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fuku

設計事務所勤務ゴミリーマン/元クズ編集者

設計事務所勤務ゴミリーマン/元クズ編集者

198

コメントした本

エドガルド・モルターラ誘拐事件 少年の数奇な運命とイタリア統一

1858年、イタリア、ボローニャに住む敬虔なユダヤ教徒モルターラ家の子供、エドガルドが誘拐された。誘拐したのは当時まだあった教皇領の警察官。身代金目的とかではなくて、洗礼を受けたがために、キリスト教徒として育てなければならぬというローマ教皇の命令によるもの。いまだったら犯罪だけれども、当時教皇領においては犯罪ではなかったらしい。しかも本人が病気のときに召使いが勝手に施したような場合でも洗礼は有効なのだとか。なんと鬼畜な。 本書は以前から頻発していたそうした事件をもとに、教皇権力の失墜とイタリア統一を描く。最後は法廷ミステリみたいになってたりと盛りだくさん。 エドガルド本人、そして家族はそれで幸せだったのか。まあ結局はそこだよなあ。

約2か月前

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生存する意識――植物状態の患者と対話する

脳溢血とかで倒れて、昏睡状態になる。だいたいはそこで植物状態になる。植物状態とは、呼びかけなどに意識的、随意的な反応がなく、周囲の状況などを一切理解してないとされていたが、最近では、意識はあって、見えているし聞こえているけども、肉体が麻痺していて外界との意思疎通ができないという患者がいることがわかってきた。しかも植物状態の患者の15から20パーセントがそうだという可能性があるらしい。こういうのを閉じ込め症候群というらしいのだが、意識があるのとないのの間ということで、グレイゾーンと呼ばれている。これは脳科学を通じて閉じ込め症候群の患者たちとの意思疎通を研究してきた人の本。 こんなことで?と思うようなことがヒントになり研究が進展していく様子はミステリを読むみたいでめちゃ面白い。 でも、この人はもうダメですね、じゃあ呼吸装置を外すか、とかこんな会話が聞こえてきても、それが聞こえていることや、自分が生きてることが全く伝えられないまま、死ぬしかなかった人が少なからずいるわけで、痛みなどはなかったにしても、その怖さたるや想像を絶する。 とはいえ自分がそうなったら、多分安楽死を選ぶんだろうと漠然と思い込んでいたら、なんと多くのグレイゾーンの患者はそれを望んでいないらしいこともわかってきたのだとか。生とはかくもすごいものなのだな。

3か月前

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タコの心身問題

最近タコかコウイカなどの頭足類には意識/心があるとされているらしい。例えばタコを実験に使う場合は人道的な処置が必要だそうな。本書によれば、タコは特定の人物を記憶したり、興味を持って近づいてきたり、場合によってはいたずらを仕掛けたりまでする。ではその意識/心とは人間に近いものなのか。そうではなく、我々や猫、鳥なんかのような脊索動物と、頭足類とは進化の系統樹のはるか根っこに近い部分、つまりこうした意識が発生する前に種として別れているので、我々とタコの意識/心は別々に進化したという。 それだけでも相当に驚かされる話ではあるが、さらにタコとコウイカたちも、もしかしたら意識を持つ前に分化した可能性があるという。ってことはタコとイカは別の意識/心な訳だけど、要は未知との遭遇や、レムの著作に見られるような異星人との邂逅みたいなものが、なんと身近なところで2回も!あったことになるのかも。それもすごい話だ。偶然なのか、映画の火星人ってタコに似てますよね(本書にも書いてあるけど)。 しかし、先日は『魚たちの愛すべき知的生活』で魚の意識について読んだところでこれとは。意識/心の存在はどこまで拡がるのだろう。また、違う発生、形成の道筋を辿ってきた意識/心と我々はどうコミュニケーションできるのだろう。

