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Toru Omae

欧米ミステリを中心に読んでいます

欧米ミステリを中心に読んでいます。 自分のは書評とかレビューみたいな大それたもんではなくて「これ面白かったから読んでみて!」レベルの感想文ですが…よろしくお願いします。

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コメントした本

書物の破壊の世界史ーーシュメールの粘土板からデジタル時代まで

なんとも魅力的なタイトルに心惹かれ手にとってみた。文字を発明し保存するようになってから今日まで我々人類がいかに書物を破壊してきたか、ということで凄まじい量の破壊の事例が網羅されている。大きく分けて古代、中世から十九世紀、二十世紀から現代に分けられて入るのだけどもとにかく事例の量に圧倒されてしまう。大雑把に言うと、征服戦争で勝者による略奪の一貫で破壊される、自然災害などある種の不可抗力によって破壊される、思想を排除するために破壊される、の三通りくらいなのかな、という印象。古代エジプトはアレクサンドリアに大規模な図書館があったというのは知っていたのだけども古代から現代に至るまであらゆる文明がこんなに図書館を建設していたということに驚いた。ローマでは図書館利用規定みたいな石碑も発見されているらしい。作者がベネズエラの人で図書館学の権威~イラク戦争後の被害状況評価にも派遣されている~ということもあるのか中東、欧州、南米の事例が多く、アジアはほんの少しだけ触れられているだけというところは少し気になるけども記述が簡潔でとても読みやすく興味深い内容。破壊については戦争よりもむしろ思想、特に宗教による破壊~キリスト教原理主義が圧倒的~が最も徹底的でタチが悪いなという印象。本好き、歴史好きの人には特におすすめしたい内容でした。非常に面白かった。

7日前

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コンゴ・ジャーニー〈上〉

あのカズオ・イシグロが大絶賛している、ということをどこかで見かけて手にとってみた作品。タイトルそのままイギリスの紀行作家というか冒険作家がアフリカはコンゴの奥地にある湖まで旅した旅行記。さすがイギリス人というか凄まじくひねくれた内容。そもそも作者の目的がコンゴ奥地にある湖で目撃情報があるという恐竜モケレ・ムベンベを見つけたい(そして儲けたいと)いうことだし、旅行記そのものもリアルというかこれを読んで自分もこういう旅をしてみたいという人は恐らく精神的に病んでいるであろうと思われる内容。賄賂をすぐに要求してくる政府の役人、害虫だらけで危険だらけの旅に呪術を真面目に信じている人々に振り回される日々。冒険に同行してくれることになった政府の役人兼学者とその親族も一癖も二癖もある連中で旅の途中で会う人々もどこかおかしな人がほとんど。そもそも原題は「No Mercy」だし。しかしそれだけならあの大作家が絶賛するわけもなく…めちゃくちゃな旅の記録ではあるのだけど全く美化されていない内容の中に深く考えさせられる記述がちらほらと出現し飽きさせない。旅に同行したアフリカの学者が思いの丈を吐き出すシーンなどは壮絶ですらある。そして無事、旅を終えて出国しましためでたしめでたし、とは全く異なるラストには驚かされた。長さもさることながら内容もヘヴィなので力のある時に読まれることを勧めます。すごい作品。面白かった。

12日前

引導

ずっと楽しく読ませてもらっている時代物を息抜きと言っては失礼ながら久しぶりに。相変わらず許せない悪があり最後に正義がそれをぶった切ってすっきり終わる...はずだが全体を貫く大きな流れが終章に入って大きく動いたところで終わってしまい次作をいち早く読まねばならないことに...面白かったけれども単体でなるべく完結するようにしてもらいたい…。

