柴田元幸の訳書

ハックルベリー・フィンの冒けん

ハックルベリー・フィンの冒けん マーク・トウェイン

もう文句なしの名作で大昔に読んだことがあるけども好きな翻訳者の新訳ということで手にとってみた。なんとなく「トム・ソーヤー」がテレビアニメでやってたこともあってか子供向けの作品、という先入観があって読んでなかったのだけどヘミングウェイだったと思うがそういう自分が気に入ってる作家が褒めてたので試しに読んでみたらあまりの内容にひっくり返りそうになった記憶がある。その意味では「トム・ソーヤー」よりも本作のほうがより過激だという記憶があっての再読。まずやはり柴田さんの訳が素晴らしい。俺は英語ができないからあれだけどあとがきによると元々の原作は頭はいいけどまともな教育を受けていないハックルベリー・フィンが書いた、という体を取っているので文法や綴がめちゃくちゃで、喋り言葉そのままの感じなのか、でもリズムは良い、というものらしい。これを翻訳でどうにか再現しようとした結果がタイトルの「冒けん」にも現れている。ざっと見た感じ、ひらがなだらけでこれは読みにくいかも...と思ったけどもいざ読んでみるとするするいけてしまう、こういうところが名翻訳者たる所以なんだろうなと改めて感心した。昔読んだのはたぶん端正な翻訳になっていたと思うのだけどこちらのほうがなんというか文章に躍動感とリアリティがあって楽しく読めたと思う。ストーリーには今更触れる必要はないと思うけども大河を筏で進む様子や自然描写が改めて素晴らしいと思ったのと、貧乏白人、ペテン師やリンチなど今日にも通じる問題提起が実にうまく為されているなという印象。凄まじく悲しいシーンや思わず声を出して笑ってしまいそうな場面など何度読んでも素晴らしい作品。しかし時代背景から差別用語や差別的な内容がてんこ盛りで~もちろん作者は問題提起としてそうしているわけだけども~現代のアメリカ人、特に白人が読んでどう思うのだろうか、とも思った。

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木に登る王:三つの中篇小説

木に登る王:三つの中篇小説 スティーヴン・ミルハウザー

名手ミルハウザーの中編小説3編。訳者柴田元幸の解説にもある通り長いの短いの、なんでもござれのミルハウザーだけれども、まるっと一つの世界観を描き切ることができる中編小説はふとしたエピソードを通じて世界のありようを切り取って見せる短編とはまた違った面白みがある。 亡夫との思い出がつまった家を売りに出している未亡人の客相手の独り語りがやがて夫婦の秘密を明かしながら二人をがんじがらめにする最初の一編、伝説の放蕩者ドン・フアンが巧みな機械仕掛けの発明家の地所で過ごしながら、これまでに尽くしてきた放蕩とはたと無縁になり、自己存在を疑いだす二編目、トリスタンとイゾルデの伝説を下敷きに、二人の道ならぬ恋に気づきつつも自らへの忠誠を盲目的に信じようと虚しく足掻く王の姿を側近の目から描く三編目、どれも不倫というか道ならぬ恋、三角関係をテーマにしているが、怪奇的で少し重くるしい夜の世界のような小説世界は作者ならではだろう。でも、廃墟のような庭園のベンチに地下世界が隠されていたり、庭園そのものもギミックだらけだったりするミルハウザー好みのもろもろが一番楽しめるのはドン・フアンだろうな。 にしてもげに恐ろしきは人間である。 柴田元幸の訳もほんとうに染み通る。

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ウインドアイ

ウインドアイ ブライアン・エヴンソン

デビュー作「遁走状態」が大変面白かったので手にとってみました。アメリカ文学の最先端とも言われてる作者の短編集二作目。 殆どがなんというかコーマック・マッカーシー的な作品のオンパレードで根暗度、不安度もいい勝負。不条理感ではこっちのほうが勝ちかな。なんでかAC/DCのボン・スコットの話なんかも入っててそれが息抜きにちょうど良かった。 しかしこういう陰鬱な話をなんで時間かけて読むのか、とも思うけど面白いことも確か。どこがどうと説明できないけれども。

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Xのアーチ

Xのアーチ スティーヴ・エリクソン

アチラと思えばコチラに。闇へ、光へ。黒へ、白へ。見失いそうになりながら、ようやくつかんだと思えば、もだえる、暴れる、震える、いななく。もう、ダメか。諦めそうになりながらたどり着いた火山の噴火口。そっとこぼれ、舞い、昇る名。 時間も、読む体力も確かに削られる。が、等しく、いや、分厚く塗り直される。それは否応なく。 スティーヴ・エリクソン。その幻視力、圧倒的。

