朝日新聞社の本

毒ガス開発の父ハーバー : 愛国心を裏切られた科学者

毒ガス開発の父ハーバー : 愛国心を裏切られた科学者 宮田親平

第一次大戦でドイツ軍が毒ガス攻撃を行ったことはよく知られているがその開発の指揮をとったのがユダヤ人の科学者だったという皮肉に興味を惹かれて手にとってみた。冒頭から日本の函館が舞台となり驚かされたが科学者の叔父は外交官として開国間もない日本に赴任し通り魔的に不平士族に斬られて日本で亡くなっていたのだという。大気からアンモニアを取り出す技術を開発し後にノーベル賞を受賞した科学者の生涯がまさにドイツという国の興亡を象徴していることに驚かされる。元々、宗教に寛容なプロイセンがドイツを統一するとともにユダヤ人たちも国家建設及び経済的に社会進出を果たし、豊かな商人の息子も科学者となる。国家としての統一が遅れたため帝国主義的に出遅れたドイツが科学技術により国力を増大していく中でユダヤ商人の息子も優れた科学者としての能力でのし上がっていく。そして国を挙げての戦争に於いて原爆を開発した人たちと同じ理屈で人道的な兵器としての毒ガス開発に手を染める。祖国の敗戦による混乱、自身の戦犯指定も切り抜けノーベル賞も受賞した科学者だがナチスによって国を追われてしまう。ドイツの興亡と波乱に満ちた科学者の生涯が分かりやすく描かれておりかなり良い作品でした。面白かった。

書芸閑話

書芸閑話 李家正文

古代から現代までの書家についての、これでもかというぐらい濃厚な蘊蓄を、粋な文章でぐいぐいと読ませる随筆集。二部に分かれてます。聖徳太子・光明皇后・小野篁・藤原定家とくる日本編もいいけれど、この本の真髄は中国編。李斯・鍾繇・王羲之ら、最早真筆とされるものの存在しない書家について、この本が出版された昭和45年当時の日本の話題を取り込みながら、図版を多量に添えてじっくりたっぷりと語ってくれる。著者検印の代わりに〈著者花押〉のおまけ付き。著者は生前便所の歴史研究で知られたそうで、そちらの仕事にも触れてみたい。

明日があるさ

明日があるさ 重松清

重松清のエッセイ。子供や配偶者など、いまの「自分の家族」ではなくて両親など、いまでは過去となった「自分の家族」がメインかな?30歳くらいになるとこの気持ちになるのかなぁ。

殿様の通信簿

殿様の通信簿 磯田道史

「武士の家計簿」の著者です。 殿様達も内緒で評価されていたのですね。そのような書物がある事にビックリしました。

大人のお洒落

大人のお洒落 石津謙介

おしゃれの本質ここにあり。 雑誌を見て最新のファッションを勉強するのも凄くいいことだけど、時には一つ一つのアイテムに気を配るのことも大切。知恵を使っておしゃれをする。これが大人のお洒落なのだそう。 本書にはそんな話が面白おかしく書かれている。 1988年発行だけど、全く古びない。 むしろ今の現代にとてもよく当てはまってるような気がするなあ。

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快適生活研究

快適生活研究 金井美恵子

雑誌トリッパー連載時より気になっていた金井さんの最新作です!これが読める幸せ! 時々気になる特集をトリッパーがやっていても金井さんの所を読まない様にするの大変(ホントはちょっと読んでしまう事もあって、後で後悔したりしました)でした。 今回と今までの金井さんの作品の1番の違いは連作であるという事です。 もちろん、いつも通りにこれまでの作品に出ていた登場人物(桃子や花子や小説家のおばさん、勉に桜子)が出てきます、それも新たなキャラクターと都合良く絡まって細かい編み目のタペストリーを形成しています。 もちろん今までの目白4部作を知らなくても読めるとは思いますが、面白さは半減してしまいます。 是非、目白4部作(『文章教室』、『タマや』、『小春日和』、『道化師の恋』の4作)とその続編『彼女(たち)について私の知ってるニ、三の事柄』を読んでからをオススメします! 独特の文章を使っての(私はいつも金井さんの独特のセンテンスは思考に似ていると思ってます)鋭く、細やかな観察眼とそれをそれぞれの登場人物から見た変わった切り口で語ってみたり、普段は感じない世間の低俗感覚をあからさまにあらわしてみたり(まさしく「裸の大様」みたいに素直に事実を指摘してみて)、それがいかに滑稽な事かを気づかされたりします。 そのときの事もまた近々ご報告出来たらと思います。 2006年 10月

