国書刊行会の本

天界の眼: 切れ者キューゲルの冒険

天界の眼: 切れ者キューゲルの冒険 ジャック・ヴァンス

歳を食って元気がない太陽が照らす遠い遠い未来の地球。科学が力を失って、魔術が復権した世界の中、とある町にある高名な魔法使いの屋敷に忍び込んだ切れ者キューゲルの運命やいかに。 切れ者とは名ばかり、完全なる自称なんだけど、名乗りというのは便利なもので、名乗りさえしたらばオイラも今日から芸術家ってなわけで、切れ者キューゲルは腹の中にいらざる相棒を抱えながらグダグダな冒険を繰り広げるのであった。意地汚くて小狡いまったく共感できない小物感満載の主人公でありながら、奇想だらけのあれこれに翻弄されるのがなかなかに痛々しくもあり、可愛げもないのにこれまた可愛らしくもある。最後のオチは言わぬが花かとは思うが、同情しつつも笑ってしまった。作者ヒドス。

誰がスティーヴィ・クライを造ったのか?

誰がスティーヴィ・クライを造ったのか? マイクル・ビショップ

やっと出たドーキー・アーカイブ4冊目。刊行ペース遅すぎませんか? でもその分?今回も秀逸。亡き夫が買ってくれたタイプライターが未亡人ライターに反旗を翻し…というホラーのメタ・パロディ。これがパソコンだとハローワールドってなもんなのかもしれないが時はワープロが出始めた80年代。 反旗を翻したタイプライターは勝手に主人公の悪夢を綴り出し、やがて書かれたものと現実が綯交ぜになって区別がつかなくなるという恐怖。 なによりも怖いのはこの入り組んだ構造を読者として読んでること。小説内では現実世界とタイプライターが描く世界は存在の階層が異なっているから登場人物は現実と区別がつかない悪夢に苛まれたりしつつも、書かれた世界と自分が立っている世界の隔絶を無意識的にわかっているはずだ。それに対し、読者はメタレベルな立ち位置にいるがために、却ってどっちがどっちなのかにわかには判断できなくなっていく。書かれていることがタイプライターの生み出す悪夢のように思えても、それを確実に知ることができなくなる。なんたって小説内ではどんなことだって起こりうるのだから! 原著はあのアーカムハウスから出ているが、何の因果か時代に埋もれてしまったらしい。著者による後日談も含めてサービス旺盛な一冊。

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タロットの宇宙

タロットの宇宙 アレハンドロ・ホドロフスキー

小さいけれども、ピラミッドと同等、あるいはそれ以上の地球における宝にタロットがある。 今は占いに堕してしまっているものの、やはりそこには真理の物語が幾層にも編まれているのであろう。 おそらく人の発明品というよりは、そのように見せたヒューマノイドを当てはめる物語焼き機に近い。 アルカナをポケットに。 さすれば君の一期もそのカード一枚に近づくのかもしれない。 #リジチョー。

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珍説愚説辞典

珍説愚説辞典 J.C.カリエール

本の紹介文 世界史や個人の伝記にまつわる、わけのわからない言葉、間違い、莫迦げた考え、大胆すぎる仮説を含み。さらに、かなりの数の愚かしい言葉、ありとあらゆる種類の狂気や空想、空疎な駄弁もあり。

スペース・オペラ

スペース・オペラ ジャック・ヴァンス

スペースオペラといえば、昼下がりの安っぽいメロドラマ、ソープオペラと同じく、ヒーローが大活躍する、粗悪というかあまり出来のよろしくないSF宇宙活劇をさすちょっと意地の悪い言葉だが、それをストレートにひねらずーーいや、逆にひねったのかなーー宇宙を旅する歌劇団の物語にまんまと仕立てあげてしまったブラックユーモア炸裂の表題作を含むアンソロジー。もちろんユーモアだけではなくて全くの異世界文明との相互理解の可能性について、レムなどにも見られるような鮮やかや思考実験がとても心地よい。表題作もギャグ満載で楽しかったが、異性の海の鈍重そうな生物とのコミュニケーションを描いた「海への贈り物」が出色。著者は元船員だったそうで、その経歴も迫真の描写に役立ってるのだろう。最後のシーンは予想されることだとしても胸が熱くなる。 このアンソロジーはシリーズだそうでこれが3巻目の完結編だそうだが残りも読んで見なくては。

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レッド・ダート・マリファナ

レッド・ダート・マリファナ テリー・サザーン

テリー・サザーンの短編集。アレン・ギンズバーグやウィリアム・バロウズと仲が良かったから気にいると思う、と薦められて読んだら大正解。麻薬の煙に巻かれてくらくらしている間に何度もスウィングを繰り返していく内にどこかへ放り出されるような感覚に陥る。読んでいる間に起こる陶酔と、読み終わった後の寂しさがまさに麻薬的な楽しさを秘めている。ケルアックの『オン・ザ・ロード』へのラブレターのような『地図のない道』がとても良かった。しかし一番はやっぱり『ヒップすぎるぜ』だと思う。あれは切なくて苦しくて、自分みたいなビートもどきが読んだらそのまましばらくあの世界から抜け出せなかった。

