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fuku

設計事務所勤務ゴミリーマン/元クズ編集者

設計事務所勤務ゴミリーマン/元クズ編集者

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コメントした本 ページ 2

生き物を殺して食べる

自分たちが食べてる肉や魚はどんなところで育ち、どこでどんな風に処理されて口の前までやってきたのかは、最近ではトレーサビリティやらなんやらのおかげでなんとなくはわかるようになっては来たけれど、それはわかった気がするだけのことでしかないし、トレーに生産者の顔が描いてあっても、消費者としてなにか気持ちが大きく変わるってことでもない。だったらどうするか。また極端な、とも思えるけれど、著者は現場に足を運んで、自ら動物の命を絶ってみることを選んだ。 狩猟(著者はイギリスの人だから日本より多少はとっつきやすいという事情もあるはず)や釣り、車に轢かれて死んだ動物の採集(ロードキルっていうらしい。もちろん食える状態のものはありがたく…)、そして屠殺場の取材などを通じて魚食も含めた肉食の問題を考えていく。まあこの人もとからベジタリアンとかヴィーガン風味の人なんで、ちょっとバイアスかかってんじゃないかって部分も多々あるが、肉食には倫理が必要なのでは、という意見には賛成するしかないように思う。ただそれってある程度余裕のある人たちに限ったことで、食うや食わずの貧困層のほうがジャンクフードで肥満気味って話なんかを考えればなんだかなあってとこもあったりするとか、いろいろ留保はつけつつもとても貴重な本であることは確か。

9か月前

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欠落ある写本: デデ・コルクトの失われた書

中世アナトリアの叙事詩である『デデ・コルクトの書』を元ネタにした小説。作者を思わせる語り手による叙事詩のヴァリアント発見の謎めいた経緯から物語は始まる。 異本はオグズと呼ばれる遊牧国家におけるスパイ騒動の内幕を明かすもののようで、王たるハーンと詩人でありシャーマン、そして叙事詩の作者でありまたこのヴァリアントを残した張本人とされるコルクトらがオグズ内の有力者を尋問していく。そしてその話の中に別の王と王の替え玉による別の物語が挿入されていく。 元ネタを読んだことがないのでなんとも言えないところもあるが、こうした架空の書物をめぐる物語の面白さは元ネタにあまり関係がなく、そうした書物をどうもっともらしく見せるかがキモなところもあって、そういう意味で言えばなかなか面白かった。 聞けば筆者は元ネタの有名な研究者だそうで、さもありなん。 しかし、ハーンの語りを読んでいると、どうも男塾塾長の絵がチラついてしょうがない。マンガ化する(しないと思うけど)場合は確実に江田島塾長だなー。

9か月前

誰がスティーヴィ・クライを造ったのか?

やっと出たドーキー・アーカイブ4冊目。刊行ペース遅すぎませんか? でもその分?今回も秀逸。亡き夫が買ってくれたタイプライターが未亡人ライターに反旗を翻し…というホラーのメタ・パロディ。これがパソコンだとハローワールドってなもんなのかもしれないが時はワープロが出始めた80年代。 反旗を翻したタイプライターは勝手に主人公の悪夢を綴り出し、やがて書かれたものと現実が綯交ぜになって区別がつかなくなるという恐怖。 なによりも怖いのはこの入り組んだ構造を読者として読んでること。小説内では現実世界とタイプライターが描く世界は存在の階層が異なっているから登場人物は現実と区別がつかない悪夢に苛まれたりしつつも、書かれた世界と自分が立っている世界の隔絶を無意識的にわかっているはずだ。それに対し、読者はメタレベルな立ち位置にいるがために、却ってどっちがどっちなのかにわかには判断できなくなっていく。書かれていることがタイプライターの生み出す悪夢のように思えても、それを確実に知ることができなくなる。なんたって小説内ではどんなことだって起こりうるのだから! 原著はあのアーカムハウスから出ているが、何の因果か時代に埋もれてしまったらしい。著者による後日談も含めてサービス旺盛な一冊。

