東京創元社の本

戦地の図書館

戦地の図書館 モリー・グプティル・マニング/松尾 恭子

アメリカ軍は前線の兵士に本を届けるということを組織だって実行していたらしくその記録。もともとはナチスが自分たちの意に沿わない本を燃やしたことへの抗議から図書館を中心に既存の本を届けるというプロジェクトだったものが前線でも兵士が持ち歩きやすいようにコンパクトな「兵隊文庫」として整備され実に一億4千冊が配布されたのだという。とにかく精神論で飢餓状態で弾もないのに闘え、といった我が国の軍隊とは違って、兵士が良いコンディションで闘えるように、ということを追求する米軍らしい話かなと思いました。戦地に届けられる備品の中で、もちろん飢餓などには無縁だからというのもあるけど本が一番人気があった、というのも興味深い。よりよい状態で人殺しができるように、という目的である、ということさえ気にならなければかなり面白い作品だと思います。面白かった。

九度目の十八歳を迎えた君と

九度目の十八歳を迎えた君と 浅倉秋成

高校三年生を繰り返し続けるヒロインと、かつて彼女に恋していたアラサー主人公のお話。 彼女を救うために自らの黒歴史を素手で掘り返す羽目になる主人公が切なくもアツい。 教頭先生がとにかく最高過ぎる! 伏線の魔術師、浅倉秋成の本領発揮!みたいなお話。 ありとあらゆる要素が、終盤に効果的に伏線として炸裂していく展開が素晴らしい。 米澤穂信的な「ビターな青春感」も心地良く。完全なワタシの好みのツボに合う感じ。

発火点

発火点 C・J・ボックス/野口 百合子

アメリカのど田舎、ウィスコンシンの猟区管理官を主人公にしたシリーズ。ハヤカワ文庫から創元推理文庫に版元移してのこれはもう何作目だろう...かなり長寿のシリーズとなっている。アメリカの地方都市は州の独立性もあってか元気な街がまだ多い印象で今日的には環境問題や資源の問題など地方の方が新しい問題を物語に取り込みやすいのでは、と思うとそこにいち早く目をつけて活かしている作者はものすごく上手い作家だと改めて思った。本作品では環境保護局が悪役。日頃は密猟者を取り締まるのが主な仕事の主人公は管轄外のあらゆる事件に好むと好まざるとにかかわらず関わってしまう才能を持っているのだが、本作では環境保護局の捜査官を射殺し山中に逃げ込んだと思われる人物の知り合い、最終目撃者、山岳ガイド、として事件に巻き込まれる。なけなしの金でやっと手に入れた山中の土地の開発を環境保護局に理不尽に妨害され殺人に及んだと目された容疑者を厳しい自然の中で追うかなりスリリングな描写がとにかく見事。推理のストーリーも素晴らしくやはり上手い作家。まだまだ続く感じで次作以降もすごく楽しみ。素晴らしかった。

集結

集結 マウリツィオ・デ・ジョバンニ/直良 和美

21世紀の87分署シリーズなどと言う声があれば読まざるを得まい、ということで手にとったイタリアの警察小説。一応主人公めいた設定の人物はいるもののほぼ全ての警官が主人公になり得る形式の警察小説。本作品では押収した麻薬を横流しした結果、刑事の全員が逮捕、解雇され引責で署長も辞任したナポリの治安の悪い地域~いちおう架空となっている~にある警察署を舞台としている。そのような理由なので名前を聞くだけでも皆が顔をしかめるような状況。若手でやる気のあるキャリアが志願して署長として赴任してきたが穴埋めに異動してきたのは全員が曲者というか元いた署では持て余されていた者~反社勢力とつながりがあると噂され有能だが浮いている警部、スピード狂で派手好きな若者、暴力衝動を抑えられない男、警察署内で発砲事件を起こした女性刑事~だらけという設定。そこに複雑な個人の事情を抱える元からいた年配の副署長と女性警官という6人が現時点では中核となる登場人物らしい。いきなり寄せ集められた警官達が直面する2つの事件~殺人事件と若い女性の監禁~の謎解きと登場人物それぞれの背景事情が語られる。どのエピソードも今後が楽しみな感じでシリーズの第一作目としてはかなり上出来。観光都市ナポリが舞台で汚らしい犯罪と美しい景観の対比なども面白い。これは是非ずっと邦訳を出していってほしいシリーズだ。面白かった。

