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渡辺洋介

神田村経由専門書版元

神田村経由専門書版元

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コメントした本

路上

退屈な通勤電車でもこの本を読めばアメリカ全土にトリップすることができる。とは言ってもバッドトリップなのだが。久しぶりの再読は気力体力とも充実していたころとは違いとにかくグッタリとする読後感。若さのなせる業は確かにある。休日の朝9時頃、福富町の路地ですれ違う若いホストと女性客のから騒ぎ、本日2019年3月17日は路上でのしょうもない大乱闘だった。若き彼らに「サル」「ディーン」「メリールウ」の姿を重ねてみると2019年のハマの「路上」だと言えなくもない。 残念ながらその若さもいつまでも続かないというのを知ってしまった中年期に再読すると感慨深いものがある。読む時期によってこうまで受ける印象が違うのかと自分でも驚いた。今回しみじみ来たのは下記 「「日曜の午後には何をするの?」とぼくはたずねた。 彼女はヴェランダに腰をおろす。若者たちが自転車に乗って通りかかり、足をとめてお喋りをする。彼女は漫画新聞を読む。ハンモックの上に横になる。「暑い夏の晩には何をするの?」彼女はヴェランダに坐って、道を行く自動車を眺める。彼女と母親はポップコーンを作る。「お父さんは夏の晩には何をするの?」彼は働いている。ボイラー工場で徹夜の勤務なのだ。彼は一人の女とその女がひょいと外へ出したものを養って全生涯を過ごし。それでいてなんの面目もなければ、ほめられもしない。「君の兄さんは夏の晩には何をするの?」彼は自転車を乗り廻してソーダ・ファウンテンの店の前をうろつく。「兄さんは何がしたくてたまらないのだろうね?われわれ人間はみんな何をしたくてたまらないんだろうね?われわれは何を望んでるのだろうね?」彼女には分からなかった。彼女はあくびをした。眠そうだった。もうたくさんなのだ。誰にも分らないのだ。誰も永久に分らないのだろう。それですっかり終わった。彼女は十八で、とても美しかった。それなのに彼女は永久に失われていた。」P.348~347

6日前

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記者、ラストベルトに住む —— トランプ王国、冷めぬ熱狂

前著「ルポトランプ王国を歩く」より2年、トランプ当選後のラストベルトを再び訪れる。 勤勉なアメリカ人をここまで追い詰めた希望の果てがトランプだったとは全く救いのない話だが対象に密着する取材方法で山師的なトランプになぜ惹かれるのかグローバル化に取り残された人々の心の隙間や不安に入り込むメカニズムが理解できる。トランプ支持者は無知蒙昧な白人ではなく 下記のようにまっとうに地べたで働く労働者たちである。 「私は毎朝2時半にぴったりに起きる。シャワーを浴びる。コーヒーを入れて、たばこを吸う。ネットでニュースを読む。朝5時に出勤する。店はもちろん無人。5時半ごろ、店の前のスタンドに地元紙が届く。小銭を入れて買う。スポーツ欄とおくやみ欄を読む。その後に調理用ソースを仕込む、ミートボールをこねる。この準備の時間が私のリラックスの時間でもある。一人きりの作業。静かな音楽をかけ、いろいろ考え事もする。朝9時になるとミシェルも出勤してくる。そうやって店が始まる。私がやっていることは40年、何も変わらない。 同じ儀式(same ritual)だ」P.144 「My Little New York Times」佐久間裕美子著と併せて読むと都市部と地方部の今のアメリカの状況を更に把握できる。 唯一、銃規制を求める高校生達の運動に希望を見た。

27日前

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ある若き死刑囚の生涯

1968年、走行中の横須賀線で手製の時限爆弾が爆発し死者1名重軽傷者29名となった「横須賀線爆破事件」、事件の犯人である当時24歳であった青年死刑囚の刑執行までの内的心情を表した獄中記。彼が本当に事件を悔いているのかと言えばこの記から受け取ることはできなかった。どこか事件は他人事でひたすら短歌制作に励む日々に、昨年公開の「教誨師」で古舘氏演じる死刑囚と同じやるせなさを感じる。 もっとも死刑囚は刑を執行されることで罪を償うことになるのだから そのような心情になるのもやむ得ないのか。死刑制度の抱えるジレンマ。