12日前

鷹の王

邦訳が出るたびに読んでいるこのシリーズももう11作目だとか。アメリカの田舎ワイオミング州の更に田舎の猟区管理官を主人公としたミステリ。我々には馴染みのない職業だがいちおう法執行官の一人で密漁や違法な狩猟を取り締まるのが仕事。自然豊かなのどかな地でそういう仕事の人物を主人公にしてよくシリーズが保つな、と思うのだが、自然保護や代替エネルギー問題、反政府主義者の存在などむしろ都会より今日的なテーマを取り上げやすいようにも見える。このシリーズのもう一つの魅力である主人公はちょっと融通が利かないほどの正義漢でかって州知事にも違反切符をきった伝説を持つ男。しかし家族の問題に悩み射撃はまるで下手くそ、人並み外れたサバイバル能力もなく組織の中では上司に恵まれずむしろ冷遇されている。それでも大事件を解決していく姿がよいのだがちょっとずるいのは本当に危ない時には超人的な相棒が現れて主に暴力面の手助けをしてくれるところで...。本作はシリーズのスピンオフという位置づけでこの相棒が主人公。超人的な能力を持ちながら山奥で隠遁生活を送っており謎の組織に命を狙われているらしいこの男に遂に謎の組織が本格的に攻撃をかけてきて、という話。男を取り巻く謎が一気に解消されるカタルシスと見事なアクションシーンが素晴らしく面白い作品でした。

21日前

凶犬の眼

映画化もされて非常に話題になった前作が面白かったので続編のこれも読んでみました。 前作で型破りなマル暴刑事の相棒を務めた結果、山奥の駐在所に左遷された若手警官が主人公。その頃、日本最大の暴力団が分裂抗争しており一方の組織の組長が暗殺される、というまんま山口組と一和会の抗争のような事件があり、主人公がくすぶっている山奥の工事現場にいわくありげな男が流れてきて、という話。もっとも男の正体はすぐに判明してしまうので謎解きというよりもこの状態がどういう展開になりどのような結末になるのか、という興味で読ませるタイプのミステリ。暴力団と警察の一線を超えてしまった結果、無惨な最期を迎えた先輩刑事から主人公は何を学びどう行動するのか…という意味でも登場人物の関係性を押さえる意味でも前作から順に読まれることをお薦めします。少し暴力団を美化し過ぎでは、と思わなくも無いですが作品としては非常に面白かった。

29日前

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鯖

62歳無職、住所不定の作者のデビュー作、しかもこの装丁にこのタイトル、ということでかなりの期待と共に手に立ってみた。 本当にそんなものがあるのかは知らないが紀州には固定した港を持たず全国を渡り歩く一本釣り漁師の一団がいてその末裔というか成れの果ての一団が主人公。海の雑賀衆と言われた漁師弾も今ではトラウマや異常性を抱えた5人だけとなり日本海の無人島の小屋に雑魚寝、その日暮らしでなんとか生きている。彼らの作るヘシコの存在に目をつけたIT長者とそのビジネスパートナーの中国人女性が彼らへの投資とアジア市場への展開を申し出たことから生活が一変し…という話。正直なところ作者の背景とタイトルなどから中上健次のような重厚な作品と思い込んでいたので生臭く現代的な展開は意外だった。どちらかというと桐野夏生的な作風かな。嫌いとかダメとかではなく勝手な期待と違っていたので個人的にはダメだったけどよく出来た作品だとは思います。

約1か月前

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承久の乱 日本史のターニングポイント

サブタイトルの「日本史のターニングポイント」というコピーに興味を惹かれたので。正直言うとかなり地味な乱という印象で世間知らずの朝廷が源氏の断絶に調子にのって兵を挙げたらあっけなく潰されました、的な記憶しかなかったので何がターニングポイントなのかと。まずは鎌倉幕府とは何か、という定義で元々は東国の武士たちの互助会のようなもので自分たちの権益だけ守れたら良く国全体をどうこうしようという意志はなかった、という説明があり、故に別に頭目は源氏の正統でなくてもよく実力者が務めればよいという構造だったので得体の知れない豪族だった北条氏が権力を握ったのだということが分かる。しかし権力を握るまでの時政、義時親子の日本史でも稀に見る陰険さが凄まじい。そして乱を起こした後鳥羽上皇が経済力でも武力でも当時においては日本一であったということが説明される。つまり時勢の読めていない貴族が起こした乱ではなくじゅうぶんに勝ち目があると踏んだ権力闘争であった、ということで結果として朝廷側が敗北したのはなぜか、その結果はどういうことになったか、という内容です。小説ではなく感情を廃して簡潔にまとめられてるので読み易く非常に面白かったです。

