中央公論新社の本

南北戦争

南北戦争 小川寛大

BLMの時に、内戦までしたのになぜ奴隷問題が解決していないのかということと、偏見で申し訳ないのだけど…そもそも白人が黒人奴隷を解放するために内戦までするのかな、ということが気になったので。そもそも南北戦争について殆ど知らない、ということに気がついたので入門書みたいなものを捜してみた。まず何よりも驚いたのは第二次大戦やベトナム戦争よりも南北戦争の方が圧倒的に犠牲者が多い、ということ。これについては兵器の問題、つまり手榴弾や迫撃砲や航空戦力がないところに銃だけはライフルが量産されて命中精度が上がっていて結果的に水平にお互い撃ち合う、という戦闘にならざるを得なかったかららしい。時代的に少し前であれば刀や精度の低い銃が主要な武器なので結果として極めて残酷な戦争になってしまったということが分かった。不勉強ぶりを晒すようで恥ずかしいがそもそも当時のアメリカでは南部の大農場主を中心とした民主党が支配的な勢力であり、それに対抗する勢力が共和党を結成しリンカーンという稀代の政治家を中心に台頭してきた、ということが問題の発端であり、共和党が南部の大農場主に対抗するための一つの方策として打ち出したものが奴隷解放という概念である、ということらしい。分離独立を唱えた南部の大農場主は圧倒的に人数が少なく、分離独立を認めさせる主要な相手がイギリス、フランスで既にどちらも奴隷解放していたことから最初から南部に勝ち目のない戦争であるということを最初に喝破したのが軍事評論家として当時定評があったマルクスとエンゲルスだったというところも興味深い。作者も書いているが南北戦争辺りからの歴史を学ぶことがアメリカという国家を理解するためには必要だということが分かった。非常に参考になりかつ面白かった。

ケアとは何か

ケアとは何か 村上靖彦

「何もしない居場所とは、まさに「誰かの前で独りになる力」が高められるような場所である。誰かに守られている安心感が、何もせずに居ることを潜在的に可能にする。このとき、人は自身の存在を実感できるのである。つまるところ存在のケアとは何か活動せよと迫る社会活動とコントラストをなす、何もしなくてよい居場所の提供なのた。」p.135 「一般化すれば、「できないということに耐えること」こそがここでのケアであるという、不可能性の反転として現実への応答がなされている。」p.149

三度目の恋

三度目の恋 川上弘美

読後、本を閉じ表紙のタイトルを見て、思わずため息が出た。 昔昔の安らかな恋も、昔の燃える恋も、何故こんなに違うのに等しく愛(かな)しいのでしょうか。 怒りという感情からは無縁な、落ち着いた川上さんの文は居心地が良く、安心します。

大航海時代の日本人奴隷

大航海時代の日本人奴隷 ルシオ・デ・ソウザ/岡 美穂子

織田信長の家臣になった黒人の話が最近取り上げられていたりするけれども同時代にかなりの数の日本人がポルトガルの商人によって奴隷として国外に連れ出されていた、という研究者による報告の作品。支倉常長に同行した者のうちの一部がポルトガルに残留し、その子孫の数家が日本人を意味するハポン姓を今も名乗り続けている、という話をどこかで読んだことがあるがそれとはスケールが違う。幾つかの国で裁判記録が残っていて日本人奴隷の存在が確認でき、それは東南アジアはもとよりポルトガル本国や南米などでも確認されるのだという。当時の奴隷契約などにイエズス会の裏書きなどが添えられているらしく、カトリックの汚点も明らかになっている。海外における日本人ということでは歴史の教科書にはタイの日本人街と山田長政とか倭寇は取り上げられているがこういう歴史があるとは思わなかった。キリスト教を禁止して海外との接触も大幅に制限した当時の施政者はこういう実態も知っていたのかも、と思わせられた。因みにアフリカと同じで奴隷として人を売っ払ったのは同じ民族である日本人という事実もあって白人だけを責めるわけにもいかない、ということも裁判の記録でわかったりする。諸々興味深い作品だった。

