中央公論新社の本

愛なき世界(下)

愛なき世界(下) 三浦しをん

愛ある人々による愛なき世界の研究。登場人物みんながそれぞれ研究・仕事に真摯に向き合っていて清々しい。ずっと読んでいたい。

少将滋幹の母 他三篇

少将滋幹の母 他三篇 谷崎潤一郎

小倉遊亀の挿し絵と谷崎潤一郎の母恋物語。谷崎の流麗で艶やかな文章を読んでいるとふくよかな柔らかい温もりのある女人に包まれている心持ちになる。

荘園

荘園 伊藤俊一

墾田永年私財法から応仁の乱まで。750年にわたる荘園の歴史を教えてくれる一冊。 土地や税制の側面から日本史を考え直すという視点を与えてくれていて、なかなかに新鮮。 守護と地頭、国司と郡司。複雑極まりない土地制度の変遷史を分かりやすく解説してくれている。

天正伊賀の乱

天正伊賀の乱 和田裕弘

中公新書のニッチな合戦シリーズ大好き。 あまり知られていない織田家VS伊賀衆の戦いを扱った一冊。 信長の息子、信雄が大敗した第一次。信長が本気を出した第二次。本能寺の変後の第三次。 国衆が割拠し、有力な大名が育たなかった伊賀国が、巨大な勢力に飲み込まれていく過程を描きます。

中先代の乱

中先代の乱 鈴木由美

恐らく来年の大河ドラマを意識して出されたのだと思われる作品。鎌倉幕府が崩壊した時に実質的に権力を握っていた執権の北条一族は一族郎党の殆どが鎌倉で自害して果てたのだけれど討幕後の後醍醐天皇の政治に不満を持つ武士たちの反乱が相次ぎ最終的には討幕の中心的存在だった足利氏が後醍醐天皇を追いやって新たに幕府を立てた、という歴史の流れがあるけれども本作で取り上げられているのはその反乱が北条一族の残党が中心であるものが多かった、という話。中先代の乱、は教科書にも載っていて最後の執権の遺児が信州で蜂起して鎮圧された、みたいなさらっとした記述だったように記憶している。往時もうっすら疑問だったのだが、なぜほぼ一族郎党が自刃して果てた中でどうやって鎌倉から逃れなぜ信州で蜂起したのか、また鎮圧された後にどうなったのか、というような点が明確にされていて興味深い。作者も中学時代にその辺りに疑問を感じたらしく結果的にこのような作品を書くに至ったその経緯も面白い。メインストリームの歴史ではないけれどもこういう言わば歴史の細部を掘り下げて行くとまだまだ面白いストーリーがあるのでは、と思った。非常に面白かった。

刀伊の入寇

刀伊の入寇 関幸彦

日本史上、外国勢力の来襲は鎌倉時代の元寇が有名ですが、9世紀には新羅の侵攻。そして、平安時代にも女真系の異民族の攻撃を受けているんですね。 本書では、11世紀に女真系の異民族が対馬、壱岐、北九州を襲撃した平安時代最大の対外危機を描きます。 現場を指揮したのが、左遷させられて太宰府送りにされていた藤原道長の甥だったというのも面白い。 律令時代の皆兵制から、軍事官僚の登場。これが後の武士の台頭に繋がっていく。古代日本の軍制の変化について知ることができる一冊でもあります。

ていだん

ていだん 小林聡美

対談ではなく鼎談。ゲストも豪華だし、3人で語り合うからこその言葉もある。

花桃実桃

花桃実桃 中島京子

アパートの管理人になる話、すごく良かった。穏やかな毎日で、色んな人たちの暮らしと自分の暮らしがそれぞれ同じ時間同じ建物で存在する事に安心感を持った。古文や詩が好きならもっと楽しめたな。

ケアとは何か

ケアとは何か 村上靖彦

「何もしない居場所とは、まさに「誰かの前で独りになる力」が高められるような場所である。誰かに守られている安心感が、何もせずに居ることを潜在的に可能にする。このとき、人は自身の存在を実感できるのである。つまるところ存在のケアとは何か活動せよと迫る社会活動とコントラストをなす、何もしなくてよい居場所の提供なのた。」p.135 「一般化すれば、「できないということに耐えること」こそがここでのケアであるという、不可能性の反転として現実への応答がなされている。」p.149

斑鳩王の慟哭

斑鳩王の慟哭 黒岩重吾

ずっと昔、梅原猛の「隠された十字架」を読んでから、それまで何となく惹かれていた古代史の中でも聖徳太子に特に興味があった。この本は厩戸の皇太子と山背大兄王を中心に推古女王と蘇我一族との確執、そして上宮王家の滅亡を描いたもの。 巻末の黒岩氏と梅原氏の丁々発止気味の対談も面白い。 見瀬丸山古墳の公開写真に触発されたと黒岩氏は語っている。ネットで検索したが、んー良く分からない。誰か教えてください。また、奈良に行きたくなったな。

