文藝春秋の本

神さまを待っている

神さまを待っている 畑野智美

読んでいる間、怖くて仕方がなかった。派遣切りからホームレスへの転落。このコロナ禍では、正社員だからといって安泰ではない。自分も主人公のようになる可能性は充分にある事を突きつけられた。

炎上フェニックス 池袋ウエストゲートパーク107

炎上フェニックス 池袋ウエストゲートパーク107 石田衣良

言葉は鏡。 自分の行うことは正義だと信じて疑わない。 SNSで火を放つことも。 叩いたコメントを本人が被害者に読み上げるシーンが心に残った。 そこには、殺人鬼でも怪物でもない弱い人がいた。 残暑になるとIWGPが待ち遠しくてしょうがない。 また、来年も待ってます。

ある男

ある男 平野啓一郎

テーマの一つは「愛」。 極論、過去なんていくらでも装飾できるから、多少であればそれほど気に留めずにコミュニケーションを図ることはできる。 ただ、それが100%作り物となると、相手の何を信じれば良いのか、相手はいったいどんな人間なのかわからなくなる。 相手の過去のエピソードも含めて愛しているから、それが別の人物のエピソードとなると「私が愛したあなたは誰?」と混乱し、不信感、憎悪につながる。 実際にその人とコミュニケーションを取り、少しずつ愛を育んできたにも関わらず、その過程すらも嘘のように感じてしまう。 他の人物になることで解放されるのは、大枠は小説や映画の世界に没入するのと同じなのかな。 美涼の言葉が刺さる。 「わかった上で、愛し直す。」

ギブ・ミー・ア・チャンス

ギブ・ミー・ア・チャンス 荻原浩

荻原浩さん中毒に浸りたい気分で選んだ一冊。 夢を目指して、人生をもがく人達の葛藤を描いた短編物語。 主人公たちのココロの本音と不安。それがリアル。 もがいてもがいて、でも上手くいかない人生。 でもラストの小さな小さな幸せでホッコリ。 やっぱり荻原氏の小説はやめられない。

琥珀の夏

琥珀の夏 辻村深月

私も、学校ではうまくやれない子だったなあとひりひりした思いを抱えながら読んだ。 こんな展開になるなんて!

8
彼女は頭が悪いから

彼女は頭が悪いから 姫野カオルコ

学歴・性差・ルッキズム…あらゆる差別意識は日常に溢れていて、自分は差別なんかしていないつもりでも、つもりでしかない。プロローグの「勘違いとはなにか?」この文章が、読了後も頭の中をぐるぐるする。とても考えさせられる作品。

8
剣と十字架 空也十番勝負(三)決定版

剣と十字架 空也十番勝負(三)決定版 佐伯泰英

第三巻。 居眠り磐音もだいぶ落ち着いている人柄だったけど、息子はその上を行く落ち着き具合(というか上品)。巻を追うごとに増していく主人公の清廉な上品さと、権力者というか敵の醜さ(とっても横暴)とのコントラストがしっかりしているので、勧善懲悪な感じで読後感がいい。久しぶりに時代劇を見たくなる。

透明な螺旋

透明な螺旋 東野圭吾

久しぶりにガリレオ。やはり引き込まれて、一気読み。 今までのも読み返そうかな。(たぶん今までの伏線忘れてそう)

花束は毒

花束は毒 織守きょうや

できるからって何でもしていいわけじゃないし、何が正しいのかも、私が決めることじゃない。

かけおちる

かけおちる 青山文平

青山作品はやっぱりいい 江戸時代の興産事情を サラッと書くあたりもかっこいい 蚕の話にのめり込んでしまった ずんずん読み込んで もっともーっと知りたかった 話は半分過ぎると一気 畳み掛ける勢いが凄いので 終わりが肩透かしに感じるかもしれませんが なんでもいいです おもしろかったので

TOKYO REDUX 下山迷宮

TOKYO REDUX 下山迷宮 デイヴィッド・ピース/黒原 敏行

東京三部作の完結編 本作は「下山事件」をモチーフとしている。「TOKYO REDUX」直訳すると「帰ってきた 東京」これは物語が 1949 年、64 年、89 年の三部から成り立ち事件の記憶をたどる意味 と終戦後の逆コースを辿りつつある 49 年の社会状況を表しているのではないだろうか 反共の防波堤となるべく一旦は退場させられた旧日本軍の残影が甦ってくるふたつの意だ。 また、副題「下山迷宮」とあるように本書は事件の謎というよりは読者自身がまさに読み 進めるに従いどんどん迷宮にはまり込んでいくような感覚を味わう肉体に訴えかける読 書体験となる。フィジカルにガツンとくる読書は近年稀にみる体験だ。 「駅に戻る、階段を降りる。川から離れる、隅田川から離れる、誘惑から離れる。類型と 犯罪。失踪、消失。夜の中へ、影の中へ。都市の下で、地面の下で。」p.37 このリズム! 第二章「涙の橋」1964 年の復興を遂げつつも敗戦を引きづる東京を舞台にした本章は直接 的には事件に関わらないものの現実なのか空想なのか理解に苦しむ幻想譚が癖になる。 これは何度も読んでじっくり噛むほどに味わいが出てくるやつだ。 「下山事件」「三億円事件」「グリコ森永事件」この三つの未解決事件は自分の弱点で新し い本が出るとつい読んでしまう。 翻訳は「八月の光」光文社古典新訳文庫版の黒原敏行。