約1か月前

本屋な日々 青春篇

出版業界紙「新文化」元編集長による書店人ルポ。副題に青春篇とあるようにロッキング・オンのような懐かしい熱さを感じる。北書店の佐藤さんの熱いかと思いきや適当な感じが面白い。居酒屋トーク的なインタビューを何度も読み返す。

約2か月前

草薙の剣

3世代にわたる日本人の営みを描く。繋がってはいるけど世代が変われば全く別の国か?と思わせる社会状況の違いの中でもしぶとく生き延び繋がっていくたくましさというかいい加減さ。夢生の父及び祖父の行き当たりばったりも「生きる」てことだ。只今登場人物年表作成中。

約2か月前

ののはな通信

物語は山手の女子高に通う二人による昭和59年より平成23年までの手紙のやり取りのみにて進行する。10代の過剰なまでの情熱と40代に入ってからの諦念というべき静かな感情の穏やかさに過ぎた歳月を思う。 「高校生のころ、あなたが学校を休んで連絡がとれなかったとき、私は半狂乱で手紙を送りまくり、家へ電話をかけまくったでしょ?あのときは夢のなかでもあなたの姿を探して涙を流していた。  けれど、いまとなってはもう、風のように吹く時の速さに押し流されるまま、淡々と日常を営み、ある種の諦観とともに、あなたからの連絡をひたすら待っているだけ、私の精神は鈍磨したのだ。中途半端に」P.386 「どこかで自分に愛想を尽かし諦めて折り合っていかなければ中年になるまで生きのびることなんてできないわよね」P.414 日劇もとっくに無くなってしまった。

2か月前

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暁のひかり

短編「穴熊」の終盤、報恩寺での御命講ですれ違う浅次郎とお弓、祭りの喧騒の中一瞬の静寂が訪れその瞬間だけ時間が止まったような静と動のコントラストが名画(アメリカンニューシネマ?燻る系統)の1シーンを彷彿とさせる。 「報恩寺の境内は万燈を懸けつらね、その真昼のように明るい光の中を、ぎっしりと混んだ人が動いていた。門の前には屋台が並び、喰い物、水飴、手拭いなどを超え張り上げて売っていたが、その声も寺の本堂を中心に、巻き起こる題目の声に消されがちだった。  門に入ってすぐ右にある石燈籠の下で、浅次郎は往き来する人の群れをぼんやり眺めていたが、その眼がふと一点に吸いついた。  男の腕に縋って、一人の女が門を入ってきたところだった。女は前からきた人波に押し返され、顔をしかめて男の腕に取り縋ったが、人波が過ぎると男の顔を見上げて、何か言い笑いかけた。頬から顎にかけて、形よく引き緊まった細面。細い目。背丈けから浅黒い丈夫そうな肌の色まで、それはお弓に違いないと思われた。 連れの男は長身で、骨格のしっかりした若者だった。 印半纏を着ていて、職人のように見える。男は耳に片手をあて、身をかがめてお弓の声を聞き取ろうとしている。やさしげなしぐさに見えた。  人波に揉まれて、男とお弓は浅次郎のほうに寄ってきた。手を差し出せば触れる距離を、いまは確かにお弓に違いないと思われる、女の横顔がゆっくり通り過ぎた。  浅次郎は動かなかった。浅次郎はその女の横顔に、一瞬塚本の妻女佐江の面影を重ねてみただけだった。  耳に轟いて、題目の声が続いていた。」P.188~189

