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たばただいすけ

9

コメントした本

星屑から生まれた世界 進化と元素をめぐる生命38億年史

周期表に並んだ元素の性質を繙くことで、生物進化の必然性を解き明かしていく知的スリルに満ちた本……なんだけど、その豊かな(はずの)内容に反して、読み物としての出来栄えには疑問が残る。 原文のせいなのか訳がまずいからなのか知らないが(たぶん両方だろう)、章単位で「謎解き」していく本題部分と、折に触れ読者に身近な生活世界との接点を感じさせるための余談部分が、まるっきり等価みたいな書きぶりなのである。それもあまり親切とは言えない、ぶっきらぼうで短めのパラグラフをズラズラと並べていく文体なので、よほど科学リテラシーがしっかりしてないと、議論の勘所を正確に追い続けるのは難しいのではなかろうか。 ミクロで小難しい内容の話をするとき、読者の興味を引き続けるために、身近でイメージしやすい余談を散りばめるというのはもちろん正攻法の一つだ。元素の性質を説いて生命現象を解いていくというのは、間違いなくミクロで小難しい話だから、この手法を取るのは妥当ではある。しかし、本題との分量の配分や、語りのトーンの差、あるいは余談そのものの流れ、といった工夫をつけ損なうと、視線があちこちに飛んでいくばかりで、本題がなかなか前に進まない、という印象を読者に与えてしまう。 この本を読んでると、本題を理解するために使うべきワーキングメモリーが、次々と襲いかかる余談のせいでズタズタにされてケアもされない、という経験を味わうことになる。本題の内容はもちろん、余談の一つ一つも結構面白いんだけど、これではうまく集中できないし、なんとか読み続けても断片的なトリビアが流れていくばかりで、肝心の「解き明かす」楽しみにたどり着けないと思う。もしこの本を初見で楽しめるとしたら、大学の教科書(それも洋物の)で既に学んだ経験があって、余談と本題を常に正確に見分け続けられる人だけ……という出来になっているのではないか。 ポップな見た目から言って、中高生から大学初年程度の知識の人に読んでもらいたそうなのだが、その割にはちょっと敷居が高めで、結構ハードな読書になるんじゃないかという気がする。時間をかけてじっくり取り組みたい人にはおすすめです。(読解の苦労込みで)生涯忘れられない一冊になるポテンシャルはある。

10か月前

文房具を買いに

片岡義男さんの2003年の写真文集で、書名にある通り全編文房具の話。2010年の文庫版。 だいたいにおいて私は「日本の文房具は世界一ィィィィイ!!!」みたいなことを思いながら日々もそもそと暮らしているのだけど、この本に収められている洋物文具の写真の質実剛健的な美しさは認めないわけにはいかない。というかむしろくやしい。実際に手に取ると、罫線が揃ってないとかキャップの密閉性が甘いとか裁断と糊付けが汚いとかいった細かい造りで不満が起こってしまうのだけど、佇まいに漂う余裕のある風格にはひたすら圧倒される。ある程度セクシーな姿で棚に並んでないと生き残れないんだろうなと思う。 ブツ撮りの意図や露光条件についても細かく説明していたり、カードやリーガル・パッドの説明の中で、執筆過程や文明論的な話題にまでふっと移行するのもこの本の妙味である。文具エッセイの名著として読み継がれるべき作品。

約3年前

世界の辺境とハードボイルド室町時代

当代きっての辺境ノンフィクション作家と日本中世史の研究者による、知的好奇心がうなりを上げて迸る対談本。異種格闘技戦にありがちな雑学の並べ合いみたいなところに収まらず、互いの持ち出す生き生きとしたエピソードが新しい参照点となって考察を深め、知見が広がり、輝きが何倍にも増す瞬間が幾度も訪れるとんでもない本。グルタミン酸とイノシン酸くらい相乗効果でてる。必読。

約3年前

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電車道

とにかく読んでいる間はずっと面白い、密度の濃い小説。登場人物に固有名詞はなく、会話も最小限で、かといって土地を主人公にした歴史小説と言えるほど土地の変化に密着しておらず、あくまで人物に訪れる感情が、それもただ感情が豊かに描かれているのではなく、テキストが触媒となって読み手から引き出される感情が、ほとんどなんでも書けるんじゃないかという多様な舞台で広げられていく。

