柴田裕之の訳書

生存する意識――植物状態の患者と対話する

生存する意識――植物状態の患者と対話する エイドリアン・オーウェン

脳溢血とかで倒れて、昏睡状態になる。だいたいはそこで植物状態になる。植物状態とは、呼びかけなどに意識的、随意的な反応がなく、周囲の状況などを一切理解してないとされていたが、最近では、意識はあって、見えているし聞こえているけども、肉体が麻痺していて外界との意思疎通ができないという患者がいることがわかってきた。しかも植物状態の患者の15から20パーセントがそうだという可能性があるらしい。こういうのを閉じ込め症候群というらしいのだが、意識があるのとないのの間ということで、グレイゾーンと呼ばれている。これは脳科学を通じて閉じ込め症候群の患者たちとの意思疎通を研究してきた人の本。 こんなことで?と思うようなことがヒントになり研究が進展していく様子はミステリを読むみたいでめちゃ面白い。 でも、この人はもうダメですね、じゃあ呼吸装置を外すか、とかこんな会話が聞こえてきても、それが聞こえていることや、自分が生きてることが全く伝えられないまま、死ぬしかなかった人が少なからずいるわけで、痛みなどはなかったにしても、その怖さたるや想像を絶する。 とはいえ自分がそうなったら、多分安楽死を選ぶんだろうと漠然と思い込んでいたら、なんと多くのグレイゾーンの患者はそれを望んでいないらしいこともわかってきたのだとか。生とはかくもすごいものなのだな。

