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地震の後の仮設店舗と蛍の日 熊本「ひなた文庫」

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南阿蘇鉄道の駅舎で営業するひなた文庫の紹介は、Standブログはじめての記事でした。4月の熊本地震で、鉄道とまわりの地域は大きな被害を受けましたが、ひなた文庫は平日に働いている職場の駐車場に小屋を作って仮設営業を始めました。地震とその後の様子を伺いました。

── 昨年の8月にお話を伺ったとき、ひなた文庫は開店に向けて準備されていた頃でした。そのときは、大きな地震があることは分からなかったわけですが、熊本地震から3か月経って、そちらの様子はいかがですか?

ひなた文庫  昨年の5月のプレオープンからもうすぐ1年という時、地震は全く予期していなかったので直後は何も出来ずただ不安に過ごす日が続きました。ひなた文庫のある駅舎自体は無傷でしたが、3か月経った今でも南阿蘇鉄道の全面運行再開の見通しは立っておらず、駅舎までの主要道路も寸断されているため、駅での営業はまだ1度しか出来ていません。

地震後、駅舎の周りにある田んぼは通常より遅れてやっと田植えを終えましたが、豪雨で水路から溢れた水や流木が流れ込んでいる箇所もあり、今後の稲作に影響が出てきそうです。ひなた文庫も早く駅舎に戻って営業を再開したいですが、もう少し時間が掛かりそうです。

── ひなた文庫は、週末に駅舎で営業するという形態でした。地震の後、壊れた本棚の写真をツイッターに上げられていましたが、ご自宅にあったお店の設備の一部になりますか?

ひなた文庫  はい、自宅の押入れを本棚にして在庫の本を管理していました。そこから毎週金曜日には販売する本を選書して土曜の朝に駅へ運んでいました。本震の直後は自宅にいなかったので、後日帰ってみると棚は崩れて部屋中に本が散乱し、その上から天井板が落ちていました。あれを見た時はかなりショックでしたね。

── しばらくは車でコンビニの駐車場に避難されていたんですよね。多くの方が車で数日間過ごされたと聞いています。避難状態は、どれくらい続いたのでしょうか。

ひなた文庫 地震直後は自宅に帰る道も寸断されていていたので近くのコンビニの駐車場に避難しました。その後、近所でガソリンスタンドを営んでいる親戚と連絡が取れたのでそちらに移動して避難生活を送っていました。電気や水道も止まり、情報も殆ど入ってこない状態が一週間程続きました。本震から三日後には自衛隊や災害派遣の医療チーム、全国から消防車や救急車がかけつけてくれました。その姿を見た時は本当に安堵しましたね。それからも大きな余震は続いていましたが、支援の方が来ていると分かっているだけで心強かったです。

── 自宅へ戻ると本棚が壊れて、お店の本が部屋に散らばっていた。その片付けも大変だったと思いますが、仮設の本屋さんをオープンしようと考えたのは、わりと早い時期だったのですか?

ひなた文庫 そうですね。本をそのまま放置しておきたくなかったですし、平日に働いていた仕事も地震後1週間くらいしてすぐに再開したので、次はひなた文庫も再開、というのは自然と考えたことでした。ただ、自宅から駅舎までの道が寸断されたままで、通うのに二倍以上の時間がかかるようになってしまったのと、平日やっている仕事も人手不足となってしまい週末も時間がつくれなくなっていたので、すぐに駅舎で再開はできませんでした。

かと言って、そのまま道が開通するのを待っていては、いつになるか分からないですし、それまで本屋をやらなければひなた文庫という本屋があった事すら忘れられてしまうんじゃないかと不安に思ったりもしました。それなら今できる場所で再開して、ひなた文庫はまた戻ってきますよ、と意思表明をしたいと思ったんです。

── お店は続きますよと、示されたわけですね。はじめの仮設店舗は、どんな形のものでしたか?