ロヒンギャ危機ー「民族浄化」の真相

ロヒンギャ危機ー「民族浄化」の真相 中西嘉宏

何故、あの民主主義の顔のようなアウンサンスーチー氏がいて、ジェノサイドが起きるのか。そして、自国民を平然と殺害する軍事政権が生まれてしまうのか。 かつてカンボジアではポルポト政権があった。軍事クーデター、ファシズム、人類の最も醜い部分を少しでも理解出来ないかと。 読み終えたらもう一度書き込もう。 読了した。絶望的な思いに襲われた。国軍、少数民族の武力組織、仏教徒、イスラム。この独立以来、紛争に明け暮れてきた国に国際社会は何が出来るのだろう。 最後に著者が挙げた哲学者ハンナ・アーレントの言葉が悲しい。「単に人間であるということからは何らの権利も生じなかった。」

ゲンロン戦記

ゲンロン戦記 東浩紀

現在、どこかの本屋でも起きていること。

サバイバル家族

サバイバル家族 服部文祥

世の中の本流から逸れた暮らしをする人を多くの人は冷たい眼差しを向けて、変わっていると余計な一言を付け加える。 けれど、横浜でニワトリを買って、それを育てて、締めて、食べて、そんな暮らしをしている方が随分健康的だと思う。 意外にも偏差値を意識してしまっていたと振り返る著者やそんな親父の元、育つ子どもたちと支える妻。 服部家の繁殖期とはよく言ったもので、この本を通じて、血の通った暮らしを垣間見れた。 あぁ、僕もこんな暮らしをしてみたいと、コロナ禍で自宅で朝から晩までパソコンと睨めっこしている不健康な生活を改めようかな。 でも、いくら何でも庭で便をする勇気はないです…

2020年の恋人たち

2020年の恋人たち 島本理生

最初からおかしい男ばっかりで眉間に皺を寄せながら読んだ。主人公に味方がいるのが救い。

デジタル化する新興国

デジタル化する新興国 伊藤亜聖

インフラが整わない新興国の方が、先進国よりデジタル化が劇的に進行する。 世界各地で起きるリープフロッグ現象を読み解く一冊。 中国の例は良く聞くけど、インドや東南アジア、アフリカの動向は無知だったので興味深く読む。 普通なら 固定電話→携帯電話→スマホ と、発達するところを新興国は、固定電話すらも普及してないのに、いきなりスマホから普及が始まってしまう。 過去のインフラ資産や、産業界のしがらみがないこと、国家主導でグイグイ行けることが、違いなのかな。

花桃実桃

花桃実桃 中島京子

アパートの管理人になる話、すごく良かった。穏やかな毎日で、色んな人たちの暮らしと自分の暮らしがそれぞれ同じ時間同じ建物で存在する事に安心感を持った。古文や詩が好きならもっと楽しめたな。

斑鳩王の慟哭

斑鳩王の慟哭 黒岩重吾

ずっと昔、梅原猛の「隠された十字架」を読んでから、それまで何となく惹かれていた古代史の中でも聖徳太子に特に興味があった。この本は厩戸の皇太子と山背大兄王を中心に推古女王と蘇我一族との確執、そして上宮王家の滅亡を描いたもの。 巻末の黒岩氏と梅原氏の丁々発止気味の対談も面白い。 見瀬丸山古墳の公開写真に触発されたと黒岩氏は語っている。ネットで検索したが、んー良く分からない。誰か教えてください。また、奈良に行きたくなったな。

ウィトゲンシュタイン家の人びと

ウィトゲンシュタイン家の人びと アレグザンダー・ウォー

19世紀末のドイツ・オーストリア、ウィーン。天才を産んだ大富豪の一族は、第一次大戦の渦中、時代と戦い続けた。ここにはルートヴィヒ・ヴィトゲンシュタインの論理哲学は出てこない。難解な理屈もない分厚い文庫だか、時間の過ぎるのをつい忘れてしまう。

