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水と緑の静けさ 高円寺「アール座読書館」

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かつて大きなスピーカーを備え「会話禁止」をうたう名曲喫茶やジャズ喫茶がはやった時代がありましたが、この喫茶店は今の時代を映して「いっときの静寂を買ってもらう」という新しい発想で生まれました。

高円寺南口のアーケード街「PAL商店街」の雑踏を抜けて路地を曲がり、ホルモン焼き店の脇の階段を上がると、アール座読書館の入口があります。「お話目的の方はご遠慮下さい」というプレートが貼られたスチールドアの先は、外のにぎやかさが嘘のような静寂が広がっています。

音量を抑えたBGMと水槽の水音だけが聞こえる喫茶店での会話は主に筆談で行われます。ひとり客が多いのはそのためです。本を読む人、書き物をする人、編み物をする人、熱帯魚が泳ぐ水槽や外の路地をただぼんやりと眺めている人、みな思い思いに過ごしています。

「水音と緑が必要でした。大好きな信州の森を再現したかったのです」とは店主の渡邊太紀さん。「飲食店に勤めていた頃、スケジュールに追われる毎日がすごく息苦しくて。現実逃避できる場所が都会にも必要だと思って、8年前、この店を始めました」と話します。

教室を思わせる店のレイアウトは宮沢賢治の童話に出てくる博物館をイメージしたそうです。枝を広げるシルクジャスミンが緑の光を放つ室内に、蔵書を詰めた本棚、古いマッチ箱やカメラ、ガンダーラ仏像の数々、蝶の標本を入れたケースなどが置かれ、箱庭のような雰囲気を醸しています。秋にはスズムシ、コオロギの虫かごを置いて「コンサート」も開くそうです。

メニューを開くと、ラプサン・スーチョンやオールドアールグレイ、ブラジル・ブルボンなど珍しい飲み物が並んでいます。「少しだけハッとしていただきたいのです。香りや味にクセがあるものを口にすると一瞬驚きますよね?」と渡邊さん。「静寂の中では、普段閉じている感覚が開くんです。例えば聴覚や味覚が鋭くなる。でも、静寂は、無音とは違います」

静けさの中、かすかな生活音を聞き、木々の緑を眺めていると、さまざまなイメージが湧き出してきます。それはどこか、旅に似ている気がしました。

アール座読書館

東京都杉並区高円寺南3-57-6 2F

r-books.jugem.jp

13:30 - 22:30 (L.O 22:00) 土日祝は12:00から・月曜休(祝日の場合は翌火曜休)