10か月前

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ダーク・ジェントリー全体論的探偵事務所

万物は相互に関連してるんだと嘯きながら猫探しにバーミューダ諸島まで行っちゃう私立探偵に決算書を音楽にしてしまうソフトを開発してるプログラマー(しかもその音楽がだいたい暗いってのも笑ってしまうが)、何でもかんでも信じ込む電動修道士やらヘンテコな人物がぎっしり活躍するミステリー小説らしからぬミステリー小説。作者はあの『銀河ヒッチハイクガイド』シリーズの作者ダグラス・アダムス。 イギリス人らしいひねくれにひねくれまくったギャグと皮肉、ちょっとしたショートストーリーになりそうなエピソード満載という贅沢な仕様でありながら、しっちゃかめっちゃかにとっちらかった(ように見える)ストーリーを最後の最後であっというまに、その上そこかしこにばら撒かれた伏線をさくさくと回収しながら収まるべきところにストンと収束させていくというとんでもなさ。 小説というのはこういう時間の優雅な無駄使いにあるんだなーと思わされるような得難い読書経験。

10か月前

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生まれながらのサイボーグ: 心・テクノロジー・知能の未来

人間は生まれながらのサイボーグであり、道具は私たちである、というのが著者の主張。過激な表現であるが、人間は身体という道具に加え、身体外部の存在をも取り込みながら「拡張した心」に従って人間存在を拡張していくという意味でのことであり、一般に想像されるそれとは違う。 とはいえ人間の脳は、他の動物と異なり、極めて可塑性に富んでおり、身体にとどまらず非生物的機器や環境を自らの一部として取り込んでいくことで進化してきたとして、例えば外部記憶装置としてのメモやノートに始まる多数の証拠をあげながら、人間が生得的に「サイボーグ」であり、今後はテクノロジーの進化でさらにそれが進んでいくことを示唆する。 人間とは身体にとどまらず、自らが直接的にコントロールできる諸部分の総和であるというデネットによる人間の定義を数多くの議論から説得的に論じている。 原著は2003年の発行なので、ネット社会の発展やスマホなどの普及については述べられていないが、かえって著者の描くかなり楽天的な未来像と現状のギャップが見えて来るという意味では有用であるかもしれない。

10か月前

女がいる

女がいる。から始まる97の断章が並ぶ。時に女は男になったりもするが、「僕」を愛していたり「僕」が愛していたり、また憎んでいたり。男性らしき主人公の独白が延々と続く。独白の中身はお互いの関係に対するときおり妙に具体的なエロティックな描写と、女の突飛な行動に見られる乾いたユーモア、ハンガリーの歴史や地理など様々だ。ときおり、共通点が見えたりもするが、それをもって女を同一人物だといえるほどの共通点でもない。それほど女は変幻自在なのかもしれない。それとも男が女の姿を勝手に見誤っているのか。 ストーリーらしいストーリーはないけれども、どこから読んでもシュールでやや下品なショートショートが見つかるという意味では、一つのテーマを巡って書かれたカフカの短編集のような趣がある。

11か月前

林檎の木から、遠くはなれて

19世紀、アメリカ。コネチカットからオハイオのブラックスワンプなる沼沢地で新生活を始めた家族、グッディナフ一家。毎年マラリアで苦しめられ、10人生まれた子ども達も次々に死んでいくほどに環境はとても過酷で容赦がない。語られる時点で生きているのは、優しいが林檎のことになると譲らぬ父ジェームズ、強い林檎酒であるアップルジャックに溺れる母サディに3人の息子、2人の娘。 その中で家族のきずなをつなぐのはコネチカットから持ってきた林檎である。他の作物も育ててはいるが、林檎こそがグッディナフ一家をつなぐものであった。その関わりは家族によって異なるとしても。やがて末っ子のロバートは家族から離れて放浪へと向かう。 グッディナフ一家のドラマに、プラントハンターのウィリアム・ロブや林檎をアメリカに広めたジョニー・アップルシードことジョン・チャップマンなど実在の人物を絡めながら、ゴールドラッシュのアメリカの風景がまざまざと見えてくるような物語。 流されまくりのロバートに、弱々しい姉マーサ(彼女は最後まで不幸なんだよなあ)、そして明るく必死なのにいつしか大きなモリー、謎の存在感をしめすビーネンストック夫人。とにかく人物がいい。ストーリーもいいんだけど、この小説は人と木だ全てだ。

11か月前

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スペース・オペラ

スペースオペラといえば、昼下がりの安っぽいメロドラマ、ソープオペラと同じく、ヒーローが大活躍する、粗悪というかあまり出来のよろしくないSF宇宙活劇をさすちょっと意地の悪い言葉だが、それをストレートにひねらずーーいや、逆にひねったのかなーー宇宙を旅する歌劇団の物語にまんまと仕立てあげてしまったブラックユーモア炸裂の表題作を含むアンソロジー。もちろんユーモアだけではなくて全くの異世界文明との相互理解の可能性について、レムなどにも見られるような鮮やかや思考実験がとても心地よい。表題作もギャグ満載で楽しかったが、異性の海の鈍重そうな生物とのコミュニケーションを描いた「海への贈り物」が出色。著者は元船員だったそうで、その経歴も迫真の描写に役立ってるのだろう。最後のシーンは予想されることだとしても胸が熱くなる。 このアンソロジーはシリーズだそうでこれが3巻目の完結編だそうだが残りも読んで見なくては。

