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作家に会える公開書斎 前橋「絲山房」

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本棚で作られた絲山秋子さんの書斎

亡き文豪の書斎を移築展示する文学館が各地にあるのは知っていましたが、生きている作家の書斎が公開されていてしかも執筆する姿を見たり言葉を交わせると聞いて驚きました。その作家とは芥川賞、川端康成文学賞、谷崎潤一郎賞など数々の受賞歴をもつ、群馬県高崎市在住の絲山秋子さん。個人的にファンということもあり、書斎のある前橋市の書店フリッツ・アートセンターを訪ねました。

ドーム型の店はバラ園で知られる敷島公園と利根川の間にあります。店内のほぼ中央、書棚で囲われた半畳ほどのスペースに机とイスが置かれています。机上のノートは不在時にメッセージを書き残す連絡帳です。黒板にはチョークで「絲山房 房内でぜひゆっくりどうぞ」の文字。書斎を取り囲む本のうち、ル・クレジオ作品や馬の写真集などは蔵書の一部を並べているそうです。

かたわらの説明書きには「1. 絲山秋子の著書や、影響を受けた本、資料などを選書として置いていきます。2. 絲山の居場所。集中して手書き仕事をするための『房』。3. 動物園のように観察したり、痕跡を見つけに来ていただいても。一段落したら、お茶でも飲みにいきましょう」

絲山さんはノートに走らせていたペンを止め、特徴のある低くハスキーな声で言います。「房の中では、事務仕事をしたり手紙を書いていることが多いですね。お客さまが私の作品を持ってきてくださり、あるいはこの場で買ってくれて、サインをさせてもらうこともあります。絲山房のことを知ったファンの方が北海道や広島からいらっしゃったこともありました」

ご自身の作品についても気さくに話してくださいました。短編「袋小路の男」「アーリオ オーリオ」の制作秘話や、芥川賞受賞作「沖で待つ」の登場人物のモデルなど、好きな作品の話をそれを生み出した作者からじかに聞くのは一ファンとして心おどる体験でした。

本を売るために作家にできること

きっかけは「公開書簡フェア」でした。これは2016年1月から半年間、絲山さんが全国10ヶ所の書店員と手紙をやり取りして順次、各書店で公開していくというイベントです。お客さんに書店に足を運んでもらうための共同企画でした。

その後、知り合いだった前橋市のフリッツ・アートセンターの小見純一店長と「地元でもライブ感のある企画ができないか」と意気投合し、4月に絲山房が誕生しました。

「絵本屋」を名乗るこの書店は主に絵本や詩集を扱い、仕入れはすべて版元から買取というユニークかつ意欲的な店です。国内に3店舗しかない、ベルギーの人気漫画「TINTIN(タンタンの冒険)」の公式ショップを併設しています。店長の小見さんは「私が読みたい絵本、売りたい絵本しか置いていません。返品するつもりがないので買取にしています。子どもたちに良質な絵本を読んでほしい」と言います。そんな型破りな書店だからこそ、公開書斎という前代未聞のアイデアが実現したのかもしれません。

絲山さんは言います。「本が売れないと言われて久しい今、出版社に任せきりにはできません。特に文壇や業界と距離を置いている私のような作家は、売るために何ができるのか自分で考える必要があります」

その言葉通り、絲山さんの公式ホームページには全著作の内容紹介や連絡先フォームがあり、ほかにも有料メールマガジン「いとろく」の配信、朗読CDやオリジナルグッズ(Tシャツ、トートバッグ、缶バッチ)の販売を行なっています。10月には文藝春秋・担当編集者との対談PDF「編集者の醍醐味〜絲山秋子との13年間」の有料配信を始めました。これまでの作家のイメージとは一線を画するスタンスです。

ラジオの経験が変えたもの

誰かに見られて仕事をすることに抵抗感はないのでしょうか。この質問に絲山さんは「ラジオをやっている経験が大きかったです。高崎駅構内にあるラジオブースは公開されていて、毎回いろいろな人が見ていきます。その点、慣れがありました」と答えました。

東京で生まれ育った絲山さんを群馬と結びつけたのは、勤めていた会社の高崎営業所への転勤、そして趣味の乗馬でした。躁鬱病の発症により休職、退職して作家になった後、2005年に高崎市に完全移住しました。その翌年からFMぐんまにレギュラー出演し、2015年10月からはラジオ高崎の生放送「絲山秋子のゴゼンサマ」(金曜5:45~)のパーソナリティを担当。今年11月からは同局「Air Place」(火曜16:00~)にも出演しています。「薄情」「ばかもの」など群馬を舞台にした作品も多く、高崎経済大学の非常勤講師をつとめ、地域密着型の作家と言えます。

「ラジオのリスナーやファンの方たちには、これまで知恵をおかりしたり、励ましてもらったりしてきました。ラジオが自分を変えたところはあります」と絲山さん。フリッツ・アートセンターでの自作の朗読会も、ラジオでの朗読の経験がいきているそうです。今後の展望をたずねると、「少し前に敷島公園でやった一箱古本市、自分で本を売るのが楽しくて楽しくて。全国各地に出かけていけたらいいですね。読者やリスナーの方たちとの直接の接点はもちつづけたい」と話してくれました。

秋山さんの来房は毎月第1土曜が目安で、絲山房Twitterで予告があります。夕方からは「夜の絲山房」と題して朗読会や親睦会(有料、予約制)が開催されることもあります。次回は12月3日の予定で、Twitterには「……やるのか。真冬の外鍋‼︎」どんな会になるのか楽しみです。

フリッツ・アートセンター

群馬県前橋市敷島町240-28

11:00-19:00、火曜休(祝日の場合は翌日休)

theplace1985.com

絲山房 twitter.com/itoyamabow