早川書房の本

消失の惑星

消失の惑星 ジュリア・フィリップス/井上 里

ロシア、カムチャッカ半島。 性差、人種、老い、孤独、妬み、喪失感。 幼い姉妹の誘拐事件から始まる12人の女性たちの、傷跡の物語。 人生の選択肢は時代に狭まっていくけど、そこで生きていくしかないということ。 カムチャッカ半島って、日本全土より広いのに、31万人しか住んでない。 少ない人口の殆どが、ペトロハバロフスクに集中。 陸路ではカムチャッカ半島からは出られない! この『何処にも行けない、逃げ出せない感』が本作の強い特徴。 山内マリコの『ここは退屈な迎えに来て』に近い読後感でした。

わたしたちが光の速さで進めないなら

わたしたちが光の速さで進めないなら キム・チョヨプ/カン・バンファ

韓国の若手女性作家、キム・チョヨプによるエモーショナルなエスエフ短編集。 障害や性差、移民、シングルマザーなど、マイノリティの目線から立ち上がってくる視点が、ジワジワと沁みてくる印象。 表題作をタイトルにしたのは大正解で、作品群全体のテーマを内包している。 違いを超えて人間は理解しあえるのか。 たとえ、わたしたちが光の速さで進めなくても、遠い遥か未来では分かり合えるかもしれない。 そんな切ない願いを乗せた作品集です。

F7c576e9 180f 4041 ab2a 70765d8c4cac6c297c28 f15b 4bd1 b046 0af57a8709c9Icon user placeholder00a6cf1a c5e2 4331 ad04 f26bd088f9207d89b672 c708 4144 b5ce f389c132b396
錬金術師の消失

錬金術師の消失 紺野天龍

錬金術✖︎ミステリ。シリーズ2作目。前作より良かった。 二転三転する事件の真相。わかりやすいトリック(笑)。朴念仁主人公とツンデレ気味のヒロインのやり取りも良い。 来て欲しい展開を外さない、安定感がある。続編が楽しみです。

地べたを旅立つ 掃除機探偵の推理と冒険

地べたを旅立つ 掃除機探偵の推理と冒険 そえだ信

主人公はスマートスピーカ付き掃除機に転生?した刑事。と、かなり無茶な設定。 家族の危機に、札幌から小樽までを旅する、奇跡のロードノベルなのである(笑 ご都合主義が半端ないのだけど、ネタとしてただ面白い。その一点で突き抜けている作品。絵面を考えると笑えるよね。

文学少女対数学少女

文学少女対数学少女 陸 秋槎/稲村 文吾

現実の事件と作中作。二重の構成に、数学の要素まで絡ませた手の込んだ作品集。 つまるところ、作者こそが作品の神? ガチの本格ミステリファン向けかなあ。 陸秋槎ちゃん(登場人物の方)を巡る三角関係の行方のほうが気になるわたし。

Bd1fd651 b3dd 4f3d be9c fd6fa2549fb71edec2d0 a733 4ab8 9871 bdb2c1b45402
ガン・ストリート・ガール

ガン・ストリート・ガール エイドリアン・マッキンティ/武藤 陽生

北アイルランド問題がピークだった頃のアイルランドを舞台とした警察小説の邦訳最新。すごく大雑把に背景事情を説明すると...プロテスタントのイギリスに領有されていたカトリックのアイルランドが独立した時にアイルランドのプロテスタント住民が多い北部だけがイギリス領として残った、そこの領土問題。北アイルランドの警察はいわば支配国家イギリスの出先機関でそこに勤務するカトリックの刑事である主人公は警察内でも異分子とされ、カトリック内部では例えばテロ組織として有名なIRAからも裏切者として狙われる、そういう立場にある。本作では富裕な夫婦が射殺されその息子が行方不明となりやがて自殺と思われる状況で息子の遺体も発見される、という話。こういう社会情勢なので殺人事件も普通の捜査とは別にテロ組織などとの関わりも調べなければならない、という特殊な状況にある。物語では息子が武器の密輸に関わっていた、という疑いが浮上して、という話。シリーズ四作目の本作ではこれまで陰鬱さが目立った主人公が軽妙さを身に着けており読みやすさが増した印象。史実を巧みに盛り込んだストーリーも素晴らしくシリーズ最高の出来だったのでは、という印象でした。

至福の味

至福の味 ミュリエル・バルベリ/高橋利絵子

この人の別の本をさがしてましたがなくて。 料理評論家の死にゆく人の周りの人、物、などさまざまな反応を短くつづりながら、主人公の至福の味なんだったっけさがし。心境や周りの人たち、たべものや過去のことも無駄なくまとめています    個人的には目新しさはありませんでした 日本人の死生観がよみたくなったくらい しぬときまでに答えをみつけたいから 名声やキャリアはわきにおき、自分がなにが好きか 本質的なものをかんじ心を解放してくれるものを 必死でさがしている フランスの著者らしく、神に近づくには自分の好みを考えて自分なりの答えをみつけろといっている 自分も死を意識してまわりじやなく自分の内面にフォーカスしていくのも大事だとおもった

