月前

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欠落ある写本: デデ・コルクトの失われた書

中世アナトリアの叙事詩である『デデ・コルクトの書』を元ネタにした小説。作者を思わせる語り手による叙事詩のヴァリアント発見の謎めいた経緯から物語は始まる。 異本はオグズと呼ばれる遊牧国家におけるスパイ騒動の内幕を明かすもののようで、王たるハーンと詩人でありシャーマン、そして叙事詩の作者でありまたこのヴァリアントを残した張本人とされるコルクトらがオグズ内の有力者を尋問していく。そしてその話の中に別の王と王の替え玉による別の物語が挿入されていく。 元ネタを読んだことがないのでなんとも言えないところもあるが、こうした架空の書物をめぐる物語の面白さは元ネタにあまり関係がなく、そうした書物をどうもっともらしく見せるかがキモなところもあって、そういう意味で言えばなかなか面白かった。 聞けば筆者は元ネタの有名な研究者だそうで、さもありなん。 しかし、ハーンの語りを読んでいると、どうも男塾塾長の絵がチラついてしょうがない。マンガ化する(しないと思うけど)場合は確実に江田島塾長だなー。

4か月前

誰がスティーヴィ・クライを造ったのか?

やっと出たドーキー・アーカイブ4冊目。刊行ペース遅すぎませんか? でもその分?今回も秀逸。亡き夫が買ってくれたタイプライターが未亡人ライターに反旗を翻し…というホラーのメタ・パロディ。これがパソコンだとハローワールドってなもんなのかもしれないが時はワープロが出始めた80年代。 反旗を翻したタイプライターは勝手に主人公の悪夢を綴り出し、やがて書かれたものと現実が綯交ぜになって区別がつかなくなるという恐怖。 なによりも怖いのはこの入り組んだ構造を読者として読んでること。小説内では現実世界とタイプライターが描く世界は存在の階層が異なっているから登場人物は現実と区別がつかない悪夢に苛まれたりしつつも、書かれた世界と自分が立っている世界の隔絶を無意識的にわかっているはずだ。それに対し、読者はメタレベルな立ち位置にいるがために、却ってどっちがどっちなのかにわかには判断できなくなっていく。書かれていることがタイプライターの生み出す悪夢のように思えても、それを確実に知ることができなくなる。なんたって小説内ではどんなことだって起こりうるのだから! 原著はあのアーカムハウスから出ているが、何の因果か時代に埋もれてしまったらしい。著者による後日談も含めてサービス旺盛な一冊。

4か月前

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ダーク・ジェントリー全体論的探偵事務所

万物は相互に関連してるんだと嘯きながら猫探しにバーミューダ諸島まで行っちゃう私立探偵に決算書を音楽にしてしまうソフトを開発してるプログラマー(しかもその音楽がだいたい暗いってのも笑ってしまうが)、何でもかんでも信じ込む電動修道士やらヘンテコな人物がぎっしり活躍するミステリー小説らしからぬミステリー小説。作者はあの『銀河ヒッチハイクガイド』シリーズの作者ダグラス・アダムス。 イギリス人らしいひねくれにひねくれまくったギャグと皮肉、ちょっとしたショートストーリーになりそうなエピソード満載という贅沢な仕様でありながら、しっちゃかめっちゃかにとっちらかった(ように見える)ストーリーを最後の最後であっというまに、その上そこかしこにばら撒かれた伏線をさくさくと回収しながら収まるべきところにストンと収束させていくというとんでもなさ。 小説というのはこういう時間の優雅な無駄使いにあるんだなーと思わされるような得難い読書経験。

4か月前

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生まれながらのサイボーグ: 心・テクノロジー・知能の未来

人間は生まれながらのサイボーグであり、道具は私たちである、というのが著者の主張。過激な表現であるが、人間は身体という道具に加え、身体外部の存在をも取り込みながら「拡張した心」に従って人間存在を拡張していくという意味でのことであり、一般に想像されるそれとは違う。 とはいえ人間の脳は、他の動物と異なり、極めて可塑性に富んでおり、身体にとどまらず非生物的機器や環境を自らの一部として取り込んでいくことで進化してきたとして、例えば外部記憶装置としてのメモやノートに始まる多数の証拠をあげながら、人間が生得的に「サイボーグ」であり、今後はテクノロジーの進化でさらにそれが進んでいくことを示唆する。 人間とは身体にとどまらず、自らが直接的にコントロールできる諸部分の総和であるというデネットによる人間の定義を数多くの議論から説得的に論じている。 原著は2003年の発行なので、ネット社会の発展やスマホなどの普及については述べられていないが、かえって著者の描くかなり楽天的な未来像と現状のギャップが見えて来るという意味では有用であるかもしれない。

4か月前

女がいる

女がいる。から始まる97の断章が並ぶ。時に女は男になったりもするが、「僕」を愛していたり「僕」が愛していたり、また憎んでいたり。男性らしき主人公の独白が延々と続く。独白の中身はお互いの関係に対するときおり妙に具体的なエロティックな描写と、女の突飛な行動に見られる乾いたユーモア、ハンガリーの歴史や地理など様々だ。ときおり、共通点が見えたりもするが、それをもって女を同一人物だといえるほどの共通点でもない。それほど女は変幻自在なのかもしれない。それとも男が女の姿を勝手に見誤っているのか。 ストーリーらしいストーリーはないけれども、どこから読んでもシュールでやや下品なショートショートが見つかるという意味では、一つのテーマを巡って書かれたカフカの短編集のような趣がある。

5か月前

林檎の木から、遠くはなれて

19世紀、アメリカ。コネチカットからオハイオのブラックスワンプなる沼沢地で新生活を始めた家族、グッディナフ一家。毎年マラリアで苦しめられ、10人生まれた子ども達も次々に死んでいくほどに環境はとても過酷で容赦がない。語られる時点で生きているのは、優しいが林檎のことになると譲らぬ父ジェームズ、強い林檎酒であるアップルジャックに溺れる母サディに3人の息子、2人の娘。 その中で家族のきずなをつなぐのはコネチカットから持ってきた林檎である。他の作物も育ててはいるが、林檎こそがグッディナフ一家をつなぐものであった。その関わりは家族によって異なるとしても。やがて末っ子のロバートは家族から離れて放浪へと向かう。 グッディナフ一家のドラマに、プラントハンターのウィリアム・ロブや林檎をアメリカに広めたジョニー・アップルシードことジョン・チャップマンなど実在の人物を絡めながら、ゴールドラッシュのアメリカの風景がまざまざと見えてくるような物語。 流されまくりのロバートに、弱々しい姉マーサ(彼女は最後まで不幸なんだよなあ)、そして明るく必死なのにいつしか大きなモリー、謎の存在感をしめすビーネンストック夫人。とにかく人物がいい。ストーリーもいいんだけど、この小説は人と木だ全てだ。

6か月前

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