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髪から物語が広がる 美容文藝誌「髪とアタシ」

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赤と黒のビビッドな背景に、ヤンキー座りをする女子高生の表紙。髪をテーマにさまざまなインタビュー・写真・文章を集める、「髪とアタシ」第4刊が先日発売になりました。

発行はアタシ社という逗子の出版社。代表のミネシンゴさんは、美容師の経験もある編集者です。

その内容は、美容師の仕事を伝えるだけでなく、髪を通したアイデンティティや美的観点にまで及びます。読む美容という観点から雑誌作りをしているミネさんに、最新号の内容や製作の様子を伺いました。

第4号は「バッドヘアー」特集

── 第4刊が発売になりました。見どころをお聞かせいただけますか?

ミネ  はい。今まで特集名が、「拡張する美容師」とか「考える髪」とか、けっこう曖昧なテーマが続いていたんですけど、今回は「バッド」っていう、わかりやすい特集名になっています。エッジが立ちやすいキャッチーな名前だと思ったのと、「バッド」と言っても人によっていろいろな受け取り方ができておもしろいと思ったので。

昔の海外サッカー選手って、変な髪型してる人いっぱいいるんですよ。70年80年代のサッカー選手とか、前髪がすごく短くて襟足がぺろーん、となってる人とか、変わった髪型の人が結構いて。そういう人たちをバッドヘアーって呼んでた時代があって、面白いなと思ってました。

不良の人たち、ヤンキー精神というか、他人になにかを言われても自分の好きなものがはっきりしてる、スタイルが確立してる、そういう格好いい大人を取材したいと思ったんですね。そういう人たちって、髪型も自分のスタイルを持っている。アイデンティティを大事にする「髪とアタシ」という雑誌からすると、ものすごくこう、大好きな人種で。

あとは床屋さんの文化とか、美容室じゃできない技術とか考え方とか、そういったものがかなり入っている特集になっています。理容師さんの言葉が生々しく出ているメディアはあまりないので、そこは見どころだと思います。

── 登場しているのは、大阪のイソノ理容店、東京神田のTHE BARBA TOKYO 、原宿にあるエイト、どれもすごく個性があり、尖っていて特徴あるお店でした。

原宿のエイトさんは、写真を見るともうばりばりのリーゼントですね。

ミネ  この鈴木さんというオーナーは、もう50年ちかく原宿で床屋さんやってる方なんですけど、80年代に流行った竹の子族、あの人たちの髪型を作った人なんですよね。竹の子族の人たちは、エイトに髪型を作りにいってから踊りに行く、という。今でもそういう人たちが来ているお店です。

あとはバッドヘアーっていったときに、リーゼントや角刈りというわかりやすい髪型もあるんですが、床屋さんとしては普通に営業されているけど「生き方」がバッドという方もいて笑。その代表格が大阪のイソノ理容店ですね。

── すごい金キラの部屋ですね笑

ミネ  小阪城っていうお城を自分で作ってて、自宅を40年くらいずっと改造しているんですよ。天井をジャッキで上げて、天守閣を屋上に作って。

── ジャッキで上げる笑

ミネ  この金箔を貼ったような壁は、金の折り紙を貼って作ってるんですね。もうアーティストです。

── 神田のTHE BARBA TOKYO、ここはクラシックアメリカンな格好いいお店ですね。

ミネ  そうですね。若いスタッフの人に聞くと、美容学校ではなく、しっかりと理容学校を卒業して、意志を持って理容師になっています。なんで理容学校なのって聞くと、床屋さんで働きたいと。おしゃれでスマートなのは美容師だけじゃない、理容師になりたいっていう若い人が出てきている。いま流行ってるツーブロック、七三とか、そういったものは床屋さんの技術が多くて、今のメンズのトレンドヘアっていうのは、わりと床屋の文化だったんだって発見も、読者の人はあるかなと思います。

前半がバッドヘアーという形で、後半は小説・マンガ評など、あとは毎回東北に行くようにしているのですが、今回は気仙沼に行きました。

── それはやはり震災がきっかけですか。

ミネ  はい。震災があって、3年目くらいでやっと東北に行って。あんまり貢献の仕方とかわからず、ずっと行けなかったんですが、やっぱり向こうで頑張っていらっしゃる美容師さんもいるし、少しでも紹介できればと思って2刊目からやってます。

