中央公論新社の本

呉漢(上)

呉漢(上) 宮城谷昌光

呉漢という人の物語。 特に裕福でもなく賢いわけでもないが生きていく中で学び、成長していく。西暦が始まった後の中国を舞台にした話。 上巻最後に大将軍に登った出世力。 何によって評価を得て、何によって登り行けるのかを淡々と読ませてくれます。 下巻も楽しみ。時代は三国志の少し前くらいだと思われます。

五・一五事件

五・一五事件 小山俊樹

日本人の殆どがこの事件の名前だけは知っていて、ではどういう事件で何があったのかは説明できないのでは、と思ったので。なんとなく漠然と、時の首相が軍人に殺された重大なテロ事件なのにその後に起こった二・二六事件と比べて処分も妙に軽かったような気がしていつかはちゃんと内容を追ってみようと思っていたので手にとってみた。冒頭、事件の概要が説明されているのだが...まぁ後知恵ではなんとでも言えるのだがかなり粗く正直なところかなりお粗末でこれでよく時の首相を殺せたものだと思ったほど。計画はグダグダだし移動手段は主にタクシーで旧式の手榴弾は不発だらけ...ちょっと恥ずかしくなったほどだ。しかしこの事件の本質はそこではなく、いわば社会の捨て石となって世の中に警鐘を鳴らしたいというところが目的で...そのようなテロは古今東西まれなのではないかと。つまり革命を起こし権力を奪取するという目的が皆無な、極めて日本的というか世界史的にも変わったテロ事件でそれ故にその処理もかなり特殊。結果として政党政治が終わってしまい軍が政治をも支配する道を開いてしまったという...。分かりやすく非常に興味深い内容でした。これはおすすめ。

「グレート・ギャツビー」を追え

「グレート・ギャツビー」を追え ジョン・グリシャム/村上春樹

なんとなくお久しぶりねの作家だし、訳者もなんとなくこの人の作品を翻訳するのか、という驚きがあったので手にとってみた。原題は味も素っ気もないのだけど邦題もなかなにベタでタイトルだけ見たらシドニー・シェルダンか、と思ったかも知れない。邦題については訳者もかなり悩んだ末のことらしいけれど。ストーリーはほぼタイトルどおりでプリンストン大学からフィッツジェラルドの生原稿が盗まれる。犯人グループは主犯以外すぐに逮捕されるのだけど原稿と主犯が行方を晦ましてしまう。フロリダで有力な独立系の書店を営む書店主が闇取引に関わっており原稿を所持していると疑われ、保険会社は彼のもとに独自にスパイを送り込む。このスパイがなかなか魅力的な女性で学資ローンと二作目がなかなかできないことに苦しんでおり...という設定。正直この作家がこんな作品を書けるんだという驚きがあった。そろそろ法廷シーンかと思ったけど最後まで出てこなかった!物語も良くできているのだけど書店主と舞台となるフロリダの島の設定が実に魅力的。素晴らしく楽しい作品でした。

今も未来も変わらない

今も未来も変わらない 長嶋有

『「で、このカラオケのテーマは?」多忙を極める天才医師がついに難手術に着手する、その直前にクランケの患部を尋ねる、みたいな問い方を志保はした。』 こんなにカラオケシーンのある小説は初めてだったけど、著者と年齢が近いのもあり終始楽しかった。 時事ネタ、固有名詞が散りばめられているので、同時代に読めて良かったというのと、何十年か先に読むと、こんなこともあったと懐かしくなるだろう 著者近影がマスク姿なのも世相を表している

生と死をめぐる断想

生と死をめぐる断想 岸本葉子

無駄と知りつつ何かに熱心に取り組むことができるかどうかが、われわれの人生の質を決めることになる。いや、むしろ「なにをしても無駄」と覚悟していることが、「それでも、なおこれをする」という決断に重みを加える前提でさえある。

あとは切手を、一枚貼るだけ

あとは切手を、一枚貼るだけ 小川 洋子/堀江 敏幸

抽象的で比喩が多いのに、こんなに心地良い。 現実から目を背けたくなるほど、この本は綺麗すぎて呑まれる。 一つの事物でも、互いの解釈は違うのだと気付かされた。 作家二名が絡める書簡のやり取りが新鮮で、儚いなんて表現しか思いつかない自身を恥じた。 詩的なものが好きな皆さん、この本はいかがでしょうか。

四捨五入殺人事件

四捨五入殺人事件 井上ひさし

そうきましたか!というのが正直な感想です。最後の大どんでん返しが醍醐味かもしれません。

よその島

よその島 井上荒野

主人公が 蕗子 同名なので親近感が湧きあっという間に読了

2020年の恋人たち

2020年の恋人たち 島本理生

最初からおかしい男ばっかりで眉間に皺を寄せながら読んだ。主人公に味方がいるのが救い。

デジタル化する新興国

デジタル化する新興国 伊藤亜聖

インフラが整わない新興国の方が、先進国よりデジタル化が劇的に進行する。 世界各地で起きるリープフロッグ現象を読み解く一冊。 中国の例は良く聞くけど、インドや東南アジア、アフリカの動向は無知だったので興味深く読む。 普通なら 固定電話→携帯電話→スマホ と、発達するところを新興国は、固定電話すらも普及してないのに、いきなりスマホから普及が始まってしまう。 過去のインフラ資産や、産業界のしがらみがないこと、国家主導でグイグイ行けることが、違いなのかな。

