池澤あやかナビゲート 19回文化庁メディア芸術祭受賞作品展の見どころ

本日2月3日から14日まで、六本木の国立新美術館を中心に、メディア芸術祭受賞作品展が開催されます。第19回となる今回は、過去最多となる世界87か国・4417作品の応募があり、その中から選ばれた約160点の受賞作が展示されています。
12日間の会期中は、国立新美術館・TOHOシネマズ六本木ヒルズ、スーパー・デラックスの3会場で、受賞作に関連した展示、パフォーマンス、トークイベントが行われます。
アート・エンターテイメント・アニメーション・マンガの4部門の受賞作が集められ、毎年多くの人出で賑わう作品展。その見どころを、タレントでありエンジニアの池澤あやかさんの案内でお伝えします。

アート部門
── よろしくお願いします。池澤さんは、作品展は来られたことありますか?
池澤 去年も来ました。学生の頃、研究室で作った作品を審査員推薦作品に選んでいただいて。3Dスキャンされた物体を麺棒でつぶすという作品だったんですが、そのときが初めです。
── おお、楽しそうな作品ですね。今年のアート部門大賞は、「50 shade of gray」というコードで描かれた絵画。タイトルはベストセラーになったネット小説から題名を取ったということです。BASIC、Fortran、Pascal、Lisp、DirectorのLingo、FlashのActionScriptの6種のコードで描かれてます。
池澤 FortranはRubyに記法がちょっと似てますね。
── FortranやPascalは相当古い言語ですね。
池澤 アートだけによさを言うのは難しいですけど… なんかこう、歴史を感じますよね。言語の歴史というか。昔の言語のお墓みたいな。
── 絵画なんですけど、裏回るとPCで実際に動いてるバージョンがありますね。
池澤 古い言語がこうやって動いているっていう。BASICとか。
── まず見ないですよね、いま。


── 優秀賞の「The sound of empty space」は、ハウリングをあえて生じさせて聴くというインスタレーション。写真では瓶を使った装置ですが、会場では広い空間を利用した大きい展示になってます。
池澤 面白いですね。
── ハウリングは、マイクとアンプの間で音がループして起こる仕組みらしいです。
池澤 外から聞いていると、なんかハウってるってだけだったんですけど、中に入ると意外とよくて。普段こう、耳障りでしかないハウリングが、それだけで音を作ると、けっこう美しい音になるなと。
── 音楽みたいですね。
池澤 波を感じました。小さな音を拾って拾って増幅していくと、ああなるんですね。

── 「The Petroglyphomat」は岩にピクセルを彫る掘削機。ディスプレイからアイコンなどを選ぶと、ドリルが岩に図像を刻んでいきます。デジタルな石碑というか。
池澤 思ったのは、デジタルデータって、けっこう脆いですよね。サーバに置いたデータとか過信しがちですけど、ディスクが壊れたら消えてしまうし。
── そうなんですよね。意外と保たない。
池澤 それに比べて、石を彫ったものはすごい古代から残っているので。
── 石碑を今の時代に作ったらどうなるか、という。
池澤 データを石に焼いたらどうなるか笑
── 実際にあの装置を使うかどうかは別として。
池澤 そうですね、問題提起として笑。あと、あの岩にくくりつけられた機械という、しつらえがよかったですね。岩とマシーン、絵になる取り合わせだなと。


エンターテイメント部門
── 優秀賞の「Solar Pink Pong」は太陽光を利用した、屋外設置の卓球ゲームです。動くミラーが人の動きに反応するボールを地面に描きます。思わず遊んでみたくなる展示ですね。
池澤 これは確かに置いてあったら遊んじゃうな。
── 影に反応するので、手でも足でもいいんですが、動きに反応してボールが跳ね返る。ボールの反応もよかったですね。
池澤 よかったです。
── ソーラー発電もできて、電源のことまで考えられてるんですね。
池澤 太陽の光というあるものを使って全部動かすっていうのが、おもしろいですね。


── 同じく優秀賞の「Drawing Operations Unit」は、画家の動きを真似して一緒に絵を描いてくれるロボットアーム。線の書き方の特徴などを再現してくれます。
池澤 人よりちょっと可動域が狭くて縮こまるのが可愛いですね。
── 描き方も少したどたどしくて、親子みたいな。
池澤 一体感あるのはすごいですね。ひとりの人が描いたような絵じゃないですか、うまく共作できてるなと。


── 「ほったまるびより」は、コンテンポラリーダンスの映像作品。古い木造の一軒家に、四人のダンサーと歌い手が住んでいて、その家がそのままダンスの舞台にもなる。迫力ある映像でした。
池澤 迫力ありましたね。
── ほったまるっていうのは、ほうっておくとたまっていくものって意味らしいです。爪とか髪の毛とか。演劇の舞台を見ているような雰囲気もありますね。
池澤 身体の動きだけでそこまで表現できるのかという感じでした。
── 夜中呪いみたいなダンスで踊り狂って、朝になったら静かにみんなで寝ているところとか、印象的です。
池澤 あとは撮影手法が、絵コンテというか、紙芝居を映像に起こすという作り方で、それも展示されてましたが、台本を書いて作っていく映画とは違うアウトプットになるんだなと、興味深かったです。
── 視覚的なところにウェイトを置いているんでしょうね。
池澤 視覚と感情に置いてるんでしょうね。



