古沢嘉通の訳書

夢幻諸島から

夢幻諸島から クリストファー・プリースト

時空の歪みのせいで地図が作成できない多島海。そこに混在する数千の島々のガイドブック、という体の本書。 何々島の風土はどうで、通貨はこうで、と、初めは不思議な島のるるぶ(笑)を読んでいるような感覚が心地よい眠気を誘いますが、1/3程読み進めると、ある一つの事件と、その真相が浮かび上がるという作りになっています。 大枠としてはSFですが、難解な科学用語はなく、むしろミステリに近いかと。

燃える部屋(上)

燃える部屋(上) マイクル・コナリー

出たら必ず買う、から、出たら必ず読む、になってしまったけどもそれでも楽しみな作家の主要なシリーズである刑事ボッシュもの。邦訳では17作目。正直なところこのシリーズについては、長く続くシリーズの常で緊張感が無くなったというか...アメリカの国民性なのか彼の国で長く続くメジャーなシリーズものはパーカーのスペンサーやブロックのスカダーのように円満な家庭とか幸せな家庭に落ち着いていき、ひりつくような感じというかテンションが落ちていくような気がする。残念ながらボッシュのシリーズも同様で、悲惨な生い立ちとベトナムの経験からかなり影のある男だったボッシュもなんとなく普通の初老の男になってしまった感があるのだが...。とういうところで本作。 定年延長制度を利用してロサンゼルス市警で未解決事件を担当している主人公、本作では注目の新人であるラテン系の女性刑事とコンビを組んで、かって狙撃され半身不随となった男が亡くなって生きている間に取り出せなかった銃弾が取り出せたことからそれを元に捜査を開始する。一方で女性刑事のトラウマとなっている放火事件も手がけることにし、2つの事件を追っていくのだが、という話。近年のボッシュものでは出色の出来との触れ込みだったのだが...確かに構成や展開は見事なのだけどなんとなくスムース過ぎるというか。全盛期の作品とは比べようもないが、それでも出たら必ず読むことに変わりはないだろう...特に今回の終わり方が次作を気にせずにはいられない形だったし。あのボッシュもの、と思わなければかなり面白かったことも事実。今回新たに登場した女性刑事を主人公とした新たなシリーズも始まったということでこちらも楽しみ。

罪責の神々 リンカーン弁護士(上)

罪責の神々 リンカーン弁護士(上) マイクル・コナリー

最近でこそ持ち直して来たけどボッシュ・シリーズがちょっと失速してきた頃に出てきたこのシリーズ、まだ好調をキープしています。事務所を構えずリンカーン・タウンカーの後部座席を事務所がわりにしてる刑事専門弁護士の主人公。前作の終わりに地区検事長に立候補したのだけど本作では弁護士に戻ってます。自分が釈放させた飲酒運転の常習者がよりによって娘の同級生とその親を轢き殺してしまい選挙には落選、娘にも縁を切られているという最悪な状態の本作。殺人容疑で逮捕されたポン引きから弁護の依頼を受けた事件の被害者が昔馴染みで足を洗わせた売春婦だったことを知る。事件を調べるうちに悪徳警官の影がちらついて…という話。最後の方が急展開過ぎてバタバタ感があるものの適度にアクションもありスリリングな法廷の駆け引きもありでかなり楽しめた。

