川上未映子の本

夏物語

夏物語 川上未映子

女性性の物語。 どのように生きるかを真剣に、まっすぐ考えさせる。 貧困の世代間連鎖、孤独感、死と出産。 『乳と卵』に重厚さが増し、再び厭な予感、救いのない円環をぐるぐる回っているような感覚に陥る。 『乳と卵』で感じた女性特有の血の匂いは少しだけ鳴りを潜め、代わりに時間の経過や「老い」が重くのしかかる。 貧困地域に住んでいた親世代の人たちは体も衰え、もともとなかった余裕が損なわれてゆく。 そして、そんな親世代に囲まれ、孤独に生まれて生きてきた彼女たちは将来誰かを愛せるのだろうか、と重たい気分になる。 P.190『「たとえば、言葉って、通じますよね。でも、話しが通じることってじつはなかなかないんです。』 案の定、主人公夏子は「本当に」誰かを愛するという事が難しくなっている。それは、性的なものと愛するということがどう頑張っても結びつかず、アセクシュアル的な傾向をもつ。 P.224『でも、じゃあ、相手のことを本当にわかるって、いったいどういうことなのだ?』 そこで、恋愛を諦め、結婚を諦め、出産を諦める。 しかし、年齢が上がり、ある程度仕事の見通しが立って生活に少しだけ余裕がうまれると自らの孤独に打ちひしがれる。 P.286『わたしから街や人は見えるけども、どこからもわたしは見えないような気がした』 夏子は孤独を感じると、旧い思い出に浸る。どれも暖かくて楽しい良い思い出だが、その全てが、完膚なきまで完璧にみすぼらしく惨めである。 それでも、どんなに惨めでみすぼらしくともこの女性にとっては孤独を癒す大切な思い出なのである。 夏子と対照的に、日本的血縁主義的家族神話に生きた女性が用いられる。 p.347『自分の人生を犠牲にして家を守ってきたという自負と恨みがあるんだと』 男性と男性的社会への痛烈な批判。「なんで女だけが痛いんだ」という叫びは、結婚・出産を経た女性にも等しく孤独を感じさせていることの現れだ。 ここで『乳と卵』を読んだ時のような感覚を思い出し、恐ろしいような、申し訳ないような、おっしゃる通りでおます、とまたぷるぷる震えてしまう。 出産、子育て、女性。 子供を産めるのは女性だけの特権であり、呪い。その特別な権利と痛みは男性には絶対理解できないだろう。 さらに追い討ちをかけるように見せかけの尊敬・理解を示す男性に対して「-知らねえよ」(p.388)と一蹴される。 そうですよね、理解して欲しくもないだろうし、理解してますオーラを出されるの嫌悪、また嫌悪ですよね、これは本当に申し訳なく頭が下がる一方で、下がり続ける頭の先をぷるぷるさせて井戸でも掘って冷たい水を飲んで頂ければご機嫌少しは戻られるでしょうか、いやそんな水くらいでご機嫌とろうという浅はかさこそ愚かなオトコという生き物でして頭で井戸なんてほれませんし、僕ったら本当に申し訳ござりません、とぷるぷるが止まらない。 物語が終盤に差し掛かると、より孤独感を感じるようになる。 誰もがどうやら等しく有しているとされる子供を持つという能力。「自分の子供」という存在に会いたい。この痛切な願いを責めることは誰にもできない。 しかし、そこで反出生主義の女性と出会う事になる。 生まれてきたばっかりに、生まれてこなければよかった、どうしてわたしを生んだのか。 こうした怒りや哀しさは、この本の登場人物たちにとっては当然の感情でもある。むしろ、主人公夏子、巻子、そして緑子も反出生主義に与しても不思議ではない。 それでも、夏子には巻子がいて、緑子がいた。そして思い出の中には母がいて、コミばぁがいて、九ちゃんもいた。完璧にみすぼらしく惨めだが暖かい思い出があった。 夏子にとって、思い出の中の人たちにもう一度会いたいという願いこそ、自分の子供に会いたいという願いの起源だったのではないか。それが、この物語の最後のページの言葉に現れたのではないか。 最後のページでまた再び、ぷるぷる震える。