アニメーション部門
── アニメーションの大賞は、フランスの作家による短編作品「Rhizome」。ドゥルーズ・ガタリの哲学をモチーフにしているとのこと。ツリー状の発展というオーソドックスな知のモデルに対し、地下茎を意味するリゾームは同時多発的な増殖のモデル。建物や人や物が、ズームアウトしていく映像とともに増殖していきます。
池澤 パーツはかわいい手描きですね。gifアニメで展示されてる。
── これ描くところから作り始めるんですね。すごい増殖していくけど、個々のパーツは手描きというのが面白いです。
池澤 見てて飽きないですね。
── ストーリーは全然ないのに、見てしまいますね。



── 優秀賞の「花とアリス殺人事件」は、岩井俊二初のアニメ映画です。「花とアリス」という実写映画があり、その前日譚にあたります。
池澤 実写の方は前に観ていて。この作品も観てみようと思いました。
── 中学生の女の子2人、「史上最強の転校生と史上最強の引きこもり」ということなんですが、親友になる2人の出会いと事件の物語です。
池澤 面白い撮り方してるんですね。実写を撮ってから、重ねて描いている部分もあれば、3Dで作ってから、描いている部分もあって。
── すごいカメラ回しをする場面が何箇所かあって、それが3Dらしいんですが、普通のカメラではありえない…
池澤 ありえない笑
── 角度から撮ってるという。話じたいも、現実なんだけど、ちょっと非現実的な話です。舞台は普通の、東京の中学生の学校と家の周りなんですけど、なんだろう、中学生のときなら信じていたかなっていう、客観的に見るとちょっと不思議な。
池澤 でも岩井作品、そういう感じですよね。実写でも。「花とアリス」も、けっこうファンタジックな雰囲気で。
── アニメになってより異世界感が強くなった感じしました。
池澤 実写の役者さんと似ているっていうのが面白い。
── そうですね、声も同じで。


── 新人賞で、ロシアのショートアニメ「Deux Amis」。これはとにかく可愛い作品です。蛙と芋虫、そして自然が描かれてます。
池澤 とにかく可愛い笑
── でも、残酷な話なんですよね。
池澤 助けてくれた芋虫を、わからなくて、最後、成長したら蝶になって分からなくて食べちゃって終わるという…。物語はしんみりする。
── 途中、ギャグっぽい動きも入るのですが。
池澤 シンプルな線なのにこんなに感情豊かに表現できて、すごい。
── ガイドによると、葛飾北斎に影響受けたとのことです。
池澤 富嶽三十六景。
── そう言われると、そんな感じに見えてきますね。
池澤 北斎漫画とか。
── たしかに…北斎漫画、可愛い動きしてるアニメっぽい絵、ありますよね。



マンガ部門
── 優秀賞に「弟の夫」。ゲイをテーマにしたマンガです。そのジャンルの専門誌で知られる作者がはじめて一般誌に描いた作品だそうです。娘と暮らす男の家庭に、弟の元恋人であるカナダ人の男が現れ、奇妙な同居生活が始まる、という話です。
池澤 気になりましたね。アート部門にも同性愛がテーマの受賞作品がありましたし。
── 最近のLGBTの関心が高まりは背景にありそうですね。
池澤 この作品はPhotoshopで描いているスクリーンキャストが展示されていて、色付けやトーンを貼る過程が見れるんですが、いいですよね。
── 履歴を見ることができる。
池澤 漫勉みたい。漫勉って知ってますか?
── 漫画家の制作を取材するテレビ番組ですよね。浦沢直樹さんの。


── 同人誌の受賞もありました。「エソラゴト」、ネルノダイスキというペンネームの作者さんです。
池澤 創作メモが展示されてるけど、世界観が独特ですね。飽きて普通に手をデッサンしてるところもありますけど。
── 細かいですね。でも本の表紙はすごいざっくり。
池澤 主人公もめちゃめちゃゆるいですね。このゆるさとゆるくない背景のとギャップが。
── 壁の汚れとかえらい気合い入れて描かれてますね。


── 大賞は東村アキコの「かくかくしかじか」。池澤さん、この作品は読まれていたそうですね。
池澤 読みました。このマンガは、やっぱり、師匠と自分の関係を描いてるものじゃないですか。感情に訴えるシーンがたくさんあって、それが展示されてて、見るたびに胸が詰まるというか。
── 話が先生との出会いで始まるんですよね。五巻までありますけど、今日また一巻見て思い出して、ぐっときますね。先生のやってる画塾が、宮崎の海沿いの、またすごくいいところにあるんですよね。
池澤 そんな塾通いたいなって思う…でも厳しいですよね、先生が。
── 竹刀もってぶったたかれるっていう。今日は東村アキコさんの受賞挨拶もあり、パネルに絵も描かれてました。
池澤 今年は、パネルに描かれた漫画家さんの絵が他にもあって、ひとつ見どころかもしれないですね。
── ネームや生原稿も展示されていて、製作の過程が少し伺えますね。
池澤 生原稿、一コマ一コマが、より密度高くぎゅっとしてる感じですね。



メディア芸術祭受賞作品展は2月3日から12日間。他にも多くの作品が展示されていて、会期中はワークショップやトークショーも開催されます。入場は無料。見どころを池澤あやかさんと紹介しましたが、興味ある方は現地に足を運んでみて下さい。
なお、本のアプリStandも、エンターテイメント部門の審査員推薦作品に選んでいただいてます。図録とウェブサイトに掲載いただいているほか、出展用にPVも製作しましたので、ぜひご覧ください。