12か月前

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踊る裸体生活: ドイツ健康身体論とナチスの文化史

20世紀前半、ドイツでは裸体文化が隆盛を誇ったという。20世紀前半のドイツと言えばワイマール体制とそれに続くナチ政権だが、そうした政治的、社会的な激動の中で裸体により健康を保とうとする文化が咲き誇ったというのはなかなかに興味深い。裸であることは衣服からの解放というだけでなく、古い社会規範からの解放も含意しているだけにその方向性は開けっぴろげでポジティブなものであるが、それが一つのイデオロギーとして消費されてしまえば容易にナショナリズムに結びつく。本書のテーマであるドイツ人はアーリア人、いわゆるゲルマン民族の優越性を主張した。そうしたことはドイツに限ったことではあるまいが、ドイツで特異だったのは裸体文化であったようだ。 しかし、清潔や健康とナチスは公衆衛生の分野や食生活の分野でもしっかりとつながっていくので、裸体文化もその路線にあったということか。

12か月前

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夢の日本史

夢とは日本人にとってなんなのかを説話から歴史的にたどる。大昔は夢見ること自体が権力や能力の証であったりした。夢はどこか遠い神仏の世界から届けられる奇瑞であり、他人が見た夢を寸分違わず語り直すことでその功徳を横取りすることさえ可能な世界があった。また、従者が見た夢が主人の栄達につながったり、一族で夢を共有することで子女の出世が叶ったりするという、夢が媒介する共同体があった。そうした夢はいつしか個人の所有物となり、やがては単なる気の迷いのような扱いへと変化していくことが様々な説話からこれでもかというくらいに語られる。 で、このエピソードがどれもこれもなかなか秀逸なのがこの筆者のすごいところ。特に、狩りの途中で怪我した腕を治しに湯治に来ただけの武士が、赤の他人が見た夢のお告げのおかげで観音様と崇め奉られつきまとわれた挙句、とうとう観念して刀を捨て、化身した観音にならんとして出家しちまうという宇治拾遺物語の話は傑作。知らん間に祭り上げられて逃げ場がなくなるってのはよくある話なんですな。 かなり前の著書『中世のうわさ』(調べたらもう20年も前の著作なのか…)でもこの面白さは発揮されてたけども、説話集のゴシップ力を引き出しながら単なる面白エピソード集にとどまらない知的満足を与えてくれる本。

約1年前

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例外時代

第二次世界大戦以降、1970年代前半まで続き、オイルショックで収束した世界的な好景気のような高度成長経済は果たしてまた訪れることはあるのか。それとも、そうした好景気はたまたまのことで、もはや望むべくもないのか。 筆者は好景気の時代こそが例外であり、低成長が本来の姿であることを、おおよそ70年代後半からの経済停滞に世界各国がどう対処し、良きにつけ悪きにつけどのような成果を出したのか、さまざまな人と政策をつぶさに紹介しながら例証していく。 福祉を重視する大きな政府から自己責任が求められる小さな政府への移行(例えばアメリカ)、反対に民間企業を国有化する政策(これは同時期のフランス)、様々な国が様々な方法であの黄金時代を取り戻そうとするが、どの国もそれを果たせない。揺るがぬ信念を持つ政治家、確たる理論で武装した経済学者たちはどの国にもいつもいた。うん、いるにはいたんだ、いるには。けれど、そうした信念も理論も大した役には立たなかったってことだけは明らかだった。経済成長なんてこんなもんなんだなーという諦念のような認識から何を考えていかなきゃなんないのか。これまでの暮らし方とか、そういうことも含めて。

9か月前

動きの悪魔

鉄道にまつわる幻想短篇集。廃線を憑かれたように保守し続ける元駅員、衝突事故を請い願う車掌、停車することに抵抗する運転士、コンパートメントに乗り込むことで生を実感する男など、鉄道に取り憑かれた主人公たちの物語は、怖いというよりも、ポーランドの仄暗い鉛色の冬空のようなイメージの中、古めかしい客車のコンパートメントや打ち捨てられた廃線の線路、疾駆する真っ黒な蒸気機関車など、映画なんかでしか見たことがないのに、なぜかノスタルジーを感じるものたちと呼応して、モノトーンめいた暗さの中にあるのに、かそけき様子ではありながらもそれぞれが光を放っているような色彩のきらびやかさ、トーンこそ違えど、稲垣足穂にも通じるような色彩感覚が感じられた。

