酒寄進一の訳書

悪しき狼

悪しき狼 ネレ・ノイハウス

邦訳が出ると必ず読むシリーズの一つであるドイツの警察ミステリ。 貴族階級出身の刑事とその相棒の女性警官が主人公という設定だけ見るとスタイリッシュな作風かと思われるのだがナチスや環境問題などのテーマに挑んでおり毎作けっこう重厚な内容になっているところが特徴。 凄まじい虐待を受けた跡のある少女の死体を巡る捜査と、以前はドイツでも有数の刑事弁護士で羽振りの良かった男の落ちぶれた生活、扇情的な報道番組で敵の多い美貌のジャーナリストが暴行された事件、の大雑把に三つの話が並行して進み…やがてそれが収斂して、という形式。主人公達や各々のストーリーの登場人物の人間模様も丹念に描きながら醜く凶悪な事件の真相が暴かれる結末に見事にまとめ上げている。ディーバーばりのどんでん返しも盛り込みつつのそれはかなりの芸当だなと感心しました。素晴らしかった。 作品と関係無いのだが…旦那さんがソーセージ職人で旦那の店の片隅に自主出版で置いていた小説が評判になってデビューした、というこの作家のエピソードがけっこう好きだ。

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オーディンの末裔

オーディンの末裔 ハラルト・ギルバース

一作目が面白かったドイツのミステリ。評価が高かったみたいでいつの間にか邦訳も三作目まで出ていたのでとりあえず二作目を。ナチスの台頭で職場を追われたユダヤ人の敏腕警官が主人公。ゲルマン人と結婚していたので辛うじて強制収容所送りを免れていた主人公。前作でゲシュタポから連続殺人の捜査に協力を強制され、問題を解決しなければ殺される、解決しても秘密を知ったとして殺される、という状況から辛うじて逃れ、名前を変えて潜伏している。本作では潜伏に力を貸してくれている女医が強制収容所の医者をやっている別居中の夫を殺した容疑でゲシュタポに逮捕されてしまったため容疑を晴らすために奔走する、という話。ミステリとしても良くできているのだが敗戦間近のベルリンの雰囲気が実に良く書けていて素晴らしかった。三作目はついにソ連に占領されたベルリンが舞台のようで、これも早く読みたい。

穢れた風

穢れた風 ネレ・ノイハウス

貴族階級出身の警部と相棒の女性警部を主人公にしたドイツの警察小説のシリーズ邦訳最新。この前週に読んだ「冷酷な丘」とたまたま同じく風力発電がテーマの話。代替エネルギー先進国のドイツでも風力発電ってあまり良く思われていないのかな。本作でも風力発電建設会社内で起きた殺人から反対運動との対立や学者や政治家を巻き込んだ汚い動きが描かれている。本作は、主人公が父である伯爵が反対運動に関わっていることや、自身も長年連れ添った妻が男を作って出て行ってしまった直後ということもありボロボロでまともに機能しないところが新鮮。ストーリー自体は登場人物を増やしすぎた感があり広げたストーリーを畳むのにちょっと苦労したような印象を受けた。

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春のめざめ

春のめざめ 

大人から抑圧される子どもたちは悲劇のストーリーしか辿ることが出来ないのでしょうか。今日の日本でも、性について学ぶ機会はほとんどありません。子どもが疑問を持つことは自然の流れであり、大人は子どもと対話をしていく義務があるはずです。何か問題が起きれば、立場を守るために事を隠蔽する〝大人〟、昔も今もほとんど変わりませんね。責任逃れの苦しい言い訳、責任転嫁、腹立たしいです。