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クラカトアの大噴火

クラカトアの大噴火 サイモン・ウィンチェスター

インドネシア、ジャワ島とスマトラ島の間に位置した「クラカトア」と呼ばれるこの火山は、1883年8月27日、史上最大規模の大爆発を起こしました。本書はこの大噴火がなぜ起きたのか、3万6千人以上の人々はなぜ犠牲になったのか、大噴火は世界中にどんな影響を与えたのかを人文社会科学、自然科学の面から立体的に描くノンフィクションの大傑作です。 クラカトアの大噴火は、「現在、知られているすべての火山噴火の中で5番目に大きい、火山爆発指数6.5の噴火、およそ25立方キロメートルの岩石や火山灰、軽石、粉塵を何万キロメートルも上方、成層圏下層にまで吹き上げ、爆発音を4800キロメートル先まで轟かせ、大変な力と高さをもっと巨大津波を生み、衝撃波を世界の果てまで4回送り出し、ほとんど3回迎え受け」た大噴火です。 本書の読みどころは以下の3点です。 1)大噴火発生の地質学的背景 著者はかなりのページを割いて、地質学に関する科学史的な説明を行っています。これだけで、1冊の新書となりうるような濃い内容です。 バリ島とロンボック島の25キロメートル幅の海峡にアジアとオーストラリアの動物区の境界線(ウォーレス線)があります。例えば、西にはオラウータンがいて、東にはサイがいるという境界線です。この境界線は大陸移動説のひとつの証拠となります。本書は大陸移動説からプレートテクトニス論を展開し、火山大噴火のメカニズムを説明します。これは科学読み物としては面白いのですが、ウォーレス線、プレート境界、クラカトアの位置関係については読み取れず、若干消化不良という感じがしました。 それでも、ウォーレスとダーウィンの葛藤、著者自身が学生時代にグリーンランドで古地磁気サンプル(岩石などに残留磁化として記録されている過去の地球磁場を示す試料)の採集の手伝いをした話、残留磁化が大陸移動説の独立的な証拠になる話(北米大陸とヨーロッパ大陸のそれぞれの磁北極移動軌跡が時間的にずれていて、大陸が移動していることの証拠となる)など、面白いエピソードが並びます。 2)大噴火の経緯と被害状況 最初に書くべきでしたが、クラカトアという島は、現在は存在しません。1883年の大噴火で島そのものがぶっ飛んだからです。それほどの大噴火でした。本書はクラカトアの大噴火の予兆から3万人以上を飲み込んだ大津波、余震を描きます。資料としても貴重と思います。 津波は35メートルの高さに達したといいます。オランダの砲艦「ブラウ号」は津波によって高く持ち上げられ、西に400mほど運ばれたところで波が砕けると、クリパン川の河口にたたきつけられました。船は転覆しなかったものも、落下の衝撃で乗組員全員が死亡したと考えられてます。 空中には衝撃波が走りました。コロンビアのボゴタ付近まで到達し、両側から伝わって来た波が衝突して、そこでまた生じた反射波は帰路についてクラカトアに戻りました。世界各地で衝激波が記録されています。互いに衝突しては反射をくり返した結果、衝撃波は7回地球上を往復したことになります。 爆発音は4,800キロメートルも離れたマダガスカル島の東方ロドリゲス島にまで聞こえ、人々は大砲の音と勘違いしたとあります。 また、クラカトア爆発は植民地時代に発達した海底ケーブルを使った電信技術によって、初めて世界的に伝えられる自然災害となりました。ジャワ島からモールス信号で発せられた情報は3時間で欧州に到着しています。 著者は、クラカタウの大噴火をきっかけに人々が「それまで限られた自分の視野の向こうへ、有史以来初めて、夢中になった。彼らは外界に目を向ける新しい世界の住人になっていったのだ」と断言します。大惨事の報道によってマスメディアが大衆まで降りていったのです。 3)大噴火の影響 クラカトアが引き起こした空気中の粉塵は、ヨーロッパの夕焼けをも七色に変えました。粉塵が成層圏まで達し、長い間止まったからです。また、バタビア(現ジャカルタ)の気温は8度下がりました。 噴火の被害と荒廃により、もともと貧しいジャワの人々の生活はますます悲惨なものになります。著者は、「抜け目ないイスラム教徒」が彼らの窮状を利用して東インド会社や異教徒に対する宗教的運動、政治的運動を展開し、代表的な事件であるバンテン農民反乱(1888年)の「因縁のこだま」としてバリ島のテロ(2002年)が発生したと考察します。原文を読んでいないので、「因縁のこだま」の意味が良くわかりませんが、少し違和感のある考え方と思いました。19世紀末の支配者に対する反乱と独立国におけるテロを比較するのは、少々無理があります。 ーーーーーーーーーーー 多少、理解に苦しむ箇所はありますが、冒頭に書いた通り、人文社会・自然科学ノンフィクションの大傑作です。ただ、460ページを超えるハードカバーで、読み始めるには多少の覚悟が要ります。それでも、娯楽性に富み、読書の楽しみを味わえる本です。★★★★★ 以下、蛇足です。 1)クラカトア島は1883年の噴火で消滅しましたが,1928年にアナック(子供)・クラカトア島が現れ,それ以後噴火を繰り返しながら,成長を続け,既に標高500 mを超える火山になっています。 2)クラカトアの大噴火直前はバタビア(現ジャカルタ)の最盛期でした。当時は「東洋の真珠」と呼ばれていたそうです。 「バタビアにはエキゾチックこのうえない国際都市の雰囲気があった。ターバンを巻いたマカッサル人、髪の長いアンボン人、黒髪を弁髪に垂らした中国人、バリのヒンズー教徒、野菜の行商をする黒いポルトガル人、ケララから来たムーア人、タミル人、ビルマ人、そして日本から来た傭兵もいくらかいた」。 現在もジャカルタ北のコタ地域に行くと当時の雰囲気を味わえます。ファタヒラ広場には多くの洋館が立ち並び、カラフルな自転車を借りて回ることができます。運河には当時の跳ね橋もあります。本気で整備すれば、世界遺産になれるくらい重要性のある地区と思いますが、あまりにも汚いです。特に跳ね橋付近の悪臭は我慢できません。個人的には、国債を発行してでも整備して欲しいです。魅力的な地域になり、インバウンドを呼び込めると思います。 3)インネシアでは、クラカトアとは言わず、クラカタウと言います。クラカトアという名前は、モールス信号を打ったときに誤って伝わったとあります。 因みにクラカタウは某オランダ人が現地の人に「あの島の名前は?」と聞いたら、返ってきた答えが「知りません(ngak tahu)」。この「ンガッタウ」がクラカタウという名前になったと本書にありました。これは知りませんでした。

