早川書房の本

暗殺者の追跡 上

暗殺者の追跡 上 マーク・グリーニー/伏見 威蕃

当代最高のアクション・シリーズの一つ。簡単に言うと小説版ゴルゴ13。元々は軍の特殊部隊出身でCIAの秘密部隊のエースだった主人公。グレイマンと渾名されるとおり至って目立たない男なのだけど戦闘力は凄まじい。元々は古巣のCIAから身に覚えなく「見つかり次第射殺」という扱いを受け殺し屋をしながら世界中を逃げ回っていたのだけれど、陰謀を暴き古巣との関係が改善されて、今はCIAの外注工作員として活動しているという設定。今回は情報漏洩対応のためアメリカに呼び戻される途中でCIAの専用機にたまたま乗り合わせた囚人が謎の集団に攫われたため急遽そちらを追うことになり、一方で何作か前に登場した元ロシア対外情報庁の女性将校はCIAの保護を受けていたがあるきっかけで逃亡しておりやがて二人は一緒に巨大な陰謀に立ち向かう、という話。主人公の立場を大きく変えることでシリーズのマンネリ化をうまく避けた感じ。息もつかせぬアクションとはこういう作品のことで最後は主人公たちが勝つと分かっていても続きが気になって一気に読んでしまう。こういう作品では往々にして主人公がスーパーマン過ぎて荒唐無稽になりがちなのだが主人公を適度にコテンパンにさせたり愚痴らせたりさせることでそのあたりも巧みに避けている。出世主義者で主人公たち工作員を毛嫌いしているにも関わらずいやいやCIA側の窓口をさせられている女性幹部もいい味を出していて本来殺伐とした物語にいいアクセントをつけている。やはり巧い作家。次作も楽しみでならない。

マンハッタン・ビーチ

マンハッタン・ビーチ ジェニファー・イーガン/中谷 友紀子

第二次世界大戦の混乱の中にあるアメリカで女性潜水士を目指す主人公アナと、彼女の人生に影響を与えた2人の男の物語。 1人は母とアナ、障害のある妹を残して5年前失踪した父エディ。 そして父の雇い主で、その行方を知っているはずの男、ギャングのボスであるデクスター。 父の行方探しと、当時は前例のない女性潜水士を目指すアナの挑戦と成長という2つのテーマを主軸に、なぜ人は時に大切なものを見失ってしまうのかという問いが繰り返される。 著者は、当時のニューヨークの街や裏社会のディティールを、3人それぞれの視点で音が聞こえ匂いまでしそうなくらい丁寧に描き込み、読者を深く深く物語の世界に誘う。 それは、まるで潜水士がひとりで海底に降りていくような、忘れがたい、誰とも分かち難い幻想的で不思議な体験だった。

危険なヴィジョン 3

危険なヴィジョン 3 ハーラン・エリスン

まさか生きているうちに「危険なヴィジョン」が完全版で読めるとは思わなかった。長生きはするものだ。 ニューウェーブの起点となったアンソロジー、「ふたたび」も出して欲しいが、無理だろうなぁ。

IQ2

IQ2 ジョー・イデ/熊谷 千寿

前作が荒削りだったもののなかなか面白かったシリーズの第二作が早くも出たので。前作の解説によるとシャーロック・ホームズ的な頭脳派探偵を現代のロサンゼルスでかつ黒人という設定で描こうというものらしい。本作では非業の死を遂げた兄の彼女からギャンブル中毒から窮地に陥っているらしい妹を救ってほしいという依頼を受けた主人公が腐れ縁の相棒を連れてラスベガスに乗り込み、という話。ロサンゼルスのラテン系ギャング団、ギャング団の資金洗浄をするルワンダ出身の投資家、ラスベガスの高利貸し、中国系マフィアが入り乱れて、更に主人公の兄の死の真相を探る動きまで盛り込まれての少々詰め込み過ぎな感のある内容。しかし前先よりもミステリやアクションとしては洗練されていて面白く読めた。残虐シーンもけっこうあるし救いのある物語でもないので万人におすすめできるものではないですが。

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ヒッキーヒッキーシェイク

ヒッキーヒッキーシェイク 津原泰水

引きこもりが、「不気味の谷」を越えるために、立ち上がる?さらさら読んでると、途中で誰の話をしてるかのか、など?になるけど、全体としては面白かった。後味が良かったです。