3か月前

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ホモ・デウス 上: テクノロジーとサピエンスの未来

飢饉と疫病と戦争という最大の敵を、現代人は克服しつつある。では敵を打ち負かしたあとはどうする? 資本主義と共産主義が対立して、共産主義は敗北した。その後資本主義はどうしたか。さらに資本主義的発展を推し進めている。人間が今後向かうのはそれと同じこと、つまり敵がいなくなった人間は、その存在条件をもっと有利にすることを目指すだろうと著者は予測する。それは死から逃れること、至福に至ること、そして神に到達することなのだとか。 虚構という物語を通じて協力しあうことで覇権を握り、地球上に君臨してきた人類は、人間至上主義といういわば宗教を通じて敵を封じ込めたあとはどこへ向かうのか。 進化や変化の激しい現代は、これまで以上に未来を正確に予測することは極めて困難だが、過去の未来予測とその結果を辿ることで、おぼろげながらでもそのスケッチが描けるだろうというのが著者の見立て。 上巻は、スケッチを描くまでの振り返りが主になるが、前著『サピエンス全史』同様身も蓋もなくカミソリで切り裂くような分析に満ちていて、読んでても「あー」しか出てこない。下巻が怖いが上巻ともどもページが止まらないだろう。

4か月前

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女王ロアーナ,神秘の炎(上)

恐らくはちょっとした脳梗塞で倒れた主人公。目覚めたときにはかつて抜群だった記憶の一部が失われていたが、なくなっていたのは自分が誰なのか、妻は?子供は?という身の回りのそれで、文学や生業としている古書研究の記憶はとりとめもなく浮かび上がってくる。 そんな事態の中からどうやって記憶を取り戻すのか。記憶を取り戻すことはそのまま自らのアイデンティティの復活となるだろう。もはや思い出せない理由から長年疎遠にしていた故郷の村で記憶を一から辿りなおす主人公ヤンボの独白に次ぐ独白。 年齢的にもエピソード的にも著者エーコを思わせる主人公が改めて辿りなおす自分史と、ファシスト政権から戦後へといたるイタリアの文化史。 これ原語でもっと知識のある人が読むと圧倒的なんだろうな。

4か月前

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エンドレスエイトの驚愕: ハルヒ@人間原理を考える

原作も読んでないし、アニメも見てないけれども、アニメ史上まれに見る実験魂が炸裂して、それが大滑りしたという話は聞いていた。それを大真面目に分析哲学の手法で解読したのがこれ。 やっぱ俺がやらなきゃ始まらんのか?という著者らしい動機から繰り出される犀利な分析はさすが。原作の各巻を踏まえた章タイトルに、もちろんタイトルに見合う分析を加えてはさらなる考察を積み重ねて、最後にはアニメ同様に循環させてしまうという仕掛けもいつも通りの周到さというか遊び心というか、サブカルをまじめに分析し尽くせばきちんと学問になり得るし(そうなの?)、重箱の隅をつつくようなディテールの集積にこそ神が宿るのだなあと半ば呆れつつ半ば感動しつつ。

4か月前

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思想戦 大日本帝国のプロパガンダ

満州事変から日中戦争、第二次世界大戦において、日本は戦闘行為のみならず、多様なプロパガンダを流布させた。国内に対しては戦意高揚や日本文化の正当性を、中国に対しては清潔で近代的な社会を宣伝していた。もちろんプロパガンダ自体は日本だけではなく、中国側の国民軍も共産党軍も、米軍、ソビエトも行なっていたわけだけども、そんな中で、日本のプロパガンダはあまり成功してこなかったというのが従来の見方だったらしいが、実はそうではなく、かなりの度合いで日本国民に浸透してきたこと、その要因は組織の多様性、つまりそれらを取り仕切る専門部局が実質的になく、軍部から外務省、民間組織や演芸人に至るまでがプロパガンダに関わったことであったという。そして、そうした多様性というか不統一さこそが、戦争終結と戦後処理にも大きな影響を及ぼしたという。確かに、米兵を鬼畜と呼び、竹槍を構えて本土決戦を叫んでいた狂犬が、一夜にして一億総懺悔を唱え、大人しくチョコレートを受け取る子羊に変貌したのは不可解であるし、そこに新たな視座を与えてくれる。もともと日本人向けではなかったこともあり、ややバイアスが感じられる部分もあるが、ガチの学術書なのにとっつきやすいのは訳者の努力によるものだろう。 しかし、ぐるっと世の中見渡してみると、今に至るまでプロパガンダの影響はありそうに見えるのはなかなかに怖いことではある。やっぱりプロパガンダって大事だなー(棒