3か月前

藤沢周平 遺された手帳

藤沢作品の根底に流れるやるせなさというか鬱屈の一端を垣間見た。しかしそれは子どもが生まれてすぐに妻を亡くしたつらい経験からくるやさしさを含んだ諦念ともいえる。切なさに胸が締め付けられる。 「10月28日 遠く離れた二階家で、雨戸を閉めるのが見える。 明るい光が外の雨の夜にこぼれるのを惜しむように。 その閉められた雨戸の中には、そこに家庭というものがあり、家庭のだんらんというものがあるのだろう。 それはむかし僕のところにもあって、いまはないのだ。 しばらく立ちつくし、戸がしめられた二階家が雨の音のする夜の中に黒い箱のように静まりかえったのを見て、僕も雨戸をしめる。 孤独な心を閉じ込めるために。」P.35

3か月前

戦艦武蔵ノート

大衆のすさまじいエネルギーとそれによってもたらされる戦争の虚しさひいては人間の虚しさを描いた傑作「戦艦武蔵」その愚直なまでの制作過程と調査の日々、著者の脳内皮質奥深くまで覗いたような気になる。 「いろいろ調べてみたんだが、この日本で実際に和平運動を行っていたのは、わずかな人数だったらしい。むろんそれだけではなかっただろうけど。俺が運動に加わっていたとき、憲兵や警官と同じくらい恐れていたのは、実は隣近所にいる平凡な市民だった。それなのに戦争が終わったとたん、数十万人もの人間が出てきて今さらのように戦争反対永久平和をとなえて気勢をあげるなんて、そんな馬鹿げたことがあるか。人間なんて信用できないものだと、おれはつくづく思ったのさ」P.9~10

3か月前

書店に恋して: リブロ池袋本店とわたし

リブロ池袋店閉店時の店長によるリブロ史、リブロ本は数多く出ているのだが、著者は元々書店畑ではなく百貨店からの入社なので経営に対しての冷静な視線が面白い。 東京時代の20年間は池袋店の新刊台?入口壁面のあの場所が大変参考になり、今の出版状況を一目で把握できるありがたい場所だった。

3か月前

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ハツカネズミと人間

カリフォルニア州サリナスの美しい自然を背景に、小さいが切れ者のジョージと知恵は足りないが力持ちのレニーは農場から農場へと渡り歩く労働者だ。二人はいつか「土地のくれるいちばんいいものを食って暮らす」ことを夢見ながら、愉快な仲間のローレル&ハーディの珍道中の様に「あこがれの地へ」たどり着くことは遂になかった。悲劇的な結末に労働者の於かれた現実の厳しさを噛みしめる。 「レニーは木の後ろへ行って、枯葉や枯枝をひとかかえ持って来た。それを古い灰の上にドサッと投げ出すと、もっと取りに戻った。もうあたりはほとんどまっ暗だ。ハトがパタパタと水の上をゆく。ジョージはたきぎの山に歩み寄って、枯葉に火をつけた。ほのおが小枝の間でパチパチと音をたてて燃えはじめた。ジョージは包みを解いて、豆の缶詰を三個取り出す。それをほのおに触れない程度に近づけて、火のまわりに置く。」P.17

18日前

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My Little New York Times

トランプ政権下アメリカを「キャリアのほとんどをアメリカで起きているカルチャーを日本に伝える仕事に費やしてきた」著者が365日にわたる日記によって伝える。島国にいるだけではわからない新しい視点を気づかせてくれる。 「アメリカに暮らしていて多様性の難しさを痛感することは日常的にある。多様だけれど、それがうまくいっていない例がいくらでもあるし、人種の軋轢はいまだ深刻な問題であるからだ。けれど同じであることを強要されることはない。「個」であることはむしろ奨励される。同じであることを強要しても良い人材を育てることにはつながらない。この広い社会には、いろんな背景、いろんな文化、いろんな感覚を持った人がいるということを知ったほうが、強い人材が育つ。そして組織になじめない人たちに居場所がある社会のほうが、強くなるのだ。」P.85~86 葛藤しながらも前を向く。