虚像淫楽

虚像淫楽 山田風太郎

晩春の夜更け、聖ミカエル病院に瀕死の女性が担ぎこまれた。女はかつて病院で看護師を務めていた森弓子で、昇汞を呑んでしまったという。千明医学士は手当てを始めるが、弓子の肢体に数条のみみず張れを発見する。直後、弓子の夫が同じく昇汞を呑んで自殺。夫婦に何が起こったのか?刻一刻と弓子の様態が悪化する中、驚愕の真相が明らかになる…(『虚像淫楽』)。探偵作家クラブ賞受賞の表題作を含む初期ミステリー傑作選。

さらば、シェヘラザード

さらば、シェヘラザード ドナルド・E・ウェストレイク

作家志望の夢破れてポルノの代作を手がける主人公。いちおう少しは売れて金にはなって生活は安定するものの、実際のところポルノ代作にはフラストレーションがたまるばかり。しかもいまはスランプという最悪な状況。そんなときにはなんでもいいから書くしかない、と人生の不満やらありもしない情事を書きなぐるが、やがてそれと肝心なポルノが境界なく混じり合う。そして原稿に書いたことが原因で作家本人にも大問題が持ち上がるが、それも原稿の中のことで、どこまでが現実なのか、フィクションなのか、いわばメタフィクションになるがそのメタフィクションにさえも自己言及するメタメタフィクション。 聞けば著者はミステリ界では名だたる有名作家で、本作はミステリの枠を飛び出した名作と言われながら、マニアックすぎるし売れないだろうというので邦訳が一向に出ず、名前ばかりが知られた作品だったらしい。 そんな迷作?を、しかも50年近くたってんのにさらりと出しちゃうドーキーアーカイブはすごい。

すべての終わりの始まり

すべての終わりの始まり キャロル・エムシュウィラー

短編集。SFというかファンタジーというか。話によっては宇宙人や想像上の生き物なんかが出てくる。どの話も中心人物、または生物は孤独で、その人たちが同じ種、または異なる種である他者と関係を持つ、という展開が共通している。 面白かったかと聞かれると答えに詰まるし、万人に勧められる本でもないと思うけど、とても心に残っているし、忘れられないなんとも不思議な感覚にさせられた小説。

ふたつの人生

ふたつの人生 ウィリアム・トレヴァー

アイルランドの短編作家のちょっと長めの作品二つを収めたものでいずれも女性が主人公。一つ目の「ツルゲーネフを読む声」は結婚していながらも早生したいとこに想いを持ち続けて施設に入れられた女性の話、ということだったが、自分が読んだ限りむしろ間違った結婚の結果、精神を蝕まれた女性が早生したいとこを記憶の中で美化した話、としたほうがぴったりくる感じだった。アルコールの問題を抱えた夫、底意地の悪い小姑達、徐々に没落していく家族の地位(解説によるとアイルランド特有の宗教問題も背景にあるやうだ)の中で破壊されつつもそれにあがらっていく女性が痛々しい。もう一編の「ウンブリアの私の家」はイタリアの屋敷を買ってそこをこじんまりとしたホテルにしている女性作家が主人公。テロに遭遇し生き残った作家は同じ事件の生き残りたち〜家族を全部失った少女、老人と恋人と自分の片腕を失った青年の三人〜をいったんホテルに引き取って同居をはじめる。作家自身も壮絶な前半生を送っておりその結果が彼女を作家たらしめているのだがその想像力が生き残った人たちとの交流の中で思わぬ方向に向かっていき…という話。少女をアメリカから迎えに来た叔父とのやり取りは正直かなり読んでて辛かった。実力あるし面白いんだけどそれ故に嫌な話はとびきり嫌になるということが分かりました(笑)

火の書

火の書 ステファン・グラビンスキ

『動きの悪魔』『狂気の巡礼』に続く作品集。当時のエッセイやインタヴューも収録されていて、グラビンスキの人柄が少しわかるのが嬉しい。 幻想、ホラー、オカルト、退廃…理想的なバランス。

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日本猟奇史 全4巻

日本猟奇史 全4巻 富岡直方

いわゆる猟奇という言葉で括られるエログロ狂気な話が中心では無く、市井の人々が体験したであろう不思議な話ばかりを集めたもの。時代は変われども、同じような不思議な事項が出てくるのも面白い。現代でもまことしやかに語り継がれる都市伝説は、いつの世も。

未来への狼火

未来への狼火 太田市美術館図書館

この本、恥ずかしながら群馬の太田市美術館図書館で買ったものではなく、さいたま市大宮区のジュンク堂大宮タカシマヤで買った。本当は現地で買いたかったが、そうはいかない理由があって大宮で買う羽目になった『現地まで行かなくても買えた図録』になる。図書館にカフェ付のデザイン豊かな美術館が太田駅降りてすぐにできた。この図書館と美術館、これから一体となって、どんな賑わいを見せてくれるのかを示してくれる。狼火が燃え続け消えることなく、続けて欲しいと願いたい。

音楽と沈黙 1

音楽と沈黙 1 ローズ・トレメイン

まず、カラヴァッジォのカバーが素敵だと思う。デンマーク国王謁見室の真下にあるワイン貯蔵室には宮廷楽団が待機していて国王の命令で音楽を演奏する。そこにたどり着いたリュート奏者、ピーター・クレア。ジョン・ダウランドのリュート曲を聴きながら読みました。

鳥の巣

鳥の巣 シャーリィ・ジャクスン

これほど語りと構成が巧みな多重人格ものは読んだことがない。技巧的なエンタメ、のようで、割り切れない結末。唸る。

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