原書房の本

独裁者はこんな本を書いていた 上

独裁者はこんな本を書いていた 上 ダニエル・カルダー/黒木 章人

タイトルから面白半分で手にとって見たのだけどこれがかなり興味深い内容。作者はスコットランド出身のジャーナリストでモスクワに十年暮らして旧ソ連の国々を旅して過ごしたという経歴の持ち主。その旅の過程で思い立った内容らしく「人類史上最悪の本」の数々を実際に読んで解説している。構成も面白く第一部が大物たち(レーニン、スターリン、ムッソリーニ、ヒトラー、毛沢東)の作品が、第二部が小物たち(サラザール、フランコ、チョイバルサン、ゴットワルト、チトー、ケマル、ナセル、カダフィ、金日成、ホッジャ、ブレジネフ、ホメイニ等)の、そして第三部が最近の(金正日、カストロ、フセイン、旧ソ連の関係者たち)という構成。よくもまあこんなにろくでもない内容の本ばかり読めたものだと感心。フランコとフセインが小説まで書いているのには驚かされたしイラクの独裁者は後年政治そっちのけで執筆に夢中だったというのも意外。スターリンが元神学生で並外れた読書家というのは知っていたがファシズムの創始者であるムッソリーニもかなりのインテリだったというのは知らなかった。もしかしたらかなり興味深い人物なのかもしれないな、とか、27で政権をとってしまって更にその地面から石油が出てしまったリビアの独裁者は恥をかくために出したとしか思えない稚拙な著書を出していてある意味でかわいそうだったんだな…とか、取り上げられている独裁者たちがバラエティに富んでいるので感想もとっちらかってしまうけれども全体通してかなり面白く読めたのは事実。「20世紀独裁者文学の父レーニン」とか「究極のおしゃべり野郎カストロ」とか「ポストモダンな独裁者金正日」とか翻訳の腕なのか表現も面白く登場している連中の所業にも関わらず愉しくも読めました。

お嬢さま学校にはふさわしくない死体

お嬢さま学校にはふさわしくない死体 ロビン・スティーヴンス/吉野山早苗

2020/4/26読了 イギリスの寄宿学校で起きた殺人事件の謎を、金髪美少女(しかも貴族でスポーツも万能)のデイジーと香港からの留学生で少し臆病ながらも秀才のヘイゼルが、探偵コンビを組んで解決していくシリーズの一作目。時代背景やモチーフだけならものすごく好みなんだけど、主人公の二人(特にデイジー)の魅力がいまいち伝わらない。ミステリーとしては手掛かりや証拠の掴み方が行き当たりばったりで、少女小説として読むにも学校パートの楽しさが物足りない。シリーズ進むとキャラクターが掴めて楽しくなってくる気もするので、早く次作を読まねば。

世界から消えた50の国 1840-1970年

世界から消えた50の国 1840-1970年 ビョルン・ベルゲ

こういう滅亡ものがなんか好きなんで手にとってみた。作者は学者ではなく建築家なのだが切手収集を趣味としていて今は無き古い切手を発行した国について思いを馳せてみた、という感じの作品。なので深い掘り下げとか政治的にどうこうといった話はなくて印象的なエピソードが少し採用されているくらい。日本の関連では満州国と琉球が取り上げられているがそれぞれ731部隊と集団自決だけが取り上げられていて正直なところ少し不快だったのも事実。こんな歴史もあったのか!とエピソードを広く眺める分には良いかな、という感じ。

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密造酒の歴史

密造酒の歴史 コザー ケビン・R

酒を飲みながら下からは垂れ流す、という最低の姿の天使?の姿が描かれた表紙に惹かれて手にとってみた。ここでいう密造酒、は蒸留酒のことでより純粋で度数の高いアルコールを手に入れようとする人類の努力には頭が下がる思い。スーパーマーケットで手軽に焼酎やウイスキーを買ってこられる我々はなんと幸せなことか。本作は歴史を一応はなぞっているものの系統だって歴史を述べたものではなくエピソード集のような趣きでそこが評価の分かれるところかと。アングラな密造酒の危険をうったえるとともに「合法的な」密造酒〜要は熟成してないウイスキー〜の魅力を伝えることには成功している。