蒲公英王朝記 巻ノ一 諸王の誉れ

蒲公英王朝記 巻ノ一 諸王の誉れ ケン・リュウ

『紙の動物園』のケン・リュウが項羽と劉邦をもとに書き下ろした王朝ロマン。分裂してそれぞれに覇権を争う架空の大陸を始皇帝を思わせる覇王が統一、その王朝が崩壊してさらに大陸は四部五裂…。 項羽と劉邦を読んだことはないけれど、馬鹿の由来や韓信の股くぐりなどなど、初出は英語だけどアジア人ならしってるあろうニヤリとできる故事に基づくシーンか多くてとにかく楽しめる。 もちろんそれだけではなくて物語そのものも迫力があって骨太な組み立て。一応主人公は2人だけども脇を固める登場人物がそれぞれ魅力的なところも面白い。そして心底からの悪人が出てこないのがストーリーに深みを与えている。 彼らはそれぞれがそれぞれの本性のなすところに沿って善人であり、誰もが現在の状況を改善しようとするのだけれど、善人であることが正しいことではなく、また改善することが必ずしも万民のためにもならないという当たり前と言えば当たり前の真実の前に膝を折っていく。ところどころに現れるそれぞれの国を統べる神々さえもその宿命を変えるに至らない。そこに悲劇があるのだが、あらかじめ失敗が宿命付けられていてもそれに抗しようとする人の営みは止めがたくて美しい。

贖罪の街(上)

贖罪の街(上) マイクル・コナリー

邦訳が出ると必ず買っていた作者のハリー・ボッシュ・シリーズ。いつの頃からかマンネリというかちょっとこれはおかしいのでは、と思って...どうも主人公が振り切れ過ぎというか明らかにやりすぎになってしまっていてリアリティに欠けてしまい、残念に思いつつ惰性で新作が出ると手には取るという状態。大丈夫かな、と思いつつ手にとってみました。前作でコンプライアンス違反により定年後も雇用延長されていた刑事の職を追われ、復帰を求めてロス市警を訴えている。この訴訟に携わっている異母弟の弁護士から別の事件での調査協力を求められる。容疑者側への転身に躊躇しつつも事件追求の本能に逆らえず調査にのめり込む主人公。動いていくにつれて悪徳警官の姿がちらついて...という話。警官ではないという制約からか最近の作品で鼻についていたやりすぎ感が薄まっており、事件に食らいついたら離さない主人公が戻ってきたという印象を受けた。近年の作品の中ではかなり良かったと思う。

スタートボタンを押してください

スタートボタンを押してください ケン・リュウ

ゲームにまつわる12の作品が収められたSF短編集。 ケン・リュウ(「紙の動物園」など)や桜坂洋(「All YouNeed Is Kill」など)、アンディ・ウィアー(「火星の人」など)といった有名どころの作品は当然ながら、本邦ではあまり知られていない作家の作品もどれも個性的で魅力的だ。 これはお得感ある。 私にとってSFはどれも、現実にはあり得ないという前提からか、どこかせつなさを感じる物語で「お気に入り」の物差しもせつなさの質と量が基準になる。 その基準に従って、上記の3人の作品以外でいくつか本書から挙げてみると、 「1アップ」 「猫の王権」 「キャラクター選択」(一時期私もこういうマイルールでゲームをプレイしてました!) 「アンダのゲーム」 かしら。 ゲームにまつわるとは言ってもビデオゲームばかりでなく、どの作品で取り上げられるゲームも千差万別、荒唐無稽な設定で難解なルールもあったり、そのもどかしさがまた面白い。

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ブラックボックス(上)

ブラックボックス(上) マイクル・コナリー

自分の中では警察官を主人公にした三大ミステリシリーズのうちの一つ。ちなみに後の二つはランキンのリーバス警部とウィングフィールドのフロスト警部。コナリーのこのボッシュのシリーズが最初に出た時は衝撃的でしばらく出るやいなや買ってたんだけどだんだん自己模倣というかマンネリというかでダメになってきて…これもどうかなと思ったんだけどかなり持ち直してる。やっぱりイヤミな管理志向の上司とかいたほうがボッシュのキャラも活きていい感じになるのでは。 本作はロス暴動の折に初動捜査を担当したけども混乱の最中で中途半端で放り出した外国人ジャーナリストの殺害事件を未解決事件班の刑事としてボッシュが再び洗い直す、というもの。 最後のカタのつけかたが凄くバタバタしてるのとご都合主義的なのには眼をつぶるとして、全体的にはかなりいい感じの仕上がり。 やはりこの作家は力ある。次作も楽しみです。

紙の動物園

紙の動物園 ケン・リュウ

近くて遠い別世界、実現できた世界を覗くような気持ちになる物語です。少ない描写がより心の痛みを鮮明に伝える、そこが良い。

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転落の街(上)