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ラヴレターズ

ラヴレターズ 川上未映子

西川美和さんの恋文にジンときて、壇蜜さんにはゾクッとさせられ、松尾スズキさんに、ほほうとなった。俵万智さんも素敵。

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〆切本2

〆切本2 森鷗外

作家の〆切と家族との係わりなど、前回とはまた違った切り口で面白かったです。子母澤寛の文章に猿出てくるの、なんかの比喩かと思ったらほんとに猿飼ってた

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みみずくは黄昏に飛びたつ

みみずくは黄昏に飛びたつ 川上未映子

村上春樹=文体というのが、インタビューを通じて、改めて分かる。一方で、女性の描き方とか評論に関する話など明快な回答が出て来ないトピックもある。川上さんが鋭い質問をバシバシした結果、村上春樹の見えなかった部分が浮かぶ。

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GRANTA JAPAN with 早稲田文学 03

GRANTA JAPAN with 早稲田文学 03 オルハン・パムク

「若手作家ベスト11」の中から一編。村田沙耶香『素敵な素材』〜人は死んだら物質になってしまう。だから、温かい生物でいられる時間が愛おしい。本当にそうだろうか?死を忌まわしく思いすぎると、生まで軽んじることになりはしないか?そんなことを考えました。

乳と卵

乳と卵 川上未映子

生々しく、痛々しく、少し血生臭い匂いがしつつも同時に瑞々しい女性性の物語。 巻子の豊胸手術、取り留めのない多弁さ、咳止め薬(ブロン?)依存、ダブルバインデッドなコミュニケーション、母子家庭、大阪。 その巻子の娘である緑子の緘黙、初潮、ナプキン、母親への同一化拒否、空虚感、見捨てられ不安・・・ これら全てが嫌な予感しかしない。 この物語に漂う女性特有の血の匂いに耐えられない男性も多いかもしれない。 この嫌な予感と漂う血の匂いに臆病な男性である私はなんだか怖いような目が回る感じがしてぷるぷる震えながら読んでいた。 思春期特有である(かどうかはわからないけども)どこか身体の成長とこころが足並みを揃えられていない感覚、特に身近な同性である親に同一化を見いだせない場合はより強く、身体という器とこころが別のように感じるのだろう。 それが、この作品の卵だったのかもしれない。 白くて丸みを帯びている様は女性性を現しているようにも見え、殻の中にはどろどろした本体が入っている。 そして卵を有していて産めるのもまた女性だけの特権であり枷、呪いなのかもしれない。 終盤、緑子は大きな声で泣きながら、パックのたまごを自分のからだにぶつけ、どろどろしながら巻子を責める。 巻子も同じように卵を自分にぶつけて応える。 このシーンこそ、緑子が自分の殻を破って緘黙という身体から解放されたことであって、巻子にとっては実の娘に痛めつけられるような出産の追体験だったのではないか。 人は生まれた時、どろどろしている(らしい)し、大きな声で泣く(らしい)。 思春期を迎えてこの母子は再び生まれて子となり、親になったのかもしれない。 この体験で母子は救われたのかもしれない・・。 こんな事を考えると涙がでそうになり、またぷるぷる震えてしまった。

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あこがれ

あこがれ 川上未映子

よかった。子供が大人になる瞬間なんてきっちりした境界線はないけど、子供の感性で世界に相対して、わからなかったり、わかったり、苦しかったり、優しい気持ちになれたり。そういうことの積み重ねで、そういえば私も生きてきたなぁと。誰にでも訪れて、すぎてしまえばなんのこともなく、忘れてしまうことたちだけど、切り取って思い返せば、かけがえのないすばらしい時間だった。もう一回、子供から大人になる時代を生きてみたいなぁ。アルパチーノ。2017.3

