

話題になった本30冊
早いもので、2015年もあと10日あまり。
3月にローンチした本のアプリStandは、この1年で多くの方に利用いただきました。現在、日々数百冊に上るおすすめ本が紹介されています。
夏からはこのブログを開始し、新しい本屋さんや雑誌づくりなども取材してお伝えしています。半年間で、九州から山形まで、全国各地の本の活動13件を取材することができました。
年末は、本のまとめブログが恒例ですが、Standでも、今年紹介された本の中からとくに話題になった本を30冊選んでみました。
文芸・コミック・暮らし・社会の4カテゴリに分け、近刊本の中から、多くの紹介コメントやいいねがついた本を300タイトル選び出し、その中からスタッフが30に絞りました。
多くの本好きに支持された、どれも間違いない2015年の話題本です。
文芸 8冊
記録的な売上と芥川賞受賞の「火花」。若い書き手による海外SFも。
探査ミッションで火星に来たマーク・ワトニーは、まもなく砂嵐で遭難、クルーと別れひとり取り残されてしまう。火星の無人の地で、彼が持つことになったのは、小さな着陸基地の設備とわずかな物資のみ。いまこんな事件があってもおかしくない、臨場感ある新しいSF。著者はアメリカの若いエンジニア、自分のウェブサイトにこの作品を載せてkindleで99¢で売ったところ評判を呼び、出版、映画化も決定している。 |
無職になったデザイナーのクレイは、ペナンブラという老人が24時間運営する謎めいた書店で働くことになる。ほとんど売上のないその店には、奥の部屋があり、カルトめいた常連客が本を借りに通っていた。やがてクレイは、グーグルに勤める彼女のキャットと共に、古い結社の秘密に巻き込まれていく。暗号・3Dモデル・クラウドコンピューティングなど、デジタル技術をふんだんに使ったミステリ物語。 |
「面白さ」を追求する若手芸人の暮らしを描く。芸人として下積みする主人公が、センス抜群だが人付き合いができない先輩と出会い、やがて親しくなる。吉祥寺の居酒屋や喫茶店で、芸についての生々しいやりとりが交わされる。芸人としても活躍する著者は、今作で芥川賞を受賞。掲載誌の文学界は前例のない増刷となり話題となった。 |
表題作がヒューゴー賞・ネビュラ賞・世界幻想文学大賞の三冠となり、いま注目の新鋭SF作家。生まれは中国で、11歳より米国に移住し、プログラマと弁護士を経て2009年頃から作品を活発に発表している。日本では初めての短編集。折り紙と中華移民の家族についての「紙の動物園」、星間避難船の船外活動を囲碁と俳句のイメージに重ねた「もののあはれ」など、東洋文化を自在に取り入れた作風が特徴。 |
泣けると話題になった高校生男女の恋愛小説。人づきあいが苦手で孤立癖のある主人公は、ある日偶然クラスの女子のノートを読んでしまう。そこには治らない膵臓の病気を抱える、秘密の独白が書かれていた。秘密を通じて二人は親しくなっていく。小説投稿サイト「小説家になろう」に発表され、書籍化後20万部を超えるヒットに。 |
貧しい農家に生まれた男が、大学で文学に引きつけられ、英文学の教授となる。結婚と新しい家庭、学内の権力争いと教職の楽しみが、静かに語られる。特別なところのないひとりの教師の人生を書いた物語。半世紀前に出版されたが、2006年の再版を機にイアン・マキューアンら複数の作家・書評家に支持されてリバイバルし、各地で翻訳が出版されることになった。 |
ナイルパーチはアフリカ産の淡水魚、食用として人気だが生態系を破壊するほど獰猛な魚でもある。その輸入を企画する栄利子は、美人で高収入な商社のキャリア職だが、コンビニ店員を夫に持つゆるい主婦ブログを愛読している。その書き手、翔子と偶然知り合ってから、ずっといなかった女友達ができたことに感動するが、やがてそれはストーカーのような相手への執着に変わっていく。女同士なだけに容赦ない愛憎の狂気。 |
日本では初めて紹介されるというノルウェイのベテラン作家、訳者は村上春樹。家庭と仕事を捨てて小さな町で暮らし始めるひとりの男の暮らしが、静かに描かれる。社会人劇団で女優をしている愛人がいて、彼も劇団活動にのめりこむものの、その熱もやがて冷め、彼女とも別れてしまう。特に起伏もないまま屈折していく男の人生は、やがて漠然とした不安を帯びていく。独特な語り口の作家。 |
コミック 8冊
現代「まんが道」の「かくかくしかじか」が完結。コミックは候補多数でした。
