白水社の本

バー「サンボア」の百年

バー「サンボア」の百年 新谷尚人

飲食店、それも洋酒を飲ませるバーで創業百年はほんとに凄まじいことだと思って手に取ってみた。作者は「北新地」「銀座」「浅草」でサンボアを経営する、暖簾分けシステムで現在14店のこのグループの中の第三世代に属する経営者。大筋では第二世代の経営者一族が殆どを経営しているこのグループの歴史は当然ながらどこかにきちんと記録されているわけではなく、口伝に近いいろんなエピソードを丹念に聞き取って神戸の片隅で生まれて戦争も乗り越え今日まで続く酒場の歴史をまとめてある。実は自分はそんなにサンボアには思い入れも無くたいして訪問したこともないが今度一度立ち寄ってみようかと強く思わされた。バーというのは特殊な世界で別に凄い酒瓶を揃えていたり凄い技術で酒を混ぜたりできるところが必ずしも良いわけだはなく、自分にとって居心地が良いか悪いか、が大事だと思っているのだが、その意味では一番重要なことはそこの空気感である、ということを改めて認識させられた気がする。

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死体展覧会

死体展覧会 ハサン・ブラーシム

悲惨、残酷、非情、暴力。これがイラクの現状か。現実に基づいて産まれた暴力性を感じる。これっぽっちの希望もない。悪夢のような小説、そしてそれがイラクの現実。 「自由広場の狂人」がお気に入り。

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新・装幀談義

新・装幀談義 菊地信義

P28 書店の偶然を伴った出会いによって本が買われる、そうした機会を捨てるわけにはいきません。ネット書店で買うことは、記号で買うことです。

写本の文化誌:ヨーロッパ中世の文学とメディア

写本の文化誌:ヨーロッパ中世の文学とメディア クラウディア・ブリンカー・フォン・デア・ハイデ

印刷術が発明される以前のヨーロッパ中世では本といえば当たり前だが写本のことであった。原本(もちろんこれも手書き)を一文字一文字書写するという手間からして、中世の本はきわめて貴重なものであったが、本書はこうした写本が社会に与えた影響を、その作り方や注文のあり方から、中世文学研究の最前線に至るまで丁寧にたどる。 書写という行為は原本に忠実であることを旨とはしながらも、原本をよりよくしよう、語り直そう、という精神が根底にあった。詩人たちもそうした伝統の上に立って古いテキストに新たな魅力を付け加えようと努力して、様々なバリエーションを生んできた。 現代のように原テクストを神聖化して勝手な異同を認めないとする著作権的発想とは根本的に違っていたわけだけど、作者なる概念は死んだとするポストモダン文学にも通ずる現代性も感じられたりするあたり、人間のやることは繰り返すのかも。 邦訳タイトルと帯の惹句からは写本づくりをめぐるあれこれのトリビア本というイメージだが、読み進めるうちにそれを大きく超えて、文学をめぐるヨーロッパ文化史の中に踏み込んでいるのを発見する。良い意味で裏切られる本。

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オスマン帝国の崩壊:中東における第一次世界大戦

オスマン帝国の崩壊:中東における第一次世界大戦 ユージン・ローガン

聖書と見紛うばかりの分厚さに怯んだが至って読みやすい作品。慣れない人名と軍事用語がやっかいで正直斜め読みしてしまった感があるので改めてじっくり読みたいと思う。不勉強なので第一次大戦にオスマン帝国が参戦していたのもたまたま同盟があったのと英仏が領土を奪いたくてなんとなく引き込まれたんだろう、くらいに思っていたのだが、そんな簡単なものではやはりなかった。同盟もそこらじゅうで領土を失い南下してくるロシアに対抗しようにも新興のドイツ帝国以外頼るものがなかった苦渋の選択だったことが分かる。不利な戦況を覆すためにオスマン帝国のカリフ位を利用し全世界のムスリムを蜂起させようと企てるドイツ、バルカンの領土が次々と独立しキリスト教国になっていくことからナショナリズムが沸き起こりアルメニア人の虐殺まで起こしてしまうオスマン帝国の苦悶、ポンコツ帝国となめられてた割に善戦するオスマン軍やトルコ民族への反感から英仏と結ぶも最後は裏切られるアラブ人など見どころはたくさん。いかにヨーロッパ中心にしか世界史を見ていなかったかということに気づかされた。