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人生が用意するもの

人生が用意するもの 川上未映子

雑誌新聞連載が単行本化されたもの。掲載当時読んでいたらどう感じただろうな、と思う。4章の「ラズノグラーシエごっこ」がすっきり捉えられず悶々…どなたか私に解説を…。

世界クッキー

世界クッキー 川上未映子

私が読んだハードカバーも、絵が違ってましたが栞紐までパステルでポップな装い☆川上さんのパンチある面白さ勢いほんまに大好きです。

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酒呑みに与ふる書

酒呑みに与ふる書 マラルメ

2019/04/06 読了 〜あるいは酒でいっぱいの海〜 松尾芭蕉から夏目漱石。江戸川乱歩に折口信夫。角田光代や村上春樹。内田樹と鷲田清一も。 酒の肴にちょうどいい。ちびちびやりながら楽しく読みました。日本酒の話がもっとあったらもっと良かったのになぁ。 装丁が素敵ですね。 〜すべての酒呑みに捧ぐ〜

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マリーの愛の証明

マリーの愛の証明 川上未映子

“少女たちは歩みつづけた。 自分にしかわからない話をしながら、 それでも誰かとわかりあえることを夢見ながら。” 生きるってそういうことな気がした。 わかったり、わからなかったりしながらただ進むこと。大人になっても減らないわからないことの多さに、滅入りながら。 2018.9

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きみは赤ちゃん

きみは赤ちゃん 川上未映子

妊娠5ヶ月で読んだ。 身体の変化の描写が可笑しくてゲラゲラと笑ったり、数々の痛みや圧倒的な限界感が苦しかったり。でも最後には、出産・育児に前向きになれる、乗り越えたいって思わせる輝きで溢れたエッセイ。 「たのしいこと、いっぱいあるよ!」 しんどくなった時に寄り添ってくれる存在を見つけられて良かった。 2018.12

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シャンデリア

シャンデリア 川上未映子

ひやひやしながら読むことで正常だと思った自分を未来の自分が羨んでいるような気持ちのする本。 2018.9

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おめかしの引力

おめかしの引力 川上未映子

川上未映子さんはいわゆる"女の子が好きそうなもの"の観察眼がすごい。恐らくご本人もすごくお洒落とかおめかしが好きで、楽しんでらっしゃるからなんだと思う。 こういうジャンルは「女」が前面に出されるけど、その描写は「女だから」できる訳ではなくて、ただ"自分のテンションが上がる大切なもの"を表現してるだけなんだという、ある種の力強さも感じた。

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たましいのふたりごと

たましいのふたりごと 川上未映子

こんなにも言葉に、事象に、正直でいられるのかと、ただただため息のでるような気持ちでひといきに読んだ。こんな言葉の辞書があってもいいなと。また、気の向くままに開きたい。

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わたくし率 イン 歯ー、または世界

わたくし率 イン 歯ー、または世界 川上未映子

実は世の中のテーマとか問題とかなんてものはすでに出尽くしている可能性があって、ひょっとしたら、「何を」語るかよりも「どう」語るかという方か重要なのかもしれない。 デカルトが、ニーチェが、サルトルが、というように知識人アイコンを参照する言論自体が擦り切れてしまっていて、だから、多くの作家は「古いけど、新しい」かたちで、メタフィジカルに語ってみたり、サブカル風に叙してみたりするのだろう。 川上未映子の『わたくし率イン歯ーまたは世界』も、まったくその、「古いけど、新しい」かたちで「私」について語る。 「奥歯」で考えるとか、失恋して歯を抜くとかそういう仕掛け以上に、川上がいたるところでみせる「ずれ」が魅力的で仕方なかった。 ひとつは視点のずれであって、みているのにみえてないものを言葉にしたときのなんと強いことか。ああ、感覚としてすごくわかる。もうひとつは、文体のずれで、句読点の使い方などはずれすぎ。さらに終わりかたも今流行りの終わり感のない終わり方。 精巧に仕掛けられた乱れのなかで私について考えてしまう。そんな作品か。

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