10か月前

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愛と狂瀾のメリークリスマス なぜ異教徒の祭典が日本化したのか

クリスマスといえば恋人はサンタクロースというような歌が巷で流れてるのを苦々しく聴いてた世代ではあるが、クリスマスが明治時代からすでにあんな狂瀾状態にあったなんてことは知らなかった。というかそもそもクリスマスなんてものは戦後のクサレ風習だと思っていたが、そんな先入観が鮮やかに覆される。 しかし、戦前のクリスマスの狂瀾は戦後には完全に忘れ去られてしまった。ネガティブな言論統制の裏にはポジティブな言論統制も見えないながらそこにあるのだという著者の指摘には深く頷かざるを得ない。 また、キリスト教と日本人は伝来の時点から外面だけの関係であったこと、つまり往時のキリスト教の征服欲をかつての日本の為政者たちは鋭く嗅ぎ当て、取り入れることを拒否したからではなかったかという考察、そしてそうした関係性が、軽佻浮薄な日本のクリスマスのありようのカギを握っているという考察なんかには鳥肌がたった。 もともとなんでもズンズン調べて書くサブカル風のライターだった著者だけに、軽い文体でさらりと書かれちゃいるが、指摘の鋭さはとんでもないもの。もっと重厚な研究書としても通じるんじゃないか。

10か月前

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世界地図が語る12の歴史物語

「世界地図を参照するとき、遠方の地はいつでも紛れもなく手の届くところに位置しているのである。」プトレマイオスの地理誌やTO図からグーグルマップに至る12の地図をもとに、世界地図と人間の世界認識との関係を丹念に辿り直す。本書にも引かれている、国の範囲を示すために作られた等縮尺の地図というボルヘスの寓話にもあるように、地図とは権力の範囲を示すものであった。また信仰のよすがとなるものでもあった。 そうした関係性がどのようなものであれ、ある時代の世界地図は、その時代の人々の世界観が反映されるという視点はとても興味深い。古代の地図だけでなく、科学技術により正確な地図が作成できるようになった現代の地図においても、ある意味で偏った世界観が地図に反映されていることは知っておいても良さそうだ。

10か月前

テルリア

頭に打ち込めば新たな世界認識が生まれるという金属テルル。要は麻薬みたいなものってことだが、ロシアを含むヨーロッパは崩壊して小国が乱立、イスラム教は世界を席巻、資源問題も深刻化しておりジャガイモを燃料にするバイオ燃料車が走る21世紀後半の世界。ほとんどの国ではテルルが非合法化されているなかで、テルルを打ってラリったりたまに打ち損じて死んだりしているどうしようもない人類が生きている、そんな世界を50の断片で切り取っている。著者曰く、断片化した世界を描くにはテキストも断片化するほかないということだが…。すでに発表されている『氷』三部作となんとなく世界観が似ていてセルフパロディのようだ。とはいえ原著はこちらのが先のようなのであっちが発展形なのかも。 断片化している分、舞台背景にある世界像がとても見えづらいが、近未来に関する想像力は相変わらずすごい。悪い方向にだけれども。

11か月前

最後のソ連世代――ブレジネフからペレストロイカまで

非常にあっけなかったソ連の崩壊。国民は、祖国が確固たる基盤に立ち不変の存在だと信じていたのにもかかわらず、崩壊の過程においてはそれをあまりにもあり得ることだと感じていたのだという。本書はこうしたソ連崩壊がなぜこうまでなし崩しに起きたのかを自らの実体験とさまざまな聞き取りで明らかにしていく。ソ連の日常、特に本書で分析の対象となっているブレジネフ時代以降は党の指導に愚直に従う体制派と、そうした体制をかいくぐりながら自由を希求した反体制派(ここでは異論派)というような、二項対立があったとされるが、実はそうではなく、共産主義に対する真摯な信頼と信念を持ちつつも、それに反することもするといういわばねじれた関係が市民にとって普通の状態でありえたという。そうした言説の意味の捉え方の方法論の違い(ここではオースティンの概念を援用してコンスタティブ・事実確認的な発話/パフォーマティブ・行為遂行的な発話に分けられる)により、党のガチガチの権威的な言説がいわば形式的なものとなって脱構築されていき、誰もがイデオロギーに従っていながら、それを気に留めなくなったという不可思議な状態(本書ではヴニェと呼ばれる)となったことが、ソ連の崩壊を準備していったとする。オーラル・ヒストリーとしても抜群に面白い数多くの聞き取りをはじめ、読み出したら止まらない。

