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fuku

設計事務所勤務ゴミリーマン/元クズ編集者

設計事務所勤務ゴミリーマン/元クズ編集者

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コメントした本

土・牛・微生物ー文明の衰退を食い止める土の話

植物成長に必要な元素の発見が19世紀、それを人工的に供給する窒素肥料の実用化が20世紀初頭、それ以後、農作物は科学的に生育が制御できるようになり、収量も飛躍的に増加した。これがいわゆる緑の革命だそうだ。しかし、この革命で最も成功した、単一品種の大量生産は、大量の施肥や農薬使用により支えられてきたために、河川や海水への窒素やリンの流出(による富栄養化)や耐性を持つ害虫、雑草の蔓延といった負の面も多く作り出してきた。また、毎年施肥や農薬が大量に必要になるためにコストもかさむ。さらに伝統的な棃による耕起農法も、肥沃な表土を流出させ、アメリカのダストボウルのような人災を引き起こした。 ではこうした状況は変えられないのか。変えられる方法はある、と力強く宣言するのがこの本の著者だ。 耕さない、被覆作物で土を覆う、そして適切な輪作を行うことで、土壌内の有機物を増やすこと、つまり肥沃な良い土を作り、それを失わないことによって。 本書はある意味ではマニフェストではある。こうしたマニフェストは往々にしてトンデモ本と化すが、豊富な実例と科学的裏付けによって信頼性は高い。人新世の深い傷をどれだけ癒すことができるのかはわからないけれど。

6日前

1a752b5d 37d6 4b20 9e65 97c7054e62c7Icon user placeholder821e5a20 19ab 4ec7 a4b3 167e80d468c4D02e35f6 3567 46e3 94d3 facc86d7862479887820 f565 4157 afbd 20a48b6202a74638bd4c 544a 4f86 a44d a78884bf205fIcon user placeholder 10
さらば、シェヘラザード

作家志望の夢破れてポルノの代作を手がける主人公。いちおう少しは売れて金にはなって生活は安定するものの、実際のところポルノ代作にはフラストレーションがたまるばかり。しかもいまはスランプという最悪な状況。そんなときにはなんでもいいから書くしかない、と人生の不満やらありもしない情事を書きなぐるが、やがてそれと肝心なポルノが境界なく混じり合う。そして原稿に書いたことが原因で作家本人にも大問題が持ち上がるが、それも原稿の中のことで、どこまでが現実なのか、フィクションなのか、いわばメタフィクションになるがそのメタフィクションにさえも自己言及するメタメタフィクション。 聞けば著者はミステリ界では名だたる有名作家で、本作はミステリの枠を飛び出した名作と言われながら、マニアックすぎるし売れないだろうというので邦訳が一向に出ず、名前ばかりが知られた作品だったらしい。 そんな迷作?を、しかも50年近くたってんのにさらりと出しちゃうドーキーアーカイブはすごい。

12日前

情報爆発-初期近代ヨーロッパの情報管理術

訳者解題によれば、邦題の『情報爆発』やそれに類する用語はOEDでは20世紀に初出らしく、Too much to knowという原著タイトルはまさにこの時期、特にインターネット以降を意味するもののように思われるけれども、すでに写本や揺籃期本の時代からそう言う声があった。特に印刷術は大きな革命だった。技術としてだけではなくて、商品としての特性も変えてしまった。受注に応じて作られる写本とは異なり、コストを掛けて刷ったら売らなきゃ元が取れないわけで、それがまた書籍数の爆発の原因となる。もちろんすでに人間一人の手に負えないほどの本、というか情報がある。ではそれをどうやって整理していくか。 一つには本そのものの整理、たとえば目次や索引、ノンブル(ページ番号)などだ。どこに何が書いてあるのか、いま読んでるのは本のどのあたりなのかがわかるようになる。もう一つには、あちこちの本から抜き出してまとめられた情報の抜粋、いわゆるアンソロジー。精読とは違う拾い読みや、たとえば神父の説教用の題材やらをまとめた詞華集やレファレンス書として世に膾炙するのだけれど、文学的、書誌学的には軽視されてきた。 そうした営為にスポットを当てて現代に通じる情報管理の歴史を紐解いたのが本書。ガチな学術書ではあるけど非常に面白かった。

