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1万冊の本に囲まれる文学カフェ 駒場「BUNDAN COFFEE & BEER」

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駒場東大前駅から徒歩10分、駒場公園の中にある日本近代文学館は、文学資料を収集・保存するための施設として約50年前に設立され、図書や雑誌を中心に120万点の資料を収蔵する施設です。隣接する文学カフェ「BUNDAN COFFEE & BEER」は、文学館や公園を訪れる人たちがひと息入れることのできる場所。店の入り口には文学関連のグッズが並べられて、店内はジャズが流れている、ゆったりとした空間です。天井まで届く本棚には、ぎっしりと書籍が積まれています。

この店を手掛けたのは雑誌「To Magazine」やさまざまなWebの編集、またシェアオフィス「Holster」や商業スペース「下北沢ケージ」も手がける東京ピストル。代表の草彅洋平さんに話を伺いました。

──天井まで、すごい本の数ですね。

草彅 ここにある本は実は全部僕の私物なんです。本の数は店内だけで1万冊以上、バックヤードも合わせると2万冊近くあります。ここを開くまでは神戸に書庫を借りていたんですけど、店を開くときに全て持ってきました。 文学カフェにするなら整然と並べておしゃれなカフェにするより、自分にとっての文学を全力で表現しようと思ったんです。

── お店のために買って揃えた感じではないですね笑。棚ごとにテーマは決まっているのでしょうか。

草彅 そうですね。例えばこのあたりのキッチンに近い棚は外国文学、女流文学、鶴見俊輔の本を、窓側には料理や猫の本などをまとめています。

── 草彅さん自身は雑誌の出版や書店の運営など、このお店をオープンするまでもいろいろと本に関わってこられたそうですね。

草彅 もともと僕は本が好きなので。でも、同世代で同じように文学に興味を持つ人が少なくて、その中で自分はだんだんと孤立していく感じがあったんですね。それで、じゃあどうやったら他の人たちにも文学の魅力を伝えられるだろう、ということはずっと考えていました。

―― 本を出版して文字を通して伝える、などでしょうか?

草彅 僕は本を通して文学の面白さを伝えることは難しいだろうと思っていました。大岡昇平さんという小説家がこんなことを言っています。14歳から70歳まで生きて、1日1冊読んだとしても、57年間でたった2万冊程度なんです。この店には1万冊ちょっとの本を置いています。実際の読書量はもっと少ない人がほとんどですが、仮に2日に1冊のペースで読んだとしても、一生かけてもここにあるくらいしか読めないってことです。
一方で、出版社は毎月1万冊を超えて刊行しています。自分が人生で読む量を超えて毎月出版されている中に、「本が面白くなるよ」みたいな本を1冊出しても、手に取ってもらえないでしょう。そういう意味で、もともと出版からのアプローチは限界があると思っていたんです。

―― なるほど。そもそも文学の魅力って何でしょう?

草彅 まず、僕は文学とか本を霊媒だと思っています。時代を超えて、既に亡くなっている方の考えていることを伝えることができるもの。なので、時代とか、さらには国内・海外とかも超越して、同じ人間というところでシンクロすることができるのが、文学の面白さや魅力だと思っています。

―― そういった思いの中でこのお店ができたのですね。出店することになった経緯を教えてください。

草彅 何度か別の仕事の打ち合わせで日本近代文学館に来ていたときに、ここが空き部屋になっていたんですね。もともとここは「すみれ」という食堂が入っていて、日本近代文学館に通う研究者の方に重宝されていたようです。でもその食堂がなくなって、文学館のスタッフもまわりに食事をするところがなくて困っているようだったので、僕がやりますと思わず手を挙げたんです。

―― そのときは初めからここにカフェを作りたいと思ったのですか?

草彅 いいえ、この場所に惹かれたので、何をするか考える前にとりあえず借りました。日本文学の総本山である日本近代文学館が隣にあって、周りには自然豊かで静謐な駒場公園もあって、というこの場所の魅力が大きかったです。

―― 確かに周りも静かで良い雰囲気ですね。ではお店のスタイルはどのように決まったのですか?