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フランス幻想小説傑作集 (白水Uブックス (71))

フランス幻想小説傑作集 (白水Uブックス (71)) 窪田般弥

フランスの文学といえばスタンダールだとかカミュだとかプルーストだとかが有名だが、その陰には素晴らしい幻想小説の書き手たちがいた。怪しげな雰囲気に浸りたいときに是非。 『人間喜劇』で有名なバルザックや『女の一生』『ジュールおじさん』で有名なモーパッサンが幻想小説を書いていたというのも驚き。新たな一面を覗ける。 ジェラール・クランの作品が気に入ったが調べてみたら邦訳は短編二つだけしかないらしく悲しい。原書で読むしかないか。

来てけつかるべき新世界

来てけつかるべき新世界 上田誠

高校生の時に当たった、 映画『サマータイムマシン・ブルース』の試写会。 これが僕と劇団ヨーロッパ企画の出会いでした。 09年『曲がれ!スプーン』の映画化がキッカケで、 本公演を毎年観に行くようになりました。 すでに10年以上応援し続けているヨーロッパ企画。 先日、昨年の本公演作である今作(作・演出 上田誠)が、 「演劇界の芥川賞」とも言われる「岸田國士戯曲賞」を受賞し、 戯曲がめでたく書籍化されました。 過去には三谷さんが『オケピ!』で同賞を受賞しており、 わが家に2冊並べられるのは幸福と言う他ありません。(ちなみに『オケピ!』の戯曲は希少本です) タイミングよく現在は、 上田さんが脚本を手掛けた、 映画『夜は短し歩けよ乙女』の公開中。 そして僕は書店員(新刊に異動したて)。 この好機逃してなるものか! 本日またもや文字びっしりのPOPを作成いたしました(笑) 物語の舞台は、近未来の大阪。 通天閣のたもと、新世界の一角。 ドローンや人工知能、 シンギュラリティなど、 最近話題のSF的要素をふんだんに盛り込んだ、 だけどもどこかノスタルジーを感じる、 ヨーロッパ企画初の関西弁コメディー! 09年より毎回一緒に観劇しているY氏が、 「はじめてDVDになったら欲しいと思った」と 大絶賛の今作。 活字になってもそのおもしろさは、 串カツのソースのように薄まりません! 爆笑必死のSF新喜劇、ぜひご覧ください!

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フーリガンの社会学

フーリガンの社会学 ドミニック・ボダン

2017.10.19 族としてのフーリガンを解説してる本と思いきや、その族、現象にターゲットを当てた社会学の本だった。本家イングランドのフーリガン現象と作者の母国フランスでの現象を徹底的に分析。いわゆる「労働者階級のやること」ではなく、集団としての行動に関して詳しく書かれてる。

ブラック・フラッグス(上):「イスラム国」台頭の軌跡

ブラック・フラッグス(上):「イスラム国」台頭の軌跡 ジョビー・ウォリック

イスラム国のようなものが何故力を持ったのかに興味があったのとピュリッツァー受賞作であったことから手にとってみた。上下ものだからけっこう大変かなと思ったがさらっと読めてしまう。ヨルダンの刑務所で一人のチンピラがテロリスト「ザルカウィ」になっていく過程と、残虐なだけのテロリストが立ち上げた組織が宗教的なイデオロギーを得てシリアでイスラム国に変異していく流れを追ったもの。ワシントンポストの記者らしくブッシュ政権の失敗とオバマ政権の下でテロリストを追った人々の姿がスリリングに描かれている。ヨルダンの若い王と情報機関を持ち上げ過ぎのきらいはあるものの何故あのような狂信的な集団が力を持ったのか、また力を失って行きつつあるのか、がよく分かる。非常に興味深く読めた。

