東京創元社の本

内部の真実

内部の真実 日影丈吉

1944年。日本の植民地であった台湾で一人の軍人が死んだ。陸軍曹長と一等兵の間で起きた、色恋沙汰の果ての決闘騒ぎ。その結果としての死で片付けられる単純な出来事のはずだった。が。ありがちな密室殺人もののように幕を開けるが、日影丈吉お得意の民間伝承、純文学ネタがあちこちで暴発。人間関係も物語も錯綜し、あれよあれよというまに、パパイヤの濃厚な香り漂う亜熱帯を我々もさまようことになります。日影作品、ここのところ一年に一冊のペースで再刊されており嬉しい限り。

魔導の矜持

魔導の矜持 佐藤さくら

少しずつ好転していくイドラ。少しずつ暗転していくラバルタ。 ラバルタから始まったシリーズの軸が、逃げてくる四人の子どもたちの手でイドラに移動しつつあるように感じたけど、どうやら途中で手を貸してくれた二人の魔導士たちの帰還で二分したように思える。次は二軸で物語が展開されるかもしれないワクワク感のあるラストに、次回が楽しみになる。 ゼクスは前回で師匠に再開し、今回で「昔の自分」に似た子に出会ったことで、改めて自分を見つめたのかな?年齢の割に大人な役割が回って来がちなゼクスの伸びしろがまだまだたっぷりあるのも嬉しい。

赤銅の魔女

赤銅の魔女 乾石智子

「オーリエラントの魔道士」シリーズ。最新作〈紐結びの魔道士〉三部作の① オーリエラントのどの時代かなと考えていたら巻末に年表があった。 シリーズを読んでない方は、この〈紐結び魔道士〉三部作から読み始めても充分楽しめる。 シッカリした設定と際立つキャラクター。其々の特徴ある魔法。ファンタジーあふれる世界だが、フワフワしてないのが、私は好きだ。 悲しい事辛い事は、容赦なく起こる。魔法だろうが何だろうが人生ってそうでしょう。そして特殊な能力を持つ者は、只の人より苦しむ事が多くなるのだろう。紐結びの魔道士リクエンシスが、立ち向かわねばならない闇を考えると心が痛む。 リクエンシスが心惹かれる「赤銅の魔女」が、如何に成長するのか。「剣」と「呪い」の真相は?次が楽しみだ。

弁護士アイゼンベルク

弁護士アイゼンベルク アンドレアス・フェーア

ドイツミステリ。 主人公は刑事弁護士のラヘル・アイゼンベルク。 辣腕で知られる彼女だが、現在弁護士事務所を共同経営する夫が浮気して別居中、思春期の一人娘は学校で問題を抱え、家庭はトラブル続きだ。 そんな中、猟奇的な殺人事件が発生し、その容疑者として浮上したのはもと恋人の物理学者。 そして彼女は彼の無実を信じ、その弁護を務めることになる。 元彼の容疑を晴らすべく奔走する主人公の物語と、隣国から命をかけてドイツに入国しようとする母娘の物語が交互に描かれ、やがて思いがけない形で交差する…。 タフな主人公がブルドーザーのように強気でぐいぐい障害物を破壊しながら真相にたどり着くという流れは、最近内省的な主人公の物語を読むことが多かったのですっきりする。 主人公の嘘も方便、依頼人を無罪にするためには手段を選ばず、というガツガツしたプロとしての姿と、夫の浮気や娘の問題に動揺したまに自信喪失する姿が対称的で憎めないし可愛い。 二転三転する裁判にやきもきし、複雑な事件が解きほぐされる快感を楽しむ。 これぞエンターテイメントという一冊。

スタートボタンを押してください

スタートボタンを押してください ケン・リュウ

ゲームにまつわる12の作品が収められたSF短編集。 ケン・リュウ(「紙の動物園」など)や桜坂洋(「All YouNeed Is Kill」など)、アンディ・ウィアー(「火星の人」など)といった有名どころの作品は当然ながら、本邦ではあまり知られていない作家の作品もどれも個性的で魅力的だ。 これはお得感ある。 私にとってSFはどれも、現実にはあり得ないという前提からか、どこかせつなさを感じる物語で「お気に入り」の物差しもせつなさの質と量が基準になる。 その基準に従って、上記の3人の作品以外でいくつか本書から挙げてみると、 「1アップ」 「猫の王権」 「キャラクター選択」(一時期私もこういうマイルールでゲームをプレイしてました!) 「アンダのゲーム」 かしら。 ゲームにまつわるとは言ってもビデオゲームばかりでなく、どの作品で取り上げられるゲームも千差万別、荒唐無稽な設定で難解なルールもあったり、そのもどかしさがまた面白い。