約1か月前

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本の未来を探す旅 台北

現在進行形の台湾出版事情を理解する良書、「田園城市」ヴィンセント・チェンさんのインタビューは台湾出版界の流通形態がよくまとまっており、理想主義ではなく現実を見据え出版をまっとうな商売として成り立たせるべく積みあがるアイデアにこうゆうやり方もあるのかと膝を打つ。 「台湾の書店が取次を通して出版社から本を仕入れる場合、いちばん安くて本体価格の6.5掛け、普通は7掛けに、ほとんどの場合は5%の営業税がかかるのがスタンダードです。たとえば本体価格が1000円の本だとして、出版社の取り分は450円(45%)、取次は200~250円(20~25%)、書店は300~350円(30~35%)ですが、そこから割引をする分だけ書店の利益は減ります。 直取引の場合も、出版社は通常、書店に本体価格の65~70%で卸します。ただ誠品書店と博客來の2大販路は別格で、出版社は誠品には委託でおよそ55%、博客來には60%ほど(8割方が買取)で卸します。(それぞれ5%の営業税を含む)。」P.96 取次の取り分が20~25%とは! 先週話題となったアマゾンの買い切り問題も博客來の掛け率及び買取率が参考となるのか。

約1か月前

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まっ直ぐに本を売る―ラディカルな出版「直取引」の方法

現状直取をメインにするつもりは全くないが、何が起きるかわからない出版業界において新たな流れ(トランスビュー方式)を把握できる良書。具体的な数字をあげロジカルに解いていく。受注から発送までのスムーズな流れは読んでいて心地が良い。 「①すべての書店に、三割(正確には多くが三十二パーセントの利益をとってもらう。  ②すべての書店に、要望通りの冊数を送る。  ③すべての書店に、受注した当日のうちに出荷する。」 P.65

約2か月前

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ある男

亡くなった夫は全くの別人であった。夫はどこの誰なのか。物語はその謎に迫るべく進んでいく それがあくまでも軸となっているが夫婦とは何か?一緒に暮らしていても実は解らないことだらけであり、そもそもわかり合うことは不可能であるということを突き付けてくる。 また中年男性の都合の良い願望(あくまでプラトニックなのが肝)を通してエンターテイメントの枠内で反差別を唱えている。ストレートに語っても通じにくいこともあるが物語というフィルターを通すことで伝わりやすくする手腕にうまさが光る。 「そう、そういうのが強調されると、その人の持っている他の色んな面が無視されちゃうでしょう?人間は、本来多面的なのに、在日って出自がスティグマ化されると、もう何でもかんでもそれですよ。悪い意味だけじゃなくて、正直僕は、在日の同胞に、俺たち在日だしなって肩を組まれるのも好きじゃないんです。それは、俺たち石川県人だもんな、でも同じですよ。”加賀乞食”なんて自虐ネタをフラれても、そういうところがある気がしないでもないけど、何かにつけて言われるとね。 ………弁護士だろう、とか、日本人だろう、とか、何でもそうですよ。アイデンティティを一つの何かに括りつけられて、そこを他人に握りしめられるってのは、堪らないですよ。」P.146

2か月前

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愛と人生

渥美清、車寅次郎、さくら、満男、ホエールズ帽のテキ屋の息子、美保純と物語の視点は目まぐるしく変化する。虚の 中で虚を語る物語の中で美保純は常に見られている。そして美保純の存在とその尻だけがこの世の確固たる現実としてゆるぎなく存在する。 「私が二十七年前に見た美保純の尻のことを今でも忘れずに、むしろ積極的に思い出して思い出して、それがなにかであると思おうとしている。何か、というか、正直に言えば私はそれを愛情だと思いたがっている。でもそうして思い出すことが愛だとしても、はたしてそれが美保純に何をもたらすのか。そもそもその対象は、美保純なのか、美保純のお尻なのか。思い出すことと伝えること。愛の理論と実践。 だーかーらー、と言って美保純は、私にビールの缶を投げつけてきた。理論でも実践でもないの。空き缶は私の顔の横をすりぬけて背後の柱にぶつかって畳の上を転がった。話をすり替えない。ただもうお尻でいいのよ。理論も実践も捨てちゃって、お尻お尻。お尻だけ。」 p.87 「スクリーンで観たことが本当に見たことになるのなら、日本中が美保純の尻を見ていた。尻など、直接見なければ何も見たことにならない。複雑な機能を有せぬ無為の厚みと量感、そこに働く重力と張力、尻の絶えざる静かな運動と、尻を目の前にした自分の絶えざる動揺と冷静の満ち引き。」P.88~89

