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ローカルだからこそできる出版のカタチ 熊本「伽鹿舎」

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東京と違った視点から送り出す

出版不況といわれる中、各地方ではリトルプレスや、ひとり出版社を立ち上げる動きが多くみられるようになりました。

熊本を拠点に、九州限定の配本を行う出版社として発足された伽鹿舎。

現在までにウェブ文芸誌『片隅』とその書籍版『片隅01』、さらに、ながらく絶版となっていた名作『幸福はどこにある』の復刊を手掛けました。

今回は、そんな伽鹿舎に発足の経緯や刊行作品についてのお話を伺いました。

「熊本の、ひいては九州の人間なら東京と違ってどんなものをセレクトして送り出そうとするのか、そういう切り口で各地に文芸誌や出版社があれば文芸の可能性は更に広がる、と考えました。その最初のひとつとして伽鹿舎がうまくいけば、全国に波及するだろうと思うのです。今は東京にほぼ集中している出版業界ですが、同じことを九州でやったらどう違ってくるのか、それを試すのは面白いと思ったんです。」

伽鹿舎には現在、運営3名と実働3名が参加しています。

運営では、計画の検討、書き手を探す、古書店やカフェなどへの取引の依頼をする、等いくつかの業務を行っています。また実働については、ウェブのデザイン・システム構築、書籍のデザイン等の実作業が主な業務となっています。

そんな業務を行う彼らには書店員や編集・製本などの出版業界での経験は一切なく、また別の本業と両立している、というから驚きです。

Akatsuki/伽鹿舎

「九州の人口はヨーロッパの小国程度あります。また、アジア大陸にもっとも近い場所で、歴史的にも世界への窓口でした。九州を本の島にする、ということが可能なのではないか、と考えたのです。そうなれば、本を読むために、買うために、全国の人が足を運んでくれるようになる。きっと出来ると感じたのです。」

そういった思いからはじまった伽鹿舎の活動。まず初めに、書籍化を念頭においた “プロアマにこだわらず原稿を集める定期更新のWEB文芸誌”『片隅』の製作にとりかかり、昨年のサン・ジョルジュの日(本の日)4月23日に、公開を果たしました。

発足からWEB文芸誌のリリースまでわずか約4ヶ月と短い期間で完成させた実践力からも、本づくりへの熱意が伝わってきます。

作家・坂口恭平さんとの出会い、『片隅01』が生まれるまで

「幸運にも熊本市在住の作家で建築家でアーティストの坂口恭平さんにお目に掛かり『それなら、おれの絵をあげるよ、アフリカの絵が100枚あるんだ。おもしろいでしょ?それを本にして出版しなよ』というお話を頂いたのです。」

坂口恭平さんとの出会いで、一気に書籍の出版が現実味を帯びました。それからすぐに出版のノウハウを学ぶと同時に、まず第一作目をどんな書籍にするのかを考えたそうです。

「伽鹿舎とはどんな存在なのか世の中に知ってもらうために、WEB片隅の発展形としての書籍をまずは出したいと考えました。それが『片隅01』になりました。」

「伽鹿舎をWEBからスタートして出版に持っていく、といっても具体的な事がわかりませんから、懇意の書店員さんに、福岡の一人出版社忘羊社さんを紹介いただきました。福岡のブックイベント『ブックオカ』を立ち上げたお一人でもあります。値段って普通はどうやって決めるのか、ですとか、出版Cコードとはどう選ぶものなのか、なんていう素朴過ぎる疑問に、忘羊社さんはとても気前よくなんでも教えてくれました。そのうち同じく一人で出版社を始められた鉄筆さんとも知り合う機会に恵まれ、お二人にはたくさん応援していただきました。」

こういった経験を通して、書店員さんや出版社の方というのは、ライバル意識より仲間意識が強いのだ、と感じたそう。

いくつかの印刷会社へ見積もりを依頼したところ、その内の藤原印刷さんの応援のおかげで、“印刷代だけは回収できる” 少部数でも出版が可能な道が開けました。

「食べていくほど儲けなくても良いから、少部数でも良いと信じた本を手渡すように作っていく出版社をやれたら素敵だと思ったのですね。非営利での出版活動、というものが、あってもいいと思ったのです。もちろん、良いと信じた本ですから、たくさん売れてたくさんの収益が出れば嬉しいですし、舎のみんなにお金を払うこともできるようになりますし、もっと違う本を出すために使うこともできます。それを目指したいと考えました。」