蝉かえる

蝉かえる 櫻田智也

面白い! 前よりも面白くなってる!! 前作の読後から妙に気になって 早めに読んで正解でした! 昆虫好きの魞沢泉が絶妙のおとぼけで 愛くるしくて応援したくなります 虫嫌いな方も大丈夫! 軽快で読みやすいのに 短編5篇のどれもが 好みをあげるのも悩むほどの 良作揃いです 読後感は更に良くなって もう、続きが読みたい! このシリーズは追っかけますよ~

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死んだレモン

死んだレモン フィン・ベル/安達 眞弓

マーダーボール(車椅子ラグビー)を 崖で宙吊り状態 死にかけで思い出す場面から始まる 過去と現在の時間軸を行き来し どうしてそんな目に遭っているのか 物語はゆっくり進んでいく ニュージーランドの土地柄や 心理カウンセリング ミステリも 全てクオリティが素晴らしい 熱量もすごく、読み応えがある 特に、心理学者の作家らしい カウンセリングの文章は ミステリとは思えない特筆もの! 次も読みたい

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犯罪

犯罪 Schirach, Ferdinand von

「コリーニ事件」が映画化されて気になったので シーラッハ初読してみた 11篇の短編集 正に多種多様な犯罪で 罪とは善悪が表裏一体 善なのに殺人を犯したり 悪だけれど家族のためなど 法で裁くとは何なのかを 読みやすい文章で読者に訴えている 短編集でも一つ一つが重く 読み応えがある 英米とは違う裁判の様子や 移民やナチスなど複雑に絡まったお国事情で ドイツも色々大変なのだと知る 日本も色々あるけれど 治安の良さによかったと思える本でした

冬雷

冬雷 遠田潤子

主人公の生い立ちや境遇が辛くてやらせない気持ちに…土地の習わしに囚われた大人の勝手に巻き込まれてく子供達の様子に胸が苦しくなったけど、これ大人側も苦しんでたのかな。本の装丁も美しくて引き込まれる作品でした。

メグル

メグル 乾ルカ

5つのバイトの話 一晩中死人の手を握っているバイト、病院内にある売店の商品入れ替えのバイト、犬に生肉を与えるバイト、出された食事を食べるバイト、庭の手入れのバイト 明らかに怪しいバイトや一見普通のバイトなのに妙にお金が高いバイトを大学の事務局が紹介していて 案内している事務員の悠木さんは的確に生徒を選んで紹介している バイトをしてみると何故その子が選ばれるのかは理解できる ただなぜそれを悠木さんはわかるのか謎

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森の中に埋めた

森の中に埋めた ネレ・ノイハウス/酒寄 進一

邦訳が出るたびに手にとっているドイツのミステリシリーズ。毎回書いてるんだけどこのエピソードが好きで...ソーセージ職人と結婚した作者が夫の店を手伝う傍ら趣味で書いて店頭に置いていたものが出版社の目に止まっていまでは大人気シリーズになっているという警察小説。大都市フランクフルトの近郊の街を舞台にもともとその辺りの領主を先祖に持つ貴族階級出身の男性警官とそのパートナーの女性警官を中心としたシリーズ。思えば最初の頃はドイツ人で固められていた警察も気がついたらトルコ系やシリア人の刑事がいるのはどこまで現状を反映しているのだろうか...。さて、本作ではキャンプ場でトレーラーハウスが爆発し男の死体が発見される。そのトレーラーハウスが男性警官の知り合いの母親の所有でその母親も殺されて、爆発を目撃していたと思われる青年も男性警官の知り合いの息子で...といった具合で周囲の人間が次々と不審死やら不審な行動をとって、という話。あることがきっかけで村の秘密が暴かれて...みたいなのってミステリでは割とよくあるシチュエーションかと思うのだけどそこは手練の作者、かなり面白く読ませてくれます。登場人物がかなり多くあまり馴染みのないドイツ人の名前がたくさん、というものでも平気、という人にならお薦めできる作品でした。

深夜の博覧会

深夜の博覧会 辻真先

今年のミステリ系各賞を総なめした『たかが殺人じゃないか』前日譚。10年前のお話。 知られざる名古屋汎太平洋平和博覧会が舞台。名古屋でこんなイベントが戦前にあったんですね。 乱歩の『パノラマ島奇譚』へのオマージュ。戦前、最後の日常とも言うべき戦間期の雰囲気が良い感じ。 エログロ成分多目なので、万人向けではないですが、こういう雰囲気好きな方にはオススメ。 あと、濃厚な名古屋愛を感じることができる作品です。空襲で焼けてしまった戦前の名古屋を堪能出来ます。 東京-名古屋間を6時間で結ぶ、超特急燕号も、鉄オタ的には痺れます。流線型の機関車が格好いい!