玉藻の前

玉藻の前 岡本綺堂

藻は色んな男をたぶらかしてこの世を掻き回そうとしているけど、そんな中でも千枝まへの恋心(恋心なんてかわいいものじゃないが)がまさってしまうのが妖怪ながらもいじらしいものを感じましたー 千枝松も師匠と藻の間で揺らぎながら最後は藻を失ってしまったことを後悔する…とても切ないです。 殺生石のシーンは岡本綺堂お得意の心中ですね(あの場面で2人は永遠に一緒になれたと捉えるべきでしょうか?) これは怪奇小説ではなく恋愛小説だと私は思います

捏造される歴史

捏造される歴史 ロナルド・H. フリッツェ

かつて大西洋にあったとプラトンが語ったアトランティス大陸。あるいは現生人類を作ったのは遥か彼方から地球を訪れた宇宙人で、その宇宙人の存在は聖書に書き残されているという文明宇宙人起源説。そんなことは科学的に見ればありえないことは明らかだけれど、それを頑なに信じる人々がいる。中高生くらいならともかく、いい大人になってまで。そしてそうした妄説は意外にしぶとく生き残る。 なぜそうした妄説が生き残るのか。妄説は、黒人やユダヤ人、そうしたマイノリティたちによる精神の拠り所でもあるのだった。ここでは取り上げられてないが、ウラ・リンダ年代記や日本の竹内文書、あるいは韓国起源説などという偽史も自分たちの祖先の権威づけだ。それが日常生活に何かをもたらすわけではないが、時折過激な形をとることがある。苦笑いしてやりすごせるだけのリテラシーが必要なのだということか。 詳細な記述がときおり退屈で、何度も寝てしまったけどよい本。ただし校閲はだらしなさすぎ。わずか2ページの間に同じ人物の表記が異なる3通りで出てくるとかありえない。数行先に出てきた人名表記が違うって普通気づくだろ。訳者も悪いけどこういうのは編集がなんとかすべき。何やってんだ版元。

熊野神と仏

熊野神と仏 植島啓司/九鬼家隆

たまたま飲み会で「面白いよ」と耳に挟んだ宗教学者の作品。いきなり論考みたいなのは重そうだったので熊野の宮司さんと金峯山寺の執行長さんとの鼎談、かつ個人的に吉野がルーツということもあってこのタイトルを手にとってみたのだが正解だった。どうやら「紀伊山地の霊場と参詣道」が世界遺産に登録された時に出されたものらしい。あまり深く考えたことがなかったのだが、修験道の吉野、仏教の高野山、神道の熊野と異なる宗教を繋ぐ道がある、ということ自体世界的には珍しいし、現に修験者は吉野の金峯山寺から古道を伝って自分たちの聖地である大峰山に至り最終的に熊野に詣る(逆のルートもあるのだがそちらのほうが険しいので廃れてしまったらしい)ということをしている。これを日本人特有のいい加減な無宗教、と捉えるのではなく、異なる宗教の融和、という観点でむしろ世界平和にも貢献できる素晴らしい文化である、と論じる内容となっている。内容の是非はともかく(個人的には一つの神を祈るだけが宗教とは思わないのでここで書かれている内容に賛成だが)熊野古道に対する関心を高める効果はあったようでいつか自分でも踏破してみたい、と思ってしまった…。良い作品でした。

帝国の最期の日々 上

帝国の最期の日々 上 パトリス・ゲニフェイ

タイトルそのままの内容。古代から現代に至る「帝国」の崩壊を網羅したもの。ここでいう「帝国」とは複数の民族を支配する国家のことで具体的には~アレクサンドロスの帝国、西ローマ帝国、ササン朝ペルシア、カロリング帝国、アラブ帝国、モンゴル帝国、ビザンチン帝国、マヤ・アステカ帝国、神聖ローマ帝国、スペイン帝国、ナポレオンのフランス、中華の各帝国、ハプスブルク帝国、オスマン帝国、ドイツ第三帝国、大日本帝国、イギリス植民地帝国、フランス植民地帝国、ソビエト連邦、の19ケースが取り上げられており、最終章は現代の最強の「帝国」である合衆国の崩壊はあるのか、にあてられている。結論が分かってしまうけども…崩壊に至る道筋はそれぞれ違っていて何か共通法則のようなものを見出すのは無理、ということが分かってしまう。それでも類似ケースとして歴史を参照することは意味があるだろうとは思う。各章の筆者がばらばらで読み難い章もあった〜個人的にはまえがきが一番厄介だった〜けどもじゅうぶん楽しめた。