国際政治

国際政治 高坂正堯

『菊と刀』を読んでから政治に興味が湧き、手に取ってみた。内容は自分にとっては大変難しいものであったけれど、政治が何故これほどまでに複雑で、政治家や外交官は何に悩みながら仕事をしているのかが少し分かるようになった。 理想と現実の板挟みに苦悩しながらも、世の中を少しずつ善いものにしてきた、している人々に敬意を。

三千円の使いかた

三千円の使いかた 原田ひ香

面白いは面白いけどラストを読んだとき「…」となった。なんだか納得いかずモヤモヤしてしまいました、私はね。

青空と逃げる

青空と逃げる 辻村深月

親子での逃避行 微妙な距離感 四万十川、別府、抜けるような青空はどこにいても繋がっていて、気持ちの良い風景とそこに住む人たちとの繋がり 苦しい時ほど人に助けを求めるべき 人は人を苦しめるが、同時に救いでも有る

大名の「定年後」

大名の「定年後」 青木宏一郎

柳沢家というのはなかなか興味深い大名家で元々は甲斐の武田家に仕えていたものが主家の滅亡に伴って徳川家に使えるようになったのだが五代将軍綱吉の時に吉保が重用されて五百石から一代で十五万石の大名に出世したものらしい。本作で取り扱われているのは吉保の孫で大和郡山藩二代藩主。49歳で隠居して祖父が作った今も残る六義園のある下屋敷に暮らした元殿様。ガーデニングが趣味だったらしく園芸を中心とした12年に渡る日記が今に残っているらしい。この作品はたぶんメンテナンスを請け負ったのか園芸屋さんが手入れの参考にするためにその日記を読んだ結果、面白さを世間に伝えるために世に出したものらしい。その志の高さには脱帽するしかないのだけどちょっと原文の引用が多過ぎるかな。たまたま国文で古典が専門だから読めたけどそれでもちょっとしんどかった。すごく面白い内容なのでそこがちょっと残念。園芸に関する箇所は省かれていて専ら都内のお出かけ中心。現役でないとはいえ十五万石の殿様だった人が自分も徒歩で浅草だ目黒だ吉原だと、家来はもとより側室とか息子たちと連れ立ってでかけ、気さくに市井の人たちと交流したりしていて時代劇に出てくる殿様のイメージがちょっと変わる感じ。より平文化されたものも読んでみたいと思いました。

南北戦争

南北戦争 小川寛大

BLMの時に、内戦までしたのになぜ奴隷問題が解決していないのかということと、偏見で申し訳ないのだけど…そもそも白人が黒人奴隷を解放するために内戦までするのかな、ということが気になったので。そもそも南北戦争について殆ど知らない、ということに気がついたので入門書みたいなものを捜してみた。まず何よりも驚いたのは第二次大戦やベトナム戦争よりも南北戦争の方が圧倒的に犠牲者が多い、ということ。これについては兵器の問題、つまり手榴弾や迫撃砲や航空戦力がないところに銃だけはライフルが量産されて命中精度が上がっていて結果的に水平にお互い撃ち合う、という戦闘にならざるを得なかったかららしい。時代的に少し前であれば刀や精度の低い銃が主要な武器なので結果として極めて残酷な戦争になってしまったということが分かった。不勉強ぶりを晒すようで恥ずかしいがそもそも当時のアメリカでは南部の大農場主を中心とした民主党が支配的な勢力であり、それに対抗する勢力が共和党を結成しリンカーンという稀代の政治家を中心に台頭してきた、ということが問題の発端であり、共和党が南部の大農場主に対抗するための一つの方策として打ち出したものが奴隷解放という概念である、ということらしい。分離独立を唱えた南部の大農場主は圧倒的に人数が少なく、分離独立を認めさせる主要な相手がイギリス、フランスで既にどちらも奴隷解放していたことから最初から南部に勝ち目のない戦争であるということを最初に喝破したのが軍事評論家として当時定評があったマルクスとエンゲルスだったというところも興味深い。作者も書いているが南北戦争辺りからの歴史を学ぶことがアメリカという国家を理解するためには必要だということが分かった。非常に参考になりかつ面白かった。

三度目の恋

三度目の恋 川上弘美

読後、本を閉じ表紙のタイトルを見て、思わずため息が出た。 昔昔の安らかな恋も、昔の燃える恋も、何故こんなに違うのに等しく愛(かな)しいのでしょうか。 怒りという感情からは無縁な、落ち着いた川上さんの文は居心地が良く、安心します。