22日前

エコラリアス

10ヶ国語を自在に操るという哲学者、文学者による言語論集。注釈や出典も明確で学術書であるらしいが、神話や寓話、エピソードに彩られたエッセイとしても、とても豊かに読めるなんとも幸福な書物。 基本は副題にある通り、大筋は言語の忘却についてだけど、赤ちゃんの喃語は全ての言語の発音を可能にするほど豊かなのに、母語形成の段階でその大部分が失われるとか、詩作の許可を得るためにそれまで覚えさせられた先人の詩を忘れることを強要される弟子の話など、出てくる例がどれもこれも興味深く、またテーマからくる物悲しさに満ちている。 言語は常に変化し続けるものであるように、忘れることはただ何かの不在を意味するわけではなく、変化の中で見えなくなるものなのかもしれない。ボルヘスの短編にもあるように、あまりに鮮明で詳細な記憶は新たな記憶を生み出せないということだろう。

約2か月前

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シャーデンフロイデ: 人の不幸を喜ぶ私たちの闇

同期一番の出世頭が大口顧客を怒らせた! 人気タレントがセクハラ疑惑で降板? ああかわいそうに、でも少しだけ(そう、ほんとにほんの少しだけ!)笑みがこみ上げて来たりはしませんか、よくないことだと知りつつも。自分もそういう感情を抱いたことを白状せざるを得ないけど(それも頻繁にというのがまた救いがない)、そういう感情をドイツ語でシャーデンフロイデという。日本語だとネットでいうメシウマというところ。 人間社会に限らず、競争に満ち満ちているこの世においては、シャーデンフロイデは、競争の中で自分が相対的に優位に立ったことに対して人間が感じる快い感情であるらしい。しかし、そうした快感も、妬みを覆い隠すような形で正当化されてしまえば凄惨な犯罪へと容易に転化するという。例えば、ナチスのユダヤ人虐殺のような。にわかには信じ難いけれど、ユダヤ人は劣った存在などではなく、優秀であるからこそ排斥すべきであるという理屈は明らかに妬みから生まれたものだろう。 明日は我が身と思いながら、自戒の念を抱きながら読む本。

4か月前

人新世とは何か ―の思想史

いま地質学的年代区分として人新世という言葉が出てきているらしい。石油なんかを燃やしたり、プランテーションで本来の産地とは違うとこに単一的な作物を育てたりしている人間の活動が、地質学的に無視できないレベルにまで達していることから提唱されたという。例えば核実験が行われるまで存在しなかったプルトニウムや海洋に漂うマイクロプラスチックなんかは確実に後世の地層に人間の痕跡を残していくわけで。おー人間すげえ。とか言ってる場合ではなく、数千万年、数十億年もの時間をかけて形成されてきた環境をわずか数百年で後戻りできないほどに変化させることの意味を振り返る必要がある。 ターム自体の提唱は最近のことだとしても、人新世という用語が唱えられるまで、我々はこうした事態について何も知らなかったのか、また何もして来なかったのか? それを問いなおすのが本書。先人たちは自分たち人間の活動に無知でもナイーブではなかった。科学者は危惧を表明したし(シャルル・フーリエはやはりすごかった、アルシブラ万歳)、農民たちは反対運動を行った。が、それらは脱抑制されてしまった。政治や産業、あるいは時代の要請に。 はっきり言ってこの本が描く現状は暗すぎるほど暗い。シンギュラリティとかAIとか、そんなことさえ言ってらんない。コネクテッドカー? 何言ってんの。それらが拠って立つ基礎が、もはや取り返しがつかない状況にまで追い込まれているっていうのに。 でも、脱抑制から逃れて、一人一人が声を上げればまだ変えられるかもという希望も抱かせてくれはする。さあどうだか、と思いつつも、パンドラの匣の底を覗くしかないんだろうか。 しかし、ほんと青土社の本は校正が弱くて参ってしまう。誤植が本の価値を毀損するわけじゃないが、それにしてもさ…。