5か月前

魚たちの愛すべき知的生活―何を感じ、何を考え、どう行動するか

魚には意識も痛みもない、というのが大方の理解だけども、そんなことはなく、痛みも感じれば意識もあり、その上文化のようなものまで持っているのではないか、と最新の研究を通じて論じる。魚には表情もないし、陸生生物でもないから、釣ったり食べたりして親しみはあっても、あまりにも馴染みがない部分がある。知的であることとは、人間の基準に照らしたものである必要はなく、それぞれの種としての知性というものはあり得るわけで、そうした視点から見れば、著者の主張も頷ける。いずれにしてもとにかく事例が豊富で面白い。道具は使う、協力もして騙しもする、教育までやってのけるなんて、魚、めっちゃやるやんけ!という感じですな。 まあ所属機関もそうだし、シーシェパードの発言を取り上げてたりするあたり、ちょっと魚に感情移入しすぎなところは玉に瑕ではあるか、養殖における問題や種としての存続のあり方など、新しい知見を与えてくれる。魚好きとしてはなかなか複雑な気持ちではあるが、今後も美味しくありがたくいただきたい。

6か月前

死に山: 世界一不気味な遭難事故《ディアトロフ峠事件》の真相

冷戦真っ只中のソビエトの山中で、経験豊富な9人の大学生トレッカーたちが不可解な死を遂げた。リーダーの名前をとってディアトロフ峠事件と呼ばれる。 この事件はネットなんかで見るとほんとに謎だらけで、原因も雪崩や強風といった自然現象説から軍の新型兵器の実験に巻き込まれたとかいう陰謀説、さらにはUFOなどのオカルト説まで喧しいけれど、先入観なしに事件の実地に足を運び、生き残り(体調不良で途中で引き返した)に話を聞き、その原因に到達したと思われるのがこの本。 ネットで見てるだけだと不可解でも、専門家に聞いてみればありふれたことというのは多数あるが、この事件で謎とされた部分のうち、ほとんどはそんなことだった。ただ検証が足りなかっただけだったわけだ。そして、最後の最も謎とされる部分にも、科学的に妥当なで多分最終的な結論が与えられる。 アメリカ人の著者は貯金が底をつき、クレジットカードも限度額まで使ったそうで、そこは悲壮感いっぱいながら、ぶっきらぼうながら不思議に優しいロシア人たちとの交流も楽しく、上質なノンフィクション。

6か月前

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生物模倣――自然界に学ぶイノベーションの現場から

ひっつき虫(オナモミ?でしたっけ?)をヒントに生まれたマジックテープとか、カモメの羽の形状を真似て作られた扇風機の羽根とか、自然界から学んだ技術やデザイン、そういうのを生物模倣というらしい。バイオミミクリーとかバイオインスピレーションとも言うのだけど、経済的にも環境的にも期待がもてる分野で、いま飛躍的に研究者が増えてもいるそうだ。 もちろんその分野は一括りにできるものではなく、イカの発色からシロアリの蟻塚、光合成を行う葉っぱなど広大で多岐にわたる。そうしたバイオミミクリーの世界の現在をルポしたのが本書。 生物は環境といわばうまくやっている。そうしたうまくいってるワザを模倣することはたしかに効率的でもあるだろうけど、そうしたいわば「夢の技術」と現実は異なることも明確にしているのがやはりきちんとしたサイエンスライターらしい目配りの良さ。 バイオミミクリーの難しさは実際そこにある。何をどこまで真似るのか、全く同じようにか、ちょっとひねってか? しかし生物の環境適応の解決法の要点はミクロなレベルにあるのか、マクロなレベルにあるのかもわからないし、そもそも生物はうまくやってるわけではなくて、なんとかやっているだけなのだった。それを模倣するだけではもちろん足りない。 そんな基礎的なこともきちんと分からせてくれるのはありがたい本。

6か月前

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ヒトラーのモデルはアメリカだった――法システムによる「純血の追求」