運命の八分休符

運命の八分休符 連城三紀彦

あまりにも美しく、そして哀しい話ばかりでした。 そして、雨や花といった日常の情景描写や心情の機微の描き方美しさに魅了されてると…肝心なところを読み飛ばす…そんなのばっかりでしたが、それがよかった。 格好いいのに、なのに…というラストの哀切さがいいなあ。 どうしてこんな「構図」を考えられるのだろう、そして仮に思いついても「いや、できたらすごいけど、ムリだよな…」とあきらめそうなところを実現させているという、奇跡の神業が最後まで続いてるような作品集でした。 40年前の作品とは思えない、そしてこの本が、ずっと絶版になっていたのも信じられないです。

空のあらゆる鳥を

空のあらゆる鳥を チャーリー・ジェーン・アンダーズ/市田 泉

動物の言葉が分かる魔法使いの少女パトリシアとタイムマシンを自作する天才科学少年ロレンス。 特殊な能力ゆえに、ともに孤立していた2人は独特な友情を育んでいたが、彼らがいずれ世界を破滅させるという予知に囚われた殺し屋につけ狙われ、家庭や学校を離れ別々の道を歩むことになる。 そして数年後、まさに世界が破滅する寸前に彼らは魔法と科学という両陣営に別れ、敵同士として再会することになるのだが…。 気候変動による地球の破滅、科学と魔法の戦いという壮大なテーマに、ボーイミーツガールというロマンス要素も加わって、盛り沢山のご馳走みたいな物語。 時に相手を信じられずに早合点をして失敗したり、過ちを犯し大切な人を傷つけたりするけれど、一生懸命に償い、やり直そうとする主人公たちに、最後まで引っ張られて一気に読み終えてしまった。 パトリシアに絡む鳥たちのお喋りが小気味良く、ロレンスが自作しパトリシアが育てた人工知能が個性的でラブリー。 ネビュラ賞・ローカス賞・クロフォード賞受賞作

シトロン坂を登ったら

シトロン坂を登ったら 白鷺あおい

2020/8/13読了 大正浪漫×乙女×魔女養成学校もの、と思って読んでたら、妖怪ものでジャングル冒険譚だった。 妖魅としてのキャラクターと、普段学園生活を送っている少女としてのキャラクターが、シリーズが進むごとにそれぞれ出てくると思うから、そのどちらの特性も利用して三人娘が活躍する物語になるといいな。今後の展開が楽しみ。

短編ミステリの二百年1

短編ミステリの二百年1 モーム、フォークナーほか/小森 収

創元推理文庫には江戸川乱歩編の「世界推理短編傑作集」というものがあるらしいのだけどそれに続くアンソロジーとして編纂されたものらしい。二百年間に出た短編ミステリの名作・傑作を全六巻に集約するという一大プロジェクトということでミステリ好きとしては見逃せない感もあって手にとってみた。一作目ということで1800年代から1900年代はじめに出た古典が中心。作家としてはビアス、スティーヴンスン、デイヴィス、サキ、モーム、ラードナー、フォークナー、ラニアン、ウォー、ウールリッチ、コリアというところ。初期ということもあってこれがミステリ?というのもあったりするところがおもしろい。アンソロジーということで編者との相性で楽しみが大きく左右されるのだけどとりあえずは意見保留で2巻目を読んでみたいと思う。それにしても解説というか編者のあとがきというか解説が長い。個人的には編者が作品以外のところで自己主張するのはあまり好ましくないと思うので二作目以降も同じことが無いように祈っています。

薫大将と匂の宮

薫大将と匂の宮 岡田鯱彦

源氏物語のその後をミステリにした小説 古典授業で冒頭をかじったのと 漫画を読んだだけなので知らなかったですが 原文の雰囲気を再現されているらしく 現代文とは違い 紫式部の気持ちがそのまま長々と書かれており 慣れてないので手こずりました ミステリとして面白いのは 匂いという点 これは斬新で面白くて笑ってしまいました このテーマで女性が書いたら 角度違って面白そうなので そんな本も探してみようと思います

リックの量子世界

リックの量子世界 Ambrose, David

タイトルは原題の方が良い。今のはチープだし過度にSFだと押し付けている感がある。妻の交通事故をきっかけに意識が並行世界の自分の中に移った男の話とも読めるし、そういう妄想を抱いた男の話とも読める。そのどっちともつかない曖昧な状態で読者に読ませた方が良かったと思う。途中のメインストーリーがやや単調なのが辛いが、パート2以降で上のような二重性が分かる構成は面白かった。 2020/5/5読了