2か月前

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江戸切絵図にひろがる藤沢周平の世界

索引から作品名を検索 尾張屋版江戸切絵図に該当する個所と余白に現在の住所と作品の抜粋、現在の地図も小さいが併記されているので定点観測が可能、これが楽しい。作品ジャンルは市井、武士、歴史と分類されているが、市井は当たり前だが圧倒的に下町が多い。小説世界と現在を結びつける好企画。 もっとも藤沢作品は現代を舞台としては書きづらい事を江戸というフィルターを通すことで表現しているのだが。 版元は残念ながら消滅。

3か月前

白い孤影 ヨコハマメリー

著者は直接メリーさんには会ったことがないからこその視点で、かつてあった港町ヨコハマのアイコンとしてメリーさんの物語が上書きされていると感じる。 「横浜の人びとにとってメリーさんを語ることは人生を振り返ることでもあった。横浜でメリーさんと無関係な取材をしているときに、なにかの拍子でメリーさん話になったことが何度かある。そんな時語り手はメリーさんのことに留まらず、横浜という都市の記憶や自分のこれまでの来し方をも芋づる式に思い出すのが常だ」P.10 これはまさにその通りで町でばったり遭遇した時の記憶とか風景が焼き付いてそこに自分の過去までいっしょに持ってくるからバイアスがかかるのも仕方ない。 近過ぎると見えないこともあるということを気づかせてくれる。文庫書下ろし

3か月前

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日本昭和トンデモ児童書大全

40代以上の大人ならかつて子供の時に読んだことがあるであろう現在のコンプライアンスであれば確実に引っかかる胡散臭い児童書の数々を1冊で読めるのはありがたい。確かに興味はあるけど古書市場でプレミア価格がついたこれら児童書を手に入れるのはチョットと二の足を踏んでしまうので良い企画!P.34とP.35で書誌画像がかぶっているけど、これ編集大変そうですね。 悪夢のようなダイレクトな未来像にはならなかったけど ソフトなディストピアと化した2018年ニッポンでこれを読むと味わい深い。

3か月前

自転車泥棒

自転車を巡る台湾近代史とも言うべきかそこに家族の物語、戦争の記憶、動物たちそしてマレー半島と話は広がっていくが全てが複雑に絡み合っている著者の手腕にうならされる。ゾウが奏でる音階とこの世ではないどこかが印象深い。 「次の日、太陽が出ると、億万の微塵と花粉一ミリに満たぬ小さな昆虫が四方へ八方へと飛散し、世界は混濁した。兵士は大きな穴を掘り、長老ゾウを埋めた。このとき、いちばん前に並んでいたメスの象が低く、でも透き通った音階を奏で、リフレインした。音は階段をひとつひとつ上っていくように高まり、ピークに達して、しばし休止すると、今度は下へとひとフレーズひとフレーズ下りていき沈黙へ返った。それを三度繰り返したところで、二度目のゾウが加わった。ふたつの音像は、互いにエコーしあい、さらに三頭目、四頭目の唱和を誘った…ユニゾンでもなくハーモニーでもなく、ただそれぞれの悲しみが即興的にあふれるままの鳴き声だった。そして、同時に、お互いを慰め合うスキンシップのようだった。ゾウたちがそろって、額にある鼻道と頭骨のあいだをかすかに脈動させ、空気へ発した音は、それ自身に意思があるように兵士の体のなかへ潜り込んで膨張していき、彼らに苦しさと恐れと虚しさを伝えた。十数分後、音は停まっていた。リード役だったゾウは足を前へ踏み出し、兵士たちはその時初めて、自分たちが泣いていることに気づいた。その涙にはなんの意図もなく、だから涙を流したあと彼らはかつて経験したことのない、静けさと清らかさを感じた。」P.344~345, 訳者の天野健太郎さんのご冥福をお祈りいたします。

4か月前

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