ナチスがユダヤ人を諸権利の剥奪を明確に規定したのはニュルンベルク法で、これは天下の悪法とされている。悪法も法なりというやつで、通常の法制定同様、制定や施行までにはさまざまな議論があったらしい。つまり、それまでに存在した同様の法律を参考に議論が繰り広げられたのだそうだ。 が。当然ながら、ドイツにはそんな法律は存在しなかった。だからこそ作らにゃならなかったわけだから。そしたら、諸外国の法を参照するほかない。しかし、そんなひどい法律に参照すべき前例などあるのだろうか。ハンムラビ法典みたいな太古のものでなく、近代の法制度でそんなもんがあったのだろうか。なんとそれがあったのである。著者が紹介するナチスの議事録にははっきりと書かれている。やがて敵国として戦うことになる自由の国、アメリカの法律であった。 アメリカは自由の国なんかではなかった。奴隷制が廃止されてからも、アメリカはアパルトヘイトのような人種ごとの分離政策がとられていたゴリゴリの人種差別国家であった。無論取りようによっては今でもそうだ。 しかも、ナチスの法制定者たちがあまりに厳しすぎるというほどに人種差別のルールが徹底していたというのである。ニュルンベルク法制定当時、ユダヤ人の明解な定義はできるだけ狭いものにすることが求められたのだけれど、アメリカではワンドロップルールというのがあって、一滴でも異人種の血が入っているとされれば、もはやその人はどんなに白くても白人ではなかったという。 もちろん、こうした法制度が参考にされたからといってナチスの戦争犯罪がアメリカの責任になるわけじゃない。 だが、しかし。アメリカに根深く巣食う人種差別はナチスに勝ってからなくなったのか? そうではないことはご覧のとおり。 エリック・リヒトブラウの『ナチスの楽園』でも取り上げられたように、ナチスの高官や科学者が戦後アメリカに多数移住することができたという事実同様、そうした恥ずべき歴史を直視することも時には必要なことなんだろう。

2か月前

リモノフ

ソビエトの停滞した時代から、制御の利かない資本主義が暴走する現代ロシアの様相を、ある人物を狂言回しに活写する。その人物は、エドアルド・リモノフ。この本を読むまで知らなかったけど、暴力的な描写で知られる作家として出発し、紛争地域で傭兵のような活動を行い、そして現在は崩壊した共産主義の復活を唱える過激派政党の領袖で、チェスの著名なチャンピオン、アンリ・カスパロフとも組んでいたという、いわば時代のトリックスターのような人物。 トリックスターとは書いてみたけど、『最後のソ連世代』にもあったように、良くも悪くも永遠のステイタスクオであり、盤石だったはずの共産主義社会があっさり崩壊し、新興財閥が闊歩する状況という、日本人には理解できない状況の変化を体験したらそうなってしまうのかもしれない。ソ連時代の大粛清のシンボル、ベリヤの名を叫ぶ彼らの政党は悪趣味ではあるが、まさか全体主義への回帰を本気で志向しているわけでもなかろう。 ソ連崩壊後の選択肢は、健全な資本主義か犯罪的な資本主義かではなく、犯罪的な資本主義か内戦だったのだという学者か高官の言葉には重みがある。そこに共産主義へのノスタルジーが入りこむ余地があるのだろう。もちろん、共産主義を懐かしく思わないものには心がない、共産主義に回帰しようとするものには頭がない、というプーチン閣下のいう通りでもある。

3か月前

ホモ・デウス 下: テクノロジーとサピエンスの未来

下巻。 人間にとって特別と思われてきた意識と知能が分離されていることが明らかになってきた。一方の知能はすでにインターネットやAIに道を譲りつつある状況において、意識が何ほどの重要性を持つのだろう。実際、我々は食べたものや行ったところを日々スマホにきろくしており、すでにして外部に記憶を委ねるようになっている。そしてAIは医療のような科学技術だけでなく、人間だけがアドバンテージを持つと思われている芸術においても人間を凌駕しつつある。テクノロジーは、身体的、生理学的な側面だけでなく、情緒や感情という機械にはないはずの「何か」さえも人間以上に知る存在となりつつあるわけだ。上巻で語られた人間至上主義はここで破綻してしまう。人間を最もよく知るのは人間であることがこの主義の前提であった。それが崩れたら、データに全てを委ねるほかなくなるだろう。それがやがて新たな虚構として、人類に共有されていく。ならばデータを握るごく一部の企業や人間はいわば現人神となろう。しかし、残りの人間は? 前著とは違って、これは相当に悲観的ではあるが、極めて大胆な「予測」である。著者はこうした予測の価値は横に置き、本当にそうなるのだろうか?と問う。そうなるのだろうか?