音楽の危機

音楽の危機 岡田暁生

集まれなくなれば、人はどうなるのか? 音楽の世界に関わらず、人間の営み全体にも言える問いかけで、コロナ禍だからこそ出来る新しい音楽の姿が有るのではと筆者は説く。 外でホントに音楽聴かなくなったので、切実な気持で読みました。

たちどまって考える

たちどまって考える ヤマザキマリ

2021 年最初の本。 考えることを放棄しないようにしようと思った。 ヤマザキマリさん、日本を客観的に見つつ、海外称賛ではない、本当に冷静でフラットな視線。 こういう人っていいなと思う。

ナチスが恐れた義足の女スパイ

ナチスが恐れた義足の女スパイ ソニア・パーネル/並木 均

市井の立派な人の伝記もの、かな。欧米ではそこそこ有名らしいのだけど、ナチスがフランスを占領した時代に最初はイギリスの特殊作戦部に所属して、次にはCIAの前身OSSの要員として義足というハンデを持ちながら単身フランスに占領しレジスタンスへの武器供給を中心に時に捕虜の脱走を主導するなどして活躍したアメリカ人女性がいたという。本人は外交の世界で活躍することを目指し語学を始めとした教育を受けるのだけど当時のことで女性には大した役職は回ってこない。在外公館の下働きに甘んじることができない彼女は戦争に身を投じる事で本願成就を図るのだけど...とてもものすごいことですごい人もいるものだと大いに感心させられ、また興味深く読んだのだけど、どうしてもフランスの開放やナチスのイデオロギーへの抵抗よりも、個人的なスリルの追求のほうが大きかったのでは...という気もした。片脚が義足であるにも関わらずナチスから逃れてピレネー山脈を歩いて越えるなど超人的な活躍はすごく興味深く読んだのだけどどうしてもその点が引っかかって。でも大変面白い作品であることは間違いないです。良かった。

勝負師

勝負師 坂口安吾

坂口安吾による囲碁・将棋のルポルタージュや対談を編んだ作品集。棋士たちの勝負にかける苦悩や人生を敗戦直後の日本に重ね合わせて描く。安吾の観戦記を読みながら、実際に将棋盤に駒を置いてみる。『勝負師』という作品の95ページ8行目「木村、四十九分考えて、」は木村ではなく塚田名人の誤りではないか。

四神の旗

四神の旗 馳星周

藤原不比等を取り上げた前作が面白かったので手にとってみたこれは不比等の息子たち武智麻呂、房前、宇合、麻呂の俗に言う藤原四兄弟の話。偉大な父親の遺志を継いで権力を掴んでいく過程を描いている。四兄弟の祖父にあたる中臣鎌足が蘇我氏を倒してくれたあとなので大物と言えるのは皇族たち、特に長屋王だけで彼といかに対峙しどう排除したのか、という物語。武士が主人公の歴史モノと違って貴族による闘いなのでどうしても陰険というか...腹のさぐりあいであったり讒言であったり、というじっとり感は拭えない。そこが面白い、と思える人であれば楽しめるのかな、という気はした。長屋王から藤原四兄弟~橘諸兄~恵美押勝~藤原氏の復権という権力闘争の流れだとかその前の次代、大化の改新と壬申の乱ではじまる飛鳥、奈良時代の歴史は実はかなりの激動でもっと掘り下げていくと楽しめるかな、という気がしている。ちょっと残念なのは主人公が4人いるような感じなのでちょっと散漫になったところと結末が少しバタバタと蓋閉められちゃった感じなところかな。

コロンビア商人がみた維新後の日本

コロンビア商人がみた維新後の日本 ニコラス・タンコ・アルメロ

タイトルに惹かれて読んでみたんだけどこれはかなりインパクトのある内容だった。作者はシモン・ボリバルが解放し独立したばかりの南米コロンビアの初代財務大臣の息子ということで要は富裕層の息子。商人として主に中国を相手に活動していたのだが維新直後(明治5年くらいらしい)の日本に興味を持って日本を旅行してみました、という内容。起点がニューヨークで鉄道でサンフランシスコまで行ってそこから船で横浜に渡って日本国内は東京から中山道で京都まで、京都から大阪に出て汽船で東京に戻る、というルート。紀行文学としての期待で読んだのだけど残念ながらそういうところは殆どなくどこで聞いたのかなんだかところどころ怪しげな日本の歴史についての説明が半分以上を占めている。そして日本についての印象だけどこれが物凄くて、当時の日本と日本人は彼の目には「狡猾で模倣だけは上手く教養と知的好奇心に欠ける民族で家具が殆どない貧相な家で床で直に寝る動物のような暮らしをしていてその音楽は三味線しか楽器がなく調子外れで音痴であり貧相な寺院では境内で縁日などをやるうえに混浴を日常的にする野蛮でどうしようもない国」という風に見えたらしい。百田某とかが読んだら激怒しそうな中身(笑) 褒めてたのは焼物、漆器、女性くらいでほぼ罵詈雑言のオンパレード。正直、自分も不愉快だったのだけど、最近は世界で褒め称えられている日本とか、昔からすばらしかった日本という本が多いように思うけど実は当時の殆どの外国人はこういう風に見ていたのではないかな、と思った。最近の日本がどう見られているのかも遍く確認したらあながちこんな感じなのかも。ちなみに作者が中国相手にやっていた仕事というのがクーリーの買い付けでいわば奴隷商人なわけであとがき読んだら日本で奴隸船を摘発されて罰せられたらしくその辺りの感情も織り込まれているのかもしれない。日本人なら間違いなく不愉快になるのであまりお薦めはしません。