コメント
|
今年は年間50冊を目標に読書した… |
“小説の神様”と称される志賀直哉の唯一の長編小説。小説家の主人公が自らの出自が運命に投げかける暗い影を乗り越えて精神的に成長していく様を綴る作品。
暗夜行路という題名(題名は出版元がつけたらしい)とあらすじから想像されるような、暗鬱な話がずっと続くという訳ではない。主人公は親との関係は上手くいっていないものの友人や兄弟など周囲の人々に好かれ支えられており、孤独ではない。本人も大概いい加減な所があり、ずっと悩んでいることもないので、そこまで暗くはない。
ただ、前半は進行がゆっくりで、特に事件が起こるでもなくああだこうだと言っている時間が長いので、それを耐えられるかが分かれ目か。大正初期のハイカラでお洒落な東京(銀座・日本橋辺り)の様子が活写されていて、当時の記録として楽しめる。後半は小説全体からするとテンポ良く進む。終盤の情景描写が素晴らしい。
但し、当時はそういうものだったとはいえ、主人公の行動や社会通念が現在とはかけ離れており、現代の感覚からすると、共感出来ない、通用しない部分があることは否めない。それはこの作品だけがそうという訳ではない。