この本を読む以前、いくつかの例外を除いてJポップなんて恋愛とか友情とかを甘ったるい詞ばっかりで聞くに堪えない音楽ばかりだと思っていた。でも丁寧に読み砕いていくと、深く考えさせられる歌詞がたくさんあることに気づかせられた。
例えば戸谷先生⁉︎は、乃木坂46の「君の名は希望」では透明人間と呼ばれていた僕の存在に気づいてくれた君、そして新しい自分を発見する僕について、宇多田ヒカルの「誰かの願いが叶うころ」では、みんなの願いは同時には叶わない、自分の幸せはあなたの幸せと同じじゃないという悲しみと救いについて、東京事変の「閃光少女」ではバタイユのいう目的と手段の関係では捉えることのできない価値を持った瞬間を考え、SEKAI NO OWARIの「RPG」では「決断の本質とは、決断がその決断をした人間の人生を表現する」というヤスパースを引き合いにだすなど、Jポップの歌詞に内包する人間に様々な問題を掘り起こして、哲学者の言葉と共に考えていく。
もっとも旋律やリズムなどの音楽全体が好きになったわけじゃないし、ゲスの何とかというのは嫌いだし、AIの「Story」は「アナタ」と「あなた」と「キミ」がどういう関係なのかわからなくてややこしかったが。
次はハンナ・アーレントを読んでみたくなった。
ひとついいたいことがある。それは本文印刷の悪さだ。文字全体にアミがかかっているみたいにかすれていて、シャープさが全くない。まるで古いものを画像にしたような読みにくさだ。