約1か月前

無敗の王者 評伝ロッキー・マルシアノ

名前だけはなんとなく知っていたヘビー級チャンピオンの生涯をジャーナリストが綿密に調査しまとめ上げた評伝。1947から1955にかけてプロボクサーとして活動する中で49戦無敗という未だ破られていない偉大な記録を持つボクサーは名前で分かる通りイタリア系移民としてマサチューセッツの工業地帯の産まれ。ボクシングをまともに始めたのは兵役に就いていた24の時、ということに驚かされた。180cm、85Kg前後という現在ならクルーザー級で当時としてもあまり恵まれていない体格、しかも足も遅く到底プロボクサーとして大成しないと誰もが思っていた男は凄まじい破壊力を持った右フックと打たれ強さを持っていた。ボクシングというスポーツは本来は相手のパンチを巧くかわし、適度に有効打を入れれば勝てるはずなのだがそれでは人気が出ず、足を止めての殴り合いが好まれる。いかに巧くても人気が出なければ良い対戦が組まれず上位も狙えない。その意味ではまさにこのスポーツにうってつけの素質を持っていたことが分かる。作者はジャーナリストらしくかなり綿密な調査を行なって偉大なチャンピオンの人生とそれを取り巻く人たちを丹念に描いている。ただの礼賛本ではなく暗い側面のこともあからさまににしており迫力があった。チャンピオンと母親の関係など泣かせる要素もふんだんにあって今のところ本年読んだ中では最高の作品だった。非常に面白かった。

約2か月前

FACTFULNESS10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣

ビル・ゲイツが2018年に大学を卒業した学生の希望者全員にこの本を配ったというエピソードを聞いて興味を引かれたので(それにしても同じ成功者でも日本の成金とこうまでお金の使い方が違うものか...。)手にとってみた。筆者はお医者さんで途上国の公衆衛生の改善に貢献してきた経歴の持ち主で、その経験を通じて思い込んでいた「事実」と実態の間には乖離があることに気がつき、データに基づいて正確に世界を把握することの重要性を世界に知らしめることを自分の使命として活動された方。「いくらかでも電気が使える人は、世界にどのくらいいる?」みたいな設問と三択の回答形式のクイズがいくつかあってほとんどの人が高得点が取れない、それはなぜか、みたいな説明があって事実を踏まえて世界を把握するコツみたいな説明がなされる形式。自身の死期を悟っていたからか自分の失敗も反省もさらけ出していて迫力がある。個人的にビジネス書が苦手でちょっとそれっぽい雰囲気のところは苦手でしたがそれにも増して重要な内容の作品だと感じました。

約2か月前

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ブルーバード、ブルーバード

実は全くの勘違いから手にとった(昔すごく好きだったグレッグ・ルッカという作家の久々の新作だと思っていた...。なぜ間違えたのか…と思って調べたらルッカの作品の主人公がこの作者の名前に似ていたのだ。読みはじめてしばらくわからずずいぶん作風変わったなと思っていた。)のだけど...アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長篇賞、英国推理作家協会スティール・ダガー賞、アンソニー賞最優秀長篇賞の三冠を取った作品は伊達では無かった。主人公はテキサス・レンジャーの黒人捜査官。身内の犯罪に巻き込まれて休職中のところを旧友のFBI捜査官に頼まれてテキサスの田舎町で相次いで起きた殺人の周辺捜査に加わる。一件はシカゴから来た黒人弁護士の殺人、もう一件は田舎町のバーの白人ウエイトレスの殺人。テキサスの田舎町の黒人女性が営むカフェと貧乏白人のたまり場のようなバーの二箇所を中心として人種の対立や主人公と田舎町の人々、それぞれの過去やしがらみが徐々に暴かれていく。ミステリとしての謎解きも素晴らしいのだけどむせ返るような湿気というかアメリカ南部の雰囲気、そしてタイトルもジョン・リー・フッカーの曲から取られているのだが全場面に低く静かに流れているようなブルースの感触が素晴らしい。本国では続編も出てるみたいでそれも楽しみ。面白かった。