伽鹿舎の利益を重視しない姿勢には、おもしろい本を世に出したいというスタッフの純粋な思いや印刷会社の支援、懇意にしていた書店員さんたちの後押しがあったようです。

本づくりへのこだわり

「ごちゃごちゃとした理念ですとか、創刊の辞ですとかを入れませんでした。並べた作品そのものが訴えかけるもので、十分にそれは伝わるはずだと、それこそが文芸の持つ力だと信じていたからです。本として、大切にいつまでも手元に置きたいものにしたいと思っていました。」

実際の『片隅01』を手に取ってみると、女性のカバンに入れて持ち歩けるくらいの小さなサイズで、重さもスマートフォンと大差なく作られています。これは、待ち合わせやお昼休み、寝る前などのちょっとした時間でも読みやすいようにとページ数や紙の種類にこだわり設計されているからです。また、その一方で、表紙や挿絵に目を向けてみても、窓辺に飾っておけるような本でもあり、「もの」としての価値への追求も忘れていません。

内容は堅苦しくなく、短い時間で読み終わることのできる短編読み切りを中心に、新人やプロを問わず作品が掲載されています。

「中央の出版社で作品を掲載される、本を出版してもらうということが昨今ではとても難しくなっています。新人賞が一番早道ですが、それでは落選作が全部だめかというと決してそんな事はないと思うのです。そういう作品がもっと世に出て読まれる機会として、WEB片隅から書籍片隅へという流れは役に立てるのではないかと思っています。」

初刊行の反響と新刊『幸福はどこにある』

「発売前から楽しみにしているとたくさんの声をいただきました。発行後も、次も必ず買いますとお声掛けいただいたり、新聞でとりあげたりしていただいています。谷川俊太郎さんの書き下ろしの詩「隅っこ」と、メインに据えた萩原正人さんの書き下ろし小説「ダメアナ」については特に反響が大きく、嬉しく思っているところです。」

12月5日に発売された図書新聞12月12日号では、評論家の岡和田晃さんの連載「世界内戦下の文芸時評」でも「ダメアナ」について言及されているようです。

フランスでは発売直後から大ベストセラーとなり、世界でも100万部以上を売り上げているフランソワ・ルロール著『幸福はどこにある』。

サイモン・ペッグ主演映画『しあわせはどこにある』の原作でもあるこの作品は日本ではNHK出版より刊行されていたましたが、現在は絶版となっています。今回、その復刊・ライブラリー版が伽鹿舎より昨年12月に出版されました。

翻訳は一昨年の本屋大賞翻訳部門1位となった『HhHH プラハ、1942年(ローラン・ビネ著、東京創元社刊)』を訳した高橋啓先生、挿画は福岡市在住の人気画家である田中千智さん。また装丁にもこだわりが見え隠れし、こちらも『片隅01』に負けない飾っておきたくなるつくり。

「今回、映画の原作本ということで、特にKADOKAWAさんにお願いしてブルーレイ・DVDの発売日と発行を同時期にさせていただきました。また配給会社さまのご協力で、映画の中で主人公が描くらくがきを、本のアクセントとして使わせていただいています。映画は英語版ということで、主人公ヘクトールはロンドンっこのヘクターになっていますが、フランス人とイギリス人の違いなども感じられてとても楽しいと思いますので、観て、読んで楽しんでください。」

伽鹿舎

熊本市北区龍田陳内4-20-26-103

gimon@kaji-ka.jp

kaji-ka.jp

スタッフのボランティアに支えられ、小部数での復刊や、書籍の刊行を可能にしています。みなさまの温かいご支援をぜひよろしくお願いします。ご協力いただける方は、m.kaji-ka.jp/donationまで。

この記事を書いたのは

ひなた文庫

日本一長い駅名の駅舎にある古本屋。新入荷の本やおすすめの本を紹介していきます。 www.hinatabunko.jp