碆霊の如き祀るもの

碆霊の如き祀るもの 三津田信三

事件が始まる前までの、四つの怪談の描写に力を入れている感じで、事件は何も解決しておらず消化不良。 御堂島警部が理解のありそうな人物なのに、もう少し事件の解決についての詳細を出して欲しかった。 祭や村の様々なことばかりがメインで、ミステリー色が薄く、密室のトリックの証明がなかった。 また、勝手についてきて勝手に文句を言って、他人の恋愛事情に首を突っ込む祖父江がウザかった。 新作なので少し楽しみだったが、結の部分が甘すぎてガッカリした。 ミステリーよりもホラー的要素がとにかく多いので、そっちの方が描写が強かった。

フォト・ドキュメント 世界を分断する「壁」

フォト・ドキュメント 世界を分断する「壁」 アレクサンドラ・ノヴォスロフ

トランプが不法移民対策としてメキシコとの国境に壁を作る、と言ったときにはなんと馬鹿なことを言うんだと思ったのだけど、ふと前から壁があったような...と思った時にちょうど目についたので手にとってみた。やはり随分前から壁があって場所によってはかなり立派な。そして自警団的に休暇を利用して国境警備をしている一般市民までいる。トランプみたいにtwitterで言わないだけで例えばオバマ政権のときも160万人以上を壁のところで捕まえて阻止している。ほぼ同じ民族、文化を有する人たちを分断する物理的な壁ってバカバカしいと思うのだが本作のようにたくさんの写真まで掲載されるとその思いが更に増す。有名どころでは38度線、イスラエルの入植地、北アイルランド、マイナーなところだとキプロス島、モロッコが西サハラに敷設したもの、そのモロッコにスペインが飛び地を主張して敷設したもの、インドがカシミールに敷設したもの、同じくインドがバングラディシュとの国境に張り巡らせたものなど。分断のばかばかしさと不条理さを理解するにはうってつけの作品だと思います。

ナチの子どもたち: 第三帝国指導者の父のもとに生まれて

ナチの子どもたち: 第三帝国指導者の父のもとに生まれて タニア・クラスニアンスキ

これはタイトル通りの内容。ナチス幹部の子供達についてまとめたもの。あれだけの悪事を働いた親を持つ子供というのはどういうことになるのか、ちょっと興味があったので。出てくるのは、ヒムラー、ゲーリング、ヘス、フランク、ボルマン、ヘース、シュペーア、メンゲレの子供達。やはりそれぞれで、あくまで父親を敬い続ける者たち、罪の意識のあまり信仰に走る者達、ユダヤ教への改宗など被害者側に身を置く者達、生殖能力を絶って子孫を残さないようにする者達、など様々。ナチス全盛期には王侯貴族のような暮らしをしていた子供達のそれぞれの戦後の生きざまが痛々しい。それにしても…毎日大量虐殺をしながら家では良き家庭人だった、というケースが多く、人間って怖いなと思わせられた…。

パスタと麵の歴史

パスタと麵の歴史 カンタ・シェルク

気に入ってる食の歴史シリーズ。今回のはパスタと麺の歴史。 イタリアと中国それぞれで生まれた似ていない双子〜パスタと麺〜の歴史をコンパクトにまとめたもの。網羅的かつコンパクトで好感が持てる。中国はじめ東洋では麺に最適なデュラム小麦が無かったので様々なバリエーションが生まれたという印象。逆に西洋に置いてはパスタが完璧であったが故にバリエーションが少ないのかな、と思った。巻末にはレシピと麺の種類の一覧〜パスタのそれが凄い!〜もあって面白い。個人的には昔の貧民が食べたという茹でたてにラードをからめてチーズをすりおろしたもの、を食べてみたいと思った。