冨原眞弓の本

誠実な詐欺師

誠実な詐欺師 トーベ・ヤンソン

ムーミンではない、トーベ・ヤンソンの傑作長編小説。 どうしてもムーミンの作家というイメージが強い「トーベ・ヤンソン」ですが、その後10作程度の作品を残しています。この「誠実な詐欺師」は1982年に発表されました。温和な芸術家のアンナ・アエメリンと無愛想で数字しか信用しないカトリ・クリング、素朴で純真なカトリの弟マッツ。そしてその飼い犬。 話は、生活に追われたカトリが、余裕があるアンナのお金を目当てにその懐に入りこもうとすることから始まっていきます。 「犬と狼と兎をめぐる物語」(文庫解説より) カトリは、儀礼的な振る舞いを全くしません。お世辞も言わなければ、世間話にも付き合いません。自分に対してあくまでも「誠実」に振舞います。頭の良いカトリは、するどく物事をこなし、矛盾を指摘し、利益を生み出します。 そのため、村の人々に一定の信頼は得てはいますが、小さな村社会では、その振る舞いは当然「奇異なもの」として扱われます。しかし、そんな彼女の目的は弟のマッツに大好きなボートを与えてあげること。。 アンナの素朴でマイペースな生活は、カトリの出現によって変化していきます。今まで当然のようにしてきたことが、それが自分の本心からくるものなのか、確信が持てなくなります。 カトリの異常なまでの自分に対する「誠実さ」の前で、自身の振る舞いや言動が嘘っぽく感じられてきてしまいます。カトリの「誠実さ」による支配、それに対する「仕返し」と言っては言い過ぎかもしれませんが、バランスを崩したアンナの気持ちは、「犬」へと向かい、、。 北欧らしい正直さと寂しさ。「理性を持った人間」として、または「動物としての人間」のあり方について考えさせられます。ムーミンではないけれど、これもまた間違いなくトーベ・ヤンソンの世界なのでしょう。

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トーベ・ヤンソン・コレクション 2 誠実な詐欺師

トーベ・ヤンソン・コレクション 2 誠実な詐欺師 トーベ・ヤンソン

もう早、春に近しい今であるが、冬に読む本として毎年とは言わずとも繰り返しこの本を冬に僕は読む。 トーベ・ヤンソンは「ムーミン谷」シリーズで広く知られた作家だが、過去、放映されたアニメと巷にあふれるグッズによりどこか誤解されていることが多い気が僕にはする。彼女は画家であると同時に小説家である。 「ムーミン谷」シリーズはもちろん素晴らしい。が、このトーベ・ヤンソンコレクションシリーズを僕は推したい。 そしてその中でも特にこの『誠実な詐欺師』は怖ろしくも秀逸な一作だ。 カトリとアンナ、マッツと名もなき犬、彼らが過ごした一冬の共同生活。その中で起こる各々の変化は劇的であり、何とも心を乱される。が、同時に、それらは冬の深い雪に音を吸われたかのように、静かであり、乱された心を冷やし均す。 また、いつかの冬、この本を僕は読むだろう。