2か月前

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昭和解体 国鉄分割・民営化30年目の真実

平成元年に社会人になった自分は身近に私鉄しかなかったこともあって国鉄の解体もどこか他人事だったような気がする。いつの間にかJRが当たり前になっていてそれ以前の存在感が希薄というか。国鉄という巨大な組織が何故に巨額な負債を抱えることになってしまったのか、また学生運動があれだけ激しかった時代、当然のことながら労働者の権利の主張がここまで激しいものであったのか、ということを恥ずかしながら初めて知ったような気がする。血の通ったルポルタージュとはこういう作品のことを言うのか、政治の動きはさらっと描かれているのだが労働運動と経営側の動きが丁寧にかつ迫力をもって描かれており大部の作品ではあるが引き込まれてしまい一気に読んでしまった。ストが当たり前のように行われていた時代、その現場はこのようになっていたのかという驚き、そして国鉄という組織を守ろうという人たち、変えようという人たち、そこで働く人々の権利を守ろうとうする人たち、立場は違えど各々の人が持っていた熱量に圧倒されてしまう。これはすごい作品。実に面白かった。

12日前

世界のすごいお葬式

最初に申し上げておくとどんな変わったことしてるんだろう、という興味本位でこの本を手に取ると肩透かしを食らわされます。現に私はかなり食らわされました(笑) タイトルどおり世界のいろんなお葬式〜取り上げられている葬儀はアメリカ、コロラドの野外火葬、インドネシアはトラジャ族の死者との関係、メキシコの骸骨のお祭り、アメリカの死体の肥料化の研究、スペインの近代的な葬儀社、日本のハイテク寺院、ボリビアの頭蓋骨信仰〜をアメリカで葬儀社を営む女性が見て回った記ではあるのだけど死者とどう向き合うのか、に力点が置かれていて風習面への言及は少ない印象。出版社も商売なんだからしょうがない部分はあるけどこういう邦題にはかなり問題があるように思う。ヨーロッパの大都市圏では既に墓地が不足していて墓石はレンタル制、ある程度の年数が経ったら遺体は納骨堂に移される、という話が個人的には一番印象に残った。少子化が進んでいく今の世の中、葬儀や墓をどうするか、は真面目に考えなければいけないテーマだと思った。

21日前

悪しき狼

邦訳が出ると必ず読むシリーズの一つであるドイツの警察ミステリ。 貴族階級出身の刑事とその相棒の女性警官が主人公という設定だけ見るとスタイリッシュな作風かと思われるのだがナチスや環境問題などのテーマに挑んでおり毎作けっこう重厚な内容になっているところが特徴。 凄まじい虐待を受けた跡のある少女の死体を巡る捜査と、以前はドイツでも有数の刑事弁護士で羽振りの良かった男の落ちぶれた生活、扇情的な報道番組で敵の多い美貌のジャーナリストが暴行された事件、の大雑把に三つの話が並行して進み…やがてそれが収斂して、という形式。主人公達や各々のストーリーの登場人物の人間模様も丹念に描きながら醜く凶悪な事件の真相が暴かれる結末に見事にまとめ上げている。ディーバーばりのどんでん返しも盛り込みつつのそれはかなりの芸当だなと感心しました。素晴らしかった。 作品と関係無いのだが…旦那さんがソーセージ職人で旦那の店の片隅に自主出版で置いていた小説が評判になってデビューした、というこの作家のエピソードがけっこう好きだ。