真夜中のギャングたち

真夜中のギャングたち バリー ・ユアグロー

柴田元幸さんの翻訳、というだけで手にとってみた。作者は南アフリカ出身の少し尖った感じの作家。別の作品を読んだことがあるがショートショートというか短いものだと1ページ、長くても5ページ程度の作品が特徴的な作家。本作品はタイトルそのままでノワールというか暗黒街の面々を主なテーマにしたショートショートが47編。リアルな物語というよりもどちらかというと幻想的な作風かと。個人的にはファンタジーが苦手なのでいまいち乗れなかったけども…面白い作品だったとは思う。

舞踏会へ向かう三人の農夫 上

舞踏会へ向かう三人の農夫 上 リチャード・パワーズ

何年か前に読んだのですが正月休みに再読。 アメリカ文学界の重要人物と言われている作者のデビュー作。割と後期の作品を二作ほど読んで感銘を受けたのでデビュー作も数件前に読んでみたんだけど正直、ややこしい話だな、と思って流して読んでしまったところがあって...でもなんとなく引っかかっていたのでKindleでポチりました。小説のくせに脚注が多くて結果として電子書籍のほうが正解でした。 たまたま立ち寄った美術館で見かけた大昔の写真に惹きつけられる「私」の話、被写体となったプロイセンの若者たちの話、たまたま見かけたパレードにいた女性に惹きつけられる業界紙の編集者の話、の3つの物語がからみあう構造。あとがきによると世に出る訳がないと思ってとにかく知ってることを使って好き放題書いてみた作品とのことで結果として注釈がたくさんで一見とっつきにくい印象になってしまっているけどもリズムがつかめだすとどんどん物語に引き込まれていいきます。 一見なんの関係もない3つの話がこういう形でつながっていくのかという驚きと、それが第一次大戦から始まる欧米の暗い歴史を網羅していること、また適度におふざけを入れることで陰鬱な雰囲気にならないよう配慮されていることなどかなり読み応えのあるよく出来た作品でした。

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冬の日誌

冬の日誌 ポール・オースター

64歳、これから人生の冬の季節を迎えようとする著者(若くもないが後期高齢者でもない)が、自らの過去を振り返り、掘り起こし、レイヤーを剥がしながら、「身体」にまつわる様々な記憶とエピソードを幼少期からの時間軸で綴ったメモワール。かつての自分を「君」と呼び、現在とは一定の距離を保ちながら二人称で語っていくことで、自伝的ではあるがいわゆる自伝ではなく(柴田さんは「ノンフィクション」と書いている』、読んでるこちら自身の記憶も掘り起こされながら、ぐいぐい読まされる。ほとんどオースターの他の小説と同じ面白さ。(原書で)翌年刊行した『内面からの報告書』と対をなす。

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ムーン・パレス

ムーン・パレス ポール・オースター

再読。初期の方からポールオースターも読み直しているところですが、これの前の、最後の物たちの国で、を抜かしてこれを読んだわけですが、ここからポールオースターの小説は、ヘヴィーなところとユーモアとのバランスがとれて絶妙な絶望感というか、孤独と邂逅、死にぞこなって生きながらえるその波の反復がやってきた。一方的にカタストロフしていく中にも波があって、再生するインターバルがあって。ただ落ちるジェットコースターではなく、だんだん造りの凝ったルートになっていく。あー、やはり順番に読むべきだった。

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幽霊たち

幽霊たち ポール・オースター

私立探偵のブルーが依頼を受けブラックの観察を始める。期限は未定。 当初の予定よりもそれは長く続けられた。ひたすらに待つという一歩間違えば読者を飽きさせてしまう恐れがあるが、所々に挟まれるエピソードもあり面白く読み進められる。 ひたすら待つブルーは、その状況から自然に考えるという事を強いられる。それも心理状態を克明に表現されているため、気付いた時には自分自身も考えるとはどういう事なのか考えている。 思索の面白さを実感させてくれる。

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魔法の夜

魔法の夜 スティーヴン・ミルハウザー

ほぼ満月の夜に、あちこちで起こった不思議な出来事。最初は読みづらかったけれど、仕組みがわかると、3分の2を過ぎたあたりから比較的スムーズに読めるように。 全てが月夜の青い光に包まれた物語。

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ベスト・ストーリーズI ぴょんぴょんウサギ球

ベスト・ストーリーズI ぴょんぴょんウサギ球 若島正

歴史あるアメリカの文芸誌「ニューヨーカー」からのアンソロジー。 ごくごく短いものからけっこうな長さのものまで小説からエッセイまでを収録していて欧米の短編が好きな自分にはたまらない内容でした。 今回の編纂にあたってあらたに発見されたアーウィン・ショーの初翻訳作品が読めたのも良かった。 あと2冊出るそうなので楽しみです。

優しい鬼

優しい鬼 レアード・ハント

声が響く。残響の最中、また新たな声が起こり、重なり合い、物語はとうとうと進み行く。 表紙や作中に差し込まれたピンホールカメラで露光され、にじみ出て来たかのように映し出された写真のように鮮明でなくとも、そこに在る、在ったことが確かに伝わる語りの重さ。 重量級である。そして、美しい。

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