5か月前

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外の世界

誘拐された大富豪と誘拐犯、若き日の大富豪が巡り会う妻との恋、そして見えないものを感じながら自由奔放に生きる大富豪の娘、その娘に恋い焦がれるのちの誘拐犯と思しき男の子。 巧みに錯綜しながら進む物語は、コロンビアという、暴力が大手を振って歩いていた国、金持ちと貧乏人の間の格差があまりにも激しい国の事件ならではの、ヒリヒリするような焦燥感と疾走感に満ちていて冷や汗をかきながら読んだ。 誘拐犯には身代金を払わないという家族との取り決めなど、実際に起きた大富豪誘拐事件を参考に描いたものだそうだけど、哲学小説にも通じる思弁的な風味の大富豪と誘拐犯の対話、幻想文学を思わせる大富豪の娘イソルダのふるまいなど、味わい方もたくさん詰め込まれた小説。

5か月前

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B.C.1177

いまから3000年前、ギリシャや中東など地中海沿岸では複雑に入り組んだ国際関係が出来上がっていたのが、海の民と呼ばれる侵入者によって突然の終焉を迎えるのがタイトルになっている紀元前1177年。しかし海の民とはなんだったのかは未だ明らかでなく、より複合的な原因があったことを論ずる著者による綿密な調査研究が圧巻。 エジプトにヒッタイト、ミタンニ、ミュケナイ、バビロニアなど多数の国が交易や戦争などを通じて現代に通じるような国際関係を築いていたことには素直に驚かされた。例えば青銅器に必須の原料である錫が現代の原油のような極めて戦略的な資源となっていて、その需給バランスの崩れが入り組んだ国同士の関係に大きなインパクトを与えていたことなど、まさに歴史は繰り返すんだなと。 また、考古学の研究にも流行り廃りがあるというのもなかなか面白い。

6か月前

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動物になって生きてみた

動物、特に野生動物にとって世界はどんなものに映っているのかを描くのがいわゆるネイチャーライティングというそうだけども、本書はその極北にあるのかもしれない。人間中心主義や擬人化というよくあるネイチャーライティングの轍は踏まないという著者の決意というか宣言はたしかにかなりの程度実現している。アナグマのように寝そべってミミズを食ってみたり、タイトルどおりほんとに動物になりきって、なかなか狂った疾走感のある体験をしてらっしゃる。 そうした体験は、ふやけた動物愛護精神ではなく、まったくの異種の存在に対する畏敬があるからこそなのだろう。自分にできるかと言われたらムリムリとしか言えないが、本というものはそうしたムリムリを追体験できる貴重なツールであると改めて感じる。

6か月前

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疫病と世界史 下

下巻。モンゴル人が拓いた交易ルートは東西文化の混交をもたらしたが同時に疫病の混交ももたらすことになった。特に名高いのはネズミに付くノミが媒介するペスト。モンゴルの草原からヨーロッパに惨劇をもたらしたペストがどうやって消えて行ったのかを跡付けながら、齧歯類へのペスト菌の伝播と人間社会での流行との相関を明らかにしたり、そうした疾病との関係がどれほど人間の歴史に影響してきたのかを犀利に明らかにしている。 文献などによる明確な証拠に欠けており、推測に頼らざるを得ない部分が多いきらいがあるにしても、同著者の『戦争の世界史』同様に説得力があってなるほどとうなずかされることが多い。