29日前

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ポイント・オメガ

アメリカではかなりの大物作家のうちの一人だが日本では全く売れてないこの作者。こう書くと自分はいろいろ読み込んでいるのかと言われるかも知れないがこれで邦訳読むのはたぶん三作目。短編か中編くらいの長さの本作。構成は大きく分けて二つ。ヒッチコックのサイコをゆっくり再生するインスタレーション(MoMAで本当に展示されているらしい)をひたすら見続ける男、もう一つはアメリカのイラク侵攻に関わったのち砂漠に隠遁した学者と彼のドキュメンタリーを撮りに来た男達。後者はそこに学者の娘が現れそしてある日突然忽然と行方不明になってしまう。イラクの大量殺人に関わりそれには罪の意識がないものの自分の娘の失踪には激しく動揺する学者。しかしながらそれとインスタレーションの関連が自分には最後まで分からなかった。学者のストーリーもいまいち説明不足というか…タイトルはイエズス会の神学者の説から取っているらしい、とかとか、一見軽く読めてしまうのだがちゃんと読もうとすると難解かも知れない。そういうところが日本ではウケない理由かも、とか思ったりしました。

約1か月前

拳銃使いの娘

どの賞がどうとかは言わないけど日本と違って欧米の文学賞にはハズレがない。それはたぶん出版社お手盛りじゃないからだと思うんだが、というわけでこの肩書きを見かけると必ず手に取るアメリカ探偵作家クラブ賞で最優秀新人賞を取った作品。作者は元々テレビの人それもかなりの売れっ子らしくこの作品もそれだからかスピーディーな展開が見事。主人公はどちらかというと物静かなスクールカーストでは下位の地味な女の子。ある日、刑務所から出てきた父親が学校に迎えに来たことからその生活が一変する。刑務所で白人ギャングの首領から妻子共に死刑宣告が出されたことを知り、しかも元妻が既に殺されていたことから娘を守りに来た父親。結局、父親と二人で逃避行をするうちに…という話。語り手をスピーディーに切り換えながら進むストーリーがスリルに富んでいる上に主人公の変化の描写も素晴らしい。作者はレオンや子連れ狼のような子供が出てくるサスペンスが書きたかったそうでそれは素晴らしく成功している。面白かった。

約1か月前

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解剖医ジョン・ハンターの数奇な生涯

いやはや凄い人がいたもんだ、というのが率直な感想。医学がまだおまじないとどっこいどっこい、むしろ体に悪い~体液のバランスを直すと言って病人の血を抜いたりかん腸したり、悪いところはちょん切っちゃうだけ~の18世紀にあって人体や生物の構造を正しく理解し本当の治療を行うためには何が有効なのか、をひたむきに追求した男の生涯。人体のことを詳しく知るために数限りない解剖を行う。そのために墓泥防と結託して違法に死体を入手したり動物実験で生体解剖を行ったり...と負の側面はもちろんあるのだけどそれらを差し引いても医学の発展に尽くした主人公が今ひとつ世に知られていないのは粗野な物言いが嫌われたり、嫉妬されたために業績を消されたりネガティブ・キャンペーンを張られたりした結果だという。あとは弟子のジェンナーが成し遂げた「天然痘撲滅」みたいな大向こうを唸らせる発見がなかったからかな、とも思う。しかし人間のみならず動物や昆虫も解剖し生物は複雑さの差はあるものの基本的な構造は同じ、ということを発見し進化論の先駆けとなるような思想に行き着いたりアダムとイブは黒人であったに違いない(故に神も黒人だったはず)という人類発祥の学説にまで行き着いたり、と明らかに時代の先端を行き過ぎた感がある。また、妬みと嫉妬で結果として矮小な人間と歴史に名を残した人達の哀れさは...他山の石とすべきかな。非常に面白い作品でした。