スターリングラード 運命の攻囲戦 1942-1943

スターリングラード 運命の攻囲戦 1942-1943 アントニー・ビーヴァー

前からこの戦いには興味はあったのだが内容が重たいはずなのでなかなか手が出なかったのだが...ヴァージン・グループのリチャード・ブランソンが愛読書として挙げていたので手にとってみました。独ソ戦の趨勢を決め、第二次大戦全体にも大きな影響を与えたスターリングラード攻防戦。両軍合わせて200万人以上が戦死、60万人いたスターリングラードの人口は攻防戦後1万人を割っていたという凄まじい戦い。しかもこの中にはドイツが進軍してくる途中で略奪を働いたりして犠牲にした民間人の犠牲者は含まれていない。元々なぜこの都市を巡ってそこまでの死闘を繰り広げたのか、が個人的には謎だった~モスクワやレニングラードなら分かるけども地味な街だし~のだがカフカス地方の油田を占領したかったヒトラーがその玄関口でありスターリンの名を冠したこの街の獲得に意欲を燃やしたこととあくまで街の死守にこだわったスターリンの意地の結果だということが分かる。カフカス地方を攻略したければ両軍ともに別のやり方があっただろうしここまでの犠牲を出す必要もなかったはず。それ故に全体主義と独裁制の愚かさがこれでもかと言わんばかりに伝わってくる。作者はイギリス人だからか独ソ双方をそれぞれ冷静かつ厳しい目で見ている。捕虜の過酷な運命などは目を背けたくなるし、守るべき住民がそばにいたほうが兵士も力を発揮する、と民間人の避難を許さなかったスターリンや、軍に玉砕を求めるヒトラーなどの異常な話は読んでいて苦しくなるほどだけどそれでも読み応えがありました。たしかに凄い作品。

印度動物記

印度動物記 藤原新也

ノンフィクションだと思って読んだらフィクションでした。ノアがなんだかよく分からないような分かったつもりでもそれがなんなのか、説明出来ない。 漫画版ナウシカのような世界。

近代の秀句―新修三代俳句鑑賞

近代の秀句―新修三代俳句鑑賞 水原秋桜子

藤田湘子の俳句入門の本『20週俳句入門』で紹介されていた本。明治、大正、昭和の俳人の句を、藤田先生の師匠である水原先生が、解釈と批評で綴る。俳句に読み込まれた自然の美しさを連想し、言葉で写生した本である。俳句を作るときに、目の前の美しい自然の表面だけでなく深層の美しさをどのように感じ表現すればよいか、の勉強になる。