ドラゴンも焼けば美味い、ダンジョンを旅する冒険者たちの迷宮料理マンガ。ゲームや小説でおなじみの、騎士・魔法使い・盗賊・ドワーフのパーティーが、モンスターを倒しては食材として料理しながら旅を続ける。マンドレイクのオムレツ、歩き茸の水炊き、人食い植物のタルトなど、凝ったレシピが不思議とリアル。先日発表の「このマンガがすごい」で1位に。 |
東村アキコ、美大受験を控えた高校時代からはじまる自伝マンガ。友人に教えられて行った、海の側の一軒家の絵画教室には、ジャージを着て竹刀を持った強面の先生がいて、老人から子どもまで生徒の絵を叱ってキレまくっていた。恩師となる先生と、美大を経てマンガ家を目指す主人公の物語。マンガ大賞、文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞。 |
スープカレー屋のホールに立つミナレは、さばさばした性格で親しまれる人気店員。ローカルラジオ局のプロデューサー麻藤にその声を見込まれ、強引にスタジオで放送を任される。失恋と店の解雇が重なり、荷物ひとつで転がり込むようにラジオ局で仕事をすることに。特徴的なカレー屋とラジオ局スタッフとのやりとりも楽しい。 |
14歳の逢沢りくは、おしゃれな父親と完璧主義の母親を持ち、モデルのような「オーラを持つ」と同級生に評される中学生。特技は嘘泣き。家庭のいざこざから関西の大家族の親戚に預けられるが、完全に周囲から浮いてしまい、おかしな災難が次々と降りかかる。手塚治虫文化賞マンガ大賞受賞。著者はネットで連載された「きょうの猫村さん」も人気。 |
高校生の男女が主人公の、ややシュールで和む夏休みミステリ。男は書道教室の家に生まれ絵が上手い門司くん、女は水泳部のエースながらアニメマニアの朔田さん。門司くんには性転換して女になったお兄さんがいて、古本屋の二階で探偵業をしている。三人が失踪状態の朔田さんの父親の行方を調べていると、新興宗教の教団で教祖をしていることが判明する。モーニングで連載、上下巻完結。 |
本好きなら思わずにやりとしてしまう、名作文学をネタにしたかけあいが楽しいギャグ漫画。バーナード嬢こと町田さわ子は、読書家っぽいポーズにこだわる女子高生。つっこみ役の遠藤くん、図書委員の長谷川さん、SFマニアの神林さんが、毎回名作本をめぐって薀蓄とボケを見せる。作者のおまけノートもあり、読書ガイドとしても利用できる。 |
とんかつ屋の息子アゲ太郎が配達先に行ったクラブで音楽にはまり、DJとなっていく物語。とんかつを揚げながらお客さんもアゲるという、コミカルな設定ながら、主人公がクラブ音楽にはまり、レコードの買い方や機材の操作を覚え、クラブでDJデビューする成長過程が描かれている。並行して出てくる実家のとんかつ屋シーンも味わい深い。ジャンプのアプリ「少年ジャンプ+」に連載され人気となり、アニメ化も予定されている。 |
もし、日本が謎の侵略者に襲われたら...。壮絶な戦いのストーリーが始まるのかと思いきや、主人公の女子高生たちの生活は意外と「普通」っぽい、そんな不思議な漫画。繰り広げられるのは、SNSやゲームにハマりつつも受験勉強もちゃんとする、一見平和な日々。一方でそんな日常の終わりを予感させる不穏な雰囲気もあり、サスペンスたっぷりの1-3巻となっている。 |
社会 8冊
「21世紀の資本」は経済書ながらニュースになるほどの売れ行きでした。
パリ経済学校経済学教授トマ・ピケティによる、格差の拡大と収束のメカニズムについての論考。訳者は山形浩生。r > g、資本収益率が産出・所得の成長率を上回るとき、資産をめぐる格差が拡大するという力学が導かれる。論拠となっているのは経済統計で、古くは18世紀まで遡る各国の納税、賃金データを収集し、広い時代・地理背景から富の分配について論じている。世界的なベストセラーとなり、日本でも専門書として例を見ない売上で話題となった。 |
ベン・ホロウィッツはシリコンバレーの著名ベンチャーキャピタル、アンドリーセン・ホロウィッツの共同創業者。AirBnB、Pinterest、GitHub、Twitter、Facebookら名だたる企業に出資している。スタートアップの実例を中心に、調達と資金のショート・幹部社員との交渉・社内政治・引き抜き・教育と面接など、経営者が対処するマネジメントの方法を論じる。 |
中東政治の専門家による、イスラム国の背景を解説した新書。世界各地から戦闘員を集め、人質殺害映像をYoutubeに流し、中東に急速に勢力圏を広げるイスラム国。9.11に続くアメリカの対アルカイダ戦争と不安定な政状の中、組織が生まれて拡大してきた経緯や、イスラム教理をどのように解釈して活動基盤としているかなど、政治・文化の両面から広く分析している。 |