4か月前

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女王ロアーナ,神秘の炎(下)

主人公ヤンボの記憶を辿りなおす旅は、田舎の家の奥に塗り込められた隠し部屋を見つけたことでさらなる展開を見せる。脅迫的なほどこだわっていた霧の謎、失われた初恋、パルチザンとしての経験。 当時の大衆文化、例えば雑誌や映画、絵本にお菓子のパッケージ、そして子供の心を刺激する薄衣をまとった女たち、そうした記憶を喚起するものたちの図版が、様々なエピソード同様誌面に散りばめられて読解を助けもするし、さらなる謎にも誘い込む。 記憶を取り戻す旅はいつからか記憶を丹念に辿り直す旅に変わっていく。ただ、辿り直すことをどこまで精緻に行っても、それが本当に失われた自分を取り戻してくれるのかは明確でない。 というか、そもそも独白しているのは誰なのか。それ以前に、独白は真実の記憶なのか? 真実ならば誰にとって? 生死すらわからない不分明な独白の中小説は終わる。 比較的明確に謎解きや仕掛けが提示されていたこれまでの小説に比べ、本作は霧の中にいるような曖昧さの中に置かれたままだが、不定形な謎解きの楽しみがあるのかもしれない。

4か月前

文明: 西洋が覇権をとれた6つの真因

西洋文明はなんで覇権を取れたのか。『銃・病原菌・鉄』のような地理的、自然現象的な説明に加え、西洋だけが持っていた、あるいは発達させた6つの要素(著者はそれをキラーアプリと呼ぶ)から読み解く。 科学、競争、医学、消費、所有、労働なのだそうな。 たしかにそれらは東洋やアラブには揃ってなかったし、芽吹きがあっても何故か早々に摘み取られてしまい、結果覇権を取り損ねたのは西洋中心史観的な見方をしなくても事実だろう。現に今はそれらの力で日本も経済大国になり、かつてはヨーロッパなど歯牙にもかけなかったのに没落した中国は、改めて覇権国家の地位を狙えるようになってきたわけだから。 うん、事実としてはたしかにその通りだろう。博識でいろいろなエピソードも紹介されるが、もう一歩、だから何故なのか?というのが見えてこないのが歯がゆい。まあ大知識人なのだろうし、そんなことは言わずもがな、分からん読者のお前さんに問題があるのさ、というところなのかも知れないが、そこに著者の西洋中心的なメンタリティが見え隠れするような。中国の台頭と入れ替わりに没落しつつある西洋に対する著者の哀惜がそうさせるのだろうか。

4か月前

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あなたの体は9割が細菌: 微生物の生態系が崩れはじめた

人間が何かを食べると、消化器で栄養を吸収する。が、胃が溶かした乳糜の栄養を腸がそのまま吸収するわけではない。吸収を助けるのがウヨウヨいる細菌たち。そうした細菌の働きこそが、人間に栄養を与えているらしい。それどころか、脳の調子と腸の具合には深い関係があることもわかってきたという。むしろ、腸が脳の調子を決めてるほどの関係らしいというんだから相当なもの。 それほどまでに影響の大きい人体の微生物環境に対して我々はいまや大きな曲がり角に来ている。それは抗生物質や除菌を謳う商品たち。人類に大きな恩恵をもたらしたが、その効力がときに有用な菌までを殺してしまうという副作用があるからだ。 そうした微生物環境の変化をどうやって元に戻すか、あるいは活性化していくかはいろいろなやり方があるそうだが、繊維やいわゆるプロバイオティクスの摂取などのほか、健全な人の腸内細菌叢の移植、ようするにウンチの移植が有効なのだそうだ。 原題は10% human。細菌がいなければ我々はそんな程度でしか人間でないということか。ん、そしたらシンギュラリティ後に人格をコンピュータに移植することはできなくなったりするの? デイビッド・モントゴメリーの『土・牛・微生物』では農業における微生物の重要性が説かれていたが、もちろんそこから食物を得る私たちにも重要ってことだ。読書の楽しみはこうした関連を見つけることでもあるよなー。ちなみにネコにとってはどうなんだろ。飼い主としては気になるけど。