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三体

三体 劉 慈欣/大森 望

一週間かかってようやく読了。 同じような質量の天体が三つあった時、その軌道は極めて不可解なカオスなものになる。予測するのは不可能で、天体力学上、古くから人類を悩ませてきた難問の一つらしい。 もし太陽が三つある惑星系に、知的生命体がいたらどんな進化を遂げるのか?この作者独特の切り込み方が興味深い。 なかなかエンジンかからなかったけど、VRの話から俄然面白くなる。始皇帝のアレは、中国SF作品ならでは。白髪三千丈的な大風呂敷で、メチャわくわくさせられた。 まだ序章部分で、あと2冊あるらしいので続きが楽しみ。

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雪が白いとき、かつそのときに限り

雪が白いとき、かつそのときに限り 陸秋槎 / 稲村文吾

雪に閉ざされた密室の中で死んでいた一人の少女。 5年後、生徒会長の馮露葵は、友人の顧千千共に事件の謎を解くべく動き出す。青春の蹉跌と絶望を描いた佳品。 中国人作家による本格系学園青春ミステリ。学園ものなので、固有名詞置き換えたら、日本の話としても違和感なく読めそう。 書店でなかなか探してもないなと思ったら、ポケットミステリレーベルから出てた。縦長の判型、黄色い小口が青主体のカバー絵とマッチしてなかなか良い感じ。絵師ガチャにも成功していて、これは欲しくなる装丁だと思う。 これからの季節に読みたい一作。 姚漱寒の静かな諦観が心に染みる。人生最高の時を過ぎても人生は続いていくと言う事。彼女の昔の話を読みたくなる。

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雲雀とイリス

雲雀とイリス 五代 ゆう/天狼プロダクション

グインサーガ 146巻。 雲雀→マリウス。イリス→オクタヴィア。 ということで、今回は別れた夫婦の再会話。表紙絵もそんな感じのテイストになっております。 歳月とは恐ろしいもので、マリウスはパロの第一王位継承権者。オクタヴィアはケイロニアの皇帝にと、立場の変化が激しい。

ファミリーランド

ファミリーランド 澤村伊智

6話からなる連作短編集 今回は幽霊や祟りといったホラーではなく 近未来がこうなったら怖いなというゾッとするホラー ネットの普及で割となんでもできそうな現代だからこそ ありそうな、可能になりそうな話ばかりで こうはならないようにと祈るばかり

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フランス鍵の秘密

フランス鍵の秘密 Gruber, Frank

巨漢探偵とのことですが、それ程ではなかったかな。凸凹コンビが楽しくてサラッと読めました。この時代の雰囲気がいいですね。映画化もされてるみたいですね。

モスクワの伯爵

モスクワの伯爵 エイモア・トールズ/宇佐川 晶子

今のところ今年のベストかも。素晴らしかった。物語はロシア革命後のモスクワで「貴族であること」を理由に伯爵が銃殺刑の判決をうけるところから始まる。過去の功績…最後の方でそれがなんだったのか分かる…により住んでいるホテル(メトロポール!)から一歩でも出たら銃殺、に減刑され、それまで住んでいたスイートから屋根裏部屋に追いやられる伯爵。そこから32年間にも渡る軟禁生活が始まるのだが…逆境にもめげず(まぁ蓄えもあったからだけど)従来のライフスタイルを変えず優雅に暮らす伯爵。32年もあるとホテルの外では…特にそれが革命後のロシアであったりした場合にはいろいろなことがあって…毎日、高級レストランと高級バーで食事をし毎週馴染みの職人に髪を整えてもらい来客をもてなし、という優雅な伯爵の毎日にも様々な出来事があって、という話。経験から来る知識と社交力でホテルの給仕長になってしまう伯爵のキャラクターが素晴らしい。凄くブラックな背景が垣間見れるのだがさりげなく織り込んであるところが良い。いつのまにか"娘"までできてしまう伯爵だがこのまま優雅な日々を送りました、で終わるのかと思ったら…という展開も見事。ほんとに良い作品だった。いわゆる小説好きの方には強くおすすめします。