著者が、社会学者としてインタビュー調査を行う中で感じてきた「ストーリーや理論では解釈しきれないもの」について綴った本。路上のギター弾きとの会話、知らない誰かのブログ、たまたま拾った小石などの断片的なエピソードからなる本書は、それらを大きな物語で括らないでも、個々の出来事そのものの尊さを感じさせてくれる。 |
新潮社の「考える人」「新潮」、そしてスマートニュース社の小冊子に掲載した文章をまとめたもの。数学を、学者の身体行為という観点から論じ、民俗的な数の概念、ギリシャ時代のユークリッド「原論」から、様々な数学者を経て、近代のアラン・チューリング、岡潔にわたり述べている。著者は大学に属さず研究を行う傍ら、数学に関する講演を全国各地で行う。 |
ドワンゴの川上量生が、「プロデューサー見習い」として二年間スタジオジブリに通った経験から、クリエイターやコンテンツ、オリジナリティについて考えた新書。アニメーターの仕事の仕方や、まったく性格の異なるニコニコ動画との対比により、表現と創作のメカニズムについて分析している。毎晩仕事の後、仲間と深夜まで映画を観る鈴木敏夫ほか、ジブリスタッフの興味深い仕事風景も。 |
中央線で乗降客の最も少ない西国分寺駅で営まれる、食べログ全国1位のカフェ。そのクルミドコーヒを経営する著者が語る、新しい経済とコミュニティのありかた。大きな経済の枠組みにとらわれず、目に見える範囲で届けたいものを提供する、自分たちの暮らしを守る方法とは。 |
グッドデザインカンパニー代表・水野学によるクリエイティブワーク論。生まれながらの才能に左右される印象がある「センス」を、誰でも習得できる能力であるという視点で考える。様々な知識の集積の仕方を少し変えるだけで、誰もが潜在的に持っているセンスが開拓できると説く。 |
暮らし 6冊
食・海外暮らし・コミュ力などがテーマ。新しい著者が目立ちます。
小学校から食日記をつける著者による、ファミリーレストランから高級レストランまで、さまざまな食をめぐるエッセイ。フルーツサンドのイメージ世界がふくらむ「戦争をはじめるフルーツサンド」、芯がないパスタはあり得ないという「生まれた時からアルデンテ」、ファミレス店員の観察記「ロイヤルホストのホスってホスピタリティのホスですか?」ほか。ブログ風に文章に挟まれた写真も楽しい。 |
思いつきで履歴書を送ったことからパリの国連職員となり、5年半のあいだ勤めることになった著者の回想。中南米を中心にリサーチャーをしていた前職から、ほとんど身ひとつでパリに飛び込んで、国連で働き始める様子が、親しみやすい文章で綴られる。1週間かかる資料のコピーを頼まれたり、国籍ばらばらなスタッフ間のちょっとした文化摩擦など、国際公務員の知られざる日常。 |
カリフォルニア生まれの著者が、大学3年生の時にパリのソルボンヌ大学に留学。そのときのホストファミリーに学んだ、パリのシックな暮らし方について。ファッション、食生活、暮らしの3部に分けて、貴族の家柄というパリの家族の生活の様子を、アメリカの消費生活に対比させて書いている。はじめブログで書かれて人気となり、世界12か国に翻訳されてベストセラーになっている。 |
時間をかけて作品を創作するアーティストたちが、どんな日課を送っていたかをまとめたもの。161人の作家・作曲家・画家の日常がまとめられている。公務員のように規則正しいディケンズ、モデルが音を上げるほど休まなかったマティス、ベッドの中で書いたプルースト、カップ山盛りの砂糖を入れてコーヒーを飲んだキルケゴール。著者はブルックリンのフリーライターで、ブログ「デイリー・ルーティーン」でまとめていた内容の書籍化。 |
日経デザインに連載されていた、無印の新製品開発についての連載の単行本化。新しい製品を次々と生み、ファンを増やし続ける無印の開発サイクル、アドバイザリーボードとして企業文化を舵取りする原研哉・深澤直人・杉本貴志・小池一子のインタビュー、「人をダメにするするソファ」などヒット商品担当者の取材がまとめられているほか、成田空港新ターミナルの空間デザインや、中国成都にオープンした世界旗艦店など新しい試みについても。 |
人気ラジオアナウンサー、吉田尚記によるコミュニケーションのハウツー。自身、コミュ障だったという原点と、ラジオパーソナリティとしての経験から、会話をゲームのように捉え、楽にやりとりを交わすための考え方がまとめられている。話を楽しむための姿勢、やりとりで便利な技術、避けるべき言い方など。ニコ生で8回に渡り放送した内容を書籍化したもの。 |
以上、今年話題になった本30冊でした。
年末年始は、ゆっくり読書できる時期ですね。面白い本を見つけたら、ぜひStandで紹介下さい!