約1か月前

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毒ガス開発の父ハーバー : 愛国心を裏切られた科学者

第一次大戦でドイツ軍が毒ガス攻撃を行ったことはよく知られているがその開発の指揮をとったのがユダヤ人の科学者だったという皮肉に興味を惹かれて手にとってみた。冒頭から日本の函館が舞台となり驚かされたが科学者の叔父は外交官として開国間もない日本に赴任し通り魔的に不平士族に斬られて日本で亡くなっていたのだという。大気からアンモニアを取り出す技術を開発し後にノーベル賞を受賞した科学者の生涯がまさにドイツという国の興亡を象徴していることに驚かされる。元々、宗教に寛容なプロイセンがドイツを統一するとともにユダヤ人たちも国家建設及び経済的に社会進出を果たし、豊かな商人の息子も科学者となる。国家としての統一が遅れたため帝国主義的に出遅れたドイツが科学技術により国力を増大していく中でユダヤ商人の息子も優れた科学者としての能力でのし上がっていく。そして国を挙げての戦争に於いて原爆を開発した人たちと同じ理屈で人道的な兵器としての毒ガス開発に手を染める。祖国の敗戦による混乱、自身の戦犯指定も切り抜けノーベル賞も受賞した科学者だがナチスによって国を追われてしまう。ドイツの興亡と波乱に満ちた科学者の生涯が分かりやすく描かれておりかなり良い作品でした。面白かった。

約2か月前

東西ベルリン動物園大戦争

これは東西に分割されたドイツの中でさらに特殊な環境にあったベルリンという街だからこその話かもしれない。第二次大戦前から威容を誇ったベルリン動物園もイギリス空軍の爆撃を受け大きな被害を受ける。ナチ党員でゲーリングの友人という園長が赤軍を前に逃亡、当時珍しかった女性の動物学者で一職員が瀕死の夫を抱えながら赤軍に暴行までされてもなんとか残った動物たちを守り抜く。戦後に園長となった彼女は西側に残された動物園を園内でオクトーバフェストを開催して予算を補ったりしながら必死で立て直していく。娯楽の少ない時代、動物園の人気は絶大で一方の東側も「動物園に行く」という名目で西ベルリンに行く国民たちをよく思っていなかったこともあって新たに自領に広大な動物園を作る。タイトルからしてこの東西ベルリンの動物園同士が冷戦の代理戦争をしていたかのような印象なのだけど...直接の争いみたいな話はあまりなく動物園を取り巻く人間たちのエピソード集、といった印象。ドイツ最古の動物園である西側とそれに対抗するために作られた東側、ベルリンのそれぞれの動物園長同士は仲が悪く交流も無かったようなのだけど他の東西ドイツの動物園同士はけっこう交流があったということが意外だった。ベルリンの壁が崩れて動物園同士の競争を世界の変化が追い越していってしまう結末も感慨深い。非常に面白い作品もでした。

約2か月前

サピエンス全史 上下合本版 文明の構造と人類の幸福

これはベストセラーになるのも分かる。タイトルでお恥ずかしながらピンときてなかったのですがサピエンスとはホモ・サピエンスのことで我々が他の似たような動物達と違ってどのようにして今のような繁栄に至ったのか、を書いているいわゆる「通史」になるのかな。表現が分かりやすく例えや引用も適切で非常に面白い。農業革命に対する独特な見方とか宗教の役割、ずっと辺境で目立つことのなかった西欧が何故覇権を得るに至ったのか、などなどよくもこれだけ広範囲の知識を分かりやすく説明できるものだと感心しました。作者曰く現代は人類が革命的に発展するかもしれない段階に来ているらしくその将来展望はいかに…ということで次作も思わず買ってしまった(笑) こういう作品って往々にして分かりやすすぎるが故に作者の意見を丸呑みしてしまう危険があると思っていて多少懐疑的な目で読んだつもりなのだけどおかしいところとか破綻してるロジックが見受けられず素晴らしかった。次作を読むのが今から楽しみ。

2か月前

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