日本の夜の公共圏:スナック研究序説

日本の夜の公共圏:スナック研究序説 谷口功一

タイトルに惹かれて。おちゃらけかと思ったが大学の先生達が中心となって研究会を組織しサントリーから助成金まで受けて作られている。こういうのは中玉半端にふざけてはダメで真面目にやればやるほど面白い。スナックの成り立ちから法規制、統計的な側面などその世界で一流の学者がまとめてるから妙な説得力がある。さすがにスナックを語るのに本居宣長まで引っ張り出してくる辺りはこじつけでしょ、と思わざるをえないけども(笑) タイトルは公共圏だけど公界といったニュアンスだろうか…スナックは志がなくてもできる業態〜特段難しい酒を置かなくてもいいし料理を頑張らなくてもいい〜だから故に日頃の地位や立場を無視した社交場たり得るのであるということらしい。関係ないけども日本中どこにでもあるスナックが異常に少ないのは我が郷里の奈良県でこれは研究会的にも興味深いテーマらしい。柳田國男や永井荷風まで引っ張り出した研究書なので次作ではその辺りの考察も掘り下げてほしいと思った。

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木に登る王:三つの中篇小説

木に登る王:三つの中篇小説 スティーヴン・ミルハウザー

名手ミルハウザーの中編小説3編。訳者柴田元幸の解説にもある通り長いの短いの、なんでもござれのミルハウザーだけれども、まるっと一つの世界観を描き切ることができる中編小説はふとしたエピソードを通じて世界のありようを切り取って見せる短編とはまた違った面白みがある。 亡夫との思い出がつまった家を売りに出している未亡人の客相手の独り語りがやがて夫婦の秘密を明かしながら二人をがんじがらめにする最初の一編、伝説の放蕩者ドン・フアンが巧みな機械仕掛けの発明家の地所で過ごしながら、これまでに尽くしてきた放蕩とはたと無縁になり、自己存在を疑いだす二編目、トリスタンとイゾルデの伝説を下敷きに、二人の道ならぬ恋に気づきつつも自らへの忠誠を盲目的に信じようと虚しく足掻く王の姿を側近の目から描く三編目、どれも不倫というか道ならぬ恋、三角関係をテーマにしているが、怪奇的で少し重くるしい夜の世界のような小説世界は作者ならではだろう。でも、廃墟のような庭園のベンチに地下世界が隠されていたり、庭園そのものもギミックだらけだったりするミルハウザー好みのもろもろが一番楽しめるのはドン・フアンだろうな。 にしてもげに恐ろしきは人間である。 柴田元幸の訳もほんとうに染み通る。

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愛と障害

愛と障害 アレクサンダル・ヘモン

旧ユーゴのサラエヴォ生まれ、92年にシカゴ滞在中にユーゴ紛争が勃発し、帰国を諦めアメリカで英語で書き始めた作家。かつて読んだ長編『ノーホエア・マン』は衝撃だった。自伝的要素の強いこの短編集も痛切。「指揮者」「アメリカン・コマンドーー」「苦しみの高貴な真実」がベスト3。第2長編『ラザルス・プロジェクト』の邦訳も待たれる。

踏みはずし

踏みはずし ミシェル・リオ

1番似ている作品はレオンかもしれない、。距離を置いて感情が排された描写に、哲学的な台詞、すごく雰囲気は良いけれど、なんか物足りなさというか、「結局、愛ってことなのね」な結論にはちょっとがっかりしてしまった。愛、大事だけどね。

水蜘蛛

水蜘蛛 マルセル・ベアリュ

幻想小説の隠れた(?)逸品…かな? 白水社から新書版での再販ですが、オリジナルのパラフィン紙に包まれたボックス版の装丁は最高です(^^)