8か月前

魚たちの愛すべき知的生活―何を感じ、何を考え、どう行動するか

魚には意識も痛みもない、というのが大方の理解だけども、そんなことはなく、痛みも感じれば意識もあり、その上文化のようなものまで持っているのではないか、と最新の研究を通じて論じる。魚には表情もないし、陸生生物でもないから、釣ったり食べたりして親しみはあっても、あまりにも馴染みがない部分がある。知的であることとは、人間の基準に照らしたものである必要はなく、それぞれの種としての知性というものはあり得るわけで、そうした視点から見れば、著者の主張も頷ける。いずれにしてもとにかく事例が豊富で面白い。道具は使う、協力もして騙しもする、教育までやってのけるなんて、魚、めっちゃやるやんけ!という感じですな。 まあ所属機関もそうだし、シーシェパードの発言を取り上げてたりするあたり、ちょっと魚に感情移入しすぎなところは玉に瑕ではあるか、養殖における問題や種としての存続のあり方など、新しい知見を与えてくれる。魚好きとしてはなかなか複雑な気持ちではあるが、今後も美味しくありがたくいただきたい。

7日前

死に山: 世界一不気味な遭難事故《ディアトロフ峠事件》の真相

冷戦真っ只中のソビエトの山中で、経験豊富な9人の大学生トレッカーたちが不可解な死を遂げた。リーダーの名前をとってディアトロフ峠事件と呼ばれる。 この事件はネットなんかで見るとほんとに謎だらけで、原因も雪崩や強風といった自然現象説から軍の新型兵器の実験に巻き込まれたとかいう陰謀説、さらにはUFOなどのオカルト説まで喧しいけれど、先入観なしに事件の実地に足を運び、生き残り(体調不良で途中で引き返した)に話を聞き、その原因に到達したと思われるのがこの本。 ネットで見てるだけだと不可解でも、専門家に聞いてみればありふれたことというのは多数あるが、この事件で謎とされた部分のうち、ほとんどはそんなことだった。ただ検証が足りなかっただけだったわけだ。そして、最後の最も謎とされる部分にも、科学的に妥当なで多分最終的な結論が与えられる。 アメリカ人の著者は貯金が底をつき、クレジットカードも限度額まで使ったそうで、そこは悲壮感いっぱいながら、ぶっきらぼうながら不思議に優しいロシア人たちとの交流も楽しく、上質なノンフィクション。

12日前

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生物模倣――自然界に学ぶイノベーションの現場から

ひっつき虫(オナモミ?でしたっけ?)をヒントに生まれたマジックテープとか、カモメの羽の形状を真似て作られた扇風機の羽根とか、自然界から学んだ技術やデザイン、そういうのを生物模倣というらしい。バイオミミクリーとかバイオインスピレーションとも言うのだけど、経済的にも環境的にも期待がもてる分野で、いま飛躍的に研究者が増えてもいるそうだ。 もちろんその分野は一括りにできるものではなく、イカの発色からシロアリの蟻塚、光合成を行う葉っぱなど広大で多岐にわたる。そうしたバイオミミクリーの世界の現在をルポしたのが本書。 生物は環境といわばうまくやっている。そうしたうまくいってるワザを模倣することはたしかに効率的でもあるだろうけど、そうしたいわば「夢の技術」と現実は異なることも明確にしているのがやはりきちんとしたサイエンスライターらしい目配りの良さ。 バイオミミクリーの難しさは実際そこにある。何をどこまで真似るのか、全く同じようにか、ちょっとひねってか? しかし生物の環境適応の解決法の要点はミクロなレベルにあるのか、マクロなレベルにあるのかもわからないし、そもそも生物はうまくやってるわけではなくて、なんとかやっているだけなのだった。それを模倣するだけではもちろん足りない。 そんな基礎的なこともきちんと分からせてくれるのはありがたい本。