11か月前

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時間のないホテル

世界中に広がるネットワークを持つホテル、ウェイ・イン。忙しい顧客に成り代わり、コンベンションへの参加を代行する主人公はこのウェイ・インをはじめとするホテルを転々とする身。今回、新たに建設された巨大コンベンションセンターで開催される催しに代行で参加するものの、主催者のちょっとした罠にかけられて参加が危うくなり…。 自分の仕事的にもコンベンションは関わりが深い分、前半部を読んでると身につまされるとこもありながら、あーあるあると頷きつつ読んでると展開がどこからかずれてくる。 とはいえ、コンベンションにまつわるゴシップや小ネタを集めただけでもなく、どうにもたどり着けない(ことはないのだが)コンベンション会場とか、初めからカフカ的な不条理感は漂っていて、いわば現世的というか世俗的というか、そうした不条理と、幾何学的、あるいはオカルティックな不条理が混じりあうところがこの小説の特徴なのかも。 ネオンサインが質問に点灯する文字で質問にイエスノーで答えるなんてコミカルな小ネタも楽しい。

11か月前

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起きようとしない男:その他の短篇

布団にもぐったまま、ぬくぬくごろごろすることがどれほど幸せか。特にこれからはお布団を離れることの名残惜しさが強くなってく季節だけれども、それはイギリスでも同じらしい。ベッドから出ることを拒否した男がやがて聖者のように扱われ…という表題作を含めたデイビッド・ロッジの短編集。古いものから新しいものまで並んでいるが、原語ではなかなか読めないものだったらしい。仏語版だか独語版だかの翻訳で出すということでまとめたものが、本国ではプライベート・プレスから出されることになったために稀覯本になっていたのだそうだ。 そして、かつて子どものときにその仏語版を読んだフランス人アーティストが表題作「起きようとしない男」をモチーフにつくった家具から再版の話が持ち上がり…本人の筆で語られるこの本の経緯もまたよくできた短編小説を読んでるみたいで少しお得な一冊。

12か月前

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モンゴル帝国誕生 チンギス・カンの都を掘る

チンギス・ハンに始まるモンゴル帝国を発掘にやって読み解く。考古学者のものすごさが存分に発揮された本。騎馬民族として縦横に劫掠に明け暮れたというモンゴル帝国像が鮮やかに覆される。果てることなく広い室内に無造作に置かれた珍かな宝物、そして珍味佳肴がならぶ晩餐の席というようなチンギス・ハンの宮殿のイメージも、実際の発掘では拍子抜けするほどに質素なものだったりする。 また遊牧民は一箇所には定住しないために技術的には遅れをとっていたようにも思いがちだけども、そんなことはなく、鉄を利用する方法については極めて長けていたことなどもわかってきた。鉱石から鉄を鋳るのは非効率だから、あらかじめ精錬してある小さいインゴットをたくさん携行して、必要に応じて矢じりに加工するとか、チンギス・ハンの馬にまたがった征服者というよりも、実際的な経営者像が見えてくる。

約1年前

2084 世界の終わり

明らかに実在するとある宗教を思わせる一神教が全てを支配する国。年号も定かでなく、過去はすぐに書き換えられ、歴史らしい歴史などは存在しない。すぐに思い起こすのはオーウェルの『1984』のようなディストピアだ。実際、タイトルもオーウェルの小説から一世紀後でもあるし、関連性は明らかではある。その上で、本作はとある宗教、有り体に言えばイスラム教の、特にその中でも原理主義のふりかけがまぶされていることが大きな特徴だろう。 とはいえ、異様なまでの密告社会、隅々にまで宗教的な戒律が染み込んだ窮屈な世界という設定でありながら、ところどころあれっと思うような破れが見えてしまうのは少し残念。そうした監視社会の破れを描こうとして、物語自体に破れが見えたようなそんな感じ。 ディストピア大好きなウェルベックが推薦してるそうだけど、ちょっとそこが…。 著者はアルジェリアの元エリートで、政策に楯突いたために公務員の職を追われたが、そんな迫害の中でも同地に住み執筆しているという。しかし、執筆したものはほとんど国内では発禁になるそうだ。 そうした背景を考えれば、この小説に切迫したアクチュアリティを認めることは可能だろうけど、そんなものは物語にとって夾雑物でしかないとも言えるわけで…。

約1年前

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