転落の街(上) マイクル・コナリー

作者のハリー・ボッシュ・シリーズは当代最高のハードボイルドと言われており、自分もそう思っていたのだが最近ちょっと停滞気味というかあれ?っという作品が続いて香港を舞台にした前作などははっきり言ってかなりひどく、もうダメかなと思ってたのだけど、結論から言うとかなり復活した感じがする。 原題「Drop」は、①主人公の定年延長制度の略称、②未解決事件班に属する主人公が割り当てられた昔の強姦殺人事件で証拠の犯人から"落ちた"血液が当時8歳の子供のものだったこと、③主人公の仇敵、元ロサンゼルス市警副本部長の息子がホテルから"転落"死した事件、の三つを意味している。 並行して語られる二つの事件、政治的な圧力と争い、主人公の私生活、が渾然一体とりつつもすっきりと語られる様はもはや名人芸。 自作が楽しみなシリーズが復活したことが嬉しい。

蒲公英王朝記 巻ノ一: 諸王の誉れ

蒲公英王朝記 巻ノ一: 諸王の誉れ ケン・リュウ

「紙の動物園」のケン・リュウがSF、ファンタジーの手法で紡ぎなおした「項羽と劉邦」。 単純に焼き直しただけではなく、時代や舞台をSF的に改変、より親しみやすくアレンジし、これをきっかけに「項羽と劉邦」と出会う人もいるのかも。 とは言え、表紙のイケメンは誰?と疑問に思うほど本書には原作同様おじさん臭が漂っている。 舞台はダラ諸島という7つの国を有する列島。 異なる文化と風習を持つ国々と、天上界にはそれぞれ守護神たちがいて、直接人間には手出しをしてはならないというルール下で、独自の駆け引きや計算を働かせて人々の運命を操っているという二重構造の世界。 貴族出身の鬼神のような強さを持つマタと街の愚連隊のリーダーであるクニ。 彼らがどうやって一国の王に成り上がって行くのか。 彼らの行く末を知っているのに、次巻が楽しみでたまらない。

紙の動物園

紙の動物園 ケン・リュウ

中国出身、アメリカで弁護士、プログラマーとしても活動しているというSF文学界の新鋭の短編集。なんか本屋で平積みされてたのは又吉がテレビで褒めたからなのか…。 タイトル作はSF界で権威あるヒューゴー賞、ネビュラ賞と世界幻想文学大賞の三冠を史上初めて獲得したものということだ。その他、日本人最後の生き残りを描いてこれもヒューゴー賞とったものなどが納められている。 前半がウエット感あるもので後半にいくに従ってSF度が増していく感じ。私は理系コンプレックス故か基本的にSFが苦手なので後半に従って読みにくく…。 前半のウェットな作品は何かを彷彿させられるなと思っていたのだけどわかった、浅田次郎だ…あの「泣かせ」の感じが好きな人は絶対ぐっとくると思う。

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証言拒否 リンカーン弁護士(上)

証言拒否 リンカーン弁護士(上) マイクル・コナリー

売れっ子マイケル・コナリーの邦訳最新は弁護士ハラーもの。看板シリーズのボッシュ刑事ものがちょっと迷走気味なのでどうかなと思ったのだけどページ開いた途端に一気読み。 リンカーン・タウンカーの後部座席を事務所とする売れっ子刑事弁護士の主人公も不景気の波で仕事を選べなくなり、仕方なく不動産差し押さえ対策の仕事に手を出す。 第一号の依頼者が自宅を差し押さえようとしている銀行の役員殺害容疑で逮捕され、という話。 登場人物一人一人のキャラもちゃんとたっていて緊迫の法廷シーンも見事。二転三転するストーリーにちゃんとしたカタルシスもあってかなり楽しめた。これはいい。 関係無いけどAmazon Primeでボッシュもののテレビシリーズがタダで見られるのだとか。しかもそのうちの幾つかは脚本を作者やあのペレケーノスが手がけているとか…これは見ないとだ!