約1か月前

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憂鬱な10か月

我輩は胎児である。徹頭徹尾、母の胎内に蟠る胎児が延々とモノローグを語るさまは只者ではない。ソムリエみたいにワインの味わいをくどくどと評価し(飲んだこともいくせに)、世界情勢を気にかける。それもそのはず、なんと今時の胎児は母親が聞くポッドキャストやテレビから知識を吸収しているのだそうだ。IT化恐るべし。 しかしこの胎児は生まれる前からとんでもなく大変な目に遭っている。零落しつつあるとはいえ英国、極東の独裁国家ではなくなんとかヨーロッパに生まれ出ることまでは良かったものの、しがない詩人の父はすでに捨てられ、その弟との不倫に耽る母は胎児に気を使いつつも酒が止められない有様(そして臍の緒を通ってくる血流で胎児くんはワインを味わう)。 そんな中で父を亡き者にしようとする陰謀が。果たして胎児くんの運命やいかに。 黒々としたユーモアがイギリスらしいけれど、どうもそれだけではなくてこの小説はハムレットの本歌取りらしい。それを知ってるだけでも楽しさは倍増したかもしれない。

4か月前

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ギデオン・マック牧師の数奇な生涯

スコットランドの田舎町の牧師が失踪するが、その牧師はかつて誰も助かったことがない洞窟で遭難して3日後に奇跡の生還を果たして話題となった人物。失踪後に残されていた手記には、牧師にあるまじき行為が赤裸に綴られていた、というストーリーはほとんど手記で占められているけれど、狂言回し的な存在の出版社社長が語る手記発見のプロローグと、手記の存在を知らせた旧友のライターによる登場人物への取材記事の体裁を取ったエピローグによる枠物語になっている。この枠物語がまた曲者で、手記で語られていることが必ずしも取材の結果と一致しないために誰の言ってることが正しいのかがわからなくなる。そもそもこんな形で手記をわざわざ残すあたり、虚栄心も自己韜晦も大いにあるわけだけど、残された人物もどうなってるのか。悪魔の存在、そして牧師を試すために悪魔が出現させたという巨石。本人しか見てないのか、それとも。 ただスコットランドに詳しいともっと楽しめる要素んだろうなあ。これは読者の問題。

4か月前

エロスの庭―愛の園の文化史

梅雨の季節だと特に、雨の合間の晴れ間にどこかの庭園に出かけるのはよい気晴らしになるけれども、さわやかなお庭が実は古来から男女の営みの楽園であったとは日本では思いもよらない話であった。 ギリシャ、ローマの遺跡に表れる奔放な性表現に始まり、ヨーロッパの庭園を通底するプリアポスやパンと言った淫蕩な神々をモチーフにしたエロスとの関わりの豊穣さは、穏やかな田園風景の中に密かに埋め込まれていた。澁澤龍彦が触れたボマルツォの庭園からヴェルサイユなど、数多の庭園には男女の逢瀬や愛の営みのための場がそこかしこにあったというわけだけれど、庭園が人間が自然と関係する場であるなら、その中で人間同士が出会い、自然な関係を営むのはごく当然といえば当然なのかもしれない。 そうした中でも、デッサウ=ヴェルリッツ庭園王国の分析は圧巻。世界遺産にもなった風光明媚な庭園を、アプレイウスの『黄金のロバ』を手掛かりにエロス的観点から分析しなおす様は読んでてわくわくさせられる。 本書で触れられているのは主としてヨーロッパの庭園で、日本のことは触れられてないけど、思えば日本だって上野の公園でなんかしたりとかそういうのがあるし、三島由紀夫の『禁色』にもそんなシーンがあったはず。あれはハッテン場だったけど。

5か月前

天界の眼: 切れ者キューゲルの冒険

歳を食って元気がない太陽が照らす遠い遠い未来の地球。科学が力を失って、魔術が復権した世界の中、とある町にある高名な魔法使いの屋敷に忍び込んだ切れ者キューゲルの運命やいかに。 切れ者とは名ばかり、完全なる自称なんだけど、名乗りというのは便利なもので、名乗りさえしたらばオイラも今日から芸術家ってなわけで、切れ者キューゲルは腹の中にいらざる相棒を抱えながらグダグダな冒険を繰り広げるのであった。意地汚くて小狡いまったく共感できない小物感満載の主人公でありながら、奇想だらけのあれこれに翻弄されるのがなかなかに痛々しくもあり、可愛げもないのにこれまた可愛らしくもある。最後のオチは言わぬが花かとは思うが、同情しつつも笑ってしまった。作者ヒドス。