あとは群馬の前橋の美容院で、お店がある商店街は昔、栄えていましたが時代の流れとともにシャッターが下りてきた。ご両親の仕事をつくりたいという気持ちと、周りの人たちからの自然な流れで、お店の半分をコーヒースタンドにしたんです。朝7時からコーヒーが飲めるようになって、早朝からお客さんが来るようになりました。美容院だけのコミュニティから、朝のコーヒーコミュニティも合わさって、人通りも増えたんですね。そういう小さな経済を作れたというお話しです。

読みものとしての美容の本

── 雑誌を美容文藝誌という形にしようというのは、初めからあったんですか。あるとき思いついたんですか?

ミネ  あるとき思いつきましたね。美容師さん向けの技術本とか、ヘアデザイン、トレンドの美容専門誌を以前作っていたんですが、世の中の美容雑誌を見渡したときに、トレンド・コスメ・ファッションの話題ばかりで、読み物としての美容の本がなかったんですね。美容×文芸ってできないのかなと。単純にそこでした。

── 最新刊は小説が入りましたが、毎回少し作りを変えられているところはありますか。

ミネ  そうですね。創刊時、文芸誌と謳っていたんですが、全然文芸じゃないって意見もあったし、「インタビュー誌とかドキュメンタリー誌ってことなんじゃない?」って言われて、まあ確かにそうだな、というところもあって。だから、もうちょっと文芸っぽくしよう、っていう意識は毎回働いています。マンガ評や短編小説も入ったし、写真エッセイ、コラムや入り、より読み物っぽくしようっていうのは今ありますね。

── 不思議と美容師さんの話しと、小説やマンガが一緒になっていて違和感がないですね。髪というテーマがあるからだと思うんですが。美容師さんの話しって、美術の方面にいくこともあれば、技術や生活の方面にいくこともあって、それが文芸っぽいですよね。

ミネ  それはうれしいですね。やっぱり何を伝えたいかというのが、他の雑誌に比べて結構曖昧だと思うんです。本づくりにおいてすごい強いメッセージがあるっていうのはあまりなくて、毎回作って、集めて、編集してみて、全部読んだときの読後感というのが、人それぞれメッセージが変わってくると思うんですよね。着地がたぶん結構ばらばら。それが逆に、「らしく」ていいなというのはあります。

── 刊行ペースはどんな感じですか?

ミネ  理想は半年に1冊なんですが、少しペースが落ちています笑。作るだけなら半年スパンでいけると思うんですが、僕の場合作ってから売る作業が入ってくるので。出版社として当たり前ですが営業活動も大切な仕事です。そして、半年というのはいいペースだと思っていて、時間が無いなかで無理して作るよりは、時間と手間をかけたほうがクオリティは上がる。あとは、半年に1回ってちょうど忘れかけた頃に出てくるっていうのがあるかなと笑。半年だとぎりぎり記憶にとどめられるスパンだと思うんです。

── はじめ3人でスタートして、今は少し人が増えたそうですね。

ミネ  第三刊は6名、最新刊は9名で製作しました。「髪とアタシ」で書きたい、と言っていただけるライターの方が増えたのがとても嬉しいです。文章は書き手によって決まると思っていますから、人によって文章の色が出てくるし、書き手が増えると多様性に富んだメディアになると思うんですよね。

今号も、美容界どっぷりのライターはほとんどいなくて、カルチャー誌やインタビューを多くやっている人たちに書いていただきました。そうやって美容界の外側から、美容や理容や髪のことを、大真面目におもしろがることができれば、ひとつカルチャーがつくれると思っています。取材先も自分たちでリサーチして決めることもあれば、手紙をいただいたり、紹介で教えてもらったりとかなりアナログなんです。そうやってお互い顔が見える範囲で、濃いコミュニケーションをとって丹念に形(本)にすることが、今一番おもしろいですね。

美容文藝誌 髪とアタシ

元美容師・美容雑誌の編集者だった編集長が、メディアにはでないオモシロキ美容師たちを紹介。その考え方、思想、哲学、美意識に触れていく。

kamitoatashi.fashionstore.jp

6/18(土)19:00〜@下北沢B&Bで第4刊 刊行イベント開催

http://bookandbeer.com/event/20160618_bt/