ベネズエラー溶解する民主主義、破綻する経済

ベネズエラー溶解する民主主義、破綻する経済 坂口安紀

ベネズエラというのは未熟な国家が多い南米においては民主主義国家として成功していて産油国でもあり他の資源も多くて生活水準の高い良い国、というイメージだったのだがいつの間にかシリアに次ぐ難民を出している殆ど破綻国家だということ知り何故そうなったのかを知りたくて手にとってみた。問題の所在はチャベス、マドゥロという二代続いた大統領の政策にある、ということで何よりも凄まじいのはこの二人が国を率いた二十年で戦争も自然災害もなかったのにGDPがほぼ半減、世界一の埋蔵量を誇る油田のある国が汲み出す原油は中国やロシアへの返済で外貨収入にはならず、ということでもはやどう建て直して良いのか誰にもわからないくらいの破綻国家に成り果てているのだ、ということがその理由も含めて説明されている。二人の政治指導者も元はと言えば原油価格の下落で貧困層が増えているのに何も有効な手を打とうとしない既存のエリート層への不満から国の舵取りを任されたわけで、結果として尽く打つ手を誤った挙げ句、犯罪的な国家運営に陥っていった様が分かりやすく説明されている。恐ろしいのはチャベスが権力を握った背景が格差解消を謳った彼を教育程度の低い貧困層が強く支持したから、ということでほぼトランプが大統領になった経緯とかぶるという…一歩間違えるとアメリカもこうなっていたかもしれない、という点。ディストピアみたいな話ってフィクションでしかありえないと思っていたのだが国家というものが割と簡単に崩壊するのだ、ということがわかって非常に興味深い作品。

架空の犬と嘘をつく猫

架空の犬と嘘をつく猫 寺地はるな

一気読み。あることをきっかけに、家族であるために嘘を積み重ねていく必要な嘘。 嫌な感じではなく、読了感はすっきり。

呉漢(上)

呉漢(上) 宮城谷昌光

呉漢という人の物語。 特に裕福でもなく賢いわけでもないが生きていく中で学び、成長していく。西暦が始まった後の中国を舞台にした話。 上巻最後に大将軍に登った出世力。 何によって評価を得て、何によって登り行けるのかを淡々と読ませてくれます。 下巻も楽しみ。時代は三国志の少し前くらいだと思われます。

五・一五事件

五・一五事件 小山俊樹

日本人の殆どがこの事件の名前だけは知っていて、ではどういう事件で何があったのかは説明できないのでは、と思ったので。なんとなく漠然と、時の首相が軍人に殺された重大なテロ事件なのにその後に起こった二・二六事件と比べて処分も妙に軽かったような気がしていつかはちゃんと内容を追ってみようと思っていたので手にとってみた。冒頭、事件の概要が説明されているのだが...まぁ後知恵ではなんとでも言えるのだがかなり粗く正直なところかなりお粗末でこれでよく時の首相を殺せたものだと思ったほど。計画はグダグダだし移動手段は主にタクシーで旧式の手榴弾は不発だらけ...ちょっと恥ずかしくなったほどだ。しかしこの事件の本質はそこではなく、いわば社会の捨て石となって世の中に警鐘を鳴らしたいというところが目的で...そのようなテロは古今東西まれなのではないかと。つまり革命を起こし権力を奪取するという目的が皆無な、極めて日本的というか世界史的にも変わったテロ事件でそれ故にその処理もかなり特殊。結果として政党政治が終わってしまい軍が政治をも支配する道を開いてしまったという...。分かりやすく非常に興味深い内容でした。これはおすすめ。

「グレート・ギャツビー」を追え

「グレート・ギャツビー」を追え ジョン・グリシャム/村上春樹

なんとなくお久しぶりねの作家だし、訳者もなんとなくこの人の作品を翻訳するのか、という驚きがあったので手にとってみた。原題は味も素っ気もないのだけど邦題もなかなにベタでタイトルだけ見たらシドニー・シェルダンか、と思ったかも知れない。邦題については訳者もかなり悩んだ末のことらしいけれど。ストーリーはほぼタイトルどおりでプリンストン大学からフィッツジェラルドの生原稿が盗まれる。犯人グループは主犯以外すぐに逮捕されるのだけど原稿と主犯が行方を晦ましてしまう。フロリダで有力な独立系の書店を営む書店主が闇取引に関わっており原稿を所持していると疑われ、保険会社は彼のもとに独自にスパイを送り込む。このスパイがなかなか魅力的な女性で学資ローンと二作目がなかなかできないことに苦しんでおり...という設定。正直この作家がこんな作品を書けるんだという驚きがあった。そろそろ法廷シーンかと思ったけど最後まで出てこなかった!物語も良くできているのだけど書店主と舞台となるフロリダの島の設定が実に魅力的。素晴らしく楽しい作品でした。