ひなた文庫 職場の駐車スペースを借り、そこに一坪程の広さで木造の移動式の小屋をつくりました。自宅で管理していた本の在庫の一部をその小屋へと運び、書庫として利用しています。晴れの日、もしくは予約があった場合に、仮店舗としてオープンします。

SNSでの告知を見て来てくれたお客さんや、駅で営業していた頃の常連さんが沢山来てくれました。地震後にその方々の元気な姿を見て、こちらもほっとしました。中には再開のお祝いにとお花を持ってきてくれた方もいらっしゃって、綺麗な花を眺める余裕も地震後はなかったことにその時気がつきました。今でもあの花を綺麗だったなぁと思い出すことがありますね。

お客さんとの会話の最初はどうしても地震の話になってしまいますが、最後には本の話で盛り上がることができ、駅での営業を思い出すことができています。場所を変えてでもこうやって来てくれるお客さんがいると分かったことは私たちにとって大きな喜びと支えになっています。

── 駐車場に小屋を作られたんですね。一坪程とはいえ、すぐ建てられるものなんですか?

ひなた文庫 制作には二週間程かかりました。日曜大工も好きでひなた文庫にある本棚を自作したり、山小屋やマイクロハウスについて特集された雑誌や新書をよく読んでいてセルフビルドにも興味があったので、なんとなくこんな風な手順で組み上げてゆけばよいだろうという考えは持っていました。そういった背景があったのと、活動をきちんと再開できていないことへの焦りもあり、作業をはじめてから短時間で小屋を建ててしまえたのかもしれません。

小屋の壁や床、柱はすべて木材で、一部には本棚の廃材も利用しました。小屋の中は2畳ほどのスペースがあり、木製の机や駅に設置していたキャビネットを置き、壁にはパンチングボードの飾り棚を作りました。お客さんがいらっしゃる時には、その机や棚へ約100冊の本を陳列しています。

── マイクロハウス、最近雑誌などでもよく特集を見ます。6月17日には、元の駅舎で一夜限りの営業もありました。「悲しみに寄り添う」とフライヤーには書かれてましたが、どんな形の営業になりましたか?

ひなた文庫 元々地震が起こる前からあの場所で蛍を眺めながらの営業を計画していました。蛍って夏のイメージがありますが、意外にもその鑑賞できる期間は梅雨とほとんど重なっています。そして、現れるのは雨上がりの曇り空、湿度が高くて風のない日。そんな限られた条件でしか観られない蛍と、駅での一夜限りの再開は重なるように感じ、1日でも良いから蛍のようにあの駅を明るくしたい、そう思って企画しました。

毎週テーマを決めて選書をした本を並べる棚を作っていましたので、今回は私たちも含め地震で傷付いた方の心に寄り添うような優しい物語や希望をみるような物語を選びました。

当日は地元の常連さんや、熊本の出版社伽鹿舎の方などがいらして下さいました。用意していた軽食や、駅での再開のお祝いにと持ってきて下さったお土産などをその場にいるお客さんたちみんなで分けあって食べながら本を見たり、お客さんの近況を聞いたりと、とても和やかな営業となりました。お客さん同士も、その場にいる人たちみんなが以前から知っている友達のように打ち解けて会話をしていましたね。

暗くなり蛍も線路の上を舞いはじめると懐中電灯を持ってお客さんと一緒に蛍鑑賞の散歩に出掛けたりもしました。 道の先を揺らめきながら力強く輝いて飛ぶ蛍の姿は印象的でした。この日の営業は地震以後はじめての駅での営業でしたので、私たちにとってはここに戻ってこようと改めて決意が固まるとても意味のあるものとなりました。

── 駅での営業が早く実現できるといいですね。ありがとうございました。

ひなた文庫

駅舎での営業は現在休止中。仮設店舗の営業情報はウェブサイトやTwitterで。

www.hinatabunko.jp

twitter.com/hinatabunko