燠火―マンディアルグ短編集

燠火―マンディアルグ短編集 アンドレ・ピエール・ド マンディアルグ

何故この本を手に取ったのか?は私の好きな作家さんの一人である、中島 らもさんが、最も好きな作家の一人に名前を挙げていて、全く知らない名前だったからです。 読んでびっくりの内容です。中島 らもさんから想像するのはちょっとどうなのでしょうか?私が読んだ事があるジャンルにあえて当てはめるならば、「幻想文学」になるのでしょうか?一種独特の語り口で(生田さんによる訳が素晴らしいのかもしれません、この語りは)、有無を言わせぬ習慣や掟、あるいは不可思議な出来事が起こったり、空想として広げられているにも関わらず現実にされたり、悪夢であったり、とおよそ思いつく幻想的な世界を細かく、チカラ強く、見せ付けられます。そして、そのうえ性的です。ただのイヤラシイ性的なものでなく、読者を惹き付けるためのフックとしてでもなく、ただ単に性的なセクシュアルなものの持つ強さや、それ自体の重さを引き受けた上でのモノとして扱う幻想さがとても新鮮でした。性的で、悪夢的で、鮮明なのに、エロじゃなく、それでいてセクシャルさの持つ良さも悪さも上手く話しの中に取り込み、短編ならではの切りの鋭さは短編好きの方にはとてもオススメ致します。 幻想ものは特に色彩や描写が説得力を持たせるのにチカラを必要とすると思うのですが、その上さらに、世界観を、幻想のリアルさを(矛盾してますが、そうとしか言いようが無い私の表現力の無さです)、匂いまでもたちこませます。 恐い話しの中での私の基準スティーブン・キングの「ゴールデン・ボーイ」を凌ぐ恐さもあり、陵辱ものの基準ジャック・ケッチャムの「隣りの家の少女」を凌ぐ恐ろしさもあり、幻想ものの基準であるガルシア=マルケスの「エレンディラ」も超える幻想モノを含む短編集です。 特に「燠火」、「裸婦と棺桶」は恐ろしさと幻想と美しさとセクシャルが交じり合うちょっとびっくりな短編です。 2008年 2月

オオカミ: 迫害から復権へ

オオカミ: 迫害から復権へ ギャリー・マーヴィン

オオカミと人間の関係の歴史が綴られています。帯の通り、人は世相・文化的背景からオオカミの役割をコロコロ変えてきた。(赤ずきんちゃんは当時のオオカミ観が分かる童話!)人間の歴史に狼も左右されてきたんだな...。本の本筋とは関係ないけれどオオカミの写真、オオカミモチーフの小物や絵が多くのっていて可愛かった。

ミラノ霧の風景

ミラノ霧の風景 須賀敦子

須賀さんの著作は「コルシア書店の仲間たち」しか読んでいなかったのですが、「コルシア~」は内容が深く、ヨーロッパ全般の歴史なり、文化なりがいまひとつ掴めていなかったのですが、この「ミラノ 霧の風景」を読んだ事で、「コルシア~」の理解が深まりました。 私にとってこのエッセイ、というか回想というか散文というか、どれともつかないカテゴライズされる事を拒む様な所が堀江 敏幸さんを連想させますが、なおそれでいて何者にも真似する事の出来ない文体が(高い所から見下ろすようでいて、偉そうでない、また温かみのある、それでいてクールでもあり、なおかつ生活者としての視点がぶれない)素晴らしい。恐らくその事は、宗教的背景もあるであろうし、また20年以上以前の事を振り返るという事も関係していると思う。つまりどう生きてきたかという重しがあって、それでいて以前を振り返るという稀にしかない書き手だと思います。 この本を読んだ事で、もう一度今「コルシア~」を読んでいますが、理解が深まり、なおかつ登場人物が最初に読んだ時よりも非常に生き生き感じます! 同性からの支持はかなりあると思いますが、是非ヨーロッパの文化(絵画も、詩も、小説も、建築も!)に感心のある方なら男性にもオススメ致します。ヨーロッパの上流階級に接した日本の、その場で生活した観察者、その視点は鋭くも、暖かいです。 2007年 6月