フテンマ戦記 基地返還が迷走し続ける本当の理由

フテンマ戦記 基地返還が迷走し続ける本当の理由 小川和久

この作者についてはニュース番組などで昔何度か見かけた際に論理的で落ち着いた語り口に好感を持ったことと日本では珍しい軍事アナリストという肩書き…そこに至る経歴も異常で自衛隊の航空学校から同志社の神学部中退とか。興味を持ってSNSでフォローしておりそこで知った作品。タイトルどおり日本への返還が日米間で合意されているにも関わらず24年間も実現していない事実について民間人の立場で交渉に関わった経緯をまとめたもの。失礼ながら作者のことは評論家としか認識しておらずここまで政府に食い込んでいるとは思わなかった。首相の補佐官的な役回りで橋本龍太郎から鳩山由紀夫辺りまで積極的に関与していたことに少し驚いた。作者の立場は一貫しており住宅密集地にある普天間飛行場は一刻も早く返還してもらい替わりの空港は同じ沖縄のキャンプ・シュワブに移す、というもので辺野古埋め立て案には大反対、という立場である。理由は環境面の配慮ではなく専門の軍事的な立場で要は水上に浮かべた空港では海兵隊の訓練にも実戦にも耐えられない、というもの。その意味ではアメリカ側も軍というか制服組にもその案は合意されており現実的な案である、という主張である。そしてアメリカ側も正式に日本からその案が提示されたら受け入れ合意されたはずなのに日本側が24年にわたって国内で意見を統一できなかっただけ、という見方。そしてたぶんそれは正しくて政治のリーダーシップの欠如であったり役人達の軍事知識不足であったりそういうことなんだろうと思う。そもそも作者にしてもそれだけ正しい案であれば顧問的な責任のない立場からものを言うのではなくもっと積極的に案への支持を取り付ける動きができなかったのか、とも思う。それにしても本当に生々しい記録。特に非難されているのは麻生太郎と鳩山由紀夫。珍しくリーダーシップを発揮でき得た野中広務をその出自を取り上げて引きずり下ろした麻生太郎。面罵されて一言も返せない情けない姿が明記されている。鳩山由紀夫に関してはもはやまともな能力を持った人間としてすら描かれていない。この二人に関しては財力や肩書きが人間の能力や品性に直結しないということをわからせてくれると思う。それにしても今現在既に注目すらされていない普天間問題。いみじくもロシアのプーチン大統領が北方領土を返還した途端、そこに米軍基地を作られても日本政府は何もできないだろう、と言ったことでもわかる通り沖縄だけの問題ではないことは明らか。本作を契機にまた議論なり交渉が進めば良いのに、と思います。これも素晴らしい作品。おすすめです。

シェフたちのコロナ禍 道なき道をゆく三十四人の記録

シェフたちのコロナ禍 道なき道をゆく三十四人の記録 井川直子

前に読んだ作品(シェフを続けるということ)がよかったことと扱われているテーマに強い関心を持ったので手に取ってみた。タイトルどおり34人のシェフ達へのインタビュー集で、飲食店に対し「要請」が出た昨年の四月時点に聞き取った内容を逐次noteで公開したものに対して昨年の十月時点でフォローインタビューを行ったものを追加し単行本にまとめたもの。逐次noteで公開したのは当時「何が正解か分からない」という声が多かったために「他所はこうやってるよ」と知らせたかった意図によるものらしい。私には縁のない高級店ばかりだったが一流の仕事人達がどのように事態を受け止め対処を検討し実行したか、に非常に興味があった。もちろん対応が一律ということはなく、即休業に踏み切った人、テイクアウトに切り替えた人、縮退ながら営業を継続した人、先をちょっと減らしたくらいでマスク含め対策を殆ど取らなかった人、と大雑把に分類できる。ほぼ全ての店が予約困難店であり連日満席、という状態からで補助金や融資をどう受けたかなども包み隠さず話す人も多くいて作者との信頼関係が窺えた。いっきに350人分のキャンセルが出た話が一番きつそうだったが他のお店も満席から一転、ポツポツとしか客が入らない状態になってしまっているのだが全員経営者として冷静に判断し対処しているところが素晴らしい。国の援助も見えない時期だけど恨言を言う人は皆無でもらえたら嬉しいけど何も援助がない前提でどうするか、という話ばかり。もちろん外向きでほんとは喚き散らしたりした人もいるのでは…とも思うけど前向きなパワーが素晴らしく不覚にも泣きそうになったほど。今年に入って更に厳しい禁酒法などにもどう対処したのか更なる続編を読んでみたい。安易に言っては申し訳ないけど読めば確実に元気になる気がする。何軒か行ってはみたいけどちょっと自分には敷居高いかな…。それにしても「自分たちが完璧に対応しても全く対策せず前日に密な状態で飲み食いしてたような客が来たらそこまでは対応できない」という理由で休業に転じた店主の言葉は重い。同じような理由で一見さんお断り状態に仕方なくしたお店を知っているが自分だけ儲けたらいい、自分だけ楽しければいい、という人が残念ながら散見される現実に改めて複雑な思いを持った。おすすめです。