草彅 食べ物を通して、先ほど話した文学の魅力を伝えることができるんじゃないかと思ったんですよね。文学と食べ物は意外と結びつきやすいんです。 例えば、この店ではドリンクの「ヱビス」のところにこのように漱石作品の文章を引用しています。

【筒袖の下女が、盆の上へ、麦酒を一本、洋盃を二つ、玉子を四個、並べつくして持ってくる。「そら恵比寿が来た。この恵比寿がビールでないんだから面白い。さあ一杯飲むかい」と碌さんが相手に洋盃を渡す。---- 夏目漱石『二百十日』】

このたった数行があることで、飲む人は100年くらい前に恵比寿ビールを飲んでいた夏目漱石とシンクロできると思うんです。

── 文学と食べ物を結びつける発想は素敵ですね。ちなみに人気のメニューはどれですか?

草彅 みなさんよく頼むのは、デザートだと「檸檬パフェ」、フードだと「レバーパテトーストサンドイッチ」と「ハードボイルド・ワンダーランド」の朝食セットです。
「檸檬パフェ」は梶井基次郎さん、「レバーパテトースト」は谷崎潤一郎さん、「ハードボイルド」は村上春樹さんの作品をモチーフにしています。お客さんにもハルキストはやっぱり多いですね。
あとは、実は一番注文される方が多いのはカレーなんです。「そぼろカレー」は宇野千代さんが書かれたレシピをもとに作っています。

── あまり作家さんがレシピを書くイメージはありませんが。

草彅 そうですね、作家さんが書いたレシピが残っている料理はそのまま、作品の中になんとなく出てくる料理は想像で作ることもあります。初めはこちらでイメージして当時に似せて作ったんですけど、だいたい美味しくないんですよね。
なぜなら昭和初期は調味料がケチャップくらいしかないから、みな同じ味になってしまうんです。
最初はマニアックに、書かれているまま作って出していました。でも今は現代の味覚を重視して、多少こちらでアレンジしています。そこにいたるまでに1年半から2年かかりました。
でもそうやって少し変えると、「これ本と違うじゃん」ってご指摘をいただくことも当然あります。

── 気づかれるお客さんもいらっしゃるんですね。

草彅 いらっしゃいますね、でもそこは仕方ない。ロマンと現実の狭間といいますか。ずっと来ているお客さんは飽きてしまうだろうから、新しいメニューを出したりもしています。

── そういうときに新しい料理はどなたが考案されるんですか?

草彅 キッチンの宮崎さんと、次はこういう限定メニューを出しましょう、みたいにかなり相談します。ちなみに今は古川緑波の揚げ餃子を出しています。

── 来店されるお客さんはどんな方が多いですか?

草彅 駒場東大前は日本近代文学館含めて散歩コースになっています。国の重要文化財である旧前田本邸の和館・洋館と、日本民藝館もあって、だいたいそれで一巡できるんです。それでうちでランチをとる方が多いようです。だから高齢者の方も多いですし、当店は本好きなら楽しめるという点で、本好きに年齢は関係ないと思いますね。
店内では棚の本を読んだり、コーヒーを飲んでゆっくりしたり、原稿を書いたりと、みなさん思い思いの時間を過ごされています。この店は本好きだったら絶対楽しめるという自負はありますね。

お話を聞くなかで、文学に対する強い思いと覚悟が伝わってきました。取材が終わって店の中を歩くと、店を訪れた数々の作家のサインや、趣向をこらしたインテリアの数々に目がとまりました。また、外のテラスも良い雰囲気で、暖かい日には優雅な一時を過ごせそうです。週末の予定の候補に、駒場文学ツアーなどいかがでしょうか。

BUNDAN COFFEE & BEER

〒153-0041 東京都目黒区駒場4-3-55(日本近代文学館内)

営業時間 / 9:30 ~ 16:20 定休日 / 日曜日・月曜日・第4木曜日

TEL / 03-6407-0554

bundan.net