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キュア cure

キュア cure 田口ランディ

「コンセント」が、なかなか面白かったので、その後何冊か読んでいましたが、そのうち読まなくなってしまっていたのですが、今回は医療モノだったのと、友人にオススメされて読みました。 「コンセント」の時も思ったのですが、田口さんの小説を面白いとか、好きとか単純には言えないのですが、皮膚感覚の表現が上手い作家さんだと思います(セクシャルな描写や、粘膜的な描写や、精神錯乱の描写も、ワカラナイけれど、肯かせます)。で、だからこそ、そこにオカルト的なモノが入ってきても一定のリアリティや説得力を私は感じました。つまり、その部分に説得力を感じない方にはあまりオススメできません、また、どの作品でも、1冊読めば気に入るか、嫌いかがはっきり分かる作家さんだとも思います。 少し変わった感覚の持ち主で、外科医の斐川がガン患者として、今までと正反対の立場に置かれることで「治療=キュア」とは何か?医療とは?患者の立場に立つとは?生と死についても考えていかなければならないことになっていく葛藤が、エンターテイメントとしても、上手く描かれています。エンターテイメント性も考慮していますから(小説ですから、フィクションですから)、オカルト的なものも、小説の、エンターテイメント性の道具として、またその描写や考え方の面白さとして、纏められています。現実にオカルト的なモノを認める事はあまりありませんけれど、小説の道具として納得させられる上手さを持ち、説得力があるならば(あまりに都合が良いとイヤでも気になり小説に入り込まなくなりますから)私はオカルトを否定しません。そういう意味で上手いと思いました。そのエンターテイメント性が、ガンを取り巻く理不尽なまでの悲しさや苦しみを受け入れやすく、読ませやすくする効果も生んでいると思います。ガンになった患者のキツイ考えや受け取りを、真剣さだけでなく、伝えやすくしています。また、西洋と東洋の対比、合理と運命的、輪廻的なものとの対比など、2項の単純比較だけでない積み重ねが、私には良かったです。 ですが、死生観として何か目新しいものがあったか?と問われると、そこまでのものでは無いかな、と感じました。哲学的死生観や医療モノを少しでも考えた事のある方ならば1度は考えたものであると私は思います。エピローグももう少しカタストロフィがあって良かったと思います。 医療関係に興味がある方に、または生や死について考えてみたい方にオススメ致します。 2008年 4月

宙飛ぶ教室

宙飛ぶ教室 小倉千加子

名著「結婚の条件」の小倉さんの新刊で期待が大きかったので、ちょっと。 今回も目からウロコの話しもいくつかあるのですが、1番多くさかれているのは宝塚についてだったので、宝塚を見た事が無い私としては少しキツカッタです。もちろん私は歌舞伎も見た事ありませんけれど。 オンナとオトコの問題に詳しく、日常に感じる些細な疑問、あるいは晩婚化や少子化等の大きな問題にも鋭い分析と考察が素晴らしかった「結婚の条件」に対して本書は「宝塚」というモノにその視点が向いているため私個人として分からない部分が多かったと思います。ただ、女性が男役をやる事とその相手役を女役でなく、娘役とする宝塚の世界は恐らくまたちょっと変わった文化があるし、その変わった所に対する分析なのでしょうけれど、さすがに知識が無いので分からない部分が多かったです。 しかし、江戸時代の思想家「富永 仲基」の存在を知れて良かったです、もう少し調べてみたくなる人物でした。 宝塚を良く知っている方、その不思議さに興味のある方にオススメ致します。 2007年 8月

目白雑録〈2〉―ひびのあれこれ

目白雑録〈2〉―ひびのあれこれ 金井美恵子

金井さんの書かれる小説はセンテンスの長いのが特徴(もちろん他にもいっぱいありますけど、文章が読めるならば誰でもが分かる特徴の事)ですけど、これって頭の中で物事を考えているときの思考にそっくりで私ははまってしまったのですが、エッセイもまた凄いです。 切れ味鋭すぎる批評と言葉の選び方が絶妙です、鋭すぎてなかなか好きとカミングアウトしにくい(特に男の場合、金井さんは「男」には興味がないと、公言しておられます)作家です。 今回は2004年5月から2006年4月までの連載で、この約2年間を時事ネタをちょっぴり含みながらも、ほとんどは関係の無い飼い猫トラー(もう16才になるけど喧嘩もまだする老猫)や映画(ゴダールや成瀬巳喜男とか)やサッカー(どうもFCバルセロナがお好きで、チェルシーのえげつない勝利至上主義は嫌いみたいで、ロナウジーニョとアンリのファン)の話しです。 ほんとに鋭い批評性とその鋭さを自分にも向ける潔さとか、いろいろあるのですがとにかく一読をおすすめします。 特にやって欲しかったのは、自分のことをセクシーだと信じて(思ってるのではなく、信じて いるが笑える)いる男を南伸坊が「ホンニン」になってもらって写真を撮り、金井さんが文章を書く という連載です、(ちなみに記念すべき弟1回はラムズフェルドの予定)絶対評判の企画だと思うんですけど。 2006年 7月