約3年前

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見てしまう人びと:幻覚の脳科学

幻覚とは、原因となる外的現実が伴わずに起こる確かな知覚のこと。本書は幻覚の医学的な原因による分類、または感覚の種類による分類によって整理された、15の章からなる幻覚体験のアンソロジーとなっている。分類といっても章ごとに内容がぱっきり分かれているわけではなく、緩やかに構造化されたエピソード集といった趣で、その内容は著者と面談した患者たちの証言から、著者自身の薬物体験まで多岐にわたる。各挿話、つまり幻覚体験の記述の長さはせいぜい2-3枚といったところだが、どれも描写がシャープで面白く、「これってあの映画のあのシーンみたいだな…」と具体的に連想してしまうところもある(ミニチュアサイズの軍隊が目の前で争ってるとか)。そんな感じで短い話を次々と追っているうちに、確かな専門知識に基づいた、幻覚の研究史や人間の知覚に関する洞察といったものを読むことにいつの間にか慣らされている。恐ろしく手際の良い本だ。

3年前

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世界をつくった6つの革命の物語 新・人類進化史

「ロングズーム」「ハチドリ効果」「隣接可能領域」という概念を駆使して、一つ一つはささやかな発明・発見群が、長い時間をまたいだ意外かつ確かな相互影響によって思わぬ形で世界を変えていく様子を活写した本。 大変面白いエピソードの詰まった、読みでのある作品……なんだけど、「超純水が体に悪い」という有名なデマ(というか都市伝説の類)を、冗談ともとりにくい筆致で書いていて、こりゃもしかして他のとこでもあやしい理解に基づいた記述があるのかな、と不安になった。そういうのを割り引いて、要検証かもしれないけどただ楽しみのために読める、という人にはおすすめです。面白かった。

10か月前

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彼らと愉快に過ごす―僕の好きな道具について

片岡義男さんの1987年の写真文集。「あとがき」によると、「BE-PAL」誌に2年にわたって連載された「僕の好きな道具たち」という記事が元になっていているものの、単行本化にあたり取り上げる品物から全体的に見直されてこの形になっているとのこと。なにしろトップバッターからしてタイプライターなので、掲載誌から想像されるアウトドア的な雰囲気は部分的だ。あくまでも身の回りの道具たちになっている。実用的でありながら美しい写真がたくさん載っていて眼福だし、文章もそれと同じくらい実用的でありながら美しい。 カバーを外すと、本体の表紙が麦藁で編んだような生地に覆われていて、書名はミント色のシールで貼られているというものすごい装丁になっている。南の島の土産物みたいだ。

約3年前

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哲学散歩

木田元先生最晩年の読書エッセイ集、ということになるのだろうか。哲学者にまつわる思考を興味の赴くままに綴ったコラムの集成なんだけど、古代から現代(というかもちろんハイデガー)に至るゆるやかな時間軸が名入門書「反哲学史」、「反哲学入門」と同じテンポで進行していて、エピソードベースの副読本として楽しめる。個人的には「薔薇の名前」の話とかペルガモン王エウメネス二世の話とかカッシーラーの話が聞けて良かった。

約3年前

オルフェオ

リチャード・パワーズの長編第十一番である本作は、「われらが歌う時」以来の音楽小説だ。「黄金虫変奏曲」や「われらが歌う時」に比べると小ぶりにまとまっているが、ここぞというところで発揮される、自分の耳で聴くよりも細部が聞こえてくるんじゃないかと思ってしまうほどの緻密な音楽描写は健在である。パワーズとしては珍しく、一人の視点人物に物語を集約させており、決して読みやすいとはいえない多彩な情報を詰め込んだ文章にもかかわらず、読者を引き込んで(やがて巻き込んで)離さないドライヴ感が生まれている。「キャラ立ち」的な観点から言えば、最高点をマークしてるんじゃないかと思う。一見ダメな世捨て人タイプだけどよく見ると見どころがあって、実はとんでもない奴なんだ。ピーターは。

3年前

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