2d8198c1 1600 48f1 87c7 bdb334078bf7894d171a b1a3 4e1f a614 e852f6a9356d9148469b e980 4b89 ac6b 247c6345b17dE9c257e5 bb3f 408b aa77 35d5517937d2De620377 d7b3 413f 908d dc24e769262a67df4434 6981 4a85 b6a5 9f0bcbf04f063d437fea 342c 4cf9 a28d 4d321b487c1a 21
玉妖綺譚3

玉妖綺譚3 真園めぐみ

シリーズの最終巻。 ついに謎の人 俊之 が戻り、くろがねが返ってくる。 初めてのくろがねの郷はとても美しく、きっとこの郷のように、くろがねは情のあつい玉妖なのだろう、と思った。それは多分、彩音に対してくろがねがかけた言葉にも現れているのだと思う。 様々な人が様々な思惑をもって巡らす謀を、彩音なりのやり方で解きほぐしていく(というか、突っ込んでいくというか…)姿が、あまりにもまっすぐで、でも、前のような危なっかしさはなくて。常に誠実であろうとする彩音が、瑞々しく描かれてる。

嘘の木

嘘の木 フランシス・ハーディング

おもしろかった!! ダーウィンが「種の起源」発表後のイギリス、科学と宗教が入り乱れている世界。高名な博物学者サンダーズ師の娘フェイスは、父の世紀の発見が捏造だという噂が流れ、家族でヴェイン島へ移住。 嘘を養分として実を成す「嘘の木」を隠す父の秘密を知り、父の死の真相を探るフェイス。 女の人が抑圧されているヴィクトリア朝時代、自分らしい生き方を探る少女の話!おすすめです。

C9122f84 1557 40e9 b322 503dae6a3797386d940a 86d7 4f64 8916 9e0d885103aeCe33d3c3 1158 4dac b7c1 c7e2ba370e63014253d4 6080 4951 9119 24735184a6965cc7980a 4cef 4104 80ca 8c4ee643fcc2Icon user placeholder08046b58 10fc 4538 ad28 8bc6ce8e348a 11
真実の10メートル手前

真実の10メートル手前 米澤穂信

太刀洗万智シリーズ!初見ながら、こんなに面白いのは久しぶりかもしれない。さすが旬な作家の手によるもの。まさに粒ぞろい!

E56631c9 fb84 4b0d bf25 cefa70d7355e5cc7980a 4cef 4104 80ca 8c4ee643fcc2242810c2 8f91 46d4 9b1c a8aa10baddaa07bf14c6 a1dd 4a1e 8c76 6a6d095ef89e
ギデオン・マック牧師の数奇な生涯

ギデオン・マック牧師の数奇な生涯 ジェームズ・ロバートソン

スコットランドの田舎町の牧師が失踪するが、その牧師はかつて誰も助かったことがない洞窟で遭難して3日後に奇跡の生還を果たして話題となった人物。失踪後に残されていた手記には、牧師にあるまじき行為が赤裸に綴られていた、というストーリーはほとんど手記で占められているけれど、狂言回し的な存在の出版社社長が語る手記発見のプロローグと、手記の存在を知らせた旧友のライターによる登場人物への取材記事の体裁を取ったエピローグによる枠物語になっている。この枠物語がまた曲者で、手記で語られていることが必ずしも取材の結果と一致しないために誰の言ってることが正しいのかがわからなくなる。そもそもこんな形で手記をわざわざ残すあたり、虚栄心も自己韜晦も大いにあるわけだけど、残された人物もどうなってるのか。悪魔の存在、そして牧師を試すために悪魔が出現させたという巨石。本人しか見てないのか、それとも。 ただスコットランドに詳しいともっと楽しめる要素んだろうなあ。これは読者の問題。

少女探偵の肖像

少女探偵の肖像 スーザン・カンデル

2018/5/14読了 途中まではなかなか話が進まなくて入り込みにくかったけど、後半からは事件のことで主人公のシシーが素人ながらに首を突っ込んで、引っ掻き回すのでスピード感が上がって読みやすくなった。推理ものとして期待して読むと面白くないかも。 子供の頃からナンシードルーシリーズが大好きなので、ストラテマイヤー工房とキャロリン・キーンの関係とか、そういう薀蓄系の部分が面白かったなー。