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刺青の殺人者

刺青の殺人者 アンドレアス・グルーバー

アンドレアス・グルーバー著「夏を殺す少女」の続編。主人公は妻を病気で亡くした喘息持ちのライプツィヒの刑事ヴェルターとウィーンの辣腕女弁護士エヴァリーン。「夏を殺す少女」は中央線で降車駅を忘れるほど、夢中になって読みました。今回もサスペンス溢れる一級のエンターテイメントに仕上がっています。 全身の骨が折られ 、血を抜かれた若い女性の遺体が 、ライプツィヒの貯水池で見つかります。遺体を確認した母親は単独で娘が殺された理由と 、姉と一緒に家出したまま行方不明のもうひとりの娘の行方を追うために強引な行動に出ます。ヴァルターは 、ミカエラの暴走に手を焼きつつも、彼女に亡き妻の面影を見いだしてしまい、結局は協力します。そして、ベルリン、ライプツィヒ、パッサウ、プラハ、ウィーンと国境線を越えながら、2人がだんだんと犯人の輪郭に近づいて行きます。この過程は、読み応えがあります。 本作は2015年にウィーンで発表され、賞を取るなどドイツ語圏で大絶賛されたそうです。ただ、個人的には、前作の「夏を殺す少女」の方が面白いと思いました。原題は前作が「復讐の夏」、本作は「復讐の秋」。「復讐の冬」に期待して★★★★。 蛇足です。表紙にドイツ語の原題が出ていますが、"Racheherbest"と「秋」の綴りが間違っています。出来れば、訂正して頂けたらと思います(なお、酒寄進一さんの翻訳は素晴らしいです)。

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死体は笑みを招く

死体は笑みを招く ネレ・ノイハウス

貴族階級出身の警部とその相棒の女性刑事を主人公にしたドイツで大人気のミステリシリーズで邦訳四作目。但し翻訳ものにはよくあるけどシリーズとしては二作目。一番売れたやつをまず訳してそこそこ売れたのでつぎに売れたやつ…次に、と来て最後に回された作品ってことなのでどうなんだろう…と思ってたけどなかなか面白かった。 本作では環境保護の過激な活動で多くの人から憎まれていた市会議員の死体が動物園で発見されて…という話。ちょっと登場人物を増やし過ぎてこいつ誰だっけ、っていうのが後半増えてきて読みにくい箇所があるので後回しにされたかな(笑) 旦那さんがソーセージ屋さんで店番のついでにミステリ書いて客に読ませてたら人気が出、という作者の来歴もなかなか良い感じ。

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罪悪

罪悪 フェルディナント・フォン・シーラッハ

「犯罪」の作者が送り出す第2弾短編集。 (著名なミステリ評論家)杉江氏のあとがきに、“『犯罪』を憐憫の書だとすれば、本書は嘲笑が基調となっている”とありますが、まさにそんなかんじで「犯罪」とは似ているようで相対する作品です。 それぞれの話がちがった筆致でかかれていて、飽きさせません。 いろんな物語を背景に人間が起こす「犯罪」と、それを裁く「制度」(法)はやはりうまく噛み合わそうとすると難しいものだと再認識させられます。

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罪悪

罪悪 フェルディナント・フォン・シーラッハ

『犯罪』と同様、淡々とした文体で綴られていく短編集。翻訳文だからなのか、淡々と(し過ぎている?)文体だからなのかやや描写がわかりにくいと感じるところがあった。 また、いくつか極端に短い話があったのが少し気になった。 今作も面白いが、個人的には全体的に『犯罪』の方がサクサク読み進められて好み。

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コリーニ事件

コリーニ事件 フェルディナント・フォン・シーラッハ

ドイツの大物弁護士にしてナチ大物の孫フェルディナンド・フォン・シーラッハの作品。 彼の著作は三作目で前の二作は実際に手がけた事件を元にした短篇集でしたがこちらは中編くらいのボリューム。前二作同様、余分なことが書いていない文体なのでさらっと読めました。 弁護士になりたての主人公が国選弁護人として引き受けた殺人犯、しかし被害者は子供の頃の親友の祖父で、という作品。 折り返しには「圧巻の法廷劇」とありましたが実際には法廷のシーンはそんなにありません。ドイツならではのストーリーだなぁ、という感想でした。 しかし、あとがきにあった”クラスメイトにはシュタウフェンベルグやリッパントロップの孫がいて初恋の相手はヴィッツレーベンの孫だった。私の名前は(生活をおくる上で)何の意味も持たなかった”という作者の回想は興味深かったです。 多分に本作にもそのような生い立ちからくる感慨も反映されている気がしました。

終焉

終焉 ハラルト・ギルバース

おそらく三部作の完結編。ナチに職場を追われたユダヤ人敏腕刑事の物語。配偶者が支配民族だったので収容所送りにはならなかった彼が、ゲシュタポの秘密捜査のために使われる一作目、友人で自分を匿ってくれたドイツ人女医にかけられた殺人容疑を晴らすために奔走した二作目を経てついにソ連軍によってベルリンが陥落させられる本作。前作の結果、妻と二人で暗黒街の顔役が持つビール工場に隠れ住んでいる主人公。たまたまいわくありげな男も同じ場所に匿われたことからソ連軍がドイツの核技術情報を捜す手伝いをさせられることになり、一方で妻はソ連兵に暴行され、その報復をなんとか図りたくて…という話。陥落寸前、そして占領されたベルリンの様子が緻密に書き込まれていて迫力があり素晴らしく本筋よりもそちらに気を取られてしまう。本作ではミステリもさることながらアクションがより多くなっており迫力もあって読み応えがあった。この作者の作品は今後も読んでいきたいと思う。

赤毛のゾラ〈下〉

赤毛のゾラ〈下〉 クルト・ヘルト

ナチズムに翻弄され逮捕までされた作者が、ドイツの若い読者に人としての尊厳や平和の大切さを訴えるために、亡命先のスイスで偽名を使い執筆した児童書。 物語の舞台となるクロアチアの位置するバルカン半島も「ヨーロッパの火薬庫」と呼ばれ、第一次世界大戦の引き金となったサラエボ事件にはじまり、 ナチ傀儡政権による人種差別政策/クロアチア紛争/ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争/コソボ紛争/現代の東西冷戦へとつづく。 「人間は歴史からいったい何を学んでいるのか。」という思いが、翻訳に至った動機の1つとの事。 資本主義のいま、忘れ去られた人と人との近しい繋がりが懐かしく温かく感じられる痛快な一冊。 (訳者あとがき引用・参照) ※作者の奥さんは、アニメ「青い空のロミオ」の原作「黒い兄弟」の作者、リザ・テツナー氏。

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暁の円卓〈1〉目覚めの歳月

暁の円卓〈1〉目覚めの歳月 ラルフ・イーザウ

20世紀を丸ごと描くお話。 スケールが大きすぎて、読み返さないと主人公がしてきたことを忘れてしまいそうになるくらい。 それだけに全巻読みきった時の達成感はすごい。 ラルフ・イーザウの作品の中で一番好きな作品。

犯罪

犯罪 フェルディナント・フォン・シーラッハ

ドイツミステリーを読み始めるきっかけとなった本(ミステリーというより、犯罪レポート+フィクションといった趣ですが)。短編集ですが、読後の満足感はかなり高。 違ったテイストの作品が収録されてます。涙あり。

テロ

テロ フェルディナント・フォン・シーラッハ

法律とは?そして人の命の重さに違いがあるのか?究極の問いに、司法は?! シーラッハの作品は毎回、新たな試みがとられていますが、今回は戯曲のような構成に。その分、究極の問いが人の思考をより露わに。 巻末に、追記されている筆者にスピーチも素晴らしい。

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夏を殺す少女

夏を殺す少女 アンドレアス・グルーバー

面白いサスペンス小説に欠かせない2つの要素。魅力的な主人公、そして「不穏な空気」。最初の10ページくらいから、これを満喫できます。そしてこの不穏さが、ノンストップリーディングへと。まだ寒い初春にお家で読書に持ってこいの作品。

カールの降誕祭

カールの降誕祭 フェルディナント・フォン・シーラッハ

タダジュン氏の絵に魅せられて購入した一冊。 平坦な日常からふとしたことで闇に堕ちる人々は、それが彼らにとって自然であるように自ら罪を求めていく。淡々とした語りは、恐怖や嫌悪よりもヒトの哀れを感じさせる。

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禁忌

禁忌 フェルディナント・フォン・シーラッハ

芸術家の主人公の言動がかなり謎めいている。 法廷パートになると一転して、明確でわかりやすいが終盤にかけてはまた、難解という印象。 結局、主人公は善なのか悪なのか判然としませんが、善悪を定義したり人をそのどちらかに当てはめることは無意味、あるのは人間そのもの、、、ということらしい。 再読の必要性を感じました。

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深い疵

深い疵 ネレ・ノイハウス

オリバー・ピアシリーズ警察物の第3作、にもかかわらず、邦訳は一番初めに発売されている。読んでみて、この理由が分かった。圧倒的に面白い。 自分は、本国での発売順に読んでいて、前2作も普通に面白いと思ったけど、シリーズで一番の傑作という方々からの声にも納得。第二次世界大戦時ナチスの時代の暗い歴史を絡めつつそれを背景にした一族の秘密を暴いていく、という内容。ナチスを絡めたところがまさにドイツっぽい。 この手のミステリーはご当地の歴史や地理の特色を存分に取り入れているところが魅力の一つではないだろうか。 ミレニアムの第1作と通じるところがあり、かの作が好きな人は読むべき。

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