6か月前

イタリアの鼻 - ルネサンスを拓いた傭兵隊長フェデリーコ・ダ・モンテフェルトロ

ピエロ・デッラ・フランチェスコによる特徴的な鼻が際立つ横顔の肖像画で知られる傭兵隊長にして小都市ウルビーノの領主フェデリーコ・ダ・モンテフェルトロの生涯からルネサンスの世界を描く。ヤーコプ・ブルクハルトが賞賛した、文化・芸術を保護してウルビーノを一流の都市に育てあげた英明な君主像は果たしてどこまで実像に沿っていたのか。弟殺しや戦争に負けたことがないとされる戦績、あるいはライバルのマラテスタ家没落の真相など、ブルクハルトの評価に隠れていた真実を明るみに出しながらも、豪華絢爛な宮殿、また当代随一の蔵書など、フェデリーコの文化的センスや知識を紹介していく。非常に読み応えがあった。 そういえば、あの名高い鼻は、鼻梁が視野を邪魔して死角が生じて傭兵隊長としては不便なので手術したという風にどこかで読んだ記憶があったけどそうじゃなかったのね…。にしても、目を槍で貫かれても軽口を叩く胆力には驚嘆。

6か月前

反共感論―社会はいかに判断を誤るか

私こんなに悲しいの!私こんなに大変なの!私こんなに辛いの!ねえねえ共感して! ってな同調圧力話が多い昨今ではあるが、そんなものは害悪であると喝破する本が出た。それが本書。全米でも大いに物議を醸したらしい。 しかし。書いてあることは一部疑問に思うところもあるが、ごくごくまとも(だと思うけどそう思わない人もいるだろう)。著者は共感なるものを論理的共感と情動的共感とに区別し、脳科学や哲学などの成果を活用しながら、情動的共感はしばしば近視眼的思考に陥り、本質を見誤ることを指摘する。例えば身近な人の苦しみには大いに影響されるものの、遠くの多数の他人の苦境に対しては、それがどれほど大変なものであってもほとんど共感を抱くことがない、あるいはなんらかの対策によって防がれた悲劇は、起こらなかったというメリットゆえにこそ却って共感を呼ばないとか。例えば日本でもある子宮頚がんワクチンの問題。もちろん副作用が出た患者や家族の苦しみや悲しみは察するに余りあるとしても、疫学的に有用であることがわかっているワクチンの中止を声高に叫ぶことは果たして正しいことなのか。アンタは子宮頚がんになんない男だから気楽なこと言ってんのよ!とか言われそうだけどさ。

7か月前

疫病と世界史 上

かの有名なジャレド・ダイアモンドの『銃・病原菌・鉄』のネタ本の1つとされる名著。たしかに一読そう感じられる。 ピサロやコルテスがラテンアメリカをたやすく征服できたのは、優れたテクノロジーなどもそうだけれど、天然痘をはじめとする旧世界の疾病にやられたからであるとか、ペストやコレラなどの疾病が世界史に与えた影響をグローバルな視点から詳細に指摘している。信頼に足る文献や考古資料の欠落はいかんともしがたいとしても、技術の進展の度合いや文化的な差異からだけではスッキリと説明がつかない文明間の消長が腑に落ちる形で明らかになってくるのにはとても興奮させられる。 皇帝までが斃れ、瞬く間に人口を失ってしまえば、免疫を持たない天然痘によるものという知識のない中では、そうした惨禍が神から下された天罰であると思い込むことは無理もないし、さらに征服者たちはなぜか天罰から逃れているように見えるわけだから、どれだけ強大な帝国であっても、抵抗への気力は削がれるに違いない。

8か月前

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