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サピエンス全史 上下合本版 文明の構造と人類の幸福

サピエンス全史 上下合本版 文明の構造と人類の幸福 ユヴァル・ノア・ハラリ

これはベストセラーになるのも分かる。タイトルでお恥ずかしながらピンときてなかったのですがサピエンスとはホモ・サピエンスのことで我々が他の似たような動物達と違ってどのようにして今のような繁栄に至ったのか、を書いているいわゆる「通史」になるのかな。表現が分かりやすく例えや引用も適切で非常に面白い。農業革命に対する独特な見方とか宗教の役割、ずっと辺境で目立つことのなかった西欧が何故覇権を得るに至ったのか、などなどよくもこれだけ広範囲の知識を分かりやすく説明できるものだと感心しました。作者曰く現代は人類が革命的に発展するかもしれない段階に来ているらしくその将来展望はいかに…ということで次作も思わず買ってしまった(笑) こういう作品って往々にして分かりやすすぎるが故に作者の意見を丸呑みしてしまう危険があると思っていて多少懐疑的な目で読んだつもりなのだけどおかしいところとか破綻してるロジックが見受けられず素晴らしかった。次作を読むのが今から楽しみ。

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繁栄――明日を切り拓くための人類10万年史

繁栄――明日を切り拓くための人類10万年史 マット・リドレー

●いかに、未来を悲観したものが、的外れであるか、未来は確実に良くなっており、楽観視することにより、更により良い未来を構築出来るメリットがありますね。 ●他者との交換、スキルの専門化が、文明をつくり、イノベーションを加速しているか。

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繁栄――明日を切り拓くための人類10万年史(上)

繁栄――明日を切り拓くための人類10万年史(上) マット・リドレー

生物学の観点から人類の歴史と繁栄を分析しようという本。人類の歴史や未来というと、いつも暗い気持ちになるようなことばかりで、この先、滅亡しかないんじゃないかという思わされることが多いが、本書は、その逆。むしろ、人類はより良くなっていってるという。繁栄の要因は、知識や製品の共有化で、インターネットが網羅される未来はそれがさらに進むだろうとのこと。上巻は主に、これまでの繁栄の歴史についての基準が中心なので、未来について考えたい人は、下巻も是非。

ホモ・デウス 上: テクノロジーとサピエンスの未来

ホモ・デウス 上: テクノロジーとサピエンスの未来 ユヴァル・ノア・ハラリ

飢饉と疫病と戦争という最大の敵を、現代人は克服しつつある。では敵を打ち負かしたあとはどうする? 資本主義と共産主義が対立して、共産主義は敗北した。その後資本主義はどうしたか。さらに資本主義的発展を推し進めている。人間が今後向かうのはそれと同じこと、つまり敵がいなくなった人間は、その存在条件をもっと有利にすることを目指すだろうと著者は予測する。それは死から逃れること、至福に至ること、そして神に到達することなのだとか。 虚構という物語を通じて協力しあうことで覇権を握り、地球上に君臨してきた人類は、人間至上主義といういわば宗教を通じて敵を封じ込めたあとはどこへ向かうのか。 進化や変化の激しい現代は、これまで以上に未来を正確に予測することは極めて困難だが、過去の未来予測とその結果を辿ることで、おぼろげながらでもそのスケッチが描けるだろうというのが著者の見立て。 上巻は、スケッチを描くまでの振り返りが主になるが、前著『サピエンス全史』同様身も蓋もなくカミソリで切り裂くような分析に満ちていて、読んでても「あー」しか出てこない。下巻が怖いが上巻ともどもページが止まらないだろう。

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マシュマロ・テスト――成功する子・しない子

マシュマロ・テスト――成功する子・しない子 ウォルター・ミシェル

文庫化されて有難い!!心理学の名著に入ると思います。誘惑に負けやすい?それはある認知スキルを鍛えれば解決できる問題です。大脳辺縁系のホットシステムでなく、前頭前皮質によるクールシステムを働かせよう!脳科学ベースの昨今の教育の流れを理解するにも役立つ名著!

サピエンス全史(下)文明の構造と人類の幸福

サピエンス全史(下)文明の構造と人類の幸福 ユヴァル・ノア・ハラリ

前巻同様面白い。というか、前巻を踏まえてさらにスケールアップした見解だった。 資本主義という名の宗教を信仰する現代人、自分自身を新種の生物に変容させるかもしれない特異点の存在など、興味深い。 一度読むだけでは殆ど理解していないのだろうと読み終わってからそう感じる。もう一度手に取る機会を作りたい。

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流れとかたち――万物のデザインを決める新たな物理法則

流れとかたち――万物のデザインを決める新たな物理法則 エイドリアン・ベジャン

進化とは自由になるためのデザインである。この地球上にあるものすべてに共通したデザインは、なるべくしてなった自然の産物であるという考えであるコンストラクタル理論。 進化とは偶然の産物などではなく、なるべくしてなったデザイン。 その理由を具体的、科学的な裏づけを元に検証しています。

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