5か月前

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土・牛・微生物ー文明の衰退を食い止める土の話

植物成長に必要な元素の発見が19世紀、それを人工的に供給する窒素肥料の実用化が20世紀初頭、それ以後、農作物は科学的に生育が制御できるようになり、収量も飛躍的に増加した。これがいわゆる緑の革命だそうだ。しかし、この革命で最も成功した、単一品種の大量生産は、大量の施肥や農薬使用により支えられてきたために、河川や海水への窒素やリンの流出(による富栄養化)や耐性を持つ害虫、雑草の蔓延といった負の面も多く作り出してきた。また、毎年施肥や農薬が大量に必要になるためにコストもかさむ。さらに伝統的な棃による耕起農法も、肥沃な表土を流出させ、アメリカのダストボウルのような人災を引き起こした。 ではこうした状況は変えられないのか。変えられる方法はある、と力強く宣言するのがこの本の著者だ。 耕さない、被覆作物で土を覆う、そして適切な輪作を行うことで、土壌内の有機物を増やすこと、つまり肥沃な良い土を作り、それを失わないことによって。 本書はある意味ではマニフェストではある。こうしたマニフェストは往々にしてトンデモ本と化すが、豊富な実例と科学的裏付けによって信頼性は高い。人新世の深い傷をどれだけ癒すことができるのかはわからないけれど。

6か月前

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さらば、シェヘラザード

作家志望の夢破れてポルノの代作を手がける主人公。いちおう少しは売れて金にはなって生活は安定するものの、実際のところポルノ代作にはフラストレーションがたまるばかり。しかもいまはスランプという最悪な状況。そんなときにはなんでもいいから書くしかない、と人生の不満やらありもしない情事を書きなぐるが、やがてそれと肝心なポルノが境界なく混じり合う。そして原稿に書いたことが原因で作家本人にも大問題が持ち上がるが、それも原稿の中のことで、どこまでが現実なのか、フィクションなのか、いわばメタフィクションになるがそのメタフィクションにさえも自己言及するメタメタフィクション。 聞けば著者はミステリ界では名だたる有名作家で、本作はミステリの枠を飛び出した名作と言われながら、マニアックすぎるし売れないだろうというので邦訳が一向に出ず、名前ばかりが知られた作品だったらしい。 そんな迷作?を、しかも50年近くたってんのにさらりと出しちゃうドーキーアーカイブはすごい。

6か月前

情報爆発-初期近代ヨーロッパの情報管理術

訳者解題によれば、邦題の『情報爆発』やそれに類する用語はOEDでは20世紀に初出らしく、Too much to knowという原著タイトルはまさにこの時期、特にインターネット以降を意味するもののように思われるけれども、すでに写本や揺籃期本の時代からそう言う声があった。特に印刷術は大きな革命だった。技術としてだけではなくて、商品としての特性も変えてしまった。受注に応じて作られる写本とは異なり、コストを掛けて刷ったら売らなきゃ元が取れないわけで、それがまた書籍数の爆発の原因となる。もちろんすでに人間一人の手に負えないほどの本、というか情報がある。ではそれをどうやって整理していくか。 一つには本そのものの整理、たとえば目次や索引、ノンブル(ページ番号)などだ。どこに何が書いてあるのか、いま読んでるのは本のどのあたりなのかがわかるようになる。もう一つには、あちこちの本から抜き出してまとめられた情報の抜粋、いわゆるアンソロジー。精読とは違う拾い読みや、たとえば神父の説教用の題材やらをまとめた詞華集やレファレンス書として世に膾炙するのだけれど、文学的、書誌学的には軽視されてきた。 そうした営為にスポットを当てて現代に通じる情報管理の歴史を紐解いたのが本書。ガチな学術書ではあるけど非常に面白かった。

6か月前

エコラリアス

10ヶ国語を自在に操るという哲学者、文学者による言語論集。注釈や出典も明確で学術書であるらしいが、神話や寓話、エピソードに彩られたエッセイとしても、とても豊かに読めるなんとも幸福な書物。 基本は副題にある通り、大筋は言語の忘却についてだけど、赤ちゃんの喃語は全ての言語の発音を可能にするほど豊かなのに、母語形成の段階でその大部分が失われるとか、詩作の許可を得るためにそれまで覚えさせられた先人の詩を忘れることを強要される弟子の話など、出てくる例がどれもこれも興味深く、またテーマからくる物悲しさに満ちている。 言語は常に変化し続けるものであるように、忘れることはただ何かの不在を意味するわけではなく、変化の中で見えなくなるものなのかもしれない。ボルヘスの短編にもあるように、あまりに鮮明で詳細な記憶は新たな記憶を生み出せないということだろう。

7か月前

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