リモートワークの達人

リモートワークの達人 デイヴィッド・ハイネマイヤー・ハンソン/ジェイソン・フリード

6年も前に書かれていた「テレワークのすすめ」本。 今こそ出すべきだろ!って事で文庫化されたようです。 単行本時の元タイトルは『強いチームはオフィスを捨てる』 まさか自分のテレワーク生活が半年を超えるとは思わなかったので、感慨深く読みました。 テレワークの長所も短所も、経験してみないと、なかなか実感出来ませんが、確かに可能性は感じますね。 コロナ禍で一気に進んだ日本のテレワークがこれからどうなっていくのかが気になります。

信長島の惨劇

信長島の惨劇 田中啓文

信長は生きていた? 本能寺の変、山崎の合戦の後、信長に呼び出された、羽柴秀吉、柴田勝家、徳川家康、高山右近。 信長に対して「後ろめたい」思いがある四人が、流行歌の歌詞の通りに次々に殺されていく。 ストーリー的に、ネタ感が強くて、作者田中啓文だし、オチは最初に読めてしまうのだけど、ネタと割り切れば面白い。 クリスティの例の作品のオマージュでもあるのだけど、さすがに強引すぎるかな。

暗殺者の悔恨 上

暗殺者の悔恨 上 マーク・グリーニー/伏見 威蕃

邦訳が出るたびに手にとってしまう現時点世界最高峰のアクション小説の一つ。主人公は元米軍の特殊部隊出身でそんなものが実在するのかわからないけどもCIAの秘密部隊に所属していたのだが、あることがきっかけでCIAとCIAから通知を受けた世界中の諜報機関から命を狙われていた。現在はCIAとも関係が修復されフリーランスの暗殺者としてCIAを中心に暗殺の仕事を請負っている。世界中で命を狙われていた時から悪人しか殺さない、という信条を持っているのだがここが難しいところで要は検事と判事と死刑執行人を一人で兼ねてしまっているのだが...その辺りを気にしなければ十分スリリングで楽しめるシリーズ。本作ではボスニア・ヘルツェゴヴィナ紛争時の戦争犯罪人を暗殺する仕事をフリーで請け負うのだが、それも狙撃すれば済む話をわざわざ近くまで行ってなぜ殺されるのか、を本人に通知する、というやり方をとったために戦争犯罪人が関わっていた人身売買に巻き込まれ...という話。この手のシリーズで難しいのは主人公は死なないと読者にわかってしまっている上でいかにスリルを作るか、というところだと思うのだが本作でも作者の腕は見事にその辺をクリアしている。悪役の設定も巧く非常に面白かった。血腥いのが平気な人には強くお薦めします。

C8a7a18e 7302 432c b52e 63faa71f5625C3ad9ec0 1b52 40e6 bc94 76b544669364
エデュケーション

エデュケーション タラ・ウェストーバー/村井 理子

親が子供に及ぼす力のものすごいパワー。 誇大妄想と終末思想に囚われた父親とそれに追従する母親。 著者を含めた七人兄弟のうち、両親の精神的、経済的なくびきを逃れることができたのは博士号を持つ三人だけで、他の四人は高校卒業資格を持っていない。 もちろん影響力にはそれぞれ濃淡はあり、著者だって今も自分の子ども時代の記憶が正しいのか他の兄弟たちに確認しないと確信が持てないという有り様だ。 著者が何よりも助けられたという「教育」の力。 教育、しかしそれは単純な学校教育という意味ではなく、広い世界を知り、世界の中に存在する「自分」を客観視することができるようになる力のことを指しているのではないかと思った。

ストーンサークルの殺人

ストーンサークルの殺人 M・W・クレイヴン/東野 さやか

猟奇的な連続殺人なのに 陰鬱さや残忍さを感じず イギリスの田舎に来た気分 カンブリア州のストーンサークルや 荒涼とした土地に羊飼いの家 スパニエル犬のエドガーと 四輪バイクで走りたくなる ミステリに目新しさはない でも楽しく読み込ませてくれる 登場人物もみんな好ましくて 魅力がたくさん 次作も読みたいです

Bd1fd651 b3dd 4f3d be9c fd6fa2549fb74fce670e 6049 4aa0 8bcb 05ec248d276f6abcf575 1c22 4761 9771 eed2ad8a455f
ナイルに死す

ナイルに死す アガサ・クリスティー/黒原 敏行

冒頭を以前の訳者と読み比べ 雰囲気を壊さず、 細部に神経を使ってると感じたので 新訳を買いました 読後、翻訳者のお話を聞く機会があり 原文の上の強調の点を消すことで 露骨な伏線をやめて 犯人が分からなくなる工夫をしてるそうです 犯人の最後の心理については 翻訳者さんとクリスティファンの意見が 違っていたのが面白いなと思いました 延期になりましたが 映画は果たしてどうなのか?! 待ち遠しいですね(^-^)

宇宙へ 下

宇宙へ 下 メアリ・ロビネット・コワル/酒井 昭伸

それでもわたしは宇宙に行きたい。 1950年代を舞台とした歴史改変エスエフ。男性優位、白人優位の世界に挑んだ女たちの物語。 優れた資質を持ちながらも、男社会の壁に跳ね返されてきたヒロインが、様々な壁を乗り越えて立ち向かっていく姿を描く。 宇宙開発モノらしい、終盤の激アツ展開が心を打ちまくる。これも年間ベスト級確定。