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パリ警視庁迷宮捜査班

パリ警視庁迷宮捜査班 ソフィー・エナフ/山本 知子

パリ警視庁の37歳の女性警視正、アンナ・カペスタン。 スピード昇進のチャンピオン、同世代の星と言われた彼女は過剰発砲で停職6か月を言い渡され、私生活では離婚の憂き目に合う。 彼女は、パリ一区にあるオンボロのアパルトマンの一室で迷宮入りとなった事件の捜査を行う「特別班」の責任者として復職することになったのだが、そこに配属されたのはいわゆるはみ出し者の警察官ばかりで…。 お堅い警察物かと思いきや、皮肉やユーモアに溢れた会話や次々に起こる予想外のトラブルにただただ楽しくページをめくる。 この特別班に集まった刑事たちの「はみ出し」理由がそれぞれ個性的で、バディを組んだ相手が次々に不慮の事故に遭い誰も組みたがらない別名「死神」とか、人気警察小説を執筆している刑事とか、ハンドルを握る時だけ心が安らぐというスピード狂の刑事とか…。 いいなと思ったのは、カペスタンが彼らの特殊事情や背景を拒絶することなくとにかく受け入れる姿勢(そうせざるを得ないとは言え)。 どんな人間であろうと、心温まる交流はなくとも、とりあえず受け入れてもらえる「居場所」があるというのは大切なんだと改めて感じる。 こんな肝の太い上司の下で生き生きと働く変わり者たちの物語、面白くないわけがないのだ。

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七つの殺人に関する簡潔な記録

七つの殺人に関する簡潔な記録 マーロン・ジェイムズ/旦 敬介

 700ページの大作、書籍というよりは壁もしくは鈍器といったほうが良い「七つの殺人に関する簡潔な記録/マーロン・ジェイムス」です。よくこんな本出す気になったな早川書房。しかも、中は二段組みで書かれており、正味2倍の容量。そして、忍び寄る老眼によってぼやけて見えるため、攻略難易度が異常に高いのが特徴です。いやー、時間かかりましたよ読むの。3か月はこれにかかりきりでした。  ジャマイカの英雄、ボブ・マーリーにまつわるお話なのですが、(まつわるといっても本人は全部で10行くらいしかでてこない)、なんというか凄すぎて興奮が止まりません。「ナルコス・ジャマイカ編」とでもいえば良いのでしょうか。様々な登場人物が織りなす、スーパーバイオレンス群像劇。ドンパチとドラッグによる酩酊の中に潜む人間模様が深く、出てくるキャラクターの魅力がガルシア・マルケスmeetsNetflixとでも言いましょうか物語をグイグイとドライブしていきます。  このボリュームだからこそ出せる小説の良さがここにはあります。人と人の関係が折り重なり、事件と事件が交錯し、場所と場所を移動し、時間と時間を繋げて、デォテールまでこだわり、多層で豊穣な物語にするにはこれくらいないと中途半端になってしまうでしょう。  他の小説家もこのくらい長いのを読者無視して書きたいのでしょうが、編集やら出版社やらに反対されて折れてしまったりするはずです。そこをかいくぐってこのボリュームで出版されたことに拍手です。映画でいうと濱口竜介「ハッピーアワー」どころかタル・ベーラ「サタンタンゴ」くらいの重厚作品、皆さんたじろがずチャレンジしてください。本気で面白いです。

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水晶宮の影

水晶宮の影 五代 ゆう/天狼プロダクション

グインサーガ40周年。栗本薫没後10年。続篇15巻目と、節目の一冊。 栗本薫時代から続いていたヤガ編がようやく終了。こんなに引っ張るような話だったかは正直微妙。。 ザザの黄昏の国経由ワープが便利過ぎるような。ほとんどどこでもドア的に使われている感じ。 グインはふたたびクリスタルに潜入。ようやく「あのお方」と対面するのかな?アウロラちゃんは今ひとつ、なんでついてきてるのかよくわからん。 今のクリスタルは素人が来てどうにかなるところじゃないと思うんだけど。

三つ編み

三つ編み レティシア・コロンバニ/齋藤 可津子

人間の運命に影響を与える要因の中でも「どこの国に生まれたか」というのはかなり決定的なものだと思う。 本書では、3つの国に生まれたそれぞれの女性の苦悩と境遇との闘いが描かれている。 不可触民として他人の糞尿を処理しながら差別とともに生きるインドのスミタ。 伝統的な父権的社会で生まれ育ち、思いもかけない父の事故によって家業の存続の危機に直面するイタリアのジュリア。 競争社会を勝ち抜き誰もが羨む地位を得ながら、突然の病に襲われ、仕事を失い孤立するカナダのサラ。 彼女たちはそれぞれ生まれた国に固有の伝統や慣習、そして女性差別によって一見無謀で無益とも思える闘いを強いられる。 先人たちが、文字通り命をかけて少しずつこじ開けてきた風穴。 彼女たちの勇気が、闘いが、さらに壁を穿ちその穴を広げる。 そしてそこを目指して人は後に続く。 闘いは至る所で行われ、誰もが孤独なようで、でも決して一人ではない。

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