許されざる者

許されざる者 レイフ・GW・ペーション

スウェーデン・ミステリ界の重鎮の代表作で、CWA賞、ガラスの鍵賞など五冠に輝いたというのもむべなるかな。 主人公は、物語の冒頭で突然脳梗塞で倒れた元国家警察庁長官ラーシュ・マッティン・ヨハンソン。 命拾いをしてゆっくりリハビリに励むはずが、思いがけない主治医からの頼みで、迷宮入りとなった25年前の少女殺人事件の真犯人を探すことになる。 北欧ミステリらしい硬質な文章が、人間味にあふれた主人公、心配する妻やかつての相棒、破天荒な兄や捜査を手伝う義弟と謎めいた青年などの登場人物たちを軽快なテンポで生き生きと描写する。 死を間近に感じるヨハンソンが、一刻も早い事件の解決を願いつつ、一方で曲げてはならない刑事としての信念や正義のあり方を再確認していく過程が胸に響く。 また若い頃なら読み飛ばしていたような、さりげないシーンに表れる夫婦の心の機微や家族の温かさにも涙腺が刺激された。 最近読んだ本の中ではピカ一の面白さで、本邦初と聞き、出来ればシリーズ最初から読みたかったかなあとも思う。

夜届く

夜届く 倉知淳

日常に起こる事件というほどではないけどなんだか気になるモヤモヤを猫みたいな先輩が謎解きする短編6編。 どれもとても奇妙な出来事が、ほんとか嘘かはわからないけど聞いてみれば「なーんだ」という結論を猫丸先輩が導きだします。 読んでみれば面白いけれど身近にはいて欲しくないタイプの先輩ですね(笑)

B1af3c18 b6d4 4350 8e97 2d5137b6b5fb80d5593d 19b1 49a9 8089 776340a0d15a
ささやかで大きな嘘〈下〉

ささやかで大きな嘘〈下〉 リアーン・モリアーティ

騒々しいママたちのやりとりや我が子優先の自分本位な本音、そしてセレブママと懐が寂しいママとの経済格差や、離婚によって複雑になった家族関係…。 本書に描かれるのは嫌になるほど現代的な親子たち、主に母親である女性たちの姿だ。 著者は軽いコメディタッチでこれらを詰め込み、随所に笑いを交えてすいすい読ませてしまうけど、もちろん本書はミステリであり、殺人事件に至る深刻なトラブルと秘密が幼稚園内に存在していることを丁寧に描いていく。 例えば家族間で起こるひどい暴力や、大人と子どもの両方に起こる残酷ないじめ、モンスターペアレントの横暴や教師たちの疲弊…。 けれどニコール・キッドマンに自ら主演、ドラマ化すると決意させた本書の最大の魅力は、これが女性の友情と自立を描く物語だから、なのだと思う。 齢を重ねて感じる、大人の女性が主体的に生きるということ、そして誰かと繋がりながら生きるということの難しさと大切さ。 最後まで読むとしみじみとそれが分かる。 本当に、読んでよかった。

わたしの忘れ物

わたしの忘れ物 乾ルカ

大学で半ば無理やりに紹介された大型商業施設の忘れものセンターの期間限定バイト。 渋々働き始めた恵麻は、次々に持ち込まれる不思議な忘れ物と持ち主たちの「モノがたり」に触れ、次第に自分自身の大事な「忘れ物」に気づいていくのだか…。 「死んだ女より 悲しいのは 忘れられた女」 本書を読んで頭に浮かんだのはマリー・ローランサンの言葉だった。 何かを「忘れる」ということは、忘れられたモノにとっては自らの存在の意味を、支えを失ってしまうということなのかも知れない。 そしてそれは、とてもとても残酷なことだと思う。 廃校や廃墟、空き店舗や住民がいなくなった部屋などを見た時に感じる寒々しい気持ち、心細さ。 どのエピソードもドラマチックで意外性があり面白く読めたのだけれど、いかんせん存在感がないと自嘲している主人公にどうしても好感が持てず、残念だった。 設定上、仕方ないとは思いつつ、都合良すぎな周囲の人々にも突っ込みつつ、最後まで読んでしまった。

D664126d 99e3 4cd9 8ee7 bb9195810a3cC8afdf3a 9ef7 43bb 844c 873405613213
サーチライトと誘蛾灯

サーチライトと誘蛾灯 櫻田智也

5話からなる連作短編集 ホームレスを強制退去させた公園で起きた変死事件、観光地化に失敗した高原での密かな計画、街はずれにあるバーでの何気ないやりとりが引金となった悲劇、写真家志望の青年が起こした事件、隠された牧師の遺体が見つかった事件 それらを解決したのが 昆虫好きのとぼけた青年 エリサワ 人は見かけによらないなぁ バカっぽい人が実は賢いというか鋭いのはアリですね