柴田元幸の訳書

冬の日誌

冬の日誌 ポール・オースター

64歳、これから人生の冬の季節を迎えようとする著者(若くもないが後期高齢者でもない)が、自らの過去を振り返り、掘り起こし、レイヤーを剥がしながら、「身体」にまつわる様々な記憶とエピソードを幼少期からの時間軸で綴ったメモワール。かつての自分を「君」と呼び、現在とは一定の距離を保ちながら二人称で語っていくことで、自伝的ではあるがいわゆる自伝ではなく(柴田さんは「ノンフィクション」と書いている』、読んでるこちら自身の記憶も掘り起こされながら、ぐいぐい読まされる。ほとんどオースターの他の小説と同じ面白さ。(原書で)翌年刊行した『内面からの報告書』と対をなす。

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ムーン・パレス

ムーン・パレス ポール・オースター

再読。初期の方からポールオースターも読み直しているところですが、これの前の、最後の物たちの国で、を抜かしてこれを読んだわけですが、ここからポールオースターの小説は、ヘヴィーなところとユーモアとのバランスがとれて絶妙な絶望感というか、孤独と邂逅、死にぞこなって生きながらえるその波の反復がやってきた。一方的にカタストロフしていく中にも波があって、再生するインターバルがあって。ただ落ちるジェットコースターではなく、だんだん造りの凝ったルートになっていく。あー、やはり順番に読むべきだった。

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幽霊たち

幽霊たち ポール・オースター

私立探偵ブルーは、変装した男ホワイトから、ブラックという男を見張って欲しいう奇妙な依頼を受けた。 ブルーは見張り続けるが、ブラックの日常には何の変化もない。 ブラックは毎日大半の時間、机に向かいただ何かを書いている。 次第にブルーは、ブラックの正体やホワイトの目的を推理して、空想の世界をさ迷うことになる。 ブラックは、はたして毎日何を書いてるのか。 幽霊たちとは、誰のことなのか…。 推理小説としても、もちろん読めますが、それだけじゃない何かがあるのが魅力な一冊です。 その何かが、オースター作品の魅力ですね。

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魔法の夜

魔法の夜 スティーヴン・ミルハウザー

ほぼ満月の夜に、あちこちで起こった不思議な出来事。最初は読みづらかったけれど、仕組みがわかると、3分の2を過ぎたあたりから比較的スムーズに読めるように。 全てが月夜の青い光に包まれた物語。

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インディアナ、インディアナ

インディアナ、インディアナ レアード・ハント

正直最初読みにくいなと、苦労して、この人の作品は優しい鬼を先に読んでいたので、そちらはまっすぐ入ってくる作品だったので、こんなに変化球でくるとは、と面食らったが、だんだん全体像がはっきりすると、主人公の喪失感が壮絶で。しかし孤独かというと、客観的にはそうだが、たくさんの想い出というか錯綜した記憶と妄想に囲まれて独り生き残る、ということが、豊かな気がした。寂しさにやられながらも、世界は豊か。今の世のこの国でも、独居老人は、まわりの人たちに先立たれて、こんな感じで独りでいる人たちがどれだけいるのか。ひとはもれなく死ぬるので、ひとはもれなく独りになる。昔、江戸川乱歩原作の、押絵と旅する男という映画があったが、それを思い出した。若き日の主人公の兄の役で、若き頃の飴屋法水さんが出演されていた。余談。

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木に登る王:三つの中篇小説

木に登る王:三つの中篇小説 スティーヴン・ミルハウザー

名手ミルハウザーの中編小説3編。訳者柴田元幸の解説にもある通り長いの短いの、なんでもござれのミルハウザーだけれども、まるっと一つの世界観を描き切ることができる中編小説はふとしたエピソードを通じて世界のありようを切り取って見せる短編とはまた違った面白みがある。 亡夫との思い出がつまった家を売りに出している未亡人の客相手の独り語りがやがて夫婦の秘密を明かしながら二人をがんじがらめにする最初の一編、伝説の放蕩者ドン・フアンが巧みな機械仕掛けの発明家の地所で過ごしながら、これまでに尽くしてきた放蕩とはたと無縁になり、自己存在を疑いだす二編目、トリスタンとイゾルデの伝説を下敷きに、二人の道ならぬ恋に気づきつつも自らへの忠誠を盲目的に信じようと虚しく足掻く王の姿を側近の目から描く三編目、どれも不倫というか道ならぬ恋、三角関係をテーマにしているが、怪奇的で少し重くるしい夜の世界のような小説世界は作者ならではだろう。でも、廃墟のような庭園のベンチに地下世界が隠されていたり、庭園そのものもギミックだらけだったりするミルハウザー好みのもろもろが一番楽しめるのはドン・フアンだろうな。 にしてもげに恐ろしきは人間である。 柴田元幸の訳もほんとうに染み通る。

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ウインドアイ

ウインドアイ ブライアン・エヴンソン

デビュー作「遁走状態」が大変面白かったので手にとってみました。アメリカ文学の最先端とも言われてる作者の短編集二作目。 殆どがなんというかコーマック・マッカーシー的な作品のオンパレードで根暗度、不安度もいい勝負。不条理感ではこっちのほうが勝ちかな。なんでかAC/DCのボン・スコットの話なんかも入っててそれが息抜きにちょうど良かった。 しかしこういう陰鬱な話をなんで時間かけて読むのか、とも思うけど面白いことも確か。どこがどうと説明できないけれども。

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Xのアーチ

Xのアーチ スティーヴ・エリクソン

アチラと思えばコチラに。闇へ、光へ。黒へ、白へ。見失いそうになりながら、ようやくつかんだと思えば、もだえる、暴れる、震える、いななく。もう、ダメか。諦めそうになりながらたどり着いた火山の噴火口。そっとこぼれ、舞い、昇る名。 時間も、読む体力も確かに削られる。が、等しく、いや、分厚く塗り直される。それは否応なく。 スティーヴ・エリクソン。その幻視力、圧倒的。

ベスト・ストーリーズI ぴょんぴょんウサギ球

ベスト・ストーリーズI ぴょんぴょんウサギ球 若島正

歴史あるアメリカの文芸誌「ニューヨーカー」からのアンソロジー。 ごくごく短いものからけっこうな長さのものまで小説からエッセイまでを収録していて欧米の短編が好きな自分にはたまらない内容でした。 今回の編纂にあたってあらたに発見されたアーウィン・ショーの初翻訳作品が読めたのも良かった。 あと2冊出るそうなので楽しみです。

優しい鬼

優しい鬼 レアード・ハント

語る声が、音としてというよりも、手触り肌ざわりとしてやってくる。主人公の世界の見え方感じ方現れ方に包まれて、転がされ、浮かばされ、読み手まで彼女の記憶/空想/悪夢の一片になって、波のように揺れ行きつ戻りつされる。憎しみを覚える前に、手が出る。憎しみを覚えたときには、それはすべて自